かもめ塾 「取っ手付きのコーヒーカップ」

「取っ手付きのコーヒーカップ」(2018.08.03起案~2018.09.30更新)

 

コーヒー好きの発明者からの提案名です。それには、図面が添付されています。

 そこに明示されているのは、
 ・カップ1の側壁に取っ手2が付いた形態です。
 ・取っ手2には、両端が閉じたクローズドタイプ(A)と、一端が開いたオープンタイプ(B)とがあります。
 そして、取っ手2は、カップ1内のホットコーヒーの熱さを避けるためだ、と提案書は言います。
 さて、ここで、調べた結果、そのような取っ手2を備えたコーヒーカップが今まで存在しないことを前提として話を進めます。

的確な情報収集のQ1

 よい特許を取るためには、発明者や知財担当者から的確な情報を収集することが大事です。提案書には、一部の情報が記載されているだけのことが多く、大事な情報が隠されていることが常です。 

 そこで、
Q1 発明者の中に隠された情報をいかに引き出すか? また、どのような情報を引き出すか?
 を検討しましょう。

情報引き出しのA1

 発明提案書は、発明者がもつ発明情報のすべてを明らかにするものではありません。知財専門家は、限られた発明情報の検討や、発明者との面談などを通して、まずは、発明の全体像や特徴を理解しなければなりません。
 提案書は、「カップ1内のホットコーヒーの熱さを避けるため」に「取っ手2」を設けた、と言っています。とすれば、だれもが「取っ手2」が一番のポイントであると理解することでしょう。「取っ手」とは、一般的に、手に持つように取り付けた部分を意味します。カップは、手に持ってコーヒーなどを飲むものであり、カップ自体が容器としての機能と、「取っ手」としての機能を果たしていた、と考えられます。
 そこで、「取っ手2」について、カップ自体の取っ手機能との違いを詳しく知りたいところです。したがって、「カップ1」と「取っ手2」との関係、「取っ手2」自体の構造などを追求したい。ここで、「取っ手2」の役割、「カップ1内のホットコーヒーの熱さを避けるため」の点を併せて、明らかにしたい。特に、「熱さを避けるため」のメカニズムを問題としたい。メカニズムを特定することによって、「取っ手2」の構成を概念的に特定できるからです。
 このメカニズムについて、ある人は”放熱”を主因とし、別のある人は、『熱伝導路を小さく、あるいは熱伝導に対する抵抗を大きくする』と考えることでしょう。メカニズムを確認する意味で、「どのようにして熱さを避けるのですか?」あるいは、「なぜ、取っ手2により熱さが避けられるのですか?」の質問は必須だと思います。また、同時に、クローズドタイプとオープンタイプとの違いをさらに明確にする質問も必要であることは確かです。
 以上のことは、誰もが考えることかもしれません。ただ、「取っ手2」の基本的な意義、あるいは、「取っ手2」と「カップ1」との関係、「取っ手2」によって、熱を避ける意義については、この発明を特徴づける点から、不可欠な質問事項です。
 また、明細書に記載すべき事項の観点から、質問事項を引き出すこともできます。取っ手付きコーヒーカップの発明は、発明の構成要素として、カップ1の本体と、取っ手2と、カップ1-取っ手2の接点が問題になります。明細書に記載すべき内容として、量的に、たとえば、カップ1:取っ手2:接点=2:5:3の割合が妥当と考えます。そのような割合を参考にして、各構成要素ごとに、それぞれの視点から、より具体的な質問を出すことも良策です。それにより、必要な情報を論理的に引き出すことができます。
 以上によって、取っ手付きコーヒーカップの発明について、提案書にはない、いろいろな発明情報を得ることができることでしょう。

的確な情報整理のQ2

 そこで、次には、
Q2 得られた発明情報をいかに整理するか? すなわち、特徴を見出すために、発明情報をいかに整理するか?
 を検討しましょう。

情報の有効な整理のA2

 発明者から得る発明情報は、担当する知財専門家によって異なる、といっても良いかも知れません。なぜなら、発明者の中に隠された情報が多く、その多くの情報から知財専門家が意図的に情報を引き出すからです。知財専門家の意図は、通常、特許を受けようとする発明を特定するため、発明の特徴をあぶり出すことにあります。したがって、意図自体は、どの知財専門家でも共通しています。しかし、知財専門家の個性、考え方、コミュニケーション力には、大きな違いがあります。その点、知財専門家は、心して、情報の引き出し力を向上させることを考えるべきです。特許を受けようとする発明は、引き出された情報に基づいて特定されることから、情報の引き出し力の大切さを忘れてはいけないと思います。

 さて、本論に戻り、情報の整理について考えましょう。発明者からの発明情報を整理する目的は、特許を受けるのにふさわしい特徴を分析しやすい状態を作り出すことです。その目的を考慮すると、発明情報を考え方として、整理することが妥当です。「取っ手付きのコーヒーカップ」は、目に見える構成要素として「コップ1」と「取っ手2」とを含みます。しかし、それを技術的な考え方、つまり、ネライ+手段を明示した考え方としてみると、「取っ手付きのコーヒーカップ」は、次のような考え方として整理することができます。
 第1の考え方:まず、コーヒー(飲料)を入れる「コップ1」という容器に「取っ手2」という、「コップ1」とは異なる役割をもつものを加えるという考え方
 第1の考え方をさらに具体的に展開し、他の考え方を見出すことができます。
 第2の考え方:「取っ手2」を単に持つための部材と考えることにより、「コップ1」に対し、「コップ1」を持つための「取っ手2」を加えるという考え方
 第3の考え方:「取っ手2」をコップ1内のコーヒーの熱さを避けるための部材として捉える考え方
 これらの各考え方において、「取っ手2」における「クローズタイプ」と「オープンタイプ」との技術的意義や、「取っ手2」の構成や数などを特定することをも考えます。その結果についても、考え方として捉えることが妥当です。なぜなら、発明自体が技術的な考え方であるからです。

 「取っ手2」自体が複数の役割をもつ第1の考え方をとるとき、「取っ手2」の役割を明らかにすること、「取っ手2」の構成を具体的に特定する、たとえば、「コップ1」の壁面から出っ張った部分であるなど、ことが必要です。そのため、発明者のコメントを追加的に求めることが必要になることもあるでしょう。その点は、第2や第3の考え方をとるときでも同様です。情報を整理する段階で、発明者に技術事項について確認を求め、あるいは、意見を求めることが往々にしてあるからです。

 以上のように、発明者からの発明情報を整理した後、特許を受けるべき発明としての把握をすることになります。

的確な発明把握のQ3

 そこで、次には、
Q3 整理した発明情報に基づいて、特許を受けるべき発明をいかに的確に把握するか? すなわち、クレームすべき発明をいかに作り出すか?
 を検討しましょう。

クレーム作成のA3 その1

 特許を受けるべき発明を検討するとき、発明情報についてさらに検討をします。その検討は、経験的に、いくつかの視点から行うことが必要です。たとえば、視点として3つを上げることができます。
 第1の視点は、どのような技術的思想を基本にするか?
 第2の視点は、新規性や進歩性をクリアするための特徴あるいは違いを何にするか?
 第3の視点は、どの点で特許を受けたら、技術的範囲を有効に拡大することができるか?
 これらの視点については、たとえば、『明細書について先輩から後輩へのアドバイス -仮想発明「コロンブスの卵」を題材として-』(パテント2007、Vol.60 No.10)においