知財実務研究のタイトル一覧

 結合商標は、複数の構成要素が結合した商標です。構成要素としては、文字、図形、記号など、いくつかのものがあります(商標2条1項)。結合商標の要部抽出については、多くの場合、文字同士、文字と図形など、文字と図形を含む商標において問題になるようです。しかし、理論的には、結合商標の要部抽出については、すべての構成要素の結合/抽出(分離)が関係すると考えることができます。  先のコラム(2020年6月20日)のほか、複数回にわたって、結合商標の要部抽出について考えています。実務家として知るべき、結合商標の類否判断に言及した最高裁判決は、一つに「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日(行ヒ)第223号)、また一つに「SEIKO EYE事件」(最判平成5年9月10日(行ツ)第103号)、さらに一つに「リラ宝塚事件」(最判昭和38年12月5日(昭和37年(オ)第953号))の各事件があります。前二者は、文字同士の結合であり、後の者は、文字と図形とがからむ結合が関係します。表現の形態からすれば、文字同士、特にそれぞれの文字の表示が同様である場合には結合性が高いのに対し、文字と図形のように表現の形態が異なる場合には、結合性が弱くなる(表現の面からは、分離されやすい)傾向があります。  結合商標の分離性について、視覚性を基本にすれば、表現の形態の面から判断することになります。そして、各最判が言及しているように、分離すべき各要素が不可分に結合しているか否かについて、商標の機能を考慮した見方が大事になります。  異議2019-900066号は、取引上の商標の機能というよりも、商標自体の外観的な形態の面から主に判断をしているようです。問題となる商標は、次に示すように、文字だけでなく図形(あるいは記号)がからんでいます。  異議申立人は、「宝」、「Takara」、「タカラ」、「TAKARA」、「たから」の文字あるいは「宝」のデザイン化した文字、または「寶」の文字を構成に含む、例の会社です。異議理由には、4条1項11号のほか、4条1項15号を含みます。  対象商標は、外観上、“寶龍創房”、“円輪郭の寶”、“HORYU SOBO”の3つの部分を含みます。大きな論点は、“円輪郭の寶”の部分を要部抽出することができるか否か、にあると思います。  その点について、審判体は、『本件商標中、左側 ...
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 「知的財産に関する専門家」の喜びとは、一年ほど前のコラムのテーマです。趣味であれ、仕事であれ、やることに喜びを感じることは大事だと思います。その喜びにより、やることに対し、さらに深くはまっていくからです。同様に、やることに対し、どのような喜びを感じるかを考えることも有意義だ、と思います。より大きな喜びを見出すことにこそ、やる力を集中することができるからです。集中は、やることの中に、新しい発見を見出し、それにより、やることの面白さをさらに増すことにもなります。  知的財産基本法(平成14年12月4日、法律122号)は、知的財産について、創造、保護、活用という異なる3面からの見方を示します。知的財産に関する仕事を、この3面から眺め、それぞれの喜びを考えることができます。  知的財産は、広い概念ですが、その代表は発明です。ここでは、この発明を媒体として、「知的財産に関する専門家」、あるいは“知的財産を扱う人”の喜びを考えます。発明を生み出す人は発明者です。“生まれる発明、育てる弁理士”という標語があるように、かつては、知的財産の専門家の仕事は、発明が生まれた後から始まりました。しかし、今や、知的財産の専門家の仕事は、発明が生まれる前から始まる、と考えることが妥当です(弁理士法4条3項3号)。  発明の誕生によって、特許を受ける権利が発生します。その特許を受ける権利を経済的な武器にするためには、特許出願が必要です。その特許出願は、特許庁の審査官の特許処分により、特許権へと転化します。そして、特許権は、経済的な武器として活用の段階に入ります。発明の誕生、特許出願、特許権という流れには時系列があります。その時系列に対し、創造、保護,活用の各区切りを入れようとするとき、戸惑いを覚えます。一般的には、創造は発明の誕生、保護は特許権の取得、活用は権利の活用をそれぞれ意味します。そしてまた、創造したものを保護し、保護したものを活用し、活用により新たな創造をうながす、と言われます。いわゆる創造-保護-活用の知財サイクルです。  しかし、創造、保護、活用は、必ずしも一方向性をもって互いに関連するものではないし、それぞれを明確に区切ることもできないものである、と考えることもできます。たとえば、発明の誕生は発明者による創造ですが、その発明を客観的な特許を受ける権利と化すのは知財専門家による別 ...
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 結合商標は、複数の構成要素が結合した商標です。商標実務において、結合商標の構成部分の一部を抽出あるいは分離することが妥当か否か、すなわち、要部抽出の可否を判断することが求められます。この判断は、商標そのものの類否判断を左右することになるため、実務者の必須の課題の一つだと思います。  この結合商標の類否判断に言及した最高裁判決として、一つに「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日(行ヒ)第223号)、また一つに「SEIKO EYE事件」(最判平成5年9月10日(行ツ)第103号)、さらに一つに「リラ宝塚事件」(最判昭和38年12月5日(昭和37年(オ)第953号))の各事件があります。  そして、これらの三つの最判を根拠にして、結合商標の類否判断を語る知財高裁判決があります。それら知財高裁判決の中の二つを次に示します。  第1は、「CORE ML事件」(令和2年5月20日判決言渡、令和元年(行ケ)第10151号審決取消請求事件)です。特許庁審判では、「CORE ML」から「CORE」を要部抽出し、引用商標“CORE”あるいは“コア”と類似すると判断したのに対し、高裁では、「CORE ML」から「CORE」を要部抽出することは妥当ではないと判断し、審決を取り消しています。  この第1の高裁の判決の中に、結合商標の類否判断に関する次の語りがあります。  第2は、「REEBOK ROYAL FLAG事件」(平成28年1月20日判決言渡、平成27年(行ケ)第10158号審決取消請求事件)です。特許庁審判では、「REEBOK ROYAL FLAG」から「ROYAL FLAG」を要部抽出し、冒頭のRとFとの文字高さが他よりも大となった、引用商標“ROYAL FLAG”と類似すると判断したのに対し、高裁では、「REEBOK ROYAL FLAG」から「ROYAL FLAG」を要部抽出することは妥当ではないと判断し、審決を取り消しています。  この第2の高裁の判決の中に、結合商標の類否判断に関する次の語りがあります。  上の第1および第2の高裁判決は、結合商標の類否判断について、3つの同じ最判を根拠にしています。しかし、第1の方では、要部抽出について「~の場合や、~場合などを除き、原則として許されない」としているのに対し、第2の方では、要部抽出について「原則として許され ...
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 特許庁の特許審査基準が、物のクレーム中の方法表現(いわゆるププロダクトバイプロセスの関係ではなく、一般的な表現)を認めていることをご存知ですか。第Ⅱ部第2章第3節の明確性要件の中の2.3留意事項の中に、次の記載があります。 『~出願人が請求項において特許を受けようとする発明について記載するに当たっては、種々の表現形式を用いることができる。 例えば、「物の発明」の場合に、発明特定事項として物の結合や物の構造の表現形式を用いることができるほか、作用、機能、性質、特性、方法、用途その他の様々な表現形式を用いることができる。同様に、「方法(経時的要素を含む一定の行為又は動作)の発明」の場合も、発明特定事項として、方法(行為又は動作)の結合、その行為又は動作に使用する物その他の表現形式を用いることができる。 他方、~~、上記の種々の表現形式を用いた発明の特定は、発明が明確である限りにおいて許容されるにとどまる。』  ここで、このコラムのテーマである“物のクレーム中の方法表現”は、基本的に認められますが、その表現が認められる条件として、「発明が明確であること」があります。クレーム作成者にとって、表現の自由度が増すことは大歓迎です。しかし、「発明が明確であるか否か」の判断は、クレーム作成者だけでなく、審査官その他の特許関係者のだれにとっても難しい事項です。発明の明確性をクリアすることができるようなクレーム作成や、発明の明確性を的確に判断することは、経験豊かな特許関係者にとっても難しいことだと思います。なぜなら、発明が何であるかを知ること自体が難しいからです。  身近な特許を例にして考えてみましょう。特許第6696090号は、コーヒーメーカーの発明、つまり、物の発明ですが、そのクレームの中に、方法表現が見られます。特許公報から、ただ一つの請求項1を次に抜き出します。  このクレームを一読する限り、タンクや制御手段を含むコーヒーメーカーを前提とした発明であり、その特徴は、特定の蒸らし工程および抽出工程にあるようです。小生も、コーヒーを愛する人間であり、蒸らしてから抽出、徐々に抽出量を増やすという、コーヒー抽出の古典的な一般知識はもっています。このクレームの記載からすると、この発明は、コーヒーメーカー付属の制御手段の制御の仕方に技術的な特徴があるように見受けられます。  さらに見ると ...
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 特許あるいは知財の世界を支える人的資源として、審査官は重要です。審査官は、特許出願を審査し、有用な特許の成立を図ります。したがって、特許は、発明の創作者である発明者と、発明者による発明を特許的に創作する弁理士と、弁理士による特許出願を審査する審査官との三者によって支えられている、ということができます。この特許の成立を促す特許制度を適切に運用するためには、これらの人的資源の数的なバランスが求められると思います。  次の表は、WIPOのHPから得た、CN、JP、USの審査官の数の情報です。  1996年の時点において、JPの審査官数は1,073であり、USの数2,434の半数よりも小さい値です。その後、現在に至るまでUSは審査官を増員し、近年では8,000前後の数になっています。それに対し、JPは、数こそ増えてはいますが、1,700前後という数値であり、その数値はUSの1/5強に相当します。ここ数年の特許出願の数は、大雑把にいうと、USが60万、JPが30万です(特許庁行政年次報告書2019年版)。なお、同じ報告書によると、2018年度のCNにおける特許出願の数は150万を超える莫大な数値になっています。このCNにおける数の増加は、2008年公布の「国家知的財産戦略綱要」に基づく施策に起因しているようです。  ここで、CNは別にして、JPとUSとに絞って考えます。出願審査請求制度の有無の差はありますが、審査官一人当たりの審査すべき出願数の概略的な数を割り出すと、USが70~80になるのに対し、JPは170~180になります。すなわち、JPの審査官は、USの審査官の二倍以上の特許出願を審査しているような数値です。しかし、JP、USの各審査官は同様の能力をもち、同様の訓練を受けた同じ人間であるという点、しかもまた、特許情報のデータベースも共通化されている点などを考慮すると、上の数値の違いに合点がいきません。  そこで、そのような数値の違いがなぜ生じるかについて考えました。小生は、審査のやり方の違いが、数値の違いとして表れているのではないかという考えをもちます。審査の中味を見ると、新規性や進歩性に影響する関連文献を見出すサーチ段階と、そのサーチ段階で見出した関連文献に基づいて、新規性や進歩性の有無を判断する実体的な審査段階とに分けることができます。JPでは、サーチ段階の業務 ...
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 商標法第3条第1項第3号の商標(つまり、産地、販売地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみの商標)については、February 19, 2019のコラムでも考えました。そのコラムでは、特許庁の審査基準における「現実に用いられていることを要するものではない」という事項や、最高裁の昭和53年(行ツ)第129号の中の「特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であつて、多くの場合自他商品識別力を欠き」との言及との関係から考えました。  この第3条第1項第3号に関連する事例として、商標「MARBLETONE」の登録性を問題とした不服2019‐11731に出会いました。この事例の出発は、標準文字による商標「MARBLETONE」を、第19類の「石こう製の天井板,石こう製の吸音天井板,…その他」に対する商標登録出願です。しかし、この商標登録出願は、商標が商標法第3条1項第3号に該当するという理由から拒絶査定になりました。拒絶査定の理由の中に、“表示態様が、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用されている等の事実は、同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべき”という言及があります。担当審査官は、上に述べた審査基準や最判の考え方に基づいて判断しているようです。  そのような拒絶査定に対し、不服審判での審判請求人(出願人)の主張および手立ては、次のとおりです。 1 指定商品の減縮補正  当初の「石こう製の天井板,石こう製の吸音天井板,…その他」を『石こう製の天井板,石こう製の吸音天井板』に減縮補正しました。「MARBLETONE」と同じ称呼を生じる“マーブルトーン”という商標を天井用の化粧ボードに使用している事実があることからの補正のようです。“マーブルトーン”の商標には、使用に基づく信用がすでに生まれていることを根拠にし、その信用が化体した商標の保護を訴えるという考えのようです。  2 審判請求人の主張  審判請求人は、上のような商標に対し、登録を認めないとするためには、「MARBLETONE」が‘石こう製の天井板類’に普通に用いられている事実があることについての証拠の提示、あるいは、使用を欲する蓋然性があることについての客観的な証拠が必要である、と主張します。  そのような審判請求人 ...
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 「発明の把握」という用語は、特許の実務を語る際のキーワードです。小生は、この用語が示す内容こそ、実務の良否を決める一番の要素である、と確信しています。なぜなら、「発明の把握」は、特許実務の広範囲の場に姿を現し、その内容によって、特許の価値を定めるからです。「発明の把握」の中の「発明」は把握する対象を示し、「把握」はしっかりとつかむことを意味します。“しっかりとつかむ”とは、正確に理解することですが、「発明の把握」の場合には、その目的に沿った「把握」が求められます。たとえば、出願に際しては、発明者が納得する内容であり、保護の範囲が予想できる内容の把握、また、中間処理に際しては、無用な限定のない内容であり、特許化に向かう内容の把握、さらには、審判や裁判においては、判断主体が理解可能な内容であり、勝つことができる内容の把握、がそれぞれ求められます。  「発明の把握」については、この知財実務研究の中でも、多くのコラムの中で触れています。発明者による発明が第1の創作であるのに対し、「発明の把握」は第2の創作である、と小生は考えます。第1および第2の創作は、ともに新しい価値を生み出します。そこで、特許実務の力の向上を図ろうとする者は、生み出すべき新しい価値が何かを考えることになります。その新しい価値は、複数の人に共通するものもあるだろうし、その人の個性に基づく特有の価値もあると思います。したがって、新しい価値は、人により変化します。この価値の変化は、特許実務の面白さの一つである、と考えます。  価値を考える上で、把握の対象である「発明」を知ることが大事です。法学者の清瀬一郎博士著の特許法原理のなかに、『発明者ハ「自然力利用ノ思想」ヲ発明スルモノナリ、「物」ヲ発明スルニアラス』という一節があります。この言は、特許実務者の目からすれば誤りです。正しくは、“発明者は物や方法に化体した発明をするが、特許の保護対象の発明は技術的思想であるから、弁理士を代表にした特許実務者は、発明者の発明を技術的思想として把握することになる”、と翻訳します。このことは、発明者との長年のコミュニケーション経験に基づきます。  しかし、清瀬先生の言は、特許実務者に対する金言です。発明者による発明は、通常、物に化体した技術として提案されます。その物に化体した発明に接する特許実務者は、その物の中に、少なくとも数 ...
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 クレームとは、特許を受けようとする発明を特定する請求項です。現時点において、そのクレームには、発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければなりません(特許法36条5項)。その点は、実用新案でも同様です(実用新案法5条5項)。実用新案は、特許とは異なり無審査登録であり、実用新案登録出願があったときは、放棄、取下げ、却下の場合を除いて、実用新案権の設定の登録がなされます(実用新案法14条2項)。  無審査登録ということから、実用新案では、特許におけると同様な方式的な要件に加えて、いわゆる基礎的要件に適合することが求められます(実用新案法6条の2)。この基礎的要件の一つとして、実用新案登録請求の範囲の記載が著しく不明確か否か(実用新案法6条の2第4号)があります。万が一、この基礎的要件をクリアしないときには、特許庁長官からの補正命令を受けます。となると、補正命令に対応する期間だけ、設定の登録が遅れてしまいます。  上の4号の具体例として、クレームの中に複数の句点(つまり、「。」)を含む場合があります。4号に関する判断については、週に一度に赴く審査官が担当しているようです。クレーム中に複数の句点があるからといって、必ずしも“記載が著しく不明確”になるとは限りません。しかし、準方式的な判断(審査)ということから、形式的な判断をしているようであり、残念ながら明らかに不適切な判断が生じていると思います。なぜ、そのような不適切な判断、つまりはその判断に基づく補正命令(手続補正指令書)が出ているかに興味を覚えました。  調べたところ、審査基準の実用新案登録の基礎的要件の項の中に、次の記載を見出しました。特に関連する部分にアンダーラインを引きます。  2.5.1 実用新案登録請求の範囲について  (1)実用新案登録請求の範囲に必要な事項が記載されていない場合に該当する例    ・・・・・・     ・・・・・・  (2)実用新案登録請求の範囲の記載が著しく不明確である場合に該当する例    (i)請求項の記載内容が技術的に理解できないものである場合    (ii)請求項の記載が考案の詳細な説明又は図面の記載で代用されている結果、請求項の記載内容が不明確となる場合    (iii)一の請求項において、句点で区切られる文章が複数記載され、それぞれの文章に異なる考案が記載さ ...
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 特許実務を中心に行う小生にとって、商標実務は、特許に比べて論理的に明確に理解することができないことが多いです。テーマ中の用語「死角」は、そのような論理的に理解しがたいことを意味します。商標法4条1項11号の類否判断には、多くの「死角」があります。それらの「死角」の中に、たとえば、先願登録商標「SNOW WHITE」(指定商品:菓子及びパンなど)と後願登録商標「スノーホワイトアップルパイ」(指定商品:アップルパイ)とが非類似であること(2018年9月23日のコラム“商標権の禁止権”で紹介)、そしてまた、先願登録商標「海賊」(指定役務:飲食物の提供)と後願登録商標「海賊スパゲッティー」(指定商品:飲食物の提供)とが非類似であること(2019年10月1日のコラム“商標「〇〇」と商標「〇〇+役務名」との併存に思う”で紹介)、があります。なぜ、明確には理解できないかといえば、商品‘アップルパイ’に対して、「スノーホワイトアップルパイ」の要部は「スノーホワイト」ではないのか、あるいは‘アップルパイ’に対して「SNOW WHITE」の使用は、「スノーホワイトアップルパイ」との区別化ができないのではないか、また、料理‘スパゲッティー’の提供に対して「海賊」の使用は、「海賊スパゲッティー」との区別化ができないのではないか、という疑問があるからです。  そのような疑問を解消するため、同様の類否判断事例について調べ、現状の実務的な取扱いを把握することにしました。その結果を次にメモ的に記します。 先願 後願 「SNOW WHITE」:5273780T 菓子及びパンほか 「スノーホワイトアップルパイ」:6067397T 菓子及びパンをアップルパイに補正 「海賊」:5732557T  飲食物の提供 「海賊スパゲッティー」:5970535T 飲食物の提供 「げんこつハンバーグ」:3364234T ハンバーグの提供 「げんこつ」:4676648T 飲食物の提供をらーめん・ぎょうざ・しゅうまい・肉まんじゅうの提供に補正 「爆弾ハンバーグ」:3002310T ハンバーグ料理の提供 「爆弾うどん」:5202655T 飲食物の提供をうどんを主とする飲食物の提供に補正 「ばくだんちゃんぽん/バクダンチャンポン」:5294754T ちゃんぽんを主とする飲食物の提供 「ばくだんらーめん/バクダンラーメン」:5 ...
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 皆さん、「ゲンコツ」に係る事件をご存知のことと思います。標準文字による引用商標「ゲンコツ」との関係で、標準文字による結合商標「ゲンコツメンチ」は非類似と判断されたのに対し(平成29年1月24日判決言渡し、平成28年(行ケ)第10164号)、筆字の結合商標「」は類似と判断されています(平成30年3月7日判決言渡し、平成29年(行ケ)第10169号)。コロッケ好きの小生にとって、メンチもコロッケも身近な同類の食品です。それにもかかわらず、メンチが結合した場合と、コロッケが結合した場合とにおいて、なぜ異なる判断がなされたのか、に興味を覚えました。そこで、裁判官の論理を追いながら、検討をすることにしました。なお、商標については、標章(マーク)と識別対象(商品)との関係が大事ですが、両事件ともに、識別対象(商品)についての争いはないようです。  前者の「ゲンコツメンチ」と「ゲンコツ」との類似性の判断に際して、裁判所は、“リラ宝塚”、“SEIKO EYE”、”つつみのおひなっこや“の3つの最判を類似性の判断基準として挙げています。判決文中、小生が気になる記載を挙げましょう。第1に、『本件商標は、「ゲンコツ」の文字部分と「メンチ」の文字部分がいずれも辞書に掲載されている語であることから、その組合せであると解されるものではあるが、文字のみの商標であって、図形などとの組合せではなく、しかも、全ての文字が、標準文字で、一連に横書きされており、各文字は、同じ字体、大きさ及び間隔で、一体的に表記されている。』という点です。この部分の記載から見ると、裁判所は、”リラ寶塚“よりも”つつみのおひなっこや“の方を念頭にしているようです。そして、第2の点は、「メンチ」に関する記載であり、『「メンチカツ」を「メンチ」と略する旨の記載もある(甲7)が、その他に「メンチカツ」を「メンチ」と略することを裏付ける証拠はなく』というところです。それが、『「メンチ」の文字部分からは、出所識別標識としての称呼、観念が生じないとはいえない。』と結び付けているようです。その結果、それ自体が強く支配的な印象を与えるものとはいえない「ゲンコツ」の文字部分と、「メンチ」の文字部分とを分離することは妥当ではないとし、非類似の判断に至っています。  一方、後者の「」と「ゲンコツ」との類否の判断について、裁判所は、『本件商標は、 ...
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 三審制とは、訴訟制度を語る用語であり、第1審の判決に対して第2審(控訴)、第3審(上告)の2度の不服申立て、つまり、第1審を含めて3度の判断を受けることをいいます。特許庁は行政機関であり、憲法76条2項は、「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」と規定しています。  複数回にわたって判断を行う三審制は、正しい裁判、あるいは正義に則った判断を行うための制度です。しかし、第1審および第2審が事実審であるのに対し、第3審は法律審といわれるように、各審における判断対象は互いに異なります。特許における不服申立てを通して、三審制の意義を探り、その意義から特許実務の向上を考えたいと思います。  不服申立ての発端となる行政処分は、特許庁審査官による拒絶査定です(特許法49条)。かつての拒絶査定率は50%近くもありましたが、2017年度のそれは25%程度と減っています。拒絶査定の理由の代表は、特許を受けようとする発明が新規性、進歩性をクリアしないことです。クリアしないということは、特許を受けようとする発明が既存の技術との関係で、新しい技術的特徴を備えていないとの認定があったことです。認定は、審査官による判断です。ですから、拒絶査定とは、出願人が審査官に対し、出願に係る発明が新しい技術的特徴をもつことを理解させることができなかった結果物ということができます。結果物の原因として、いくつかが考えられます。一つは、審査官の理解不足あるいは誤解、もう一つは、出願人の説明不足、さらに一つは、発明自体の力不足あるいは発明抽出の失敗。最後の力不足あるいは失敗は、あくまで出願人の責任ですが、前二者は、専門家としての力量に関係します。正しい判断は、審査官、出願人(出願人代理人を意識しています)の両方の力量およびコミュニケーションのあり方が関係します。  拒絶査定の原因を考えれば、多くの拒絶査定は覆すことができる可能性があります。行政処分である拒絶査定に対して、出願人は、不服申立てをすることができます。特許法は、不服申立てとして審判、つまり拒絶査定の審判の途を設けています(特許法121条)。三審制は訴訟制度上の用語ですので、行政機関が行う審判は第1審には当たりません。しかし、この審判は、裁判に似た準司法的な手続によって厳正に行われます。そのため、審判には、後で述べるように、審判の判断(審決)に ...
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 特許実務家にとって最も身近な発明の把握は、発明者が生み出した発明を、特許を受けようとする発明に変換する思考作業です。この思考作業は、複数の思考プロセスを含みます。第1の思考プロセスは、発明者が生み出した発明を技術的に正しく理解し、その技術的特徴を見出すことです。発明者は、通例、自己の視点で自らの発明を把握しています。この第1の思考プロセスでは、その発明者が描く発明をまずは明らかにすることが大事であり、ついで、そこで描いた発明を技術的な考え方として把握しなおすことが求められます。  第1の思考プロセスに続く、第2の思考プロセスは、第1の思考プロセスで明らかにした発明をより客観的にすることです。第1の思考プロセスで発明者が描く発明は、発明者中心の見方によるため、描いた発明の技術的特徴が保護に値するものであるかが定かではありません。特許として独占的な保護を得るためには、特許を受けようとする発明が、今までにない技術的な特徴あるいは技術的な意義をもつことを明らかにすることが求められます。今までにない技術的意義は、一般的に、既存の関連技術との比較の下で明らかにすることができます。第2の思考プロセスは、関連技術の比較に基づいて、保護を求める、つまり、特許を受けようとする発明の真の特徴を見出すプロセスということができます。  第2の思考プロセスで得た発明の真の特徴は、さらに分析し検討されるべきです。なぜなら、特許の保護範囲を拡張すること、その境界を明確にすることが求められるからです。これは、特許が独占的な効力をもつことに関係します。発明の真の特徴を拡張、明確化するプロセスが、最後の第3の思考プロセスです。この第3の思考プロセスによって、発明者が生み出した当初の発明は、特許を受けようとする最終的な発明に変換します。  以上のような、発明把握の第1~第3の各思考プロセスの中に、帰納法/演繹法による論理的な考え方を見出すことができます。両方法は、結論を導き出す方法として共通しますが、考え方の方向性が異なります。一方の帰納法は、複数の具体的な事実あるいは事例から共通の法則を導き出す方法です。それに対し、他方の演繹法は、共通あるいは一つの法則を前提にして、そこから新しい具体的な結論を得る方法です。換言すると、一方は複数から一つの結論を導き出す方法であり、他方は一つから複数の結論を導き出す方 ...
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1 添削/リライト  「添削」とは、すでにある文章を良くする作業の一つです。その添削作業は、文章の中の誤りや不明確な部分を正したり、分かりやすい表現にすること、あるいは、誤りや不明確な部分を削除したりすること、を含みます。誤りや不明確な部分は、通常、文章の全体にわたることはなく、部分的なものです。とすると、「添削」は、文章を部分的に直すことになります。それに対し、「リライト」は、文章の形態やスタイルを全体的に書き直すことです。全体的に書き直すという点からすれば、日本語明細書を英文明細書に翻訳する作業は、リライトの一つと捉えることができます。 2 特許における添削/リライト  特許の世界に入り、日本語明細書の作成を学ぶとき、作成した原稿について、先輩による添削/リライトを受けることが通例です。添削/リライトに対する先輩の考え方は、二通りあると思います。一つは、文章表現を重視する考え方であり、もう一つは、書くべき対象の発明の把握を重視する考え方です。かつては、前者の考え方が主流でしたが、今では、後者の考え方が主流になっていると思います。  初心者が作成した原稿には、部分的な書き直しということは少なく、ほとんどの場合、全面的な書き直しになります。そこには、部分的な添削はなく、全面的なリライトがあるだけです。 3 添削/リライトの留意事項  添削/リライトは文章を良くし、読みやすくします。添削/リライト後の文章は、添削/リライト前の文章と別物のすぐれたものになります。添削/リライトは、文章の読み手に良い結果を生みます。その点は、基本的に、特許における日本語明細書においても同様です。  しかし、特許における添削/リライトについては、一つだけ留意すべき事項があります。添削/リライトにより、新規事項(いわゆるニューマター)を入れないことです。新規事項とは、添削/リライト前の文章に記載がない事項です。当初の出願時点で記載のない事項を、後の添削/リライトの時点で追加することを認めれば、特許における先願主義の原則が崩れてしまうからです。新規事項の違反は、出願に対し拒絶理由、特許に対し無効理由を生むことになります。  特許制度の土俵に上げるための出願明細書の添削/リライトの場合とは異なり、ひとたび特許制度という土俵に上がった日本語明細書の添削/リライトについては、新規事項を入れないという ...
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1 日本語明細書の数的な現況  特許行政年次報告書(いわゆる特許庁年報)の2019年版によると、日本の国内における特許出願件数は、10年ほど前から漸減傾向です。2009年の件数が34.8万件であるのに対し、2018年のそれは31.3万件です。これに対し、日本から海外への特許出願件数は、2008年が17.9万件、2017年が20.0万件と、漸増傾向にあります。ここで、日本国内の出願の内訳を見ると、外国人による出願が2割、内国人による出願が8割ほどになります。  特許実務の一般的な流れとして、海外への特許出願は、パリルートやPCTルートが多いと思います。それらルートでは、通常、日本語による明細書を翻訳することにより外国明細書(多くは、英文明細書)を作成します。これらの事情を考慮するとき、国内出願件数が減少している現時点においても、私たち特許実務家は、一年あたり少なくとも20数万件を超える数の日本語明細書を作成していることになります。 2 日本語明細書の役割  このような日本語明細書は、特許制度を支える大切な柱の一つです。なぜなら、明細書は、新しい技術を公開する主役であり、特許の保護範囲を定めるクレームの一番の脇役だからです。  特許制度というドラマの成否は、まずは、主役クラスの日本語明細書の良否がかかっている、といっても過言ではありません。ですから、特許制度を人的に支える特許実務家は、日本語明細書を常に改善し良くする努力をするべきです。世の人に魅力を感じさせない明細書は、世の人に対し、特許制度自体の魅力を感じさせず、出願などへの意欲を盛り上げることもできないことでしょう。 3 日本語明細書の改善  「改善」とは、悪いところを直して良くすることです。長年の実務経験が、日本語明細書の悪いところを教えます。悪いところは、大別して二つあります。第1の悪いところは、読む人が理解しにくいことです。第2の悪いところは、保護を受けるべき発明について、特許的に十分に分析されていないことです。  理解しにくいという第1の問題は、明細書作成者が明細書の読み手を考慮していないことから生じていると思います。明細書の読み手は広汎です。明細書の表現対象である発明を理解するための技術理解力を十分には備えていない人もいるし、保護を求めるべき特許発明の技術的範囲を定めるための用語解釈になじまない人もいます ...
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 特許制度は、新しい技術を公開した者に対し、独占的な保護を与える制度といわれます。文章は、この制度を動かす基本的な媒体です。たとえば、新しい技術を公開する手段として明細書があり(特許法第36条)、また、独占的な保護の範囲を定めるものは、特許請求の範囲です(特許法第70条)。文章が、これらの明細書および特許請求の範囲を構成します。さらに、審査官とのコミュニケーション手段としての意見書があります。文章は、この意見書をも構成します。  このように、文章は制度を動かす基本的な媒体であることから、特許制度に密に関与する私たち特許事務家は、媒体としての文章のあり方について必然的に考えることでしょう。小生も、この文章のあり方については、特許業界に入った当初から何度も考え続けています。過去に記した小論の中から、数点だけ抜粋的に紹介します。 (「特許再考-特許の原点を考える-」、1993年、翠書房発行の中から)  『たとえば、明細書は読まれるものであり、読み手としては、発明者、特許担当者、審査官、審判官、裁判官等々、技術的にも法律的にも素人から玄人にまで及ぶ。そうした広汎な読み手を考えるならば、分かりにくい言葉あるいは表現を使うべきではなく、また、できるだけかみくだいて説明すべきであることが納得できる。  こうした意味を特許法の規定だけからつかみ取ることはなかなかできないことであろう。良い明細書を求める者は、法の規定以外のところにも考える場をもつべきである。』 (「明細書について先輩から後輩へのアドバイス-仮想発明“コロンブスの卵”を題材として-」、パテント2007 Vol.60 No.10の中から)  『記載すべき内容に創造的な活動をし、その活動の結果物の表現は素直でわかりやすい文章にしたい。そのような文章はシンプルであり、誰もが正しく理解することができるものであろう。特許における本当のプロは、文章表現を誰よりも鍛錬し、文章表現に悩むことがないような表現力をもつべきである。別にいうと、文章表現を鍛錬し続けることは、特許のプロの条件の一つである。  文章表現の力は、どの分野でも共通し、特許だからといって特殊な面があるとは思わない。だから、文章表現についての数多くの本(内外のもの)の中から、自分の考え方に合ったものを選び参考にし、自己鍛錬すれば良い。』  以上の数点の抜粋のように、小生 ...
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 先の一件目の卓球ボールの発明は、最終的に、特許に至ることができませんでした。それに対し、ここで検討する二件目の卓球ボールの発明「セルロイドを含まない卓球ボール及びその製造工程」については、特許が成立しています。その特許は、第5078894号であり、その公報の中のメインクレームを次に示します。  このセルロイドを含まない卓球ボールの発明には、直径、重さ、厚みについて数値限定があり、セルロイドを含まないプラスチック素材として特定のモノを用いることに特徴があります。しかし、前者の数値限定は、今までのボールの値を含む意味をもつだけのようです。なぜなら、明細書中に、それらの数値限定に対する、格別な意義の言及がないからです。  後者の特定のモノとして、第1に、「主鎖中に炭素原子のみならず、ヘテロ原子も有する有機無架橋ポリマーを主成分」、第2に、密度、吸水性、ボール圧入硬度についての数値限定、そして、第3に、「ナノ材料以外の充填剤及びナノ材料以外の補強材の少なくとも一方を含まない」の特定があります。これらの特定事項の中で、何が最も大切なのか、あるいは特許になる上でどれが有効であったのか、考えてみましよう。  参考のため、特許に至る経過を見ます。審査段階で、大別して二つの拒絶理由の指摘がありました。一つは、クレーム等の記載不備、もう一つは、進歩性違反です。その対応として、出願人は、上のアンダーラインの部分の事項を限定しました。その結果、審査官は、すぐに特許査定の処分をしたようです。  しかし、発明が技術的思想であるという観点から見て、この経過について、小生は、にわかには納得することができません。まず、この発明は、セルロイド製の従前からの卓球ボールの良さ、あるいはそれに近い特性を発揮し得る、新しいプラスチック素材の卓球ボールの技術である、と理解することができます。その点、卓球ボールの良さについての判断基準があやふやだと思います。卓球ボールの良さは、密度、硬度、重さなどといった物理的な要素だけからは判断しかねると考えるからです。たとえば、セルロイド製のボールと、それらの物理的な特性が同様の新しい材料製のボール技術を見出したとしても、新しいボール技術によって、セルロイド製のボールによる卓球のスポーツ性を得ることができないと思います。卓球のスポーツ性を判断するには、たとえば、ボールのスピ ...
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 卓球ボールは、大きさからすればゴルフボールに似ています。規格を調べたところ、ゴルフボールの大きさは、直径1.68インチ(42.67mm)以上とのことです(R&A、USGA)。ボールは小さいほど飛ぶので、飛びすぎを考慮した規定であると理解されます。なお、ゴルフボールの重さについては、1.62オンス(45.93g)以下とのことです。重くすればするほど飛びが大きくなるようであり、重さの制限も飛びすぎの防止のためでしょうか。  一方、卓球ボールについて、ITTF(国際卓球連盟)は、大きさ(直径)が40.0~40.6mm、重さが2.67~2.77g、そして、素材はプラスチックと、規定しています。素材について、従前はセルロイド(つまり、歴史上最初の人工的合成による、熱可塑性のプラスチック素材)でしたが、可燃性などの欠点を考慮して、2014年から“プラスチック”になりました。  以上のように、ゴルフボールの大きさは、下限の42.67mm近くが多く、卓球ボールのそれはほぼ40mmです。ですから、両者の大きさはそれほど違いませんが、現時点では、卓球ボールの方がゴルフボールよりも小さくなっています。今の直径40mmの前には、卓球ボールは38mmでした。38mmから40mmへの変更がなぜなされたか。その主な理由は、ラリーがより多く(たとえば、3~4回から7~8回)なることへの期待です。多くのラリーは、卓球を観戦する人をより大きく魅了するからです。なお、卓球に詳しい人は、直径44mmというラージボールがあることをご存知のことでしょう。ラージボールは、大きさがより大きいことに加え、重さがより軽くなっており、それらにより、40mmの卓球ボールよりもより多くのラリー持続がなされることを期待されたボールです。  小生も卓球愛好者であり、ボールの大きさの変化に応じて、何か新しい戦術がないか、を考えていました。その一環として、「卓球ボール」の発明を概観しました。J-PlatPatによるキーワード検索によると、名称中に「卓球ボール」を含む出願を、二十数件見出すことができます。それらの中から、ボールの大きさ、素材の変化に関係し、しかも、特許実務的に参考になると思える二件を取り上げます。  一件目は、「全体に継ぎ目がない構造の卓球ボール」(特表2012-517248号)です。出願時点におけるメイン ...
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 「リラ宝塚事件」と「つつみのおひなっこや事件」とは、複数の構成部分を含む結合商標の中から、ある構成部分を分離抽出することについての基準に言及しています。最判ということから、その基準は、実務に拘束力を及ぼすと考えられますが、それら最判の理解が必ずしも統一されていない感がします(たとえば、先のコラム中の第22回商標審査基準WGの資料1-1:結合商標における類否判断(4条1項11号)の商標審査基準について(案))。 そこで、二つの事件をモデル化しつつ、各最判の意義を考えてみたいと思います。 まず、「リラ宝塚事件」では、次の模式図が示すように、「抱琴(リラ)の図形」と「寶塚の文字」との結合が問題になりました。  「抱琴(リラ)の図形」と「寶塚の文字」との表示態様を形式的に見るとき、それらは分離可能な態様です。しかし、最判は、そのような“不可分的に結合していない”形式的な態様から、「抱琴(リラ)の図形」と「寶塚の文字」との結合性を判断することなく、それら図形と文字との商標的な意義を検討、つまり、実質的に結合性を判断しています。具体的には、「抱琴(リラ)の図形」は、リラという名称を有することが指定商品の取引に関係する一般人に広く知れわたっているわけではないこと、しかも、「寶塚の文字」は、ほぼ中央部に普通の活字で極めて読みとり易く表示され、独立して看る者に注意を引くように構成されていること、の各事実の下において、「不可分的に結合しているものではない」と、実質的な判断をしています。  したがって、この「リラ宝塚事件」は、表示態様という形式的な面から「分離抽出」可能と判断するのではなく、「抱琴(リラ)の図形」と「寶塚の文字」との結合性を実質的に検討することにより、両者の結合性を判断すべきであること、を教えています。別にいうと、見た目で要部抽出し得る場合でも、むやみやたらに要部抽出すべきではなく、結合性についての実質的な判断をしたうえで分離抽出の可否を判断すべきであるというものです。   次に、「つつみのおひなっこや事件」については、次の模式図が示すように、「つつみ(の)の文字」と「おひなっこやの文字」との結合が問題になりました。  「つつみ(の)の文字」と「おひなっこやの文字」との表示態様を形式的に見るとき、それらは一体的で分離できない態様です。このような場合、最判は、一部の部分を ...
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 ここでは、先のコラム(「リラ宝塚事件」を再考する)で話題にした、「リラ宝塚事件」と「つつみのおひなっこや事件」との二つの最判の関係について問題にします。  この問題について、第22回商標審査基準WGの資料1-1:結合商標における類否判断(4条1項11号)の商標審査基準について(案)、が次のような言及をしています。小生の誤解を避けるため、少し広めに拾い上げます。  『近時の裁判例において、つつみのおひなっこや事件は、結合商標の中でも各構成要素が不可分的に結合しているときであっても、例外的に要部抽出できる場合を示したものだと解釈しているものがあり、今後の特許庁における運用においても、基本的にこれと同様の考え方により審査を行うことがよいものと考える。  すなわち、結合商標を、①不可分的に結合していない商標と②不可分的に結合されている商標の2つに分けたうえで、①の場合がリラ宝塚事件の規範を適用する場面で、②の場合がリラ宝塚事件を反対解釈して、「商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは、原則として許さない」とした上で、このような場合であっても要部抽出ができる例外を認めたものがつつみのおひなっこや事件で示されたと解するものである。このような解釈をすることにより、①の場合は、従来の審査の運用と同様に比較的容易に要部抽出することができ、②の場合は、本来要部抽出ができない場合であっても例外的な場合に要部抽出することができることとなり、つつみのおひなっこや事件を、リラ宝塚事件からさらに要部抽出できる可能性を拡げたものと解釈することとなり、両判決を矛盾なく、かつ、従来の審査運用と乖離することなく解釈することができる。  もっとも、商標の結合の程度を判断する場合には、商標の構成態様(外観)及び観念を特に重視し、そこに称呼の要素も紙して総合的に考慮していることから、つつみのおひなっこや事件で示されているような場合は、そもそも商標が不可分的に結合していないと判断される可能性も高く、①により要部抽出できると判断することも十分に可能であることから、審査基準において①、②の場合分けをして記載した場合と大きな差はないものと考えられる ...
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 「リラ宝塚事件」は、商標中に“寶塚”という文字を含む結合商標(本願商標)と、“寶塚”という文字だけの引用商標との類否判断が問題となった、最高裁事件(最判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁:昭和37年(オ)第953号)です。結合商標の類否判断が問題となった同種の最高裁事件としては、一つの商標から’亀甲型三枡‘と’三枡‘との二つの称呼が生じると認めることもできる、とした「三枡事件」(最判昭和36年6月23日民集15巻6号1689頁:昭和34年(オ)第856号)や、’つつみのおひなっこや‘の商標が’つゝみ‘または’堤‘の文字商標と類似しないとした、「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日民集228号561頁:平成19年(行ヒ)第223号)が有名です。  そのような最高裁事件の中で、「リラ宝塚事件」は、問題の商標中の中央の構成部分、つまり、古代ギリシャの抱琴のリラの図形と、‘寶塚’という文字との構成部分から、‘寶塚’を抽出することが争点となりました。  判決では、まず、三枡事件を参照しつつ、「簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、・・・しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである」とし、「一つの証拠、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である」、とします。  その上で、上下の「リラタカラヅカ」、「LYRATAKARAZUKA」の文字から、「この商標よりリラ宝塚印なる称呼、観念が生ずることは明らか」である、と、まずは判断します。続いて、問題の中央の構成部分に注目します。第1に、「右図形が古代ギリシャの抱琴でリラという名称を有するものであることは、本願商標の指定商品たる石鹸の取引に関係する一般人の間に広く知れわたっているわけではないこと」、第2に、「これに対し、宝塚はそれ自体明確な意味をもち、一般人に親しみ深いものであり、しかも、右「宝塚」なる文字は本願商標のほぼ中央部に普通の活字で極めて読みとり易く表示され、独立して看る者の注意をひくように構成されていること」を指摘します。そして、「されば、かかる事実関係の下において、原判決が右リラ ...
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 特許を受けようとする発明について、数値限定を一つの特定事項として把握する場合があります。特許第3909365号の掲載技術は、その一例です。この特許3909365号の審査経過、およびその後の経過を見ると、特許実務家にとって考えさせられることがあります。そこで、数値限定を含む、この特許の発明を題材にして、考える材料を提供したいと思います。 この特許の発端は、特願2002-351706号であり、その出願公開公報は特開2003-23105号です。この特許は、複数のクレームを含みますが、ここでは、メインのクレームを中心に話を進めます。そのメインのクレームは、公報から抜粋する次の請求項1です。  青色のアンダーラインを付けた部分が、数値限定の内容です。「であって」までの前提となる梁補強金具は、すでに知られているようであり、数値限定による特定事項を最大の特徴として、特許を受けるべき発明を把握し特定しています。このクレームの記載だけでは、“0.5倍~10.0倍”という数値限定の技術的意義を理解することができません。そこで、明細書の中味を見てみます。段落番号0011~0013に関連事項の記載を見出すことができます。「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍(より好ましくは0.5倍~5.0倍)に規制することによって、大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ、~」という記載、また、「この場合、軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍に設定したのは、0.5倍より小さくすると強度が不十分になり、また、10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず、材料の無駄が大きくなるからである。」という記載があります。  明細書の関連事項の記載を考慮する限り、“0.5倍~10.0倍”という数値限定には、技術的思想である発明としての技術的意義を見出すことができません。その点、先のコラム「数値限定発明に対する素朴な疑問」(2019年12月1日記)で述べたとおり、現時点の審査基準によれば、引用発明との相違点が数値限定のみにある時は、通常、その発明に進歩性がない、と判断されてしまいます。特許を受ける発明を把握するならば、今までの技術との関係から、技術的思想としての技術的意義のある特定事項を挙げることが必要ではない ...
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 著作権法第12条第1項は、  編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは著作物として保護する、と規定しています。  ここで、著作権法が規定する著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものです(著作権法第2条第1項第1号)。これら著作権法の第2条と第12条との両条項を見るとき、第12条の「創作性を有する」と、第2条の「創作的に表現」とに目を奪われます。「創作」という表現に共通点を見出すからです。  2つの条項の「創作」中、第2条の「創作」は“創作的に表現”という点から、表現の創作性を意味するとの理解が生まれます。それに対し、12条の「創作」は“~によって創作性”といことから、編集物としての新しさを意味する、と理解されます。同じ「創作」という表現が、2つの条項の中で異なる意味に用いられているようです。これも、著作権法の理解を難しくしている、と思います。  特許に親しむ小生にとって、第12条の「素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」という表現に興味を覚えます。“素材の選択”又は“素材の配列”によって、編集物としての創作性を生み出す点は、特許における発明と対応することができるからです。すなわち、著作物である編集物(発明)は、“素材の選択”又は“素材の配列”(技術的事項である構成要素の集り)によって、保護されるべき創作性(技術的特徴)を生み出す、と両者を対比することができます。  著作権法は、編集物の創作性を生み出す要因あるいは要素として、“選択”と“配列”を挙げているだけです。しかし、編集物に対して創作性を生み出す要因としては、それら以外に“編集方針あるいは編集のネライ”があるのではないか、という疑問があります。それは、特許における発明に対して、技術的事項である構成要素のほかに、発明の目的やネライがあるのではないか、という疑問と共通します。  特許における発明では、発明を適切に理解する上で、発明の課題やネライを必然的に考慮します。その発明の課題やネライを抜きにしては、保護すべき発明の内容を正しく理解することができません。それと同様に、保護すべき編集物の内容について、“選択”と“配列”を考慮するだけでは正しい理解を生むことができません。正しい理解のた ...
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 商標実務を行う上で、「音楽マンション」関連の商標(商標実務家にはよく知られた商標ではないでしょうか)は、いくつかの考える材料を提供しています。ここで、この商標は、その中に“マンション”という用語があるように、区分は第36類および/または第37類の役務に関係します。  まず、関連の商標を示します。第1は、出願人Rによる「音楽マンション」という商標登録出願T1(2002‐073996)があります。このT1は、商標法第3条1項のいわゆる特別顕著性の点から拒絶査定となり(平成15年6月24日)、Rが審判請求をしなかったことから拒絶査定が確定しました。  第2は、Rとは別の出願人Kによる「音楽マンション」という商標登録出願T2(2013‐34466)があります。このT2は、T1の後の別の出願人による出願であり、登録番号第5675530号として権利化されています(登録日:平成26年6月6日)。  同じ商標「音楽マンション」が、T1について権利化されず、別のT2に対して権利化が認められている点に、考える材料を見出します。この判断の違いについて、判断主体によって判断結果を異にする、という一般的な理解をすることもできます。その観点から、さらに深く考え、いずれが妥当か否かなどについて考えることもできます。しかし、ここでは、後に成立した商標登録についての、無効審判事件(無効2015-890094号)、およびその審決の取消しを求めた審決取消請求事件(平成28年(行ケ)第10191号)の中に、前記した考える点に対する一つの答えを見出すことができます。すなわち、(裁判所の言ですが)「上記拒絶査定は、どのような資料に基づいて判断されたかは必ずしも明確でないものの、商標法第3条第1項6号該当性についての判断に誤りがあるものといわざるを得ないから、これに対する不服審判請求に係る審決等において取り消されるべきものと解される。それにもかかわらず、原告は、不服審判請求をするなどして正しい判断を求めなかったのであるから、原告の主張(「音楽マンション」につき、特許庁は過去において拒絶査定をしたにもかかわらず、本件商標を登録査定したのは、平等原則、禁反言の原則、信義則にそれぞれ違反するなどとの主張)は、失当であるというほかない。」との部分です。  「音楽マンション」について拒絶査定を受けたRがとるべき手として ...
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 補正、つまり、不十分な箇所を補い正すことは、知財の手続きにおいてごく普通です。この補正について、いわゆる青本は、「手続の円滑迅速な進行を図るためには、初めから完全な内容の書類を提出することが最も望ましいが、実際問題として当初から完全なものを望みえない場合も少なくないので、一定の制限の下、手続の補正を認めることとしている。」といっています。  この補正に関して、特許法は、第17条に基本規定を設けています。知財の実務家のだれもが知る内容、「手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正をすることができる。」というものです。その点は、実用新案法も同様であり、第2条の2が「実用新案登録出願、請求その他実用新案登録に関する手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正をすることができる。」と、規定しています。  特許法第17条、実用新案法第2条の2は、法令の本則の中の総則に位置しています。それに対し、意匠法における補正の規定は第60条の24、商標法における補正の規定は第68条の40であり、両者ともに本則の中の雑則に位置しています。小生は、特許法、実用新案法と、意匠法、商標法との補正規定の配置あるいは位置づけの違いに興味を覚えました。すなわち、そのような位置づけの違いが生じる理由を知りたいと考えたわけです。  まずは、法令の構成について調べたところ、総則は、本則の全体に通じる共通の規則であり、普遍的な内容を含むと理解することができる、と思います。その点、本則とともに法令を構成する付則は、主要事項に付随する必要事項を定めた部分です。法令の本体となる部分は本則であり、それには、総則的規定のほか、本体的規定および雑則的規定が含まれるようです。本体的規定は、本則の中心となる部分であり、章や節に分類されています。それに対し、雑則的規定は、章や節に分類できないような雑多な個別的な事項をまとめた部分です。  このような法令の構成の面から見ると、補正の位置づけは、意匠法、商標法の場合よりも、特許法、実用新案法のそれの方が高い位置にある、と理解することができます。補正の内容については、経験的に、方式的あるいは形式的な不備を正すものと、保護を求める対象の実体を変化させるものとがあります。前者の不備は、4法の間に大きな違いはなく、後者の実体の変化についてこそ、4法の ...
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 「カラダを守る乳酸菌」という標準文字による表記について、たとえば、乳酸菌を含有する乳清飲料などを含む指定商品の下に、商標登録が認められました(不服2019‐1612)。この種の記述的商標について、しばしば相談を受けることがあります。相談の中味といえば、第1には登録性、また、第2には、登録することの意義などです。第1の登録性は、商標法第3条第1項第6号をクリアするかという疑問そのものです。また、第2の登録の意義は、それ自体(それだけ)を商標として使用することは少ないが、主たる商標に付随的に使用することからの疑問、別にいうと、そのような使い方をするとしても登録を得ることが必要かという疑問です。  そのような背景から、「カラダを守る乳酸菌」の登録までの経過を探ることにしました。原査定では、案の定、“本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当し、上記に照応する商品以外の商品に使用するときには、・・・同法第4条第1項第16号に該当する。”との判断です。この理由は、指定商品について、「乳酸菌を含有する~」という補正をしたとしても、第3条第1項第6号をクリアすることはない、という意味を含みます。つまり、「カラダを守る乳酸菌」は、『(第1号~第5号に該当する商標ではないが)需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標』に該当する、と理解することができます。  第3条第1項第6号の商標について登録が得られない理由は、該当する商標が出所表示という商標の本質的機能を果しえないことにある、と考えられます。ここで、第6号の位置づけについて、どのように考えることが妥当でしょう。いわゆる青本は、第6号は第1号から第5号までの総括条項、あるいは、第1号から第5号は第6号を導き出すための例示的列挙といっています。そしてまた、法規定上、商標法第3条第2項により、使用により特別顕著性の発生が認められていますが、それは、第3号から第5号に該当する商標だけに対してです。「第3号から第5号」という限定をした理由について、疑問に思われたことはありませんか? (第3号から第5号に入らない)第1号、第2号、第6号に該当するものの中には、標準文字による表記のものだけでなく、特殊な表記なものも考えられます。その特殊な表記は、当初は商標の本質的機能を生じるとはいえないものであっても、特殊 ...
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 「地下構造物用丸型蓋」の事件について、数回にわたって検討してきました。最後に、「本質的部分」に少しだけ触れたいと思います。  「本質的部分」は均等論における第1要件に現れる用語ですが、その用語は、『発明の本質』と方向性を同じにしていると思います。均等論では、発明の構成要素が文言上、差異があるとき、特定の条件下でその差異を吸収する考え方をとります。均等第1要件(つまり、差異が発明の本質的部分でないこと)は、特定の条件の中の基本的な要件です。発明は技術的思想であり、その発明には、通例、複数の考え方が潜んでいます。「本質的部分」も考え方であり、そのような考え方の中で一番大事なものである、と考えます。均等論は、文言上の差異を吸収し、発明の保護範囲を拡げる考え方ですが、吸収を認める差異について、一番大事な考え方(本質的部分)は対象とせず、周辺の考え方についてのものに制限しています。それによって、権利者と第三者との間の保護のバランスを図っていると考えます。  発明の「本質的部分」は、発明の捉え方によって変容します。捉えた発明は、特許実務家による明細書およびクレームに現れます。したがって、特許実務家は、発明の「本質的部分」を変化させることができます。  今回の「地下構造物用丸型蓋」発明について、それを振り返って検討しましょう。  実際の特許明細書では、発明の課題として「蓋本体を後方から受枠内に押し込むだけで蓋本体をスムーズに受枠内に収めることができる」ようにすると把握し、蓋本体および受枠の両方に、凸曲面部および凹曲面部を連続して設ける方法を採用しています。その方法について、原告や控訴審が述べる「本質的部分」は凸と凸とによるガイド作用であり、他方、被告や原審が述べる「本質的部分」は凸と凸との関係だけでなく、それに隣り合う凹の存在が加わります。差異であるイ号の段部は、凹ではありますが、原告や控訴審の考え方では「本質的部分」ではなく、被告や原審の考え方では「本質的部分」になります。  明細書やクレームを作成する立場から振り返ると、凸と凸とによるガイド作用を発明の本質と捉え、凸に隣り合う凹を従属的な事項と捉える発明の把握の仕方も考えられます。その考え方では、凹の形態として、(1)段部とする場合(イ号)、(2)凹曲面にする場合(特許発明)、さらには(3)その他が考えられます。課題の「スム ...
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 この侵害差止等請求事件における、いわゆるイ号を説明します。次のF1およびF2は公報における図3および図2に対応する形態でイ号を示し、また、F3は受枠の「段部」部分を詳細に示しています。 F3  イ号にも、受枠側に受枠凸曲面部(21)、その上方に段部である受枠凹曲面部(22)、それに続く上方に受枠上傾斜面部(23)があり、また、蓋側に蓋凹曲面部(11)、その上方に蓋凸曲面部(12)、それに続く上方に蓋上傾斜面部(13)があり、閉蓋状態で蓋上傾斜面部(13)と受枠上傾斜面部(23)とがはまり合います。  イ号および特許発明は丸型蓋であり、その差異は、受枠凸曲面部(21)の上方に隣り合う、受枠凹曲面部(22)が凹曲面ではなく、平面と平面とが交じり合う直線と直線とからなる段部である点です。  この差異について、原告は、均等の論理によって侵害を訴えました。均等第1要件“差異が本質的部分でないこと”について、原告は、発明の作用効果①・②の面から主張をしています。まず、「蓋本体をスムーズに受枠内に収めることができる」という作用効果①に関し、「本件発明では、蓋本体と受枠の凸曲面部同士が接触し、ガイドされるのであって、凹曲面部は作用効果①とは関連性がない。」といい、また、「蓋本体のガタツキを防止し、土砂、雨水等の侵入を防止できる。」という作用効果②に関し、「蓋本体と受枠の凸曲面部と凹曲面部は接触せず、蓋上傾斜面部と受枠傾斜面部とのはまり合いにより、蓋本体のガタツキを防止するから、凹曲面部でなくとも、蓋凸曲面部と接触しない構成にすればよい。」といっています。その結果、凹曲面部は本件発明の本質的部分ではない、と主張しています。  それに対し、被告は、「蓋本体や受枠の凸曲面と凹曲面が連続する構成は、作用効果①を発揮するために必須であり、発明の技術的思想の中核をなす特徴的部分、すなわち本質的部分である。」と反論しています。  以上の原告、被告の各主張に基づき、原審は、次のような判断をしています。第1に、明細書には、「蓋凸曲面部がガイドされるにあたり、受枠曲面部が直接的に果たす役割については明示されていない。」と説明しています。それに引き続き、第2に、明細書に、「受枠に凸曲面部と凹曲面部を連続して形成し、蓋本体にはこれを倣う形で凹曲面部と凸曲面部を連続して形成することを、作用効果①発生の前提 ...
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 前回のコラム(2)により、明細書等の検討から、「地下構造物用丸型蓋」発明の課題が明らかになりました。すなわち、この発明の課題の「蓋本体を後方から受枠内に押し込むだけで蓋本体をスムーズに受枠内に収めることができる」ようにするとは、次に示す第1段階から第2段階、そして、第2段階から第3段階へと至るすべての動きをスムーズにすることにある、と理解されます。 第1段階(受枠の一部に重なるように蓋本体を配置する) 第2段階(蓋本体の後部を押し、受枠と蓋本体との重なりを大きくする) 第3段階(蓋本体を受枠の内部に完全にはまり込ませる)  ここで、丸蓋が受枠内の孔の中に落ち込まない理由と同じ理由から、丸蓋(蓋本体)が受枠の上を図の左側から右側へと順次移動し、最終的に受枠内にはまり合う第3段階に至る間、蓋本体は、二点C1およびC2で支えられます。そこで、課題がいう『受枠内に押し込むだけで蓋本体をスムーズに受枠内に収める』、つまりは、『第1段階から第3段階に至る間の動きをスムーズにする』ためには、二点C1およびC2の接触関係をスムーズにすることが必要であります。  この点に関係する記載を請求の範囲から見つけましょう。  この請求項1の記載中、二点C1およびC2の接触関係に影響する要素は、受枠の凸曲面部(21)、凹曲面部(22)と、蓋本体の凹曲面部(11)、凸曲面部(12)です。そして、『スムーズ』にするには、各要素の表現の中の“曲面”および凸凹の“連続”にある、と理解されます。さらに留意すべきことは、蓋本体が受枠の内部にはまり込む間に、蓋本体の凸曲面部(12)は、受枠の凸曲面部(21)の上部分から受枠の凹曲面部(22)の上まで移動することです。課題の『スムーズ』を達成するためには、蓋本体の凸曲面部(12)が受枠の凸曲面部(21)の上部分から受枠の凹曲面部(22)の上までスムーズに動けるようにすることが大事です。“曲面”および“連続”がそれを語っている、と理解することができます。  残念ながら、請求項には勿論、明細書の中の関連記載にも、そのような直接的な記載を見出すことができません。請求項に“曲面”、“連続”という表現は見られますが、課題との関係でそれらが何を意味するかは定かではありません。また、明細書には、「このような構成にすることで、閉蓋時に蓋本体の後方から蓋本体を押し込んで受枠内 ...
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 まずは、特許第5886037号公報の記載から、「地下構造物用丸型蓋」の発明を理解しよう。請求項1の記載は、次のとおりです。なお、特徴部分を理解し易くするため、色付けをしています。  この請求項1を読む限り、この特許発明の丸型蓋は、a.(蓋あるいは蓋本体を受ける)受枠側に、受枠凸曲面部(21)と受枠凹曲面部(22)とを連続して形成し、b.蓋本体の側に、蓋凹曲面部(11)と蓋凸曲面部(12)とを連続して形成し、さらに、c.受枠には、受枠凹曲面部(22)の上方に受枠上傾斜面部(23)が連続し、蓋本体には、蓋凸曲面部(12)の上方に蓋上傾斜面部(13)が連続し、さらにまた、d.閉蓋状態で受枠上傾斜面部(23)と蓋上傾斜面部(13)とははまり合うが、その下方の部分はクリアランスをもつ、という形態的な特徴を備えることが分かります。  しかし、請求項の記載から丸型蓋の形態的な特徴は分かりますが、そこに潜む考え方を理解することができません。それは、この請求項1には、技術的思想を明らかにする上で必要な「ネライ」や「技術的意義」が記載されていないからです。小生は、保護を求める範囲を定める請求の範囲には、「ネライ」や「技術的意義」を記載することが必要である、と考えています。この丸型蓋の発明についても、発明の中味を正しく理解するために、(他の場合と同様)請求項に加えて、明細書や図面の記載に助けを求めることになります。  そこで、特許第5886037号公報の記載から、参考となる図面と関連する説明とを抜き出して考えます。 【公報の図2からの引用】 【公報の図3からの引用】  図2からの引用の最初の図は、蓋本体(10)が受枠(20)に載り、受枠上傾斜面部(23)と蓋上傾斜面部(13)とがはまり合った状態であり、閉蓋状態を示しています。それに対し、後の方の図3からの引用の図は、閉蓋操作の途中の段階であり、蓋上傾斜面部(13)は蓋上傾斜面部(13)にはまり合う前の状態を示しています。  この発明の課題(あるいは「ネライ」)は、“閉蓋の際、バールで蓋本体を引きずるようにしたり、蓋本体を後方から受枠内に押し込むだけで蓋本体をスムーズに受枠内に収めることができる”ようにすることにあります(段落番号0007)。また、この課題を引き出す前の説明として、“蓋本体を閉蓋する際、・・・蓋本体の前部が大きく受枠内に ...
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 平成22年(ネ)第10014号は、意匠権と特許権との侵害差止等請求控訴事件です。その中で、特許権に関する事件の発明把握に興味を持ちました。この特許権の特許発明は「地下構造物用丸型蓋」という名称であり、特許第5886037号です。この特許発明は、原審で均等侵害が認められなかったのですが、控訴審で均等侵害が認められました。  まずは、「地下構造物用丸型蓋」発明を検討する意義について、このコラム(1)で触れたいと思います。  均等侵害については、明細書やクレームの記載にキズがあるところ、すなわち、クレームの一つの特定事項にイ号との間に文言解釈上の差異があり、そのために侵害が認められない場合に、一定の条件の下で特許発明のクレーム解釈を拡大することにより、差異をクレームの技術的範囲の中に含ませるという考え方です。均等を認めるか否かについて、いわゆる均等5要件があり、この事件では、均等第1要件(つまり、差異が特許発明の本質的部分でないこと)に対する判断が、原審と控訴審とで異なる結果になっています。  発明の本質的部分について、二つの考え方があるようです。第1は、「クレームに記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、その異なる部分が特許発明の本質的部分ではなく」とする内容を文字どおり捉える考え方です。そして、第2は、異なる部分を含めた対象製品等が全体として特許発明の技術的思想の範囲内にあることを意味するという考え方です。第1の考え方は、クレームの記載の中で本質的部分を認識する考え方ですが、「本質的部分」を何も説明していないようです。一方、第2の考え方は、本質的部分を技術的思想の中に見出す考え方のようです。しかし、これらのいずれの考え方も、「本質的部分」が何かを明らかにすることはないようです。  「本質的部分」は技術的思想の中核をなす部分である、という表現も見られますが、その表現によっても、本質的部分を具体的に知ることができません。クレームを作成するとき、発明を分析および検討します。特定のネライをもつ発明は、通例、ネライを達成する上で複数の考え方(これら複数の考え方は、発明を捉える人により異なることもあります。)を潜在的に含みます。クレームの作成にかかわる特許実務家として、「本質的部分」とは、それら複数の考え方の中で、最も大事なものをいうと考えます。たとえば ...
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 数値限定発明とは、請求項の特定事項として、数値限定による表現を含む発明である、ということができます。とすれば、この数値限定発明は、技術分野にかかわらず問題になる発明であるはずです。しかし、数値限定発明は、一般的に、電気や機械関係よりも化学関係でよく議論されています。  この数値限定発明について、特許庁の特許審査基準は、「請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、主引用発明との相違点がその数値限定のみにある時は、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。」との基本的な考え方を述べています。そして、特許審査基準は、副次的に、発明の効果の顕著性などがある場合について、数値限定の発明が進歩性を有している、との判断をするようになっています(以上、特許審査基準の第Ⅲ部第2章第4節の6.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合、の項から)。  この特許審査基準の考え方は、特定事項、つまり、特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項、との関係で論理的に矛盾がある、と考えます。なぜなら、数値限定による特定事項は、他の表現による特定事項と同様、それ自体に技術的意義を伴うものであるからです。したがって、その技術的意義を伴う、数値限定の特定事項は、基本的に、技術的意味をもつ、と理解されるべきです。その理解に基づき、主引用発明との相違点である数値限定がある発明は、本来的に、進歩性をクリアすると判断されるべきである、と考えます。その点、特許審査基準は、数値限定の点で相違がある発明について、数値限定の技術的意義を認めないことを前提とした取扱いをしています。  特許審査基準による、そのような取扱いは、数値限定による技術的意義を誤解しているからである、と考えます。なぜなら、数値限定の発明が進歩性を有する場合として、(i)その効果が限定された数値の範囲内において奏され、引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであること、(ii)その効果が引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであること(すなわち、有利な効果が顕著性を有していること。)、(iii)その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたもので ...
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 商標の構成要素あるいは構成部分として、「ネオ」(あるいは「NEO」)を含む商標は意外と多いです。しかし、「ネオ」は新あるいは新しい、という意味をもつ用語として、良く知られています。その意味から、「ネオ」は、商標法3条1項3号に該当する典型的な用語の一つであり、だからこそ、その「ネオ」という用語と、一般的な商品名とを含む結合商標は登録要件を欠くであろう、と理解していました。  そんな中、「ネオバターロール」の文字を標準文字で表記した商標であり、「バターロールパン」を指定商品として含む権利に出会いました。その出会いにより、この商標の登録がなぜ許されたのか、について考える機会を得ました。「ネオバターロール」は、「ネオ」という用語と、「バターロール」という一般的な商品名との結合であるため、通常は、登録要件を欠くのではないか、という疑問が生まれるからです。  案の定、「ネオバターロール」商標は、審査段階の原審では拒絶されていました。商標の構成中の「ネオ」の文字は、「新」の意味をもち、品質を誇称する「NEO」に通じ「新しい」または「新製品」の意味を容易に認識させることから、その商標は、全体として「新しいバターロールパン」の意味を理解させるにとどまり、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきである、との理由からです。  その原査定は、不服審判(2018-17423)によって取り消されました。その取消し判断は、『当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「ネオバターロール」の文字が、原審説示のように、商品の品質を表示するものとして一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。』との理由に基づいています。  ところで、この「ネオバターロール」という登録商標に先立ち、次の商標が商標登録5900877号として権利化されています(商標登録公報からの引用)。  この既登録の商標は、大きな太字で表記された「ネオ」と、小さな太字の「バターロール」との二段表記の形態です。この二段表記の『ネオ/バターロール』の禁止的効力が、上に述べた標準表記の「ネオバターロール」に及ぶか否か、が疑問になります。換言すると、二段表記の『ネ ...
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 先のコラムで、“転がりにくい鉛筆”(断面を正六角形にすることにより、転がりにくくした技術)に関して、クレームの記載を話題にしました。クレームの記載に際しては、“転がりにくい鉛筆”技術を発明として把握することになります。発明の把握は、知財専門家の一番の腕の見せ所です。別の表現をすれば、発明の把握が知財専門家の腕を決めるということができます。  把握すべき発明を特定するためには、世の中のために何をするかの「ネライ」と、そのネライをどのような技術的な考え方(ネライを達成するための「技術的考え方あるいは技術的手段」)によって成し遂げるのか、という二面を明らにすることが必要です。  “転がりにくい鉛筆”の場合、「ネライ」は明らかに‘転がりにくくすること’にあるようです。しかし、‘転がり’には、いくつかの要素が関連します。たとえば、身近の車のタイヤの転がりを参考にします。タイヤは、路面に対し、ある接地面積をもって接します。その際、接地に伴う接地摩擦によって転がり抵抗を生じます。このような転がり抵抗は、タイヤの‘転がり’に大きな影響を与えます。タイヤの場合には、転がり抵抗を低減することが求められるでしょうが、鉛筆発明の場合には、転がり抵抗を大きくすることが求められるようです。  そこで、“転がりにくい鉛筆”の「ネライ」を明らかにするため、大きくすべき‘転がり抵抗’について考えることになります。‘転がり抵抗’に関係する要素は複数あります。特定すべき「ネライ」は、それら複数の要素の何に着目するかによって異なってきます。‘転がり抵抗’は、第1には接地に伴う摩擦抵抗が関係するでしょうし、そのほか、転がりの邪魔になる障害物(凹凸)の存在も問題になります。これらの考えから、「ネライ」には、鉛筆自体の形態などを‘転がりにくくする’という第1のネライと、鉛筆に関連する鉛筆以外の物を活用することにより鉛筆を‘転がりにくくする’という第2のネライが出てきます。発明者による「六角形の鉛筆」は、第1のネライに直結します。  知財専門家のある人は、第1のネライに絞って、第1のネライに伴う「達成すべき考え方あるいは手段」を明らかにする動きをします。その動きは、多く場合、第2のネライにまで考え及ばないことが出発点になっています。それに対し、別の知財専門家は、「ネライ」として第1のネライと第2のネライとを考え ...
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 先の“「鉛筆クレーム」のいろいろ”(11月3日付)のコラムにおいて、数例の鉛筆クレームを紹介しました。その紹介には、二つの意図があります。第1は、特許実務家にもいろいろな人がいることを知らせることであり、第2は、良いクレームは何かを考えるトリガーにすることです。  先のコラムを参照しながら、私たち特許実務家が、どのような考えに基づいてクレームを作成するかを考えます。クレームには、保護を求めるべき発明を記載します(たとえば、PCT第6条)。発明に関する用語として、自然法則、技術的思想があります。それらの用語は、保護を求める発明を把握する際のヒントになります。  先のコラムにおける第1例、第2例、第3例は、発明者が提示した「断面六角形」の技術的な意味を追求することにより、保護を求めるべき発明を把握していると思います。特許実務家は、物としての「断面六角形」の鉛筆が、いくつかの発明を利用した具体的な形態の一つであることを経験的に理解しています。発明の把握は、(発明者の情報では必ずしも明らかでない)「断面六角形」の鉛筆に潜まれる技術的思想、そこに潜む活用すべき自然法則をあぶり出す作業ということができます。  この作業でまず大事なことは、「断面六角形」が何をねらっているか(ネライが何か)ということです。「鉛筆クレーム」の場合には、そのネライは明らかなようです。鉛筆を転がりにくくすること、すなわち、今までの鉛筆が、断面が丸形状であるため転がりやすいという問題があることに気づき、その転がりやすいという問題を解決することがネライです。  発明者は、そのネライを鉛筆の形状を変化させることにより解決しようとしています。発明者の基本的な考え方は、鉛筆あるいは鉛筆本体の形状について、断面が丸よりも転がりにくい形状にすることにあったようです(小生は、第1~第3例が転がりにくくするために利用した考え方(自然法則の利用)を必ずしも明確にしていないのではないか、という疑問を抱いています。しかし、ここでは、言及しません)。この基本的な考え方を、第1例では、「重心からの距離を不均一」、第2例では、「転がりを防止する転動防止手段」、第3例では、「転がりを防止する部材」として把握しています。第1例は、鉛筆自体の形状だけに着目しているのに対し、第2例、第3例は、鉛筆自体の自らの形状だけでなく、付加的なものな ...
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 特許実務者にとって、一番の難しさは、クレーム(特許請求の範囲あるいは請求の範囲)の記載にある、ということができます。このクレームは、保護を求める事項を明示する文書であり、そこに記載した内容によって、独占することができる範囲が定まります。そのため、より良い特許実務を求める人は、このクレームを記載する力を向上させようとするのが常です。  クレームは特許実務者による創作物であり、それを創作する力は、特許実務者の実力に密に関係します。「鉛筆クレーム」は、鉛筆の発明に関するクレームであり、クレームの創作あるいは作成を訓練する題材として知られています。最も身近な「鉛筆クレーム」は、転がりにくくした鉛筆の発明を記載したクレームです。すなわち、断面が丸形状の今までの鉛筆が、机の上で転がりやすいという問題に気づき、その断面を正六角形にすることにより、転がりにくくした技術について、クレームを作成することに関係します。  この「鉛筆クレーム」の出発となるクレームは、 “断面が六角形の鉛筆”であり、一歩進展したクレームは、“断面が多角形の鉛筆”あるいは“断面が多角形の筆記具”です。  そして、これらの原始的なクレーム(誰もが考えるであろうクレーム)をさらにブラッシュアップしたクレームとして、次のようなものを見出します。 【第1例】 “長手方向に対する垂直断面で見た重心から、その外周までの距離を不均一にした鉛筆形状”  この表現によって、「六角形や多角形」を転がり時に重心の高さが上下にぶれるアイデアと考えることにより、断面が楕円形状等の多角形以外の鉛筆のアイデアを含ませるようにしたようです。(この第1例は、日本弁理士会東海会のHP上の澤田昌久弁理士著の記事からの引用です。) 【第2例】 “平面上で鉛筆本体の転がりを防止する転動防止手段を前記本体に設けたえんぴつ”  この表現によって、下記の種々の例を含ませるようにしているようです。  (この第2例は、パテント2019年5月号の「権利書たる明細書に「発明の効果」は記載すべきではない」(吉田昌司著)からの引用です。) 【第3例】 “軸心に筆記部材が設けられた軸の一部に、軸心を中心とした転がりに抵抗する部材が設けられている筆記具”  この表現により、・鉛筆に限らず、筆記具が対象になる、・形状は楕円でもよい、・軸の一部に凸部を設けてもよい、・角部の ...
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 (弁理士会誌パテントの第24回知的財産権誌上研究発表会の関係で)「発明の効果」についてのやり取りの中で、“独立要件説”という表現に出会いました(パテント2019年10月号の70ページ)。恥ずかしながら、小生は、この“独立要件説”という言葉に初めて触れます。そこで、引用文献を頼りに芋づる式に調べてみました。結果的に、別冊ジュリストの特許判例百選(第3版)の40~41ページの「進歩性の認定(4)―顕著な作用効果」(長沢幸男著)の中に、参考となる記載を見出しました。そこで、その記載の中から、関連事項を抜粋しつつ、まずは、“独立要件説”を明らかにします。  「進歩性の判断とは、発明の容易性、すなわち、発明の「構成」についての容易想到性の判断に帰着するというのが、特許法の文言及び講学上の進歩性の概念に照らし、素直な理解である」ことを、著者の長沢先生は前提にしています。そして、「第1の学説は、作用効果をもって、構成の容易想到性を推認させる間接事実と解する説である。」とし、その間接事実説の代表例として、吉藤先生の特許法概説の説明を引用しています。すなわち、「発明の進歩性は、発明を構成することの難易の問題である。発明の実体は、発明の「目的」でもなく、また発明の「効果」でもなく、発明の「構成」自体であるからである。したがって、進歩性を判断するにあたっては、理論的には、発明の構成を対象とし、その難易によって進歩性の有無を判断すべきであることはいうまでもない。しかし、実際問題として、発明構成上の難易を判断することは必ずしも容易ではないことが少なくなく、また往々にして判断を誤ることもある。・・・以上のことから、発明の目的や効果を参酌することによって、構成上の難易、すなわち、発明の進歩性の有無を判断することが、手法として一般的に行われている。」との特許法概説からの引用です。  さらに、長沢先生は、「作用効果の顕著性をもって、構成の容易想到性とは独立した進歩性判断の要件と解するのが、第2説の学説である。」とし、その第2の学説を「独立要件説」と呼んでいます。そして、第2の学説の見解を明記した文献は少ないところ、例として、竹田稔先生の見解、「顕著な効果があれば進歩性があるものと判断するということは、発明の有する効果から進歩性を肯定的に評価することを意味し、当業者が発明の構成に容易に到達できたであ ...
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 結合商標とは、商標の構成要素の組合せからなる商標です。それらの結合商標のうち、文字同士の組合せの結合商標について、8月31日のコラムにおいて話題にしました。話題の中心は、類否判断に際し、組み合わせた文字と文字とを分離することが許されるか否かの考え方です。文字同士の組合せの場合、各文字の大きさおよび書体が同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるとき、高い結合性をもつことから、分離抽出が難しいとのことでした。  そのような文字同士だけではなく、そこに図形がさらに組み合わさった場合には、別の観点から一部の構成部分の分離抽出が難しいという判断が生まれるようです。不服2018-4822号が、その一例です。問題となった本願商標は、次のように、黒色の矩形の内部に、「R」の文字と「+」の記号とを白抜きで表し、その下に、「RUGBY PLUS」の文字を、上段部分に比べ小さく横書きしたものです。 この本願商標が、次に示す引用商標と類似するか否か、つまり、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するか否かが問題です。  原査定では、本願商標の構成中「欧文字の『R』と記号の『+』を組み合わせて図案化した」部分を分離抽出し、それが引用商標と類似するとし、拒絶の結論を出しました。しかし、審判体は、その分離抽出は妥当ではないとし、原査定を取り消したのです。  審判体の判断の根拠は、本願商標の「その文字構成及び配置に照らせば、上段の「R」の文字は下段の「RUGBY」の頭文字を表したものとして、また、本願商標のかかる構成においては、殊更「R+」の部分のみが着目されるというよりは、構成全体をもって一体不可分のものとして把握、認識されるとみるのが相当である。」ということです。  この審判体の根拠を正確に理解することに少し戸惑います。なぜなら、審判体は、上段と下段との二段書きの構成、そして、上段の「R」の文字は下段の「RUGBY」の頭文字を表したものとの捉え方に基づいて、構成全体をもって一体不可分とするのが妥当である、と判断しているように理解されるからです。上段の文字と下段の文字との大きさがかなり異なるため、大きな上段の文字部分を要部の一つに見ることができるとする判断が生まれる点から、「つつみのおひなっこや事件」の最高裁判決との関係から、判断には少し疑問が生じます。   ...
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 このテーマは、より良い明細書を追求するものであれば、だれもが考えるテーマの一つです。小生は、外国がらみの明細書の記載に悩むとき、PCTの関連規定に戻り、その規定の本来的な意味を考えることにしています。たとえば、次の二つの規定です。  PCT第5条 明細書には、当該技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に、発明を開示する。  PCT第6条 請求の範囲には、保護が求められている事項を明示する。請求の範囲は、明確かつ簡潔に記載されていなければならない。請求の範囲は、明細書により十分に裏付けがされていなければならない。  これらの規定の字面を追うだけであるなら、知財専門家にとってお茶の子さいさいです。しかし、外国出願に耐えうるだけの記載を考える者にとっては、「実施ができる程度」、「明細書により十分に裏付け」などの意味を熟考することになります。その熟考が、JPとUSやEPとの違いを埋めるに違いないからです。  JPの特許法施行規則第24条の2は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載しなければならない、と規定しています。この規則の基になる特許法第36条4項の「実施ができる程度に」の記載を併せ考慮すると、JPでは、実施形態あるいはそれらしき事項の記載が求められているのに対し、より具体的な実施例の記載までは求められていない、と理解されます。  EPCの83条や27f規則を見る限り、EPについても一般的には、JPと同様であり、実施例は任意であるが、実施の形態は少なくとも一つが必要である、と理解されます。  ここで、35 USC 112における“the best mode”が気になります。ベストモードは発明を実施するための最良の形態です。実は、PCTの規則5.1の明細書の記述方法の中に、(v)として、請求の範囲に記載されている発明の実施をするための形態のうち少なくとも出願人が最良であると考えられるものを記載する。その記載は、適当なときは実施例を用いて、図面があるときはその図面を引用して行う、という規定があります。この規定から、USが求めるベストモードの外郭を把握することができます。勿論、ベストモードの記載には、より具体的で、しかも、図面を用いることが ...
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 商標実務の中で、次のような事態に遭遇し、いくつかの疑問を抱きつつ今後の実務的な対応を検討しています。  第43類の飲食物の提供を指定した先願登録商標「海賊」(出願日:平成26年9月1日、登録番号:5732567T)と、同じ第43類の飲食物の提供を指定した後願登録商標「海賊スパゲッティー」(出願日:平成28年11月25日、登録番号:5970535T)とが共に権利化され併存しています。  第1の疑問は、同じ飲食物の提供において、「海賊」と「海賊スパゲッティー」とが何ゆえに非類似であるのか?  というのは、「スパゲッティー」は一般的な飲食物の名称の一つであり、「海賊スパゲッティー」中の「スパゲッティー」は識別力をもたない、と考えるからです。そしてまた、「海賊」と称する店舗のメニューには、「海賊~」という飲食物、たとえば海賊スパゲッティーをはじめ、海賊スパゲッティーほかの海賊風の食べ物が記されているのではないか、と考えるからです。  したがって、第2の疑問として、「海賊」の商標権をもつ権利者が、「海賊スパゲッティー」の商標権の効力により、自己の店舗のメニューの用語として、「海賊スパゲッティー」を使用できないということになるのではないか? そうとすれば、「海賊」の実質的な権利範囲が大きく制限されてしまいます。  さらには、「海賊」の店舗で、たとえば「海賊ラーメン」を主たる提供飲食物とすることが分かっているような場合には、商標「海賊」に加えて、「海賊ラーメン」をも権利化しておくべきなのか? という第3の疑問が生まれます。  商標「〇〇+役務名」は、いわゆる結合商標の中でも、識別力がないと思われる役務名を含む商標です。現行の特許庁実務では、その商標「〇〇+役務名」と、役務名(ここでは提供食べ物のスパゲッティー)のない商標「〇〇」とが併存することを認めています。そのような取扱いの下、私たち実務家は、商標の類否判断のみならず、店舗の具体的な活動(たとえば、どのような看板やメニューを使うのか、どのような店舗の紹介をするのか、今後の店舗活動の方向性はどうなのか、など)についても、クライアントと密にコミュニケーションを図るのが良い、と考えています。  弁理士ではあるが、商標法が求める競業秩序の変化についていくことができない小生には、商標における各種の判断がさらに難しくなっています。上に述 ...
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 このコラムのテーマにおける「重複適用」という見方については、AIPPI(2019)Vol.64 No.2の加藤実著「特許法36条6項2号の明細書要件の意義・解釈について」に出会うことにより、知りました。その著者は、明確性要件と(サポート要件ないしは)実施可能要件とは、本来的に棲み分けられるべきである(これを、「棲み分け説」といいます)と言っています。「棲み分け」とは、辞書的には、場を空間的または時間的に分け合って、共存することのようです。したがって、「棲み分け」は、同じ物事が重なり合う「重複」と反対に位置します。  「棲み分け説」をとる裁判例の一つとして、平成21年(行ケ)第10434号の審決取消請求事件(平成22年8月31日判決言渡)があります。この事件は、「伸縮性トップシートを有する吸収性物品」、たとえばおむつなどについて、上側のトップシートの弾性特性(伸縮性)を特定することにより、おむつの機能を適正化する技術を対象にしています。  裁判所は、『36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関して、「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが、同号の趣旨は、それに尽きるのであって、その他、発明に係る機能、特性、解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない。』としています。そしてまた、裁判所は、『発明の解決課題やその解決手段、その他当業者において発明の技術上の意義を理解するために必要な事項は、法36条4項への適合性判断において考慮されるものとするのが特許法の趣旨であると解される。また、発明の作用効果についても、発明の詳細な説明の記載要件に係る特許法36条4項について、平成6年法律第116号による改正により、発明の詳細な説明の記載の自由度を担保し、国際的調和を図る観点から、「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」とのみ定められ、発明の作用効果の記載が必ずしも必要な記載とはされなくなったが、同改正前の特許法36条4項においては、「発明の目的、構成及び効果」を記載することが必要とされていた。』とし、『このような特許法の趣旨等を総合すると、法36条6項2号を解釈するに当たって、特許請求の範囲の記載に、発明に係る機能、特性、解決課題ないしは作用効果との関係での技術的意味が示されていることが求められることは許さ ...
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 このコラムでも、「ステーキの提供システム」の発明、つまり、その発明についての発明の該当性をめぐる事件を何回か話題にしています。 「ステーキの提供システム」の発明から学ぶ-その1  その「ステーキの提供システム」の発明に絡む事件について、特許管理の2019年9月号の中に、上羽秀敏弁理士による一つの論説、「ステーキの提供システム」の発明該当性について取消決定を取り消した知財高裁判決―技術的意義の三要素アプローチの有用性―、を見出しました。  この論説の中に、次のような気になる記述があります。  『「発明」が記載されているのは「明細書」であって、「特許請求の範囲」ではない。特許請求の範囲に記載されているのは、特許法36条5項に規定されている通り「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(発明特定事項)」であって、「発明」ではない。  したがって、特許請求の範囲の記載のみから「発明」を認定することはできない。特許請求の範囲の記載から認定できるのは「発明」を構成する「技術的手段」のみである。「発明」を認定するためには、発明の技術的意義を理解する必要があり、特許請求の範囲に記載された「技術的手段」に加え、明細書に記載された「課題」又は「効果」も一緒に認定しなければならない。』  この記述には驚かされます。一番の驚きは、特許法36条5項、および特許法70条の各規定の理解の仕方が異質である点です。平成6年の改正以前における特許法36条5項は、特許請求の範囲には、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載」と規定していました。そして、平成6年改正以後の特許法36条5項は、特許請求の範囲には、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載」と規定の内容が変化しました。これら特許請求の範囲に関する規定ぶりが変化したとしても、特許請求の範囲(以下、クレームともいいます。)に記載する事項は、保護を求める発明に変わりはありません。その点、平成6年改正以後の特許法36条5項の仲間である、特許法36条6項、すなわち、クレームの記載に求める条項、たとえば2号の特許を受けようとする発明が明確であること、の記載からも明らかです。改正前後において、クレームは、保護を求める発明を記載することをずっと求め続けています。 ...
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 先に、「特許調査の大切さ」(August 6, 2019)について述べました。 特許調査の大切さ-発明の把握を適切に行うために  関連の事例は、特許第6278249号の特許発明でした。そのメインのクレームを、特許公報から抜粋します。  このクレーム記載の発明は、油揚げという特殊な食品の表面に印刷あるいはマークを印す技術であり、特には、油で揚げる前の(豆腐)生地に印刷あるいはマークを記し、その後に油で揚げるという考え方です。  特許庁の審査段階において、特許異議申立て時の資料(特開昭55-23955号の刊行物)を見出すことができず、特許査定がなされました。ここで、審査において密に関連する、その刊行物を検索できなかった理由として、先のコラムでは、特許発明におけるInt.Cl.がA23L 11/00であるのに対し、引用された刊行物の方のそれはA23L 1/27という相違があることを想像しました。しかし、その想像は、誤りだったようです。なぜなら、クレーム記載の「油揚げ」と「印刷」というキーワードによってJ-PlatPat上全文検索をすると、130件ばかりが検索され、その中の一つに、問題の特開昭55-23955号の刊行物を明らかに見出すからです。その刊行物における発明の名称は、「食用着色プリント食品の製造法」であり、クレームの中には、特許発明のような考え方は記載されていません。しかし、実施例である油揚げを通して、特許発明の考え方がずばり記載されていました。まさに、この事例の審査には、明らかなヒューマンエラーがあったようです。  さて、この事例を考えるとき、あるいは特許調査の考え方を再考するとき、特許調査はクレームの作成によく似ている、と感じます。ここでは、その感想を少し述べたいと思います。  特許調査をするとき、あるいは、クレーム作成をするとき、その調査対象である発明内容、あるいは、作成すべきクレーム発明を把握します。この発明の把握を誤っては、的確な調査ができないし、効果的なクレームを作成することができません。この点、特許調査の場合には、完成されたクレームや明細書がすでに存在することもあります。それに対し、クレーム作成に際しては、通常、文章的あるいは内容的に完成されたものは存在しません。しかし、両場面における資料は、的確な調査あるいは効果的なクレーム作成を行う前では、ともに ...
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 商標の構成要素は、文字、図形、記号、立体的形状、色彩などであり、結合商標は、それらの構成要素の組合せからなる商標です。ここでは、結合商標に対する分離観察、すなわち、商標構成部分の一部を抽出あるいは分離し、その部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することについて考えます。  この結合商標の類否判断に言及した、比較的に近年の最高裁判決として、「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日(行ヒ)第223号)があります。判決文の大事な部分を抜粋すると、「商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである。」という、「リラ宝塚事件」(最判昭和38年12月5日(昭和37年(オ)第953号))の引用を見出します。また、実際の判断事項として、本件商標の構成中には、称呼については引用各商標と同じである「つつみ」という文字部分が含まれているが、本件商標は、「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない、との言及があります。  この「つつみのおひなっこや」の事件の判決言渡しは平成20年(つまり、2008年)であり、その後の審決例の多くが、次に示すように、この最判の表現を用いることにより、商標の構成部分に同じあるいは同様の表現を含む引用商標とは非類似 × である、との判断をしています。 (1)鯛車焼 × 鯛車  (T2009-72266、不服2010-22781)   第30類 鯛焼き   「その構成文字は、同書、同大、等間隔に外観上まとまりよく一体に表されていて、しかも構成文字全体から生ずる「タイグルマヤキ」の称呼も、よどみなく一連に称呼できる」   「「焼」の文字が、本願の指定商品との関係において、「焼菓子」を理解させるものであるとしても、・・・構成全体をもって一体不可分のものと ...
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 「ステーキの提供システム」について、最終的に特許になったメインの発明は、次のとおりです(その経過については、October 24, 2018付けのコラムで述べました)。  ここでは、この「ステーキの提供システム」のメインの特許発明のカテゴリーについて、今一度考えてみたいと思います。  まず、現在の特許審査基準は、「方式」又は「システム」(例:電話方式)は、「物」のカテゴリーを意味する用語として扱う、と明記しています(第Ⅱ部、第2章、第3節の明確性要件の中の記載)。その取扱いによれば、ステーキの提供システムは「物」のカテゴリーに属します。そのような取扱いは、このステーキの提供システムに対する、特許庁における特許審査の第1段階、異議申立てについての審理の第2段階、知財高裁における取消決定請求での判断の第3段階を通して一貫していました。  しかし、小生は、「システム」という用語を用いる、「ステーキの提供システム」の発明は「方法」の発明である、と理解することが妥当であると考えます。その点、上の【請求項1】について、内容の同一性を保ちつつ、表現を変えた、【別の表現による請求項1】から自ずと理解することができます。 【別の表現による請求項1】  立食形式のテーブルであり、そのテーブルのテーブル番号が記載された札のあるテーブルに、お客様を案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットし、計量機によってお客様の要望に応じてカットした肉を計量し、上記計量機が、計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力するステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップを含むステーキの提供方法であって、 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別するための印しとして、上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載された上記シールを用いることを特徴とする、ステーキの提供方法。  このステーキの提供システムの発明のカテゴリーが「物」であるか「方法」であるかにより、特許がカバーできる発明の実施の範囲が異なることは勿論です。そのほか、カテゴリーが「物」であるか「方法」であるかにより、特許法第29条第1項柱書に規定する発明該当性の要件のしきい値が変化することが考えられます。複 ...
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 「ステーキの提供システム」の発明は、発明の該当性をめぐって話題になりました。この発明は、特許庁の審査段階、特許異議申立ての審理段階で、クレームの記載が変化しています。その変化は、他の多くの事例においても同様です。すなわち、特許を受けようとする発明を記載したクレームは、補正に伴なって変化することが通例です。なぜなら、特許出願人による出願当初のクレームは、関連技術との関係で、特許を受けようとする発明を明確に表現していないことが多いからです。発明を愛する特許法は、クレーム(および明細書等についても)を適正な表現および内容に補正することを認めています。  このような、ごく当たり前のクレーム補正に応じて、関連する明細書の中味の部分を補正すべきか否かについて考えてみたいと思います。この問題に対する答えは、二つに大別されると思います。一つは、クレームと明細書等との記載を整合させる意味から、クレームの補正に応じて明細書等の記載も補正すべきであるという考え方。もう一つは、出願当初の開示内容を固定するために、クレームの補正があったとしても、明細書等の記載は補正すべきではないという考え方。  小生は、ある段階までは、クレームと明細書等の記載を整合させるという前者の考え方をとっていました。しかし、その後および今の段階では、出願当初の明細書の記載はそのままにすべきであるという後者の考え方をとっています。勿論、クリップ事件や除くクレームのような特別な場合には、明細書等の特定の個所を削除せざるをえないのかも知れませんが(ただし、そのような特別な場合が、後者の考え方を否定しているとは思いません)。  後者の考え方をとる主な理由は、特許制度の「公開をした発明を保護」するという制度趣旨にあります。その制度趣旨からすれば、自らが公開した内容については、そのまま残しておくべきであると考えます。公開した内容を変化すれば、公開した内容が変わってしまいます。それでは、公開に応じて、特許として保護すべき範囲が変化するおそれがあります。出願当初の明細書等による公開内容は、保護すべき範囲を特定する上での最大の証拠にすべきであり、証拠を変容すべきではないと考えます。また、手続き上の別の理由もあります。クレームの補正に伴なって、明細書等の関連部分を形式的に補正することは手続きを煩雑にします。そのような煩雑さは避けるべき ...
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 特許実務の中には、二種類の発明の把握があります。第1は、すでに存在するクレームの記載に基づく発明の把握であり、審査や審判、さらには裁判の各段階で問題となります。第2は、新たなクレームを完成させるための発明の把握であり、特許出願に際して問題となります。  このような発明の把握において、事前の特許調査により関連技術を見出すことが大切であることは言うまでもありません。最近の特許異議速報の中に、発明の把握を適切に行うために、特許調査の大切さについて考えさせられる事例に出会いました。  その事例は、特許第6278249号の特許発明に関します。特許掲載公報の中から、メインの特許発明を次に示します。  この特許発明は、油揚げの表面に印刷を施す技術です。油揚げの表面には凹凸があり、油もあることから、印刷は容易ではありません。公報における背景技術によると、静電印刷のような特殊な印刷を適用せざるを得なかったようです。  さて、上の特許発明には、いくつかの考え方が含まれます。  一つは、油揚げという特殊な食品の表面に印刷あるいはマークを印すという考え方です。  また一つは、油で揚げる前の生地に印刷あるいはマークを記し、その後に油で揚げるという考え方です。  前者の考え方は、静電印刷による従来例によりすでに知られている、と理解されます。かといって、特許を受けることができる考え方は、発明者の頭の中に隠されているかもしれません。表面の凹凸や油という障害があっても印刷あるいはマークを記す技術があるかも知れないからです。  この事例では、前者の考え方での特許化をするという道を選択せず、後者の考え方での権利化を選びました。後者の考え方について、特許庁審査官は関連技術を見出すことができず、特許査定という処分がなされました。  しかし、その後者の考え方は、特許異議申立ての特開昭55-23955号の刊行物により、すでに知られていたようです。その刊行物の記載(実施例3)を抜粋し示します。  上に述べた特許発明の特許は、結果的に取消しになってしまったようです。関連技術としての上の刊行物を、特許出願時点において出願人が見出していたのなら、あるいは、審査官がその刊行物を見出していたのなら、手続きの流れは変わり、状況も変わります。関連技術を事前に検索あるいは抽出することの大切さを思い知らされます。  この事例に関 ...
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 弁理士法第1条に「知的財産に関する専門家」という表現を見出します。また、知的財産については、知的財産基本法第2条が、発明、考案・・・その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう、と定義しています。知的財産は広範囲であり、一人の弁理士がそのすべての範囲の知的財産に一流であることは不可能に近いのではないでしょうか。なぜなら、各知的財産には、対応する法律のほか、運用のための行政基準、事件ごとの司法判断など、取り巻く情報が氾濫しているからです。  知的財産に関する専門家は、代表的には弁理士なのかも知れませんが、それ以外に、弁理士の資格をもたない人、審査官や審判官を含む特許庁関係者、知財関連の事件を扱う裁判所関係者、さらには、知的財産関連の学者や研究者など、多数の人がいます。知的財産の範囲が広いことに加えて、取り扱う機関も多いことから、知的財産に関する専門家はかなりの数を占めると思われます。  ここでは、そのような専門家の喜びについて考えたいと思います。知的財産は、広範囲ですが、他の分野の対象に比べて、特殊であり専門性が高い、と一般にいわれます。専門性が高いことから、その業務に対する報酬は高く(?)、その面からもやりがいのある、と考える人もいるでしょう。また、知的な活動の中に自己の考えを作り出すことができる、という喜びを語る人もいるでしょう。  知的財産は事業活動に有用な情報です。したがって、たとえば発明者が創作する発明自体も、形式的には、この知的財産に含まれます。その点から、知的財産の原始的な創作者も「知的財産に関する専門家」に入るという考え方をとることもできます。しかし、一般的に、そのような発明者は、「知的財産に関する専門家」には含めないのが妥当である、と思います。なぜなら、発明者は、発明という新たな情報を作り出すことにより、喜びを感じとることができるからです。知的財産の専門家は、そのような原始的な情報を加工し、あるいはその情報に基づいて新たな情報をさらに作り出したり、表現された情報の価値を正しく判断した結果を新たな情報として作り出す作業を通して、社会参加の喜びを感じます。すなわち、「知的財産に関する専門家」には、原始的な情報に新たな価値を付加し作り出すこと、あるいは表現された情報に対する、正しい判断情報を作り出すこと、などの新たな作業が求められる、と考えます。 ...
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 特許における明確性要件(特許法36条6項2号)は、特許請求の範囲の記載が「特許を受けようとする発明が明確であること」に適合するものでなければならない、という要件です。ここで、特許を受けようとする発明は、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載することによって特定します。したがって、その特許を受けようとする発明は、特定事項の一つにでも不明確な記載がある場合、特定事項の間の関係に不明確な記載がある場合、あるいは、記載された発明自体が不明確な場合などに、この明確性要件の不備を生じることになります。  明確性要件を求める趣旨について、平成28年(行ケ)第10207号判決は、「仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎にして、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。」と指摘しています。  明確性要件、サポート要件、実施可能要件という3つの記載要件の中で、明確性要件は拒絶理由の割合が最も高い数値(たとえば、83.7%)を示します。その点は、「特許サポート要件に思う」(May 1, 2019)でも紹介しました。その数値の高さは、特許を受けようとする発明を明確に特定することの難しさを物語るものでもあります。知財の専門家は、その難しさを常に感じています。他方、「特許を受けようとする発明が明確であるか否か」は、判断する人にとっても難しく、人によって異なる判断結果を生みます。とすれば、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な記載があるならば、少なくとも審査段階で、その不明確な記載が正されるべきです。そうでなければ、その後の段階で、不明確な記載に起因して誤った判断が生じる可能性があります。  たとえば、良く知られた切り餅の特許発明(特許第4111382号)の構成要件中、「B 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表 ...
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 特許における記載要件には、明確性要件(特許法36条6項2号)、サポート要件(特許法36条6項1号)、および実施可能要件(特許法36条4項1号)の3つがあります。前2つが、いわばクレームの記載に関係し、後の1つが、明細書の発明の詳細な説明の記載に関係します。クレームも詳細な説明のいずれも、出願あるいは特許の内容に直接関係するため、実務家にとって、興味のある対象です。  これら記載要件に関係する判決として、一つに、「性的障害の治療におけるフリバンセリンの使用」の発明が問題となった、平成21年(行ケ)第10033号審決取消請求事件、もう一つに、「偏光フィルムの製造法」の特許発明が問題となった、平成17年(行ケ)第10042号特許取消決定取消請求事件が良く知られています。  後者は、裁判官5人による大合議判決です。2つの実施例および2つの比較例のプロットから、Y>‐0.066X+6.73およびX≧65という不等式を用いた表現によって、特許発明を特定したところ、実施例が2つしかなく広すぎるとし、サポート要件違反ということから、特許取消の異議決定、そして、その特許取消の決定の取消しを求めた知財高裁でも、異議の決定は正しく、取消理由には理由がない、との判断でした。なお、異議の決定では、サポート要件の違反のほか、実施可能要件にも反する、との判断がなされましたが、大合議判決では、サポート要件の判断だけで終わりました。この「偏光フィルムの製造法」の特許発明については、当業者にとっても、2つの実施例と2つの比較例とから、何ゆえに、上の特定の不等式が出てくるのか、理解に苦しむところです。とすれば、発明が「明確かつ十分」に記載されていないという実施可能要件にキズがあるのでは?という疑問が第1に生まれます。発明の詳細な説明の中に、「明確かつ十分」な発明の開示を見出してこそ、クレームの記載の発明が発明の詳細な説明の記載を越えていないかについて判断することができる、のではないかと通常は考えるからです。  他方、前者の「フリバンセリンの使用」の発明は、医薬についての用途発明であり、発明の詳細な説明において、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより、その用途の有用性が裏付けられていることが求められます。その点から、審決では、発明の詳細な説明に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載が ...
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 ある特許出願における意見書の長さに驚きを覚えました。その出願の経過ごとの書類の長さは次のとおりです。 出願時の明細書:6ページ 審査時点の第1回の中間処理の意見書:11ページ 拒絶査定不服審判の審判請求書:35ページ 審判時点の第1回の中間処理の意見書:15ページ 審判時点の第2回の中間処理の意見書:52ページ (最終的に特許審決)  この経過の中で、出願時の明細書が6ページであるのに対し、審判時点の意見書が52ページという数値に驚きを覚えます。実際のところ、担当の審判官は、その長さを含む代理人の対応に、何かの驚きを感じ、特許審決を出さざるを得なかったのではないかという感がします。その点、内容を見れば、一目瞭然です。  このケースに触れることにより、意見書とは何だろう、という疑問がわきました。  拒絶理由の通知に関する特許法第50条は、「審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。」と規定しています。この規定は、審査官にも全くの過誤がないとはいえないので、出願人に対話の機会を与えるものであり、発明の保護に根付いています。この第50条の規定は、第159条において、拒絶査定不服審判で査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に準用されています。  意見書の趣旨が、出願人(審判請求人)との対話の手段とすれば、審査官の言である拒絶理由通知書の内容に答える言を含むものが意見書になるという理解が生まれます。拒絶理由通知書は、通常、数ページ、すなわち2~3あるいは5~6ページほどです。とすると、その数字2~6ページに近い長さのページ、あるいは相手の審査官が嫌がらない程度の長さの意見書が好ましい、という考え方が出ます。  この対話という考え方からすると、上の「52」ページの数値は余りにも大きすぎ、相手を考えない一方的な意見書とは言えないでしょうか。意見書が対話の一つの手段だとすれば、長さだけでなく、内容にも留意すべきです。私たちの作成する意見書には、拒絶理由通知書に書かれた内容の一部をそのまま含んでいたり、応答の補正に伴なう内容をそのまま含む傾向があります。この傾向は、対話の相手からすれば、好感を持てるとは言えないと思います。  かつては、審査する側は、特許の成立を妨げる ...
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 次の図を見て、何かを連想しませんか。小生は、サポート要件が問題となった偏光フィルム事件(平成17年(行ケ)第10042号)を思い浮かべます。  この図は、一部に色を付加していますが、第6533364号の特許掲載公報の図3です。この特許は、ゴルフボールに関する発明であり、飛ぶボールを求めた技術に関係します。ゴルフボールの表面には塗装層がありますが、その塗装層の表面粗さを特定するという発明です。Rzは表面の最大高さ、Raは算術平均粗さであり、この発明では、Rz≧Ra X 6.0 の関係を満たすようにしています。y=6Xという直線の上側の部分に、赤く染めた、この発明の実施例1~7があります。青く染めた4つの比較例の中の3つ(比較例1~3)は直線の下側の部分に位置し、一つ(比較例4)が、この発明の実施例1~7と同様に、直線の上側に位置しています。  この発明のメインクレームを次に示します。  このメインクレームの記載からすると、上のRz≧Ra X 6.0という特定の関係は、この発明の最大の条件あるいは要件である、と理解されます。しかし、4つの比較例の中の一つの比較例4が、その条件を充足します。それなのに、なぜ、この発明が特許査定を得たのだろう、という疑問が生まれました。そこで、その理由を考えてみました。  実施例1~7における塗装層の厚さは18μmであるのに対し、比較例4のそれは4μmです。この発明は、表面の塗装層に、微細粒子を噴霧することにより、表面に粗さを生む技術です。とすれば、粗さを生む塗装層には、最低限の厚さが求められます。クレームにおける「5.0μm以上」という限定は、当業者にとって、当然の技術的事項ではないか、と考えざるを得ません。また、RaおよびRzに対する数値限定も一般的な事項と考えることができます。なぜなら、表面の塗装層に粗さを付与することにより、ゴルフボールの飛距離を増すという考え方、そしてまた、粗さをブラスト処理により得るという考え方は、出願の経過を見る限り、この特許の出願前から知られていたからです。  そのような考え方を示す関連技術を二つほど次に示しましょう。それらは、いずれも、審査における引用例の一つです。 第1の関連技術: 第2の関連技術:  最初に挙げたものは、塗装層の表面にブラスト処理により、小さな凹部7を得る技術です。ブラスト処理における ...
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 前回(6月18日付の小論)、「流し台のシンク」の特許権侵害差止等請求事件を検討しました。この事件の発明は、技術的に理解し易いのですが、逆に、発明の把握については難しさがあると思います。私たち、知財専門家にとって、提案された発明をいかに把握するかが、勝負の一番のカギになります。そこで、今一度、この「流し台のシンク」の発明を把握したい、と思います。  「流し台のシンク」の基本図を次に示します。特許第3169870号公報の図4に小生が色付けした図です。  発明者の言は定かではありませんが、その公報には、先行する公知例として、次の発明が記されています。  すなわち、シンクの深さ方向の互いに異なる高さ位置に、それぞれ調理プレート(黄銅色、黄色で色付けしています)を配置する、という考え方はすでに知られていたようです。ところが、その技術には、異なる高さ位置に配置するプレートの大きさが異なり、プレートの共用、あるいは互換的な使用の仕方ができないという欠点があったようです(特許掲載公報の背景技術)。そこで、特許を受けようとする発明の一番のポイントとして、「プレートの共用を可能にすること、つまり、奥行方向の大きさが同じプレートを用いること」を設定したようです。  しかし、その一番のポイントの特徴的事項は、次のように、すでに知られていたようです。  先の図は、審査段階における引用例である特開平7-204113号公報の図7、後の図は、同じ引用例の図3です。そのため、先の小論で示したように、区別化のため、壁面8pについて、「上段段部8bと中側段部8nとの間が、下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる傾斜面となっている」という限定を加えました。さらに言及すると、裁判では、「傾斜面」の解釈について、壁面の一部が垂直の場合も含まれるか否か?が問題になりました。  「特定の傾斜面」という限定をする把握も一つの考え方として妥当です。発明者は、図面を示しつつ「特定の傾斜面」を提案していますが、知財専門家に対しては、さらなる追求が求められます。まずは、「下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる傾斜面」の技術的意味を探ることになるでしょう。シンクの異なる高さ位置において、同じ奥行をもつプレートを使用するという考え方はすでに知られていますが、同じ奥行のプレートを共用しつつ、異なる高さ位置において、プレー ...
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 昨日17日に日本弁理士会特許委員会による公開フォーラムがあり、小生も勇んで参加しました。この公開フォーラムは、特許委員会の一年間の活動報告を兼ねたものです。公開フォーラムは、特許委員会以外の日本弁理士会の会員に広く公にし、古代ローマにおけるフォーラムディスカッション、あるいは、公開討論会に相当すると理解することができます。しかし、昨日のそれは、特許委員会からの一方的な説明に終わってしまうという、話す側および聞く側の両方にとって少し残念な結果に終わりました。この知財の業界では、「ディスカッション」なくして、実務の進歩はありえません。  いくつもの疑問が出た中、「流し台のシンク」の特許権侵害差止等請求事件が一番引っかかります。この事件は、特許第3169870号に基づく侵害訴追事件であり、原審では、イ号は技術的範囲に属さないとし、「非侵害」であったのに対し、控訴審では、逆転の「侵害」という判断がなされた事件です。特許委員会では、逆転判決を検討し、裁判所の判断傾向や留意事項を見出そうという考えのようです。この点、このような判決の検討を行うのは良いのですが、小生は、その結果に基づいて自らの考えを出していただきたいと考えます。なぜなら、他人が行った判断を単にフォローするだけでは、真の実務力向上を得ることができないからです。  原審および控訴審の判断を検討するに先立ち、特許庁段階における流れに触れます。次のクレームが特許査定となったメインクレームであり、それに続く図が掲載特許公報の図4に対し、小生が色づきのメモを加えた図です。  この流し台のシンクの特許発明には、次の二つの考え方があります。 (1)同一のプレート(黄色と茶色で示す調理プレート等)をシンクの深さ方向の二つの段部(上側段部8bと中側段部8n)に設けるという考え方 (2)段部におけるシンクの前後長さを同一にするため、上段から中断に向かう壁面8pを特定の傾斜にするという考え方  出願の当初のメインクレームは、(1)の考え方のみであり、審査における拒絶理由の通知に応じて、(2)の考え方を付加的に限定しています。その際の引用例を次の図に示します。  引用例である特開平7-204113号公報の図3には、シンク部に隣接した部分ではありますが、確かに(1)の考え方が示されているようです。そこで、特許出願人であった原告は、(2)の ...
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 2018年9月に特許出願の分割について考えました。その際、実際の分割例として、第1世代から第10世代と20年近くにわたって、10件の分割出願を行った例と、第1世代のみであるが、6件の分割出願を同日に行った例を紹介しました。そして、発明の把握を中心に考えると、分割に伴う発明は、一般的に十分な内容把握がなされていないという傾向があることを紹介しました。なぜなら、原出願においては、ある特定の発明を中心に特許を受けるべき発明が把握されているために、その発明とは別の発明(分割の対象となる発明)については、それほど深い検討がなされていない傾向があるからです。 特許出願の分割を考える  最近、先に紹介した例とは異なる、さらに異質な分割例に出くわしました。第1世代から第4世代にわたる分割であり、次の画像に示すように、原出願あるいは親出願を含めて、5件の一連の出願があります。なお、画像は、J-PlatPatから得た分割情報に対し、メインクレームの要点、出願の最終結果などを小生が付け加えた内容を含んでいます。  第0世代のもともとの原出願は、女性用のマスクの発明に関係し、化粧などがマスクに付着することを防止するために、マスクの内側面にはっ水はつ油処理をする技術です。また、第1世代から第4世代の各分割出願は、ほぼ同様の女性用マスクに関係する技術です。言い換えると、もともとの出願の発明、および分割出願の4つの発明のすべてが女性用のマスクであり、一般的には、一つの出願の中に含まれるべき発明の内容と理解されます。そして、各分割出願が、その時点で原出願となる出願の処理を終えた段階(つまり、拒絶あるいは特許の査定が出された段階)で生まれているという特徴があります。  全5つの出願の中で、特許となったものは第3世代のみであり、ほかの4つの出願は、すべて拒絶査定を受けています。発明の把握をするとき、キーワードあるいは技術的特徴として、「はっ水はつ油」、「女性用」、「(プリーツを伴う)立体型」、「化粧付着防止」があります。それぞれのキーワードが相互に密に関連します。たとえば、(なぜ「女性用」に限定したか、小生には分かりませんが、)「女性用」には「化粧付着防止」が関連し、「化粧付着防止」のために「はっ水はつ油」「立体型」が関係します。ただ、「はっ水はつ油」は顔の肌面とマスク内面とが接触することを前提とし ...
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 下記の画像は、文化庁のHPから抜粋した「著作物等の保護期間」を示します。  TPP11協定の発効日が平成30(2018)年12月30日となり、著作物等の保護期間の延長を含む著作権法が施行されました。映画を除く著作物の保護期間は、改正前の現行法において、起算時点から原則50年でした。起算時点は、著作物により異なり、著作者の死亡時を起算時とする考え方と、著作物の公表時を起算時とする考え方とがあります。ベルグ条約は、死亡時起算を原則とし(ベルグ条約7条(1))、無名や変名、団体名義の著作物については、公表時起算を適用することを認めています(ベルグ条約7条(3))。著作者の死亡時を客観的に把握することが困難な場合に、公表時起算適用のようです。  ここで、ネット情報の中には、「著作権の保護期間」という表現を用いている例を少なからず見かけます。たとえば、2019年6月5日(水)の日本経済新聞の「小説や音楽の著作権、作者の死後70年に 20年延長方針」の記事、あるいは、公益社団法人著作権情報センターのHPの中に、「著作権の保護期間」という表現を見出すことができます。  この点、小生は、「権利の保護」という表現に少し違和感を覚えます。なぜなら、保護する対象は、創作的な表現である著作物であるからです。すなわち、「著作物の保護」という表現に違和感を覚えないのに対し、「権利の保護」という表現に違和感を覚えるのです。著作権法を見ると、第4節の保護期間の中において、保護期間の原則を定める第51第1項は、「著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。」、第52条、第53条、第54条の各タイトルは「無名又は変名の著作物の保護期間」、「団体名義の著作物の保護期間」、「映画の著作物の保護期間」となっています。保護期間は、存続期間と明確に使い分けされています。創作にかかわる著作物は、別の創作にかかわる発明と同様に、保護されてしかるべきであります。他方、著作物にかかわる著作権や発明にかかわる特許権は、もともと保護されることを前提としたもの、すなわち、著作物や発明の保護の実効を得るための力をもつものです。そこで、保護が当然な著作権や特許権を「保護」するという表現が妥当かという疑問が生じるのです。  今回、改正の経過を調べて気づいたことですが、著作権法もしばしば改正が行われています。知財の専門家として、 ...
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 「明細書に効果は記載すべきではない」という論考に出会いました(パテント2019年5月号)。これを契機に、発明の「効果」を再考することになりました。  明細書およびクレームの記載について、平成6年を境に大きく変化しました。その点、明細書の記載に焦点を当てると、いわゆる青本は、次のように説明しています。  「平成6年の一部改正前は、発明の詳細な説明においては、①発明の目的、構成及び効果の記載を通じて発明の技術上の意義が理解され、②当業者が容易にその実施をすることができるような記載を求めていた。同改正後は、前者については、経済産業省令で定めることとし、施規24条の2において「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載する」旨規定するとともに、後者については本項において、当業者がその実施をすることができるような記載とすべきことを規定し、従来と同様に発明の詳細な説明が有する機能を担保した。」  このような説明(および基となる法規定)が明らかにするように、平成6年以前においては、明細書に発明の「効果」を記載することが必要不可欠でありましたが、平成6年以後においては、形式的には、明細書に発明の「効果」を記載することは不要と理解されます。  この「効果」の記載を不要とすることについて、工業所有権審議会の答申は、技術の多様性への対応の必要性の視点、および国際的ハーモナイゼーションの必要性の視点からなされました。前者の視点では、従来技術と全く異なる新規な発想から開発された基本発明の場合には、そもそも従来技術の問題点の解消のために開発したわけでもなく、発明の目的や効果という観点の記載はなじまない、また、発見に基づくような発明については、その構造、用途、製法や有用性といった観点から発明を記載する方が発明を理解し易いケースも少なくない、さらに、効果について目的(課題)や発明の作用等の記載から理解できる場合が多い、との意見が出ています。また、後者の視点では、TRIPS協定やWIPOハーモナイゼーション条約案、さらには欧州特許条約の関連規定の内容が考慮されています。すなわち、それらの関連規定は、明細書の記載として、「当業者が実施できる程度に発明を明確かつ十分に開示しなければならない ...
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 下記の二つの図は、特許行政年次報告書2018年版(いわゆる、特許庁年報2018)からの各抜粋です。  前の図は、都道府県別の中小企業数に対する特許出願中小企業数の割合を示します。この図から、東京は、大阪や神奈川などに比べて、特許出願に熱心な中小企業が多いことを知ります。  一方、後の図は、都道府県別のINPIT知財総合支援窓口支援件数を示します。この後の図からは、支援件数の点で、東京は、大阪や神奈川などに劣っていることが分かります。  そこで、小生は、特許出願に対して熱心な東京が、支援件数の点で何ゆえに他県より消極的なのだろうか、という疑問を持ちました。この疑問の背景には、「窓口支援」という支援業務は、INPITあるいは特許庁関係のみなのだろう、という(誤った)先入観念がありました。  この疑問が、本日の支援業務を通して解決しました。結果的には、小生の知識不足でした。支援業務の関係者の方から、「東京には、INPITによる知財関係の支援業務のほか、東京都知的財産総合センター(公益財団法人 東京都中小企業振興公社)による支援業務がある」ことを教えていただきました。そのセンターによる支援業務は、INPITによるそれと同様の規模の業務のようです。したがって、東京には、INPITによる支援数の少なくとも2倍ほどの支援件数(すなわち、約6500ほどの支援件数)があるようです。とすれば、その東京の支援件数は、(INPIT以外の大きな支援業務がない)大阪や神奈川などの支援件数をも越えていることになり、結果的に、前の図と同様の傾向を見出すことができます。  このように、私たちには、知らない情報があり、その知らないことに起因して誤った結論を導き出すおそれがあります。特許を代表とした知財の情報には、理解しにくいものや、いわゆる風評的なものもないとはいえません。そのため、各情報については、充分に検討し、考え抜くことにより、知財専門家として納得のゆく理解をすることが大事ではないでしょうか。 ...
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 近年、記載要件不備の拒絶理由が増えているようです。記載要件には、明確性要件(特許法36条6項2号)、サポート要件(特許法36条6項1号)、および実施可能要件(特許法36条4項1号)の3つがあります。これらの3つの中で、最も拒絶理由の割合が高いものは、明確性要件ですが、サポート要件も目に留まる数値を示しています。たとえば、第二期IIP知財塾成果報告書(平成19~20年度)は、「特許請求の範囲と明細書における発明の開示との関係について」の中で、各技術分野における平均的な数値(拒絶理由の割合)として、明確性要件83.7%、サポート要件30.0%を示しています。勿論、各数値は、機械、化学、電気、その他の分野により異なります。その点、留意が必要です。  ここで、拒絶理由の割合の比較的に低いサポート要件について、上の報告書は、「新規領域(パイオニア発明)について、審査段階でのサポート要件の判断を緩やかにし、権利行使段階で発明の技術的貢献度を考慮して技術的範囲を調整する方が、開示と保護のバランスを取ることができるであろう。」との言及あるいは提案をしています。日本弁理士会も、「知的財産推進計画2006」の見直しの意見募集において、次のように、同様の提案をしています。 3.特許サポート要件の見直し  特許出願にあたり、開示範囲と将来的な独占範囲とは同じであることが特許制度の定めるところである。しかし、基本発明と応用発明とでは、特許出願時に開示できる範囲が異なることも経験上知りうるところである。基本発明については、サポート要件を緩和し、当業者が理解できる範囲であれば広く保護する制度を構築することによって、基本発明を促す制度を提案する。  提案者自らが気づいているように、上のような運用を行うとすれば、審査段階において、その発明が新規領域の発明あるいは基本発明であるか否かの判断をしなければならず、その判断に難しさがあるという問題があります。しかし、上の提案には、それ以上の問題があると考えられます。サポート要件は、特許を受けるための基本的な要件の一つであり、判断の客観性を維持するためには、新規領域の発明あるいは基本発明とそれ以外の発明との間で判断を違えることは避けるべきであるからです。そしてまた、日本弁理士会をはじめとする提案する側は、特許を受けるべき発明の把握について誤解があると思います ...
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 下記の2つの図は、先の小論で紹介した、中小企業研究センターの年報2014年度版からの抜粋です。  これらの図に関連する年報2014年版の中の説明は、「特許権保有の有無と企業業績の関係をみると、保有中小企業の売上高営業利益率は、非保有中小企業の約2倍もあり、大企業(特許権保有・未保有含む)よりも高い(図表2)。また、従業員一人当たり営業利益においても、保有中小企業の方が大幅に高く(図表3)、特許権保有企業の業績が優れている。」という内容です。そして、注として、「特許権の保有と企業業績との直接的な因果関係を定量的に示すことは難しいが、例えば、知財活動が積極的な中小企業は、一般的に研究開発活動や販売活動等にも熱心ということも相俟って、業績に結びついているものと推察される。」という記載があります。  これらの年報上の記載は、「特許保有企業は業績好調」を語ることを意図しているようです。確かに、図表2の売上高営業利益率を見ると、3.5%という特許権保有の企業業績はすぐれています。しかし、これらの図表から、いくつかの疑問も出ます。そこで、中小企業白書の記載内容を参照しながら、図表を少し詳しく見てみたいと思います。  まず、図表2における「売上高営業利益率」とは、営業利益を売上高で除して求めたものです。この利益率は、企業の収益性、経営能率の良否を示す大事なファクタの一つです。しかし、そのファクタは、業種によってかなり変動するようです。たとえば、製造にかかる中小企業において、その値は分野により2~5強まで変動し、また、製造に係る大企業では、分野により1~9まで変動するようです。また、分野によって、特許保有の程度(あるいは、特許に対する取組み姿勢)がかなり違う、という事実があります。その点、大企業における数値、2.6%(全産業)、3.2%(製造業)からも明らかです。そのようなことを考えると、第1に、「特許保有」と「特許非保有」とについて、同じ分野の企業同士の比較をしなければ意味をなさない、と思います。図表2の中で、大企業については、「全産業」、「製造業」の個々のデータを示しながら、中小企業において、業種あるいは分野が記されていない点が気になります。  図表3の従業員一人当たり営業利益についても、同じ問題があります。データの取扱いに基本的な問題を感ぜざるを得ませんが、図表3からは、別の ...
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 下記の図は、特許行政年次報告書2018年版(いわゆる、特許庁年報2018)からの抜粋です。  この図に関連し、特許庁年報2018は、「近年の内国人の特許出願件数に占める中小企業の割合は15.3%にすぎない。」と述べています。「15.3%」という数値は、2013年における「約12%」に比べれば、わずかながら上昇傾向にあります。2013年当時、米国の約25%、韓国の約15%という対応数値からすれば、日本国の「約12%」は低さが目立つ、とされていました。この点、松下達也、横田之俊:中小企業における知的財産と経営の関係について(公益財団法人 中小企業研究センターの年報2014年度版)という報告書が参考になります。  上に述べた情報は、一般に、我が国の中小企業の知財活動や出願活動の低さを示す根拠とされます。しかし、これらの情報は、発明は人に根付く、という観点からすれば、必ずしも的確な情報とは言えないと思います。人の観点からすれば、大企業、中小企業の従業員数に基づく議論が欲しいところです。  その種の従業員数については、総務省統計局の「平成26年経済センサスー基礎調査」が参考になります。それによりますと、大企業1万1,000社の従業員数は1,433万人、中小企業380万9,000社の従業員数は3,361万人です。すなわち、従業員数について、大企業:中小企業=1:2.34になります。「人に根付く」という点から見るとき、中小企業においても、少なくとも大企業とほぼ同じ桁の発明が生まれているはずです。しかし、現実には、大企業(の出願数):中小企業(の出願数)=約22:約4=5.5:1です。  この現実をいかに解釈すべきでしょうか。「発明は人に根付く」という見方からすれば、企業の大小にかかわらず、人の数に比例した発明が生まれているはずです。そして、それらの生まれた発明をすべて出願するとすれば、大企業(の出願数):中小企業(の出願数)=1:2.34になる、つまり、中小企業においても、大企業と少なくとも同じ桁の出願数が記されるはずです。しかし、現実はかけ離れた結果になっています。  出願数のかけ離れた現実は、なぜ生じているのでしょうか。関連する資料や文献を探しても、その疑問に対する明確な回答を見出すことができません。しかし、その疑問に対する回答には、少なくとも次の3つの要因が含まれていると ...
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 近頃、作成したクレーム(特許請求の範囲の請求項)について、アドバイスを求められることがあります。アドバイスを求める人の多くは、クレーム作成の経験に乏しい人です。  それらのクレームは、共通したキズを備えることがほとんどです。そのキズとは、「こうしたい」という願望やネライ、または効果は記載されているが、そのために必要な技術的事項が記載されていないことです。以前の規定、「発明の構成に欠くことができない事項のみを記載」からすれば、明らかに記載不備になります。また、現行の規定、「特許を受けようとする発明が明確であること」からは、明確性の点からの記載不備になることでしょう。  なぜ、このような記載不備が生まれるのでしょう。クレームには、「特許を受けようとする発明」を記載しますが、前記した多くの人にとって、発明とは技術的効果を得るためのものです。その点から、「このような技術的効果」を得るという内容を書いていると思われます。そのようなアドバイスを求める人に対し、「そのような技術的効果はどうして得られるのですか?」と質問すると、だれもがとまどう傾向があります。経験的にも、「願望やネライ、または効果」すなわち、「技術的効果」については、比較的に取り上げやすい事項です。しかし、「そのためにどうしたか」という事項については、なかなか的確な答えを出すことができません。その答えを出す難しさは、一般に、多くの発明者は、求める技術的効果については細かく検討しているのに対し、そのためにどのような対応をするかについては詳しくは検討していないことから生まれている、と思われます。  しかし、発明者の一部には、自己が求める「技術的効果」を得るために必要な事項について、自然法則的な視点から考える人がいます。活用する自然法則を見出すことは、自己の発明が活用する法則を見出すことであり、自己の発明と会う、あるいは自己の発明の姿を明らかにする入口になります。そのような発明者は、自己の発明を客観的に説明することができるし、自己の発明の位置づけを正しく認識することができます。  クレームの作成は、比較的に見出しやすい「技術的効果」を、「そのためにどうしたかという事項」に置き換える作業ともいうことができます。置き換える作業は、作業をする人の視点、考え方、あるいは発明の背景により色々変化することになります。クレーム作成に ...
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 (発明をいかに表現するか)  特許法は、発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作」と捉えています。その発明をいかに表現すべきでしょうか。この発明の表現は、保護を受けるべき発明を俎上に挙げるための、基本的な条件の一つです。  特許法が定義する発明の規定内容の観点からすれば、次のような各事項を明らかにすることにより、保護を受けようとする発明を表現する手が考えられます。 a どのような自然法則を利用するのか b どのように利用するのか c どのようなネライをもった技術的思想なのか d そのネライをどのように達成するのか e どのような点から創作といえるのか  これらの事項のうち、aとbは発明のメカニズム、cは解決すべき課題、dは構成に関する内容、eは新しさ(保護に値する価値)に関する内容、であると思います。発明を明確にするためには、本来的に、これらの各事項が必要であります。  しかし、特許法は、保護を受けるべき発明を特定するために、それらのすべての事項を求めてはいません。  平成5年改正の前においては、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載」するとし(改正前の特許法第36条第5項)、また改正後の現時点では、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載」(現行の特許法第36条第5項)との規定になっています。  改正前の「発明の構成に欠くことができない事項」については、発明の要素である、目的、構成、効果の中の一つである構成、つまりは、上に挙げたdのみを記載することを求めていました。そしてまた、改正後には、「特許出願人が必要と認める事項」のすべてを記載することを求めています。いうなれば、上に挙げたa-eの中で、必要とする事項のみを記載することを求めているのです。  これら改正前、改正後のいずれの規定も、保護を受けようとする発明を明確に表現するためには、不十分であるということができます。なぜなら、それらは、法が定義する発明に必要な事項の一部を表現することを求めているだけであるからです。特許を愛する者は、特許法の制度趣旨を考慮しつつ、法規定の不備を補填しなければいけないと思います。まずは、保護を受けるべき発明をいかに表現すべきかを常に考え続けること、そしてまた、実務においては、より明確な表現方法を取り入れること ...
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 発明の一つのタイプとして、「用途発明」があります。この「用途発明」をテーマに、平成31年3月28日に第4回の“企業関係者と弁理士の知財研究会”が実行されました。そこで、「用途発明」の観点から、発明を考えてみたい、と思います。  特許庁の審査基準が定義する「用途発明」は、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明です。また、ある裁判例のそれは、既知の物質について未知の性質を発見し、当該性質に基づき顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものとなっています(平成28年(ネ)10023号)。これら二つの定義は、未知の属性、あるいは性質と、新たな用途あるいは新規な用途の創作という点で基本的に共通しています。しかし、ある物が既知か否かの点、および用途に対する見方(一方は使用に適するという見方、他方は顕著な効果を有するという見方)の点で少し異なります。  このような「用途発明」は、通常の発明を特定するための構成的な事項Cに対し、用途を特定するための用途事項Uが付加的に加わることにより、発明内容が特定されます。とすれば、クレームを解釈する場合、用途発明においては、通常の発明に必要な構成的な事項Cの検討のほか、用途事項Uをも検討することが必要になります。別に言うと、通常の発明はC(たとえば、X+Y)で内容を特定できるのに対し、用途発明はCのほか、Uの観点からもさらに検討(つまり、C+U)することになります。  小生は、機械や電気のような物理的な発明に関与することが多く、Cの作成や解釈に悩む実務を行っています。その点、「用途発明」では、Cに加えてUの観点からも検討が必要であり、考えるロードが増すのではないのかな、と考えます。特に、Uについては、「~用」と短くかつ抽象的な言葉で表現されることから、必然的に解釈を難しくすること必至かと思われます。  そのようなUの解釈の難しさから、特許実務家にはUを明確に表現することが求められます。より分かりやすく言うと、「用途発明」における未知の属性や性質、そしてまた、適用範囲をより明確に特定することが求められることと思います。Uの記載が明確でないとすれば、「用途発明」の技術的範囲があやふやになり、属否の判断を客観的に行うことが困難になると考えるからです。  先に述べた研 ...
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 特許法の保護対象は発明です。この発明について、現行の特許法は、定義規定を設けています。すなわち、「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と規定する、第2条第1項です。また、第2条第3項は「実施」について定義しており、その定義規定から、発明には、物の発明と方法の発明とがある、といわれます。  また、特許審査基準中、第36条第6項第2号の明確性要件の違反例として、「請求項に係る発明の属するカテゴリーが不明確であるため、又はいずれかのカテゴリーともいえないため、発明が不明確となる場合」が挙げられています。ちなみに、基準は、第68条で「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」とし、第2条第3項では「実施」を物の発明、方法の発明及び物を生産する方法に区分して定義している、これらを考慮すれば、請求項に係る発明の属するカテゴリーが不明確である場合又は請求項に係る発明の属するカテゴリーがいずれかのカテゴリーともいえない場合に、そのような発明に特許を付与することは権利の及ぶ範囲が不明確になり適切ではない、との補足説明をしています。  これらのことから、特許業界では、発明には、物の発明と方法の発明(方法には、単純方法と、生産方法とがある)との二種類があることが当然視されています。そのような特許業界の考え方に対し、小生は、古くから疑問を抱き続けています。同様な疑問を抱く人は何人かいるようです。その一人は、弁理士の藤村元彦先生であり、藤村先生は、「発明トハ何ソヤ」というパテント2017、Vo.70 No.1の論考の中で、「我が国においては、クレームには、「発明」ではなく、「発明の形体」を記載するという「実務」になっていると言え、それ故、特許法36条の規定とクレーム作成実務との間に乖離があると考える」と述べています。別の一人は、法学者の清瀬一郎博士です。清瀬博士は、特許法原理の著書において、「発明トハ何ソヤ」という節の「物ノ発明、方法ノ発明」の項の中で、「発明者ハ「自然力利用ノ思想」ヲ発明スルモノナリ、「物」ヲ発明スルニアラス」と述べています。  疑問を抱く人は、「物」や「方法」は、思想である発明の形体、あるいは適用の仕方の一つにすぎない、と考えていると思います。「発明」の形体が「物」と「方法」とに完全に区分されるなら、それらの「物」と「方法」 ...
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 先に紹介した「除雪具」(特許第6282707号)について、発明を把握する立場から再考します。知財専門家の出発点が発明の把握にあり、その発明の把握力を伸ばすことが知財専門力の総合的な向上に有効であると確信するからです。 (「除雪具」特許第6282707号から)  「除雪具」には、実用新案登録第3177264号公報が示す近い先行技術があったようです。確かに、この先行技術は、特許を得ようとする「除雪具」の関連技術のようです。なぜなら、先行技術と「除雪具」とには、今までにない次のような共通の考え方があるからです。  第1の考え方は、積もった雪を、一方向を開いた形態で切ることです。  第2の考え方は、切った雪を、滑りシート上を滑らして落とすことです。  そこで、それら第1と第2の各考え方の観点から検討したいと思います。 【一方向を開いた形態で雪を切る】  屋根の上の雪を下す技術として、実登2554866号の考え方が知られています。その考え方は、長い柄の先に閉じた切り落とし枠(昆虫採集網から網を破り取ったような枠)を取り付けた雪下ろし具を用いる手法です。その雪下ろし具で屋根上の雪を上方から切り取り、切り取った雪を、雪下ろし具の柄を引くことにより屋根から落とすものです。  この雪下ろし具における切り落とし枠は雪を全周にわたって切る、つまり、切り取り面が閉じています。  その切り取り面の面から見るとき、「除雪具」では、対向する両側部だけであり、前後方向の切り取り部は開放しています。「切った雪を滑らす」ことからすれば、前後方向のうち、少なくとも一方に滑らすためのゲート(開口した出口)を設けることが必要です。  このような見方からすると、「一方向を開いた形態で雪を切る」という考え方は、それ自体が新しいとはいえ、「切った雪を滑らす」ことと密接な関係があると理解することができます。とすれば、「一方向を開いた形態で雪を切る」という技術的事項は、「切った雪を滑らす」ことを良好にする内容がベターであると考えることができます。  そこで、「除雪具」の発明を把握するに際しては、そのようなベターな技術的事項についての検討に思い及ぶべきです。しかし、残念ながら、「除雪具」や先行技術には、そのような考察が十分にはなされていないようです。なぜなら、両者ともに、「一方向を開いた形態で雪を切る」ことに応じるた ...
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 テレビ番組の中で「除雪具」のアイディア商品についての紹介がありました。それが、特許第6282707号に対応するものであることは、すぐにキャッチしました。そこで、発明の把握を訓練する意味から、早速、その特許公報を読みました。請求項1と、基本的な構成と、作用を示す図を記します。  この除雪具は、長い柄40と、その柄の先端の雪かき部30とを備え、雪かき部30は、水平プレート11、一対の垂直プレート15、雪を滑落させるための板状部材20を含みます。特許におけるポイントは、板状部材20が、「折り畳み可能な蛇腹状」であることにあるようです。板状?であるがゆえに、薄いシート状のものと比べて横にずれたりすることが少ないようです。また、蛇腹状?であるため、板状部材が上下に揺れ動き、雪を滑落させやすいようです。ここで、「?」は、その限定により内容が明確かな?という疑問からです。  ところで、この特許明細書には、実用新案登録第3177264号公報が先行技術として提示されています。その先行技術の請求項1と、基本的な図を記します。  この先行する関連技術も、長い柄1の先端の雪かき部2で雪を切り、シート7に滑らせて降ろすという技術です。違う点といえば、切った雪を粉砕するための粉砕用カッター12を備えている点があります。  この相違点に着目した場合、粉砕用カッターがない場合、切った雪が長い柄に当たるという問題があることに気づきます。その点、特許技術では、どのような対応をするのでしょうか? また、切った雪を滑らすという考え方として、両技術は共通しています。薄い?シートと板状部材という違いはありますが、特許技術には、先行する関連技術に基づいて想到容易ではないか、という疑問も生じます。なぜなら、雪を切り、切った雪を滑らすという考え方自体が公知であるからです。審査官は、どのように考えたのでしょう。  このような除雪具については、雪を適正に切るという技術的課題と、切った雪ブロックを適正に滑り落とすという技術的課題が考えられます。そのような技術的課題の視点から見れば、雪を切るためのカッターに対する「一対の」という条件、シートあるいは板状部材に対する「折り畳み可能・蛇腹状」という条件についての検討が必要になります。そして、長い柄と、雪かき部との関係も大事な検討事項です。知財専門家は、それらの検討にこそ、力を ...
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 商標実務の中で、商標法第3条第1項第3号、つまり、商品の産地、販売地、品質その他の特徴等の表示又は役務の提供の場所、質その他の特徴等の表示にかかわる商標が問題になることがあります。このような表示は、商品等に対しだれもが使用を欲するものであり、特定の人に独占させるに適しているものではないからと理解されます。  しかし、逆に、「だれもが使用を欲するもの」を独占することができれば、業務上有利な立場を得ることができるという考え方が生まれます。その点からでしょうか、この第3条第1項第3号に該当するような商標登録出願に出くわすことも少なくはありません。  この第3条第1項第3号に関係する商標関係の拒絶査定不服の審決をいくつか挙げてみましょう。〇は請求成立、×は請求不成立です。 (1)×商標「SORAIRO」、指定標品第11類「電球類及び照明用器具」(不服2017-9347) (2)×商標「赤カビ退治」、指定商品第3類の「赤カビを退治するためのカビ取り洗浄剤」ほか(不服2018-1466) (3)×商標「極上やわらか」、指定商品第5類「衛生マスク、ガーゼ」ほか(不服2017-15365) (4)〇商標「ベジたこ」、指定商品第30類「たこ焼き」ほか(不服2018-1860) (5)〇商標「和肉」、指定商品第29類「食肉、肉製品」(不服2018-8158)  翻って、この第3条第1項第3号の判断基準を見ると、特許庁の審査基準では、「現実に用いられていることを要するものではない」とし、その商標が現実に使用されていない場合でもこの号の商標に該当するとしています。また、最高裁の昭和53年(行ツ)第129号は、次のように述べています。  「商標法三条一項三号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であつて、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であつて、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。叙上のような商標を商品について使用すると、その商品の産地、販売地その他の特性について誤認を生じさせることが少なくないとしても、このこ ...
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 「美肌ローラ」の控訴審、平成29年(ネ)第10086号損害賠償控訴事件(平成30年12年18日判決言渡、知的財産高等裁判所第3部)は、特許法第167条を根拠にして、被控訴人(無効審判の請求人)による「進歩性なし」の無効理由に基づく抗弁を主張することは許されない、と判断しました。この判断には、疑問が残るところです。第1の疑問は、特許庁審判と原審裁判所の判断の食い違いは、「特別の事情」に相当し得ないのか、ということです。  知財高裁は、特許法第167条の趣旨について、無効審判請求手続においてのみ適用されるものではないとし、特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁としての主張においても、特段の事情がない限り、訴訟上の信義則に反するものであり、民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないと解すべきである、と言及しています。  「美肌ローラ」については、特許庁と原審の判断に食い違いがありました。その食い違い自体が、特段の事情とはならないのか、という疑問があります。法構成上、技術専門庁である特許庁での判断は、尊重されるべきであることは理解されます。特許庁の無効審判と、大阪地裁での原審とは、ほぼ同時に進行しました。それらの経過を考慮する限り、大阪地裁は、特許庁の審判合議体の判断を考慮しつつ、それとは食い違うが、より適正と信じた判断をしたことが予想されます。小生も、大阪地裁の判断は妥当である、と考えます。  その点、特許法第104条の3における、「無効にされるべきものと認められるか否か」については、本来、裁判所が判断する事項です。「美肌ローラ」における「同一の事実及び同一の証拠」に基づく同じ無効理由を検討すれば、特許庁審判よりも大阪地裁の方の判断が妥当である、と考えられます。それ以前に、両者の食い違いがあることは、再審理する必要性があることを示し、「特別な事情がある場合」に該当すると考えるべきではないでしょうか。  特許の実務家といえども、多くの人にとって特許法第167条は遠い条文です。とはいえ、この際、この条文を再考したいと思います。  平成23年の改正により、特許法第167条は、次のように改正されました。  特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。  (アンダーラインの部分が ...
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 「美肌ローラ」に絡む裁判事件は、一つに、平成28年(ワ)第4167号損害賠償請求事件(平成29年8年31日判決言渡、大阪地方裁判所第26民事部)、もう一つは、平成29年(ネ)第10086号損害賠償控訴事件(平成30年12年18日判決言渡、知的財産高等裁判所第3部)である。これら二つの事件は、原審、控訴審であり、各事件について、無効理由についての判断を中心に検討します。 【原審】  「美肌ローラ」の無効理由について、被告(無効審判における請求人)の主張は、特許庁の無効審判の際と同様です。すなわち、同一の証拠および同一の事実に基づくものです。分かりやすく言えば、ローラへの通電というAの考え方を示す主引例、一対のローラの配置によるBの考え方を示す副引例の結合により、「美肌ローラ」は容易想到である(進歩性なし)、との主張です。  それに対する大阪地裁の判断は、被告の主張を認め、「進歩性なし」というものです。この裁判所の判断は、先に検討した特許庁の審判合議体と全く逆になります。特許庁における審理終結日が平成29年3月31日、審決日が平成29年4月18日であり、裁判所における口頭弁論終結日が平成29年6月20日です。これを考えると、裁判所は、特許庁の審判合議体の判断を考慮しつつ、それとは食い違った判断をしたことが予想されます。このような食い違いがなぜ生まれたか、そしてまた、そのような食い違いが生まれた際の当事者の留意事項について、興味を覚えます。  特許庁において、特許権者(原審における原告)は、Aの考え方とBの考え方とによる相乗作用を主張し、審判合議体はそれを認めて「進歩性あり」の判断をしています。それに対し、裁判所は、AB二つの考え方には、課題の共通性があるという理由に基づき、結合が想到容易である、つまり「進歩性なし」との判断をしました。また、結合の阻害要因について、(特許庁が阻害要因あり、としているのに対し)、裁判所は、二つの考え方は独立の作用として併存しており、ローラが皮膚に接している限り、通電による毛穴の汚れを引き出すという作用は奏するから、結合に阻害事由があるとはいえない、との判断です。皮膚あるいは肌に対する、各ローラの動きあるいは作用のメカニズムを検討する限り、特許庁よりも裁判所の判断の方が妥当である、と思います。 【控訴審】  知財高裁は、結果的に、原審とは異 ...
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 メインの特許発明は、先に述べたとおり、次の内容です。  この「美肌ローラ」の特許発明は、 A ローラへの通電によって、毛穴の中の汚れを引き出す、という考え方 B 一対のローラを所定の角度をもった配置とし、毛穴の中の汚れを押し出す、という考え方 を基本的な特徴としています。そして、通電のための手段として、太陽電池を用いるという補足的な考え方を備えています。  無効2016-800085号の特許無効審判において、請求人は、Aの考え方に対する証拠として特開2005-66304号公報(主引例)、Bの考え方に対する証拠として特開平4-231957号公報や特開2004-321814号公報(副引例)をそれぞれ挙げています。理解しやすくするため、「美肌ローラ」、ならびに主副引例の各公報の典型的な図を示します。 【美肌ローラ】 【主引例】 この主引例は、直流電源の乾電池400からの微弱な電流を利用して、皮膚に接する二つのローラ100,100(正に帯電)によって、皮膚に含まれる油分(負に帯電)を浮き上がらせることを示しています(段落番号0033)。 【副引例】  この副引例は、一対のローラ41,42を備える、マッサージ兼用のアプリケータです。一対のローラ41,42は互いに角度をもつ配置であり、皮膚に接触させつつ一方向に摩擦しながら摺動させるとき、皮膚を押し広げ、また、反対の方向に動かすときには、わずかな伸縮、弛緩を受けるだけです。それにより、皮膚に漸進的な排出効果を付与します(段落番号0020,0028)。  請求人の概略的な主張は、「美肌ローラ」の発明がもつABの考え方は、考え方Aが主引例に記載され、考え方Bが副引例に記載されており、考え方Aに対し考え方Bを適用することは容易である、とのことです。  これに対し、審判合議体の判断は、副引用例のローラが導電性を有さないのに対し、「美肌ローラ」におけるローラ100,100が導電性を有することは欠くことができない構成であるという理由により、主引例のローラに対し副引例のローラの構成に置き換えるという動機付けがあるとは認められない、とのことです。審判合議体は、また、仮に置き換えたとしても、その場合には、ローラが帯電することによる作用効果が失われることから、置き換えには阻害要因がある、との判断をしています。結果的に、審判合議体は、「美肌ローラ」 ...
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 審査の対象のメインクレームは、先に述べたとおり、次の内容です。  この「美肌ローラ」は、柄の一端の導体製ローラと、そのローラに電力を通電する太陽電池を備えているようです。「美肌ローラ」が、美肌を得るためのローラ装置であることは理解できますが、美肌を得るためにローラが肌にどのような作用をするのか、また、太陽電池からのローラへの通電が何を意味するかが定かではありません。発明は、ネライとそのための手段とを備えているはずですが、その点、今一歩不明です。正しい理解のために、発明の詳細な説明(いわゆる中味)を参照せざるを得ません。もし、検索者や審査官が、そのような参照を行わないとすれば、特許を受けようとする発明についてピント外れの理解をし、ピント外れの関連技術の検索が行われること必至です。極端なことを言えば、太陽電池はローラの駆動を助けるための電力を与えるもの、との誤解を抱くこともありえます。  いわゆる中味には、「美肌ローラ」は肌に押し付けてころがすことにより毛穴の中の汚れを押し出すものである、と記載されています(段落番号0001)。また、ローラへの通電については、ローラに通電することにより、ローラが帯電し、毛穴の汚れを引き出し、さらに美肌効果をもたらす、と記載されています(段落番号0018)。  したがって、「美肌ローラ」の発明は、肌をころがるローラを帯電させることにより、汚れ除去効果を向上させる技術であることが理解されます。クレームには、その発明内容が正しく理解できるような記述をすべきであると考えます。  これに対する審査官の第1声(拒絶理由通知)は、いわゆる発明の進歩性にキズがあるとのことです。基本的な引用文献1は、特開2005-066304号公報であり(従たる引用文献として、5件あり)、「導体によって形成されたローラと、電池とを備える美肌ローラが記載されている」との指摘です。引用文献1には、通電に伴う帯電により、皮膚の汚れを浮き上がらせる技術が示されているようです。  審査官の第1声に対し、出願人は、技術的事項を限定する補正をしています。補正後のメインクレームは、次のとおりです。  すなわち、ローラを一対とし、それらのローラの配置を特定しています。柄との関係からすれば、ローラはY字形になります。そのようなローラの配置により、「肌が両側に引っ張られ、肌を押し広げること ...
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 まず、特許を受けようとする「美肌ローラ」の発明について、検討したいと思います。  「美肌ローラ」の出願時点のメインクレームおよび関連する図を、J-PlatPatの公開情報から抽出します。  特許を受けようとする発明は「美肌ローラ」です。「美肌ローラ」に関連する用語として、「美顔ローラ」や「美容ローラ」があります。それらの間に違いはあるのでしょうか。概念からすると、「美容ローラ」が広く、「美肌ローラ」、「美顔ローラ」の順に内容が明確に、かつ絞られて行くように思われます。「美容」には、肌からの老廃物の排出、リストアップおよび小顔効果、マッサージによる効果などがあります。とすれば、概念的に広い「美容ローラ」を用いる実務者が多いと予想されます。J-PlatPatによるキーワード検索によると、案の定、「美容ローラ」は他の「美肌ローラ」、「美顔ローラ」よりも約2倍の使用頻度です。「美容」は人間の美容に制限されるわけではないでしょうが、ここでは、ヒトの美容として捉えることから始まりましょう。しかし、「美容」、「美肌」、「美顔」のいずれかを用いるかは、その発明の内容にもよると思います。  また、留意すべきは、それらの「美容」、「美肌」、「美顔」のいずれかに関するローラあるいは用具であっても、その用具を転がして使用するのか、叩くようにして(パッティングするように)使用するのか、磁力や電力のエネルギーを併用するかの問題など、付随した検討事項もあります。「美肌ローラ」は「ローラ」ですから、回したり転がしたりしながら使う円筒形のもの、と理解されます。その点、転がす以外の使用方法があるかについて確認が必要と思われます。そしてまた、「ローラ」がもつ円筒形という意味から外れるような形態があるかについても、検討が必要と思われます。なぜなら、「ローラ」には、円筒形以外に、太鼓型、卵型、球形なども考えられるからです。  「美肌ローラ」の明細書を読む限り、「美肌ローラ」は肌に押し付けて転がすことにより毛穴の中の汚れを押し出す用具であり、上の図の中の角度θ0、θ1、θ2について、特定の関係、つまり、θ0が鈍角であり、θ1、θ2が鋭角である、と規定しています。この点、明細書の中に、そのような特定をする理由を明確には見出すことができません。クレームに記載した事項についての理由付けがない発明は、経験的に理解し ...
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 「美肌ローラ」は、特願2007‐324077号として特許出願され、特許庁の審査において特許第5230864号として特許が認められました(第1段階)。この特許に関して、損害賠償請求事件(第2段階)および無効審判事件(第3段階)が起きました。第2段階の第1は、大阪地裁における平成28年(ワ)第4167号の原審、ついで、第2段階の第2は、知財高裁における平成29年(ネ)第10086号の控訴審です。原審では、「美肌ローラ」の発明について進歩性を認めず、結果的に原告(特許権者)請求を棄却しました。それに対し、控訴審では、原判決を取り消し、控訴人(特許権者)の請求を一部認めました。また、無効審判は、損害賠償請求に対する対抗手段として、「美肌ローラ」の発明の進歩性について争われ、結果的には、審判請求不成立の判断がなされました。被告(控訴人)は、その請求不成立の審決の取消請求を求めることなく、審決は確定したようです。  第1段階~第3段階の流れを検討する中、いくつかの疑問が生じました。その疑問の根源は、「美肌ローラ」の発明のクレームの妥当性です。適正な特許制度を求める立場からすると、「美肌ローラ」のクレームには記載不備が含まれているのではないか、と考えざるを得ません。また、同一の証拠および事実に基づくと思われる進歩性の判断にもかかわらず、裁判所(原審)における判断(進歩性にキズあり)と、特許庁審判における判断(進歩性にキズなし)とが全く反対です。その理由が知りたいところです。さらには、そのような原審と審判との判断の乖離の中、控訴審での対応、特に、特許法第104条の3に基づく控訴人の主張に対する判断はいかに、という考える課題もあります。  複数のおもしろい疑問や考える課題を抱えつつ、以下、第1~第3の段階を追って検討を進めていきたい、と思います。 ...
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 商標登録出願をする際、漢字を含む表記に対し、(称呼を明確にするため)ふりがなを付けるべきか、あるいはどのようなふりがな表記をすべきか、に悩むことがあります。称呼の認定について、第4条第1項第11号の商標審査基準の説明の中に、次のことを見出します。  「称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音をいう。  例えば、次のとおり称呼の認定を行う。 ・商標「竜田川」からは、自然に称呼される「タツタガワ」のみが生じ、「リュウデンセン」のような不自然な証拠は、生じないものとする。 ・「ベニウメ」の振り仮名を付した商標「紅梅」からは、自然に称呼される「コウバイ」の称呼も生じるものとする。 ・商標「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然な称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の称呼も生じるものとする。」  また一方、ふりがな(振り仮名)をいかに付けるか、あるいは付けないかを考える際の裁判例として、知財高裁の平成22(行ケ)第1010150号(平成22年8月19日判決言渡)を見出します。その判決の中に、次の3つの商標が出てきます。それぞれをA商標、B商標、C商標とします。なお、各商標は、第43類の「飲食物の提供方法」という役務で共通点があります。  A商標:不服2009-19711で請求不成立の審決を受け、上の’150号で審決の取消を求めたものです。「京や」の大きな文字表記のほか、「きょうや」という小さい文字表記(いわば、ふりがな風の表記)があります。  B商標:A商標の権利化の障害となった引用商標(4732349T)です。「饗家」という漢字表記のほか、「きょうや」というふりがな表記があります。  C商標:B商標の先願登録商標(4452586T)であり、上記の審決取消事件の原告が挙げた証拠の一つです。「響屋」という漢字表記のほか、「ひびきや」というふりがな表記があります。  上記の審決取消事件では、結果的に、「本願商標(A商標)と引用商標(B商標)は外観が大きく異なるが、両商標からは「きょうや」との称呼のみが生じることから類似する」という判断がなされました。  なお、C商標に基づく原告の主張に対して、裁判所は明確には答えていませんが、審判では、『「ひびきや」の文字が、「饗屋」の読み方を特定したものと無理なく ...
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 進歩性関連の裁判例を追っていたところ、平成22年(行ケ)第10064号審決取消請求事件(知的財産高等裁判所平成22年10月28日判決言渡)に再会した。「再会」とは、この事件については、すでに二度ほど出会い、違った視点から検討していたからです。最初の出会いは裁判所の判決、二度目の出会いは、特許庁審判部の審判実務者研究報告書2012の第1事例です。  この事件における発明は、被覆ベルト用基材(特願2000-249815号、不服2007-1438号)です。対応の公開公報(特開2001-98485号)の図5を示しながら、発明内容、ここで考えようとするポイントをまずは順次述べましょう。 〔発明内容〕  この発明の被覆ベルト用基材は、抄紙機などに用いるエンドレスなベルト用基材であり、図はその断面を示しています。ベルト用基材は、多層織りの布のベース50と、ベース50の中に一部含侵した第二高分子樹脂材料58の被膜と、ベース50に結合し、ベース50と第二高分子樹脂材料58との結合を強化するステープルファイバーバット56とを備えます。そして、この発明の最大の特徴は、ステープルファイバーバット56に対し、第一高分子樹脂材料を含ませることにより、ステープルファイバーバット56と第二高分子樹脂材料58との結合力を増す点にあるようです。結合力を増すことに関し、クレームには、「機械的に結合するだけでなく化学的に結合」という表現がなされています。 〔考えようとするポイント〕  実際の取消事由としては、1.新規事項の追加と2.進歩性の有無とがあり、裁判では1に対する取消事由を認めましたが、2に対する取消事由を理由がないとして請求を却下しました。  ここでは、2に対する判断に対し、最後に「なお書き」とした裁判所の考え方を取り上げます。該当する部分は、「なお書き」として、判決文の最後に付言された内容です。その内容は、比較的に短いため、下記します。  「なお、本願補正発明の進歩性の有無を判断するにあたり、審決は、本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが、その認定の方法は、著しく適切を欠く。すなわち、審決は、発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく、相違点を、ことさらに細かく分けて(本件では6個)、認定した上で、それぞれの相違点が、他の先行技術を組み合わせることによって、容易であると判断した。 ...
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 特許実務家にとって、明細書の作成は最も大事な業務です。作成した明細書は、特許のあらゆる場で顔を出し、特許の良否を大きく左右します。そのため、特許実務家は誰もが自己の明細書作成力の向上を目指しています。  特定の出願人の明細書の傾向を探る機会を得ました。その出願人は、年間10件ほどの特許出願をしています。出願数は多いとはいえませんが、関与する出願代理人は、A1,A2,A3,A4,A5と5人ほどいます。明細書を作成する上で、発明内容が同等程度と思われる出願を選択し、出願公開公報から7件の特許出願Pa,Pb,Pc,Pd,Pe,Pf,Pgをピックアップしました。ピックアップした各出願に対し、担当の代理人、公報上の明細書のページ数、クレーム数を示します。7件のうち、一人の代理人A1は3件あり、ほかの代理人は各1件です。 出願   代理人   明細書のページ数   クレーム数 Pa    A1      3.5          2 Pb    A2     18          10 Pc    A3      9.5           5 Pd    A1      9           5 Pe    A4      4                         2 Pf        A5             22                          7 Pg    A1             5                         4  第1に驚きを覚えることは、明細書を作成する上で同様のロードがかかると思われる発明であるにもかかわらず、公報上の明細書のページ数が3.5~22と代理人によりかなりの幅があることです。同じ代理人A1においても、3.5~9の幅があります。そして、明細書のページ数が少ない出願において、クレーム数が少ない傾向があります。これらの出願におけるクレーム数は2~10であり、一般的な平均クレーム数10に比べると、数的に少ないと思います。参考のために、特許庁発行の特許行政年次報告書2017年版から「平均請求項数の推移」の抜粋を示します。多項制の導入の1988年以降、徐々に平均クレーム数が増加し、ここ10年の間には「10」近くに達しています。  明細書は、クレーム記載の発明をサポートあるいはバックアップすること ...
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 11月29日に、「企業関係者と弁理士の知財研究会」の第2回の集りがありました。今回は、小生の小論「進歩性関連の裁判例から学ぶ」(パテント2012, Vol.65 No.8)がテキストとなり、数点について意見交換がなされました。  その一つとして、進歩性(容易想到性)の判断における「技術分野の関連性」がありました。この1.「技術分野の関連性」は、2.「課題の共通性」、3.「作用、機能の共通性」、4.「引用発明の内容中の示唆」とともに、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けがあるといえるか否かを判断する要素になっています。  かつての同一技術分野論によれば、主引用例発明と副引用例発明とが同一の技術分野に属するとすれば、(それだけで)進歩性(容易想到性)が否定されるという判断がなされました。しかし、その同一技術分野論は、現時点では“終焉”を迎えているようです。同一技術分野論の“終焉”とは、進歩性(容易想到性)の判断において、同一技術分野論の論理が適用されなくなったということです。  現時点の審査基準の記載を見ると、「動機付けの有無は、1.~4.までの動機付けとなり得る観点を総合考慮して判断される。審査官は、いずれか一つの観点に着目すれば、動機付けがあるといえるか否かを常に判断できるわけではないことに留意しなければならない。」、そして、『「技術分野の関連性」については、他の動機付けとなり得る観点を併せて考慮しなければならない。』と明記されています。  このように判断基準は、流動的です。私たち、特許実務家は、流動による変化の内容をキャッチするとともに、その変化がなぜ生じたかの理由を自分なりに理解することが大事だと思います。進歩性(容易想到性)の根拠条文は、大変短いです。その短い規定の文言との関係から、変化の理由を考えることが必要です。  その点、上に述べた第2回の知財研究会の中で、同一技術分野論が、特許法第29条第2項のどこから生まれているか?が問題となりました。その問題に対し、条文の具体的な文言とのつながりに基づいて明確に答えることは意外と難しいことでした。特許実務家は、根拠条文に戻って考え、実務的な観点から条文の意味を再考したいものです。 ...
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 平成28年(ワ)第38103号の損害賠償請求事件(平成30年10月17日判決言渡、東京地方裁判所)における特許は、発明の名称を「太陽光発電装置の施工方法等」という特許第5279937号です。この特許発明のクレーム解釈について、裁判所特有の論理を見出します。そこで、その論理を通して、特許実務家として留意すべき事項を考えてみたいと思います。  判決文の中から、その特許のメインクレーム(請求項1)の構成要件の分説を引用します。赤のアンダーラインを付けた部分が、ここで検討する内容です。  まず、発明を理解しやすくするため、特許第5279937号公報の図1に主要な構成部材の名称を加えた図を下に記します。この発明は、太陽光発電パネル101を支持するためのパネル載置架台103を施工する技術に関します。一つの特徴は、パネル載置架台103の基礎部材103aの内部に、隣接する柱部材103bを接続する接続部材103cを含みます。基礎部材103aは、基礎形成用溝にコンクリートを流し込んで形成します。  さて、分説した構成要件Bの中に、『基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝』という特定事項があります。争点の一つが、この特定事項の解釈に関係します。  被告は、この『基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝』は、地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝であると解すべきである、と主張しました。それに対し、原告は、「地面に形成された基礎形成用溝」は、その文言からして、地面に接していれば足り、形成される場所が地中に限定されないことは明らかであり、本件明細書にも、形成される場所が地中に限定する旨の記載はないから、地面に接して形成された溝を含むものである、との主張をしました。  これらの原告、被告の主張を考慮しつつ、裁判所の言及は、次のとおりです。一般に、「地面」には「地の表面」という字義があり、「溝」には「細長いくぼみ」という字義があることからすると、文言上、底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても、「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得る、との出だしです。そして、続く言及は、「基礎形成用溝」は、基礎部材を形成するためのものであるから、コンクリートを流し込み基礎部材を形成することができる形状のものであることが必要であるものの、本件明細書に、それが地面を掘っ ...
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 平成29年(ワ)第22041号の差止等請求事件(平成30年10月19日判決言渡、東京地方裁判所)について、発明の把握の観点から、今一つの検討を進めます。  問題の特許発明「洗濯用ネット」のメインクレーム(請求項1)の構成要件は、次のように分説することができます。  この中で、争点となったのは、構成要件A~Fのうち、丸印で示すB,C,D,Eです。なお、各構成要件中、アンダーラインの部分は、審査段階で補正により付加された構成です。  クレームに新たな構成を付加するには、付加すべき内容が当初明細書等に記載されていること、しかもまた、付加するための理由があること、が一般的です。それらを考慮しつつ、争点のいくつかを振り返ってみましょう。  第1に、構成要件Bにおける「(拡大把持体が)逆台形状のリング形状を有し」の点です。当初明細書の中には「把持部は逆台形状のリング状で示したが、摘まみ易いことであれば、その形状に限定されることはない。」との言及があります(段落番号0024)。拡大把持体にとって、『摘まみ易いこと』が最も大事なことのようです。その要求は、形状だけでなく、材質の面などからも応えることができます。とすれば、たとえば、『(引き手との関係から)引き手よりも摘まみ易い構成(たとえば、滑りにくい、あるいはリング状、好ましくは逆台形状のリング状)という理解が生まれるのではないでしょうか。イ号製品における拡大把持部(体)は楕円形状のリングですので、「引き手よりも摘まみ易い」という捉え方は、イ号製品を押さえる上で問題はないようです。別の表現「(逆台形状を取り除いた)リング状」では、前回に挙げた実公平6‐37718号のものを押さえることができません。  第2に、構成要件C,D,Eは、スライダを含むスライダ構成体と、それを覆い隠すカバー体とを特定しています。審査過程および裁判に関する資料を見る限り、スライダ構成体を全体的に被うカバー体はあっても、スライダ構成体を部分的に被うカバー体を見ることができないと、考えます。その点、弾性止め部材によって、引き手およびスライダ(ー)を固定する技術(登録実用新案3061802号)が問題となります。その技術について、担当審査官は、「開口部の閉口端に、スライダと引き手とで構成されるスライダ構成体の一部を露出させて弾圧的に覆うカバー体を設ける技術」との理 ...
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 平成29年(ワ)第22041号の差止等請求事件(平成30年10月19日判決言渡、東京地方裁判所)における特許は、発明の名称を「洗濯用ネット」という特許第3523141号です。この小論の第1の目的は、「洗濯用ネット」を通して、発明の把握を模索することにあります。  判決文の中から、その特許のメインクレーム(請求項1)と基本的な図(図4)を引用します。引用したものに、ブルー、レッド、グリーンの色付けをしていますが、それは説明をしやすくするためです。  洗濯用ネットは、洗濯に際して用いる身近な網状の入れ物です。それには、洗濯物を出し入れするための開口部(6)があり、その開口部(6)をスライドファスナ―で開閉することができます。スライドファスナ―は、スライダー(3、ブルー)と引き手を備えます。  スライドファスナーの開閉のためには、それらスライダーと引き手のみで充分なところ、この発明は、引き手に対し、それより大きく摘みやすい拡大把持体(1、レッド)を備えています。ここで、この拡大把持体(1)が「この発明」に必要であるかは定かではありませんが、引き手を補助する「拡大把持体」に関する発明の一例を示します。 【拡大把持体、というよりも、引き手の補助をする部材の発明の一例】  この図は、実公平6-37718号公報の第1図からの引用です。引(き)手を補助する部材である摘み(16)は、柔軟性と弾力性に富む軟質合成ゴムまたは軟質合成樹脂等からなり、指が滑らずにスライダーを確実にスライドさせます。したがって、摘み(16)は、金属製の引(き)手とは別の材料によって滑り防止の面からスライダーの作動を補助しています。すなわち、「拡大把持体」の基本は、スライダーの作動をしやすくする点にあり、“拡大”や“材料”はあくまで一つの条件にすぎません。したがって、発明を把握する観点からすれば、一般的には、「拡大把持体」というよりも、『引き手に付属し、引き手を持ちやすくするための部材』として把握する方が妥当です。そして、それ以上に、”拡大“などの特定の条件を加えるとすれば、”拡大“の意味を発明全体の中に浸透させることが肝心だと思います。  さて、「洗濯用ネット」においては、洗濯物入りの洗濯用ネットを洗濯槽の中に入れ、回転などの撹拌/洗濯エネルギーを加えるとき、「拡大把持体」付きの引き手が暴れ、洗濯物や洗濯槽 ...
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 ここでは、第3段階の特許取消決定取消請求事件(平成29年(行ケ)第10232号、平成30年10月17日判決言渡)の判決文、特には、「第5 当裁判所の判断」の項について検討します。  「ステーキの提供システム」に係る特許は、その2で述べたとおり、特許法第29条第1項柱書の規定に違反することから、取り消されるべきものである、との特許異議の決定でした。維持決定に対しては、不服を申し立てることができませんが(特許法第114条第5項)、取消決定に対しては訴えを提起することができ、その管轄は東京高等裁判所の専属管轄になっています(特許法第178条第1項)。  この専属管轄について、いわゆる青本は、「特許庁での審判手続が裁判に類似した準司法的手続によって厳正に行われる以上、さらに三審級(地方裁判所から最高裁判所まで)を重ねることはいたずらに事件の解決を遅延せしめるという事情と、事件の内容がきわめて専門技術的であるため、特許関係の専門家に行われた審判手続を尊重してよいという事情とによって、一審級を省略して直接に東京高等裁判所へ出訴することとしたものである。」と述べています。なお、ここにおける事件は、東京高等裁判所ではなく、知的財産高等裁判所から判決がでています。知的財産高等裁判所は、平成17年の法律に基づいて設置された、東京高等裁判所の特別な支部(知的財産関係を取り扱う専門的な部分)です。  さて、特別の支部である知的財産高等裁判所における、この事件の判決文は38ページにわたります。知的財産高等裁判所の設置前に比べて、判決文は、一般的に長文化の傾向があります。長文化の一因は、特許公報の明細書などのそのままの引用にあります。今回の事件の場合、判決文中、「第5 当裁判所の判断」の項が22~38ページにわたるのに対し、22~29ページがそのままの引用になっています。したがって、裁判所の判断の実質は10ページほどにすぎません。明細書を作成する者として(明細書にも長文化の傾向があります)、裁判所の判決文にもう少し工夫が欲しい、と思うことがあります。  そのような判決文を何度も読み返したところ、裁判所は、(複数ステップを含む)「本件ステーキ提供方法は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでに人が実施する手順を示したもの」と認定する一方、本件計量機等について、「札によりテーブル番号の情報 ...
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 ここでは、第2段階の異議申立て(異議2016‐701090号)のやり取りを検討します。  J-PlatPat上の異議の決定、経過情報を参照する限り、異議の申立てにおける申立て理由および審理内容は、特許法第29条第1項の柱書に関する事項のみである、と理解されます。その第29条第1項柱書に規定する要件は、その1で述べたとおり、審査段階で問題となったものです。すなわち、担当審査官の審査を経た内容です。  (特許)異議申立ての本来的な意義は、特許庁が自ら特許処分の適否を審理し、瑕疵ある場合にはその是正を図ることにより、特許に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成することを主眼とした制度です(いわゆる青本からの抜粋)。その点からすると、審査官が問題とした特許法第29条第1項柱書の規定違反があるかを見直すことは基本的に妥当です。しかし、今回の発明「ステーキの提供システム」については、発明の把握自体に問題があるため、その面からの見直しも必要ではないでしょうか。また、利害関係がある場合などには、追加的な調査に基づく、(審査では上がらなかった)新たな異議理由も問題にすべきです。したがって、異議2016‐701090号事件は、審査官が問題とした異議理由(拒絶理由)のみについて見直すだけであり、充分に制度が活用されていない感を覚えます。  異議申立ての後、新たな3人の審判官は、特許発明「ステーキの提供システム」には、特許法第29条第1項柱書の規定違反があるとの見解を示し、それに基づいて、取消理由通知を発しました。それに対し、被請求人(特許権者)は、【請求項1】の訂正の請求をしました。訂正請求した【請求項1】は次のとおりです(J-PlatPatの異議の決定から引用)。  この訂正後の請求項1の「ステーキの提供システム」に対し、異議決定では、「お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様が要望する量のステーキを提供するというステーキの提供方法を採用することにより、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供するという飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたもの」であり、「札」、「計量機」、「印し」、及び「シール」という物を、その構成とするものと、まずは理解しています。しかし、請求項1における、それらの「札」、「計量機」、「印し」、及び「シール」のそれぞれは、物としての ...
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 「ステーキの提供システム」は、今話題の発明の一つです。その発明は、特願2014‐115682号として特許出願され、特許庁の審査では特許第5946491号として特許が認められ(第1段階)、その後、その特許は、異議2016‐701090号において取り消され(第2段階)、さらに、その特許取消決定は、知財高裁における平成29年(行ケ)第10232号の取消決定請求事件で決定が取り消されました(第3段階)。  この「ステーキの提供システム」の発明における注目論点は、その発明が特許法第29条第1項柱書に規定する要件を充足するか否かです。その規定における要件は、いわゆる発明該当性と、産業上の利用可能性とを含みます。それらの中で、「ステーキの提供システム」では、発明の該当性、つまり、「ステーキの提供システム」が特許法上の発明に該当するか否かが問題です。ですから、この発明を検討することは、発明とは何かを考える上で有用だと思います。そしてまた、特許審査の第1段階、異議申立てについての審理の第2段階、知財高裁における取消決定請求での判断の第3段階があり、見方の異なる人たちによる考え方を検討することもできます。  この「その1」では、特許庁における特許審査の第1段階を振り返り検討してみたいと思います。  まず、出願当初のクレームを見てみましょう。特願2014‐115682号の出願公開公報2015-228949号の【請求項1】は、次のとおりです。  出願当初は、「ステーキの提供方法」としての発明であり、5つのステップを含んでいます。各ステップの中味は、お店の店員さんの仕事内容そのものです。「伺ったステーキの量を…カットする」、これ自体は、あるいは従来見られないサービス内容かも知れません。しかし、それを含め、5つのステップのすべてが一般的なサービス業務そのもののようです。これを読む限り、特許を受けるべき発明には該当しないことが分かります。なにゆえに、このようなクレームを作成したのでしょうか。いわゆるチャレンジングクレームとは違うようであり、小生には理解しがたいところです。  出願審査請求後、最初の拒絶理由通知書において、「特許法第29条第1項柱書に規定する要件」、発明該当性の点でキズがあるとの指摘がなされました。担当審査官は、「(クレームに記載のステップは)ステーキを提供する手順という人為的取 ...
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 段書きの商標とは、複数段にわたって表記した商標です。たとえば、平仮名、片仮名、漢字、ローマ字などの互いに異なる表示によって複数段の構成にした商標です。  クライエントによっては、同じ称呼の商標を複数の出願にせずに、段書きにすることにより一つの出願にすることを望むことがあります。段書きの商標を考えるとき、商標法第50条における「社会通念上同一の商標」や、パリ条約第5条C(2)における「構成部分に変更を加えてその商標を使用する場合」が参考になります。また、段書きにおける商標と段書きでない商標との商標権的な効力についても、考えることになるでしょう。  ここでは、平成22年(行ケ)10336号、不使用による商標登録取消し審判の審決取消請求事件を基に、少し検討したいと思います。不使用取消しの対象となった商標は、登録第4906932号の次のような3段書きの商標です。  すなわち、アルファベットによる表記と、片仮名による表記と、ハングル文字による表記との3段書きです。そして、権利者側が使用の根拠とした商標は、片仮名表記からなる「ユジャロン」(つまり、1段書きのもの)と、アルファベット表記による「YUJARON」と片仮名表記による「ユジャロン」との2段書きのものです。それらのいずれの表記の商標にも、ハングル文字による表記は含まれていません。  裁判所は、「商標として使用されたと認められる前記各使用標章からは、「ユジャロン」の称呼が生じることが明らかであるし、本件商標のアルファベット部分又は片仮名部分の一方又は双方と同一の文字列をその構成部分としているものであるから、前記各使用標章と本件商標とは社会通念上同一の商標であると評価することができる。なお、ハングル文字の部分については図形として評価するよりも文字として評価するのが相当であるから、前記各使用標章と本件商標の外観の相違は、上記評価を左右するものではない。」との判断です。  以上の裁判例を考慮する限り、クライエントから3段書きの表記形態の商標の出願を依頼されたとき、そのままの形態での出願をしたとしても、商標の使用上、当面問題はなさそうです。しかし、商標の機能の発展的な増強、商標権の効力などを考えるとき、3段書きを積極的にすすめることに躊躇することを感じることはありませんか。今一度、関連の規定の本来の意味を再考し、自己の考え方を確 ...
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特許の場合、出願日から起算して、1年6月(18月)経過して、だいたい2週間以内に出願公開がされます。具体的には公開特許公報が発行され、発明者や出願人、そして発明の内容が公開されます。 かもめの便りでも紹介しましたが、特許には「出願公開の請求」という制度があります。 出願公開の請求について 特許庁HPの「公報に関して」のQ&Aを見ますと、出願公開の請求を行った場合、通常であれば、 ・出願と同時であれば約5ヶ月程度 ・出願の方式審査が完了し、特許分類の付与がなされている段階であれば、約2ヶ月ないし3ヶ月程度 で公開特許公報が発行されるとあります。 また、出願公開請求には他の要件として、請求は出願人全員で行わなければならないというものがあります。これは特許法第14条でも明記されているところです。 そして、出願公開の請求は取下げることができません(特許法第64条の2第2項)。この点、特許法逐条解説では以下のように説明されています。 出願公開の請求があった場合には、すぐに公報発行準備に入ることとなるが、公報発行準備が終了した後には、出願公開の請求を取り下げたとしても、公開公報の発行を止めることが間に合わないため、公開公報が発行されてしまう事態が生じるおそれがあることから、出願公開の請求は取り下げることができないこととした。(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕) この「公報発行準備」というのが気になります。取り下げの時期にもよるのでしょうが、請求をしてから発行までに数ヶ月かかるものの準備を止めることが間に合わないとは奇妙です。請求をしてすぐの取下げも、公開前日の取下げも、同様の取り扱いとなっています。同様の問題として、例えば商標の場合、出願後約2月くらいで公開公報が発行されます。公報発行準備に取りかかるのは出願をしてすぐなので、商標の場合は出願後すぐに取下げても公開公報は発行されてしまいます。 特許でも商標でも請求や出願をした後に公開を避けたいという要望は少なからずあると思います。かもめ特許事務所でもそのような出願人からの要望をいただくこともあります。特許法に様々な救済規定がある中で、早期公開請求を取りやめたいとする救済措置も必要であると感じます。また、特許の公開の意味と、商標の公開の意味は異なっている部分が多いと思いますが、この辺りの運用が同一の取り扱いであるこ ...
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 明日27日は、「企業関係者と弁理士の知財研究会」の第1回の集りの日です。パテントおよびパテント別冊の中の進歩性関連の論文を輪読し、参加者同士が意見交換をし、交流を図ろうとする会です。小生は、弁護士の仲間とともに進行役を仰せつかっているため、進歩性について考える機会を作りました。  進歩性あるいは容易想到性に関する条文は、特許法第29条です。その第1項には、「…次に掲げる発明を除き、・・・」として、1号:公然知られた発明、2号:公然実施をされた発明、3号:刊行物に記載された発明(又は電気通信回線を通じて利用可能となった発明)が明示されています。したがって、特許を受けようとする発明が、これらの各号のいずれか一つに該当する場合には、新規性がない、と判断されます。言い換えると、新規性は、一つの証拠、たとえば、一つの刊行物に記載された発明が問題となります。  それに対し、特許法第29条第2項では、「前項各号に掲げる発明に基づいて」と規定しています。この規定の意味は、進歩性では、複数の証拠、たとえば2以上の刊行物に記載された発明が問題となります。すなわち、特許を受けようとする発明が、それら2以上の刊行物に全体として記載されているかが問題となります。  以上の考え方からすれば、一つの刊行物に記載されているか、複数の刊行物に記載されているかの違いはありますが、新規性も進歩性も発明が記載されているかの観点から同様な判断をすることができます。この考え方は、長年の実務経験の結果、得られたものであり、進歩性の有無について、新規性の有無と同様、客観的な判断をすることができます。  この経験に基づく考え方を有効に実行するためには、発明の把握を的確に行うことです。次に示すように、過去の小生の小論も間接的にそれを物語っています。 ・「進歩性の判断上、引用例の技術分野その他に検討すべき課題があることは事実である。しかし、その一方で、正確な判断を行う前提である、“ちがい”の把握が正確に行われていないことも事実である。しかも、後者の割合が非常に高い。  したがって、進歩性の“難しさ”に打ち勝つ最も現実的で有効な方法は、“ちがい”の把握を正確に行えるようにすることにあるといえるだろう。出願人サイドに対しては、発明の内容を正確にとらえ、しかも特許要件を備えていることを容易に判断できるような、わかりやすい明 ...
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 下記の図は、特許庁のHPからの抜粋です。  この図に示すように、商標権には専用権(商標法第25条)と禁止権(商標法第37条)とがあります。青本流に表現するならば、専用権における侵害を類似の商標および商品に拡大することによって、商標権の保護に完全を期そうとすることにあるようです。ここで、意匠権については、「登録意匠およびこれに類似する意匠」までが専用権として規定されていますが(意匠法第23条)、それらの規定ぶりの違いが何ゆえに出ていると考えますか? 弁理士試験の受験者だけでなく、実務家にとっても、そのような思考は大事だと思います。  商標の実務家は、近年に至り、商標権の禁止権の範囲が縮小され続けていることを感じています。その主因は、類否判断の基準の変化にあることは確かです。たとえば、ごく最近の審決(不服2017‐13947)において、第30類「菓子、パン」を指定商品とする「SNOW WHITE」に対し、第30類「アップルパイ」を指定商品とする「スノーホワイトアップルパイ」が、非類似であるとの判断がなされています。  一般的な考え方からすれば、「アップルパイ」は商品「アップルパイ」を示す表示であるため、商品「アップルパイ」に対しては、商標「スノーホワイトアップルパイ」の中の「スノーホワイト」の部分を要部として類否判断をすることが許されるはずです。その点、最高裁昭和37年(オ)第953号、最高裁平成3年(行ツ)第103号、最高裁平成19年(行ヒ)第223号などが教えるところです。すなわち、「標準文字で一連に記載されたものであっても、それがいくつかの文字等を組み合わせた結合商標と解されるもので、かつその一部が需要者に対して、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである場合やそれ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合などには、当該一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否判断をすることも許される」という論理です。  しかし、該当の審判においては、いわゆる要部観察は採用されることなく、『本願商標から生じる「スノーホワイトアップルパイ」の称呼と引用商標から生じる「スノーホワイト」の称呼とは、音数において明らかな差異があるから、両商標は、称呼上、相紛れるおそれはない。・・・』と判断されています。  小生 ...
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 特許出願の分割について、驚きの流れに出くわした。白色光を得るための発光装置の特許出願P(特願平10-508693号)の経過です。その経過は、次のとおりです。  もとの出願Pに対し、第1~第10世代にわたって、18件の分割出願(頭にDを付けています)がなされています。図の下欄の期間目盛り(もとの出願時点0から存続期間満了の20まで)が示すように、第10世代の分割時点は、元の出願Pの出願日から19年近く経過しています。特許出願の分割を行うためには、もとの出願からの流れを継続させることが必要です。その継続の流れを、図中、赤で示すもとの出願Pを起点に、青で示しています。詳しくは見ていませんが、分割ができるという規定の文言を生かして、もとの出願Pを、形式的に、規定された存続期間一杯にわたって係属させるようにしているようです。  また、特許出願の分割には、別の形態もあります。ips技術に関する特許出願であり、PCT経由のもとの出願p(特願2007‐550210号)の経過です。その経過は、次のとおりです。  この場合には、図の下欄の期間目盛り(もとの出願時点0)から分かるように、もとの出願pの出願時点から3年以内に6件の分割出願が行われています。それらの分割出願は、もとの出願pが権利化される前に行われています。内容的に見ると、もとの特許出願pにおけるクレームの一部の要件を外したり、カテゴリーを変えた見方をすることにより、特許全体としての技術的範囲を広げようとする努力を見出すことができます。  以上、分割出願についての二つの形態を形式的に見るとき、特許法第44条が規定する「特許出願人は、・・・二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」という内容を考えざるを得ません。分割すべき出願における発明は、すべてもとの特許出願に記載された内容に含まれます。クレームや明細書を作り出す立場からすると、一つの出願には、基本的に、一つの考え方に基づく発明を記載することが一般的です。クレームを作成するに先立ち、基本にすべき考え方を何にするかを熟考します。基本にする考え方を何にするかにより、クレーム内容が変化するし、クレームをバックアップする明細書の記載の仕方も変化するからです。  そのような熟考した結果に基づいて、クレームや明細書を作成する場合、戦略的にそ ...
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 「ニューマター」(new matter)とは、新規事項であり、特許実務家が考えるべき重要なテーマの一つです。  先日、欧州におけるクレームや補正の実務と日本国におけるそれ(それら)について比較検討する研修がありました。その中で、補正の関係で、欧州出願では、「図面にのみ基づいた補正はしない」というアドバイスがありました。  そこで、今回、「ニューマター」の本来的な意味を再考しつつ、補正を考えてみたいと思います。というのは、通常、特許の手続きの段階でクレームの補正は必至であるからです。  「ニューマター」に関連する条文あるいは規定、基準などを見る限り、日本国でも欧州でも基本的には同様である、と考えます。それを示す基本的な規定が、次のように同様であるからです。 【日本国】 ・特許法第17条の2、第3項の抜粋  明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。 【欧州】 ・Article 123 Amendments (2)  The European patent application or European patent may not be amended in such a way that it contains subject-matter which extends beyond the content of the application as filed.  これらの規定上、明細書と図面とは同列に記載されています。したがって、原則として、明細書の記載に基づく補正ができるように、図面に記載されたことに基づく補正もできるという理解が生まれます。しかし、ソルダーレジスト事件(知財高判平成20年5月30日、平成18年(行ケ)10563号)の合議判決がいうように、『明細書又は図面に記載した事項』とは、技術的思想の高度の創作である発明について、特許権による独占を得る前提として、第三者に対して開示されるものであるから、ここでいう『事項』とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となります。その点、表現手段が文章である明細書と、視覚的な表現手段である図面との間には、発明に関する技術的事項を表現する上でかなり違いがあることでしょう。 ...
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 意匠の要部とは、一般的に、その意匠を見(看)るものに対し「注意を引く部分」あるいは「重きを置かれる部分」といわれます。  「ゴルフ用ボールマーカー事件」における登録意匠1217691号についても、意匠の要部の観点から検討がなされています。権利者は、マーカー本体のドーム形状が要部である、と主張しました。 しかし、ボールマーカーにおけるドーム形状は、出願前から公知であったことから、権利者の主張は認められず、結果的に、単に、ディンプルの大きさ及び配置の態様が要部と認められることになりました。この事件における裁判所の考え方は、周知意匠や公知意匠に示されている部分は、取引者、需要者にとってありふれて見えるものとなり、注意を引かないし、重きが置かれない、という点にあると思います。なお、その考え方とは異なり、意匠において周知又は公知の部分も、看者の注意を引く要部となりうるという裁判例もあります(たとえば、東京高裁平成14年11月14日判決、平成14(行ケ)221号審決取消請求事件)。  ここでは、意匠の要部における二つの考え方は、全く別の見方のようではありますが、意匠の観点からは密接した考え方である、という捉え方もできることを述べます。そのことが、適切な意匠権の取得、および適切な権利行使を考える上でのヒントになりうると考えるからです。ボールマーカーにおけるドーム形状は、それ単独で存在するわけではありません。ドーム形状は、その表面に付されるディンプルと大いに関係があります。その点は、ゴルフボールとその表面のディンプルとの関係と同様です。球形のボールの形状が特定のディンプルを生み出すという観点からすれば、ボールが周知の球形だからといって、そのボール形状とディンプルとを切り離して議論すること自体、おかしなことになります。同様の考え方から、公知のドーム形状と、その表面のディンプルとは全体として一体として捉える方が意匠に沿っているのではないでしょうか。  下記のボールマーカー意匠について、ある創作者は、ゴルフボールの一部を切り取ったマーカー本体、という発想を抱くことでしょう。もし、この創作が事実とは異なり、全く斬新な考え方だとしたら、知財専門家のあなたは、クライアントに対し、どのような保護を求めることをアドバイスしますか?一つには、ドーム形状という特定の形状と、ボールマーカーの機能の点か ...
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 「ゴルフ用ボールマーカ―事件」とは、登録意匠1217691号に基づく謝罪広告等請求事件です(原審:東京地裁平成18年10月30日判決、平成18年(ワ)第13406号、控訴審:東京高裁平成19年3月27日判決、平成18年(ネ)第10084号)。  その登録意匠は、グリーン上のゴルフボールの位置を示すボールマーカーです。登録意匠の図面中、主要な図面は、次のとおりです(ディンプルの部分を色付けてあります)。  権利者の言によれば、「ボールマーカーをドーム形状としたことは、画期的なこと」だということです。この登録意匠は、そのようなドーム形状のマーカー本体に、大中小の3種類のディンプルをきれいに配列しています。  対するイ号のボールマーカーは、マーカー本体がドーム形状であることは共通していますが、ディンプルは1種類の比較的に大きなものが配列されているだけです。  ここで、意匠の類否が問題となります。類否判断の場合、意匠の要部を捉える考え方があります。この点、控訴審の中の裁判官の言及として、「意匠の類否判断に当たっては、意匠全体の観察を要するものの、意匠に係る物品の各部位における構成に対する判断の比重がすべて等しいというわけではなく、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美観を共通にするか否かを判断すべきものである。そして、この場合に、意匠の要部は、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様等を考慮するほか、その意匠の各部が公然知られた意匠に係るものと同一の意匠に係る部位であるか、新規な創作の意匠に係る部位であるか等を斟酌して、認定すべきものである。」があります。  権利者が主張する『画期的なドーム形状』は、要部となりうる可能性があります。『画期的なドーム形状』が、ディンプルの配列の違いを打ち消してしまうと判断されることもあるでしょう。その点から、意匠においても、各構成部分あるいは各構成要素の外観的な新しさの有無を確認することも、知財専門家の義務と考えることもできます。  結果的に、ボールマーカ―におけるドーム形状は、出願前から公知であったようです。その資料を次に記します。  マーカー本体2がドーム形状であり、その本体2に比較的に小さなディンプルが配列された技術がすでに知ら ...
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 「脇下汗吸収パッド事件」を紹介する中で、【第2の学び】において「考案・発明の把握に少し納得ができません。」という言及をしました。その言及には、「吸収面の確保」をする手法として、二次元的に捉える考え方と、三次元的に捉える考え方、あるいは、吸収能力の異なる材料を活用する考え方、または、それらを組み合わせる考え方があります。  発明者は、一般的に、それらの考え方の一つを中心に自己の発明を語るのが常です。そして、発明者の話を聞く知財担当者には、発明者の話を単にまとめるだけではなく、それを変形、あるいは拡大することが求められます。これは、発明者の役割と、知財担当者の役割とは互いに異なるからです。ですから、知財担当者の立場の者は、まずは、自己の役割について常々考え続けることが必要ではないでしょうか。  今回のケースの場合、二次元的に捉える考え方からしても、脇の甘さが目立ちます。  クレームでは、「3つの彎曲を連ねた縁形状」という特徴を上げていますが、「3つ」は限定しすぎの感があります。  前回の加工した図をさらに加工して示します。  前回述べたように、今まで、この種のパッドの身頃添付け部(3)は、黄色で示すように三日月形状でした。そのため、明細書によれば、「袖繰りに層パッドの中央部では十分な汗の吸収面を確保することができるが、前端及び後端部に至るに従い吸収面積が急激に減少してしまい、脇の下全体に亘る吸収面の確保が困難であるという問題点」がある、とのことです。  この問題点に加え、「デザイン上の美観」をも考慮し、三日月形状よりも突き出した3つの彎曲を連ねた構成A1,A2,A3とした発明(考案)の把握が生まれました。  しかし、もともとの問題点からすれば、突き出した3つの彎曲のうち、中央のA2は不要のはずです。なぜなら、吸収面積が不足する部分は、前端部A1、後端部A3だけであるからです。とすれば、次のような把握が自ずと生まれることになります。 (1)(少なくとも)前端部A1、後端部A3において、仮想の三日月形状よりも突き出した形状をもたせること (2)中央部A2にも仮想の三日月形状よりも突き出した形状をもたせ、3つの突き出した彎曲をもたせたこと  ここで、(1)の把握は、前回にネット検索した次のパッドを含む可能性があると思いませんか? この点からも、知財担当者あるいは知財専門家に ...
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 「脇下汗吸収パッド事件」とは、登録新案第1957778号(実公平4-21774)に基づく損害賠償請求事件です(原審:東京地裁平成11年6月29日判決、平成8年(ワ)第5784号、控訴審:東京高裁平成11年12月16日判決、平成11年(ネ)第3800号)。なお、この事件について、たとえば、均等成立否定例(2)として、特許判例百選の第三版のp162‐163に紹介されています。  その実用新案登録請求の範囲の第1項の記載は、次のとおりです(カッコを付けて、符号を入れ、また、アンダーライン、色付けをしてあります)。 【請求項1】 吸水・吸臭層と止水層とを備える袖添付け部と身頃添付け部(3)とを吸水・吸臭層を外面側とし止水層を内面側に対向させて重合し、両添付け部を彎曲連結部(4)で相互に連結し、袖添付け部と身頃添付け部の内面側に両面接着テープを取り付け、袖添付け部と身頃添付け部(3)の縁部を前記彎曲連結部より曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状としたことを特徴とする脇下汗吸収パッド(1)。  併せて、登録新案第1957778号の第2図を示します。  この発明を分かりやすく説明するため、上の第2図を少し加工した図を示します。  今まで、この種のパッドの身頃添付け部(3)は、黄色で示すように三日月形状でした。そのため、明細書によれば、「袖繰りに層パッドの中央部では十分な汗の吸収面を確保することができるが、前端及び後端部に至るに従い吸収面積が急激に減少してしまい、脇の下全体に亘る吸収面の確保が困難であるという問題点」がある、とのことです。  その点、この考案では、「デザイン上の美観」をも考慮し、三日月形状よりも突き出した3つの彎曲を連ねた構成にしたようです。事件における一番の争点は、クレームの表現「前記彎曲連結部より曲率の小さな3つの彎曲を連ねた縁形状」、特には、「曲率の小さな」の解釈です。  原告サイドは、「曲率の小さな」は、「曲率半径の小さな」の明確な誤記であるとし、“曲率半径の小さな3つの彎曲”をもつイ号製品は、登録実用新案の技術的範囲に属すると主張しました。ここで、「曲率」は、曲線の曲がりの程度を示す用語であり、曲率が大きくなるほど湾曲が大きくなるのに対し、「曲率半径」は、曲率とは逆数の関係があり、曲率半径が大きくなるほど湾曲が緩やかになります。曲率と曲率半径とは、いわば ...
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 「施工面敷設ブロック事件」とは、特許第1997204号(特公平7-1121)に基づく侵害差止請求事件です(原審:東京地裁平成17年7月7日判決、平成16年(ワ)第7716号、控訴審:知財高裁平成17年12月28日判決、平成17年(ネ)第10103号)。  その特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりです(カッコを付けて、符号を入れてあります)。  【請求項1】 ネット(1)の経糸又は緯糸(1a)にブロック(2)の敷設面に設けた引留具(3)を通し掛けにして多数のブロック(2)をネット(1)に結合し、該ネット(1)を以って施工面に敷設する構成としたことを特徴とする施工面敷設ブロック。  併せて、特許第1997204号の第1図、第3図を示します。  この発明は、傾斜面などに、ブロック2を配置する手法として、ネット1および引留具3を利用する考え方であり、ブロック2を容易に敷設するための技術です。一番の争点は、「ブロック」にイ号の『自然石』が含まれるかという点です。  原審の地裁および控訴審の知財高裁は、本件明細書の中に「ブロック」に自然石を含むとの記載がないことなどの理由から、「ブロック」は人口素材による成形品を意味し、自然石を含まないとしています。  この点、この種の敷設工事において、敷設材料としてのコンクリートブロックを用いる例と、自然石を用いる例とがいずれも公知であったことです。したがって、クレームを作成する立場からすれば、この発明の「ブロック」がコンクリートブロック(人口素材)と自然石(自然素材)との両方を含むのか、そうでないかを明らかにすべきである、と考えます。実際の明細書の中には、「ブロック」として、セメントと砂の混錬物を主体としたもの、金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したもの、タイルやレンガブロック、木質製又は合成樹脂製ブロックを挙げています。いわば、成形によるものと解釈される例示です。  振り返って考えるに、この発明の一番の特徴は、弾力性あるいは良馴性のあるネット1を活用した施工技術にある、と理解されます。そのネット1と敷設素材(ブロック)2との接点が、引留具3になります。ここで、敷設素材(ブロック)2として、公知のコンクリートブロックのほか、自然石を入れて考えるかが問題です。発明を把握するとき、把握する人は、第1に、両方を含ま ...
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 「発明の秘訣」を語る題材の中に、コーヒーフィルターの発明があります。この「コーヒーフィルター」の発明を通して、発明の把握を考えます。  対象の発明は、二つです。一つは、実用新案出願公告昭52‐25427号公報に記載の第1の先行発明、もう一つは、実用新案出願公告昭60‐7626号公報に記載の第2の後行発明です。  まず、それらの各公報を参照しながら、第1の先行発明、および第2の後行発明を明らかにします。その手法として、各公報上の基本的な図と、使用された用語をできるだけ使用します。それによって、発明の捉え方の変化性(同じ発明でも、人によって捉え方が異なる)を感じ取ることができるだろうし、発明の捉え方が発明の財産的価値を高めること、別に言うと、発明の捉え方の中にこそ各専門家(弁理士)の腕の見せ所があることを知りうるからです。 第1の先行発明:    52‐25427号公報の第1図  この第1の先行発明では、「使用時におけるフィルターのケースからの取出し、開口あるいは使用後のドリッパーからの取出しを用意かつ簡便にするために」、『開口上周縁の適所に摘み突片2を突設、かつ、摘み突片2の対向上周縁に欠所3を切込み形成』しています。  この発明では、フィルターの収容ケースからの取出し、開口、ドリッパーからの取出しまでを通して「突片2」が有効に機能すること、を謳っています。『欠所3はそれらの効果を一層向上』と言っています。開口上周縁より突き出す摘み突片2と、対向する位置の、開口上周縁より下に切り欠いた欠所3との両方が必須という捉え方のようです。  この発明の基本的な考え方として、開口上周縁の対向箇所が、一般的に同じ高さに重なっていることをなくす、と捉える人もいるかもしれません。とすれば、突片2、欠所3の一方は不要と考えることもできます。また、別の人は、欠所3について、突片2の実質的突き出し量を大きくするもの、と理解するかもしれません。それらの理解の仕方により、クレームされるべき発明は、いろいろ変化します。そのような変化をコントロールしつつ、発明の把握を楽しむことができます。 第2の後行発明:    60‐7626号公報の第1図、第2図  この第2の後行発明では、「フィルター本体の上端周縁を開口させる場合、対向上端周縁間に指を差し込んで開口しなければならず、しかも各上端周縁がぴったり ...
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 2014年に携わった弁理士向けの研修のテーマとして、「発明の把握を考える」というものがありました。「発明の把握」は、技術的判断に通じるものであり、知財専門家の実力が発揮される主要な場であります。その研修のテキスト内容の一部を下に抜き出します。  「かつての発明の把握は、発明を内容的にうまくまとめる、あるいは整理する、ずばり言うなれば、「うまく」表現することでありました。「うまく」とは、発明を内容的にできるだけ広く捉えること、そして、表現が適切であることをいいます。そのような「うまく」は、今でも基本的には好まれています。  しかし、発明の把握を依頼する側は、今や、「うまく」まとめた内容では必ずしも満足せずに、把握する中味に、付加的なプラスの内容を求めます。プラスの内容は、発明者からの直接の情報にはなく、把握する過程で新たに生まれたものです。すなわち、今や、発明の把握には、新たな創造が求められています。  新たな創造は、新しい把握がもたらす必然的なモノではありますが、納得できるような創造を生み出すことは実際のところ困難です。そうであるため、その困難に打ち勝ち、新たな創造を生み、それによる喜びを得る、という目標をもって進みたいものです。」  このような趣旨に沿って、実際の研修では、二つの実例として、原木皮はぎ機事件の中の発明と、人口乳首事件の中の発明を取り上げました。前者の事件は均等論の適用、後者の事件は優先権の活用をする上で、考えさせられます。両者は、また、発明の把握の大切さを考えさせる事件でもあります。これら事件の発明とは別の発明を取り上げ、今一度、発明の把握を具体的に検討したい、と思います。なぜなら、発明の把握は、発明者による第1の創作である発明とは別の、第2の創作を生み出すものであるからです。取り上げる題材としては、このHPのかもめの便りにある「発明の秘訣」の中から選択する予定です。 ...
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 創作にかかわる主な知的財産権の存続期間(権利が生き続ける期間)は、次のとおりです。 特許権:特許出願の日から20年(特許法第67条第1項) 実用新案権:実用新案登録出願の日から10年(実用新案法第15条) 意匠権:設定の登録の日から20年(意匠法第21条) 〔著作権:創作の時に始まり、原則、著作者の死後50年(著作権法第50条)〕  産業立法に関する権利の存続期間は、現時点で最大20年です。この20という数値に関連し、TRIPS協定33条は、「保護期間は、出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならない。」と規定しています。同じ20年でも、特許権の存続期間よりも意匠権のそれの方が長いと感じる実務家がいます。それは、特許権の始期よりも意匠権のそれの方が一般に早く、そのため、権利の実質的な存続期間が長くなるからでしょうか。その点、早期審査の請求制度により、そのような違いをなくすこともできます。  しかし、産業立法に関する権利が存続期間をもつことには変わりありません。知財の実務家として、この存続期間にどう対応、あるいは対抗するかが一つの課題です。『技術には積み重ね性がある』とは、よく言われます。確かに、技術の流れとして、先の技術の上に立つ、いわば先の技術の土壌の上に後の技術が立つ傾向があります。したがって、後の技術を適正に把握するためには、先の技術を適正に把握することが大事になります。先の技術の把握の仕方により、後の技術(特許を受けるべき発明)が別のモノになることもあります。発明の把握は、把握すべき発明の内容だけでなく、元となる先の技術の把握も大いに関係します。その点、後の技術が(改良技術ではなく)全くの創作である場合も同様です。なぜなら、技術構成的には全く新しい技術であろうと、そのネライの点では先の技術と関連することが多いからです。存続期間に対抗するための最も一般的で大事な策は、適正な権利の取得を繰り返すことでしょうか。  ここで、著作権の存続期間が、特許権などのそれに比べて非常に長いことに気づきます。とすれば、著作権と特許権、著作権と意匠権とのように、異種の権利によって二重の保護を受けることも考えられます。その観点から、注目すべきTRIPP TRAPP判決(平成27年4月14日判決言渡、平成26年(ネ)第10063号 著作権侵害行為差止等請求控訴事件) ...
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 もう一つは、特許法第70条です。 ・特許法第70条 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。 2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載および図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。 3 前二項の場合においては、願書に添付した要約書の記載を考慮してはならない。  この特許法第70条は、もともとは1項のみでした。平成2年に3項が加わり、平成6年に2項が加わったようです。3項は、特許協力条約の第3条(3)「要約は、技術情報としてのみ用いるものとし、他の目的のため、特に、求められている保護の範囲を解釈するために考慮に入れてはならない。」と同じ趣旨です。それに対し、2項は、リパーゼ判決(最高裁平成3年3月8日判決)の後の改正、つまり、リパーゼ判決を考慮して加わったものであり、少し重みがあります。ただ、いわゆる青本は、「特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められることを原則とした上で、特許請求の範囲に記載された用語について発明の詳細な説明等にその意味するところや定義が記載されているときは、それらを考慮して特許発明の技術的範囲の認定を行うことを確認的に規定したものである。」、そしてまた、「本項は、特許請求の範囲に記載された個々の用語の意義の解釈について規定したものであるから、この規定により、(イ)特許発明の技術的範囲を発明の詳細な説明中に記載された実施例に限定して解釈することや、(ロ)発明の詳細な説明中に記載されているが特許請求の範囲には記載されていない事項を特許請求の範囲に記載されているものと解釈することが容認されるものでないことはいうまでもない。」と述べています。青本が述べることは、70条第1項のみが存在する従前からの考え方を述べただけであり、リパーゼ判決「・・・特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。・・・」の判示内容との関係までは言及していないようです。(ここに、特許法第70条に2項が追加されたことと、リパーゼ判決との関係については、特許実務家が考えるべきテーマの一つである、と考えます。)  リパーゼ判決は、クレームに記載された特許を受けようとする発明、つまり、発明の要旨の認定をするに際し、特段の事情がな ...
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 特許実務家にとって、クレームの作成は最大の難関であり、と同時に、喜びを得る格好の場でないでしょうか。クレーム作成に関する二大条文は、特許法第36条第5項と特許法第70条(第1項、第2項)です。特許実務家の多くが同じ答えをすると思います。また、クレームといえば、リパーゼ判決を連想する人も多いのではないでしょうか。小生も同様であり、かつて「リパーゼ判決の再考」というテーマで小論(内容的には、特許実務家から見たリパーゼ判決)をまとめたことがあります(パテント2007 Vol.60 No.5)。  二大条文を順次見てみましょう。 ・特許法第36条第5項:第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。  この規定は、平成6年の改正によるものであり、従前の請求項の概念「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項」を一変させています。これについて、いわゆる青本は、(イ)特許出願人が自らの判断で特許を受けることによって保護を求めようとする発明について記載するのであり、(ロ)そこに記載した事項は、特許出願人自らが「発明を特定するために必要と認める事項のすべて」と判断した事項であることが明確になる、と述べています。改正により、クレーム記載の制約をゆるめ、特許を受けるべき発明の記載をより適切にすることを狙っています。  しかし、改正後の特許業界を考慮する限り、この改正は、特許法第1条における「発明の保護」と「発明の利用」中、「発明の保護」に偏り、保護と利用とのバランスを欠くことになっている、と考えます。改正する側において、あまりに大きな「制約のゆるめ」を懸念し、別の特許法36条第6項第二号に「特許を受けようとする発明が明確であること」という防波堤を築いています。この防波堤は、特許法第36条第5項の基本的な壁をあふれた水を防ぐための機能をもつにすぎません。そのために、改正後に特許事務家になったほとんどの人が、クレームの記載の重大性を改正前ほどには認識せずに、本来のクレームではなく、特許クレームに似たクレームを書くことになるという事態を生じています。 ...
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 特許庁のHP上の統計速報から、最近の出願状況を見ます。  平成30年1月~4月の数値に着目します。特許は、108,498であり、昨年の数値111,646に比べてほぼ同等(あるいは低下傾向)です。とすれば、一年間の総出願件数として、32万前後という横ばいが予想されます。実用新案、意匠も低い値での横ばいです。ただ、商標は、特許に次いで大きな数値です。  このような数値を前にして、考えることがあります。第1には、出願をコア業務とする弁理士への影響、特に専門業務を扱う弁理士のステータスの低下を心配します。同時に、この出願低迷の原因を模索せざるを得ません。出願低迷の原因追及は、知財の一大テーマであると思います。  日々特許公報や審判決例に触れる弁理士の一人として、出願低迷の原因の一つとして、知財専門家の実務力低下を感じています。その点、特許を例にして問題を提起しますが、他の意匠や商標でも同様の問題があるのではないでしょうか。  特許では、特許を受けるべき発明を明らかにする、クレームや明細書の記載が問題です。発明者は、一般に、自己が創案した技術を発明として捉えることに困難を覚え、しかもまた、創案した技術を的確に表現することにも困難を覚えるともいわれます。勿論、発明者の中には、それらの考える技術および表現する技術に長けた人もいますが、それは例外です。  そこで、「知財専門家」による第1の誤解は、発明者が創案した難しい技術をそれなりに、あるいはできるだけ詳しく表現することが一番大事だと考えることです。そのような表現は、単なる技術の表現にすぎず、AIなどの機械が得意にする作業だと思いませんか。  知財専門家が表現すべき内容は、単なる技術ではなく、技術的思想であり、しかもまた、先行技術を越える技術的な特徴をもつ有用な技術です。したがって、技術的思想の観点からの言及、特には、個性的な見方が伴う言及が必要であるし、何を特徴的な技術事項とするかという特許的な見方を伴う把握が必要ではないでしょうか。そのような観点や見方があるからこそ、弁理士の喜びおよびやりがいがあるのではないでしょうか。  出願低迷の現状を打破するため、私たち知財専門家は、『発明』および『特許を受けるべき発明』の意味をじっくりと検討すべきである、と考えます。知財専門家が、難しい技術を単に表現しているだけでは、「弁理士の手数料 ...
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 「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が、平成30年5月23日に可決・成立しました。その中に、改正商標法第10条第1項の規定があり、その施行日は平成30年6月9日です(商標登録出願の分割要件が強化されます/経済産業省 特許庁)。  平成30年改正商標法第10条第1項に基づく商標登録出願の分割の要件は、次のとおりです。改正により、(5)の要件が加わるようです。 (1)親出願が審査、審判若しくは再審に係属していること。 (2)子出願が、親出願の商標と同一であること。 (3)子出願に係る指定商品・指定役務が分割直前の親出願に係る指定商品・指定役務の一部であること。 (4)子出願に係る指定商品・指定役務が、子出願と同時に手続補正書によって親出願から削除されていること。 (5)親出願の出願手数料が納付されていること。  この改正の背景の一つとして、「親出願の手数料を納付せずに」分割出願をする人がいる、と聞きます。確かに、この(5)の要件により、そのような分割出願を適正な土俵に上げずに済ますことができます。  しかし、少し変だとは思いませんか? 第1に、この(5)の要件を加えるとすれば、同時に、(6)子出願の出願手数料が納付されていること、という要件も追加されるべきです。その点、片手落ちの改正ではないでしょうか。 それ以上に、(5)の要件は、本来的に、(1)の要件に吸収される、あるいは潜在的に含まれるものである、と考えるべきです。とすれば、前記した不適正な分割に対しては、(1)の要件の運用で対処すべきである、という考え方が出てきます。  小生は、(5)の要件を加えるという改正を肯定的には理解することができません。複数ある分割の要件の中で、(5)の要件だけが浮いてしまっているからです。(1)~(4)の他の要件に重みを感じるのに対し、追加の(5)の要件に、同様の重みを感じることができません。  このような規定上の問題だけでなく、日々の知財実務の中で、私たち知財の専門家は、それぞれの条件あるいは要件の重みや意義を考えつつ、実務にあたるべきではないでしょうか。 ...
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 KSR判決を検討することによって、いくつかの教訓を得ることができました。それらの教訓の二三を記し、再考の筆をおきたいと思います。 【第1の教訓】  USP第6,237,565号特許成立までのUSPTOにおける引用文献は、航空技術に関係する二件のUSPのみであり、内容的にも少し離れた技術のようです。そこには、裁判における第1引用文献であるAsano特許は、何ら取り上げられていません。この現実をまず直視しなければなりません。最も関連する引用文献の抜けという事態は、しばしば経験することです。このことは、特許実務の一番の死角です。その死角は、発明の捉え方が十分でないことに起因していると思います。  Asano特許の技術内容を顧みるとき、その技術は、いくつかのレバーを含み、機構的に少し複雑です。そのため、その技術内容の中に、第1の考え方、ペダルの回転支点(ピボット)を不変としつつ、ドライバの身長の違いに応じるよう、ペダルの前後位置を適正に調整する考え方、を見出すことは難しかったのかもしれません。また、裁判における第2の引用文献であるRixson特許は、’565号特許の明細書中に明示されています。その点からすると、なぜ審査で考慮されなかったのか、疑問です。 以上の事情から、私たち弁理士は、常日頃、発明の把握の実務力を自ら向上させるという努力を惜しまないようにしたいものです。 【第2の教訓】  地裁、最高裁が’565号特許発明の非自明性を否定しているのに対し、CAFCは非自明性を肯定しています。CAFCの肯定の論拠として、’565号特許における解決課題が引用文献に見出されないことを挙げています。その解決課題とは、先に挙げた第3の考え方、ペダルアームが所定のピボット回りに回転する形態により、二種類の技術を組み合わせた際の技術的な問題を避けるという考え方(別に言うと、よりシンプル、より小さな、より安価な電気的あるいは電子的な制御装置の提供)です。  しかし、’565号特許発明のクレームには、その第3の考え方に直接関係する技術的事項を見出すことができない、と考えます。  CAFCは、’565号特許のそのような解決課題に関連し、Rixson特許におけるワイヤ破損の問題に言及しています。この言及は、’565号特許のクレームに明確な限定があってこそ意味をなすものです。  「ワイヤ破損の問題 ...
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 問題の’565号特許のクレーム4の発明と、主文献のAsano特許との技術的な差異は、今までの検討の結果、クレーム4の発明の記載上、赤で示すことができます。  4. A vehicle control pedal apparatus (12) comprising:  ・a support (18) adapted to be mounted to a vehicle structure (20);  ・an adjustable pedal assembly (22) having a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18);  ・a pivot (24) for pivotally supporting said adjustable pedal assembly (22) with respect to said support (18) and defining a pivot axis (26); and  ・an electronic control (28) attached to said support (18) for controlling a vehicle system;  ・said apparatus (12) characterized by said electronic control (28) being responsive to said pivot (24) for providing a signal (32) that corresponds to pedal arm position as said pedal arm (14) pivots about said pivot axis (26) between rest and applied positions wherein the position of said pivot (24) remains constant while said pedal arm (14) moves in fore and aft directions with respect to said pivot (24).  言い換えますと、Asano特 ...
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 非自明性に関する規定は、次に示す35U.S.C. 103です。なお、この規定も、先願主義への移行を含む”America Invents Act”(2011年)により一部変更されています。 35U.S.C. 103 “A patent for a claimed invention may not be obtained, notwithstanding that the claimed invention is not identically disclosed as set forth in section 102, if the difference between the claimed invention and the prior are such that the claimed invention as a whole would have been obvious before the effective filing date of the claimed invention to a person having ordinary skill in the art to which the claimed invention pertains.  Patentability shall not be negated by the manner in which the invention was made.”  この規定103条は、102条のいわゆる新規性の規定を充足する場合であっても、クレーム発明と先行技術との差異が、クレーム発明が全体として当業者に自明であるほどのものであるのなら、特許をうけることができない、と述べています。この内容について、「差異が自明」であるか否かを問題にするような翻訳や解釈がありますが、それは誤りです。「クレーム発明が自明であるような差異」であるか否かが問題であるからです。  そこで、非自明性については、  ア 「差異」の検討、そして、  イ その「差異」が「クレーム発明が全体として当業者に自明であるほどのもの」といえるか否かの検討  を通して、判断がなされます。  経験的に、技術的に有効あるいは有意な「差異」を見出すことが、非自明性をクリアする上で最も大切です。なぜなら、そのような有意な「差異」は、「クレーム発明が~自 ...
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 関連する第2の特許文献は、USP第5,819,593号のRixson特許です。その’593号特許のFIG.1を参照しながら、Rixson特許が示す内容を検討したいと思います。  ’593号特許の図1を、下に示します。図の理解を容易にするため、大事な部分の名称、色を添えてあります。  Rixson特許は、ドライバの身長の大小に応じて、ペダルの位置を前後に調整可能な技術です。その点、この特許は、背景技術において、座席シートを前後動に調節する場合と、ペダル自体の位置調節との関係に触れています。このRixson特許は、ブレーキやスロットルなどの従前のケーブルを含む機械的機構に対し、電気的な信号に基づく制御を行っています。すなわち、特許では、”electronic or drive-by-wire signal in response to pivotal movement of the pedal assembly”と表現し、ペダル装置の回転に応じて電気信号を生じることを明記しています。ここで、”drive-by-wire”とは、運転者の操作力を機械式に制御部分に直接伝えるのではなく、電気信号としてワイヤあるいはハーネスを通してアクチュエータを動かすシステムです。  Rixson特許では、ペダル48およびペダルアーム46を含むペダルアセンブリ16は、キャリアアセンブリ12上、回転軸50によって支持されています。そして、ペダルアセンブリ16を支持するキャリアアセンブリ12は、ガイドロッド10cを含むサポート構造10にガイドされつつ、前後に移動可能になっています。サポート構造10は、ダッシュパネル22、つまり車体側に固定されています。  Rixson特許において、ペダルアセンブリ12のペダル48を踏み込みと、回転軸50の回転量をポテンショメータ60が検知し、あるいはアウトレット60dから電気信号として出力します。  このRixson特許は、ペダル48の踏み込みによる回転軸50の回転量に応じる電気信号を出力し、その出力によりスロットルを適正に制御することを示しています。したがって、Rixson特許は、問題のクレーム4の発明の構成中、もう一つの関連文献1であるAsano特許が示さない、電子スロットル制御技術の構成を示していることが分かります。  そこで、次回においては、Asano ...
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 関連する第1の特許文献は、USP第5,010,782号のAsano特許です。その’782号特許のFIG.1を参照しながら、Asano特許が示す内容を検討したいと思います。  ’782号特許の図1を、下に示します。図の理解を容易にするため、大事な部分の名称、色を添えてあります。  Asano特許は、ドライバの身長の大小に応じて、ペダルの位置を前後に調整可能な技術です。その点、USPの背景技術からも明らかです。このAsano特許は、ペダルが関係する車両の操作システムとして、ブレーキ、アクセル、クラッチなどを示しています。  Asano特許では、特に、ペダルを前後に調整した際の、ペダルフィーリングの問題を解決することを課題にしているようです。  上の図は、ブレーキ作動に適用した実施例を示し、ペダルアーム38の一端のパッド39を踏み込むことにより、ブレーキ作動ロッド26を通してブレーキを作動する場合を示します。ドライバの身長の大小に応じて、ペダルアーム38を前に出した状態(実線)と、後ろに下げた状態(鎖線)とを示しています。ペダルアーム38は、ピボットピン6を支点に回転しますが、回転支点であるピボットピン6は、車両側の固定ブラケット2に支持されています。したがって、ペダルアーム38が前後動するとき、ペダルアーム38が主体のペダルアセンブリの回転支点は不変あるいは不動です。  このAsano特許は、ピボットピン6を中心に回転可能な三角形状のレバー4のほか、レバー4に連結されたZ形状の調整レバー12、さらに、調整レバー12に連結されたリンク部材20を備えます。それらのレバー4、調整レバー12およびリンク部材20によって、前後調整に伴うペダルフィーリングの問題を解決しているようです。  Asano特許は、別の実施例であるアクセルの場合にも、ペダルパッド39の踏み込みがあると、機械的なケーブルあるいはロッドを通して、車両のブレーキやスロットルを制御することを示しています。  したがって、このAsano特許は、ドライバの身長の大小に応じて、ペダルアームを適正に前後動させて調整することを示し、その前後動調整の間に、ペダルアームの回転支点を不変にすることを示しています。言い換えると、Asano特許は、問題のクレーム4の発明の構成中、電子スロットル制御部を除くすべての構成を示していること ...
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 問題のUSP第6,237,565号特許のクレーム4について、主要な図面を参照しながら、技術的な特徴を確認しよう。なぜなら、非自明性あるいは進歩性を検討するとき、検討対象の発明、および関連文献の各発明、それらの両方を理解することが大事ですから。  ’565号特許の図2を、下に示します。図の理解を容易にするため、大事な部分の名称を入れ、部分的に色を添えます。  この図2は、ドライバの身長の大小に応じて、ペダルアーム14を前に出した状態(実線)と、後ろに下げた状態(鎖線)とを示しています。ペダルアーム14は、ガイドロッド62にガイドされつつ前後動しますが、その移動の間、ピボット24の位置は不変あるいは一定です。  ピボット24は、車両構造20に関して可調整ペダルアセンブリ22を回転可能に支持しています。その点、黒字で示すサポート18、ブラケット46、ケーブルアタッチメント78は、車両構造20に対して、いわば一体です。  前後の位置調整を終えたペダルアーム14を踏み込むと、ペダルアーム14は、ピボット24の軸26回りに回転し、ピボット24に応答して電子スロットル制御装置28を作動します。  ここで、予告になりますが、この特許発明の非自明性について、基本的には、二つの特許文献が問題となりました。一つは、USP第5,010,782号のAsano特許です。Asano特許は、USPTOでは何ら引用文献として挙がることがなかったようですが、裁判の段階で初めて取り上げられたようです。このAsano特許は、ドライバの身長の大小に応じるための技術、すなわち、ペダルアームを適正に前後動させて調整する技術を明らかにしているとのことです。そしてまた、Asano特許は、前後動調整の間に、ペダルアームの回転支点を不変にしているようです。言い換えると、Asano特許は、問題の特許の内容中、電子スロットル制御部を除くすべての構成を示す立場にあるようです。  もう一つの特許文献は、USP第5,819,593号のRixson特許です。Rixson特許は、Asano特許が示さない電子スロットル制御部を示しているようです。そこで、問題の’565号特許は、Asano特許とRixson特許とを組み合わせることにより、非自明性の要件を欠くという論理が生まれることになったわけです。その論理における一番の争点あるいは検 ...
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 前回の5月19日付の小論の中で、「その3の考え方が、その1、その2における特定のピボットの域を超えたものをもたないのではないか」という疑問を提起しました。ここでは、その疑問について、考えてみました。  その結果、問題のUSP’565号特許のクレーム4の記載に少し明確さに欠ける記載があることに気づきました。第1の記載部分は、・an adjustable pedal assembly (22) having a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18)の中の“a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18)”の表現の部分です。この表現は、「サポート(18)に関してペダルアーム(14)が前後に動くこと」を言っています。その内容は、ペダルアーム(14)を含むペダルアセンブリ(22)が車両構造(20)に支持されるサポート(18)に回転可能に支持されている場合(’565号特許が示す内容)だけでなく、車両構造(20)に支持されるサポート(18)とは別の部材に支持されている場合(’565号特許が示さない内容)をも含むことになります。  この第1の記載部分は、それ単独では大きな問題とはならないかもしれません。しかし、別の個所の第2の記載部分との関係から、不明確さを増幅します。第2の記載部分とは、特徴を示す記載部分の中の“while said pedal arm (14) moves in fore and aft directions with respect to said pivot (24) ”の表現の部分です。この表現は、「ペダルアーム(14)がピボット(24)に関して前後に動く間」を言っています。ピボット(24)はペダルアセンブリ(22)の回転支持部ですから、どうしたらペダルアーム(14)をピボット(24)に対して前後に動かすことができるかを理解することができません。すなわち、クレームの記載上、ペダルアセンブリ(22)の一構成要素であるペダルアーム(14)をピボット(24)に対して前後に動かすための構成が特定されていない ...
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 KSR判決で問題となったのは、USP第6,237,565号特許、あるいはEngelgau特許のクレーム4です。 そのクレーム4は、次のとおりです(・は、分かりやすくするために、小生が付けました。)。  4. A vehicle control pedal apparatus (12) comprising:  ・a support (18) adapted to be mounted to a vehicle structure (20);  ・an adjustable pedal assembly (22) having a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18);  ・a pivot (24) for pivotally supporting said adjustable pedal assembly (22) with respect to said support (18) and defining a pivot axis (26); and  ・an electronic control (28) attached to said support (18) for controlling a vehicle system;  ・said apparatus (12) characterized by said electronic control (28) being responsive to said pivot (24) for providing a signal (32) that corresponds to pedal arm position as said pedal arm (14) pivots about said pivot axis (26) between rest and applied positions wherein the position of said pivot (24) remains constant while said pedal arm (14) moves in fore and aft directions with respect to said pivot ...
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 KSR判決といえば、特許実務家のだれもが知るキーワードです。ただ、一般的には、その判決の概要を知るにとどまる人がほとんどのようです。別に言うと、判決内容の実際的な意味まで理解する人は少なく、ましてや実務に生かすような検討まではなされていない、と見受けられます。この感触は、「KSR判決」というキーワードによるネット情報を探った結果です。  すなわち、典型的な特許実務家がもつKSR判決とは、 (1) USP第6,237,565号特許、あるいはEngelgau特許のクレーム4に関した争いであり、 (2) 侵害を訴追する側は、排他的ライセンスをもつTeleflex Incorporatedおよびその子会社Technology Holding Company(これらをTeleflexという)、侵害を訴えられる側はKSR International Company(これをKSRという)であり、 (3) 一番の争点は、’565特許が、35U.S.C.§103、つまり、発明の非自明性要件をクリアするか否かであり、 (4) その争点について、地裁では、非自明性要件を欠き特許は無効という判断、CAFCでは、TSMテストから、逆に特許は有効という判断、そして、上告を受理した最高裁では、TSMテストは柔軟に適用されるべきという観点から、結果的に地裁と同様の特許無効の判断がなされ、 (5) 一般的に、非自明性要件の判断基準が、日本や欧州のレベルに少し近づいた という印象を与える判決です。  最高裁判決やそれに基づく論評を読んだとしても(主には、法的な観点から理解したとしても)、上のような(1)~(5)の知識を得ることはできるが、それらの知識を特許実務、特には非自明性あるいは進歩性(容易想到性)の判断に活用することは困難です。特許実務に有効に活用するためには、KSR判決が包含する具体的な事実、判断などを検討することが必要と考えます。いわば、KSR判決を特許実務に生かすための再考が必要のようです。  そこで、 ・’565特許の内容検討、 ・関連する特許文献の内容検討、 ・’565特許の非自明性要件の検討などを通して、 ・非自明性要件あるいは進歩性要件の判断のポイント を追求したいと思います。 ...
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 特許は国際的であり、特許には翻訳が付き物です。特許実務家であれば、翻訳、つまりは特許翻訳について必然的に考えることがあるのではないでしょうか。小生も例外ではありません。普段から考えることが多く、だいぶ前には、特許翻訳について考える‐文系が考えること、理系が考えること‐というテーマのもとに、知人と小論をまとめたこともあります(パテント2001 Vol.64 No.9)。  今回は、特許翻訳の教えの一つ、「パリ条約による優先権主張を伴う、パリルートの出願では、Mirror Translation(ミラー・トランスレーション)は必ずしも必要でないが、PCT国際出願の場合には、逐語訳のMirror Translationが必要である」ということを話題にしましょう。この教えは、今ではまさに誤った言い伝えとなりました。なぜなら、日本国特許庁の審査基準上、今では「逐語訳」という表現がなくなり、原文全体の記載のほか、その記載から自明な事項をも考慮することによって、原文の記載事項を判断するという取り扱いになったからです(たとえば、審査基準の第2章 外国語書面出願の審査の「原文新規事項」や「翻訳文新規事項」の各項参照)。この取り扱いは、補正に伴なういわゆるニューマターのそれと同様です。かつて、ある用語XYZが出願当初の明細書等に使用されていない限り、補正すべき表現の中にXYZという用語を含ませることができませんでした。XYZが当初明細書等の記載にないという理由の下に、そのXYZがニューマターと判断されていたからです。その後、当初明細書等にXYZという表現が見られないとしても、XYZという補正が認められるようになりました。当初明細書等の実際の記載内容のほか、その記載内容から自明な事項を含む記載内容の全体から見て、XYZが当初から記載されていると判断されるようになったからです。  記載内容の全体から見て判断するという考え方は、特許翻訳に対する考え方として的を得ています。なぜなら、原文に対する翻訳表現は、翻訳者ごとに異なるのが通例だからです。すぐれた翻訳者であればあるほど、用語XYZが使われる全体の記載内容を考慮しながら、XYZおよびそれを含む事項に対するより適切な翻訳表現をすることになるからです。「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、特許翻訳においては、『森を見ながら木を見る』 ...
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 特許をはじめとした知財実務に日々携わっていると、いろいろな疑問に出くわします。多くの実務家は、そのような疑問を深くは追及しないかも知れません。  しかし、私たちは、そのような疑問を大事にし、その疑問の根源が何かを追求し、その疑問に対する適切な答えを自ら考え模索したい、と考えます。なぜなら、そのような疑問にこそ、より良い知財システムや、より適切な知財実務などへのヒントが隠されていると信じるからです。  疑問あるいは考えるテーマは、大小いろいろあります。現時点において、たとえば、 ・商標登録出願の件数が増大しているのに対し、特許出願の件数が低迷しているのはなぜだろう?  ・AIが弁理士業務にどのような影響を与えるのだろう?  ・欧州におけるProblem-and-solution approachと日本の進歩性(容易想到性)の判断にどのような違いがあるのだろうか?  ・弁理士の手数料は高いといわれるが、その適切な額はいかに? ... などがあります。  大きなテーマを上げすぎたきらいがありますが、いろいろなテーマについて、時には、立ち話的に、また時には、小論文的に記載あるいはメモする欄、それがこの『知財実務研究』の場です。 ...
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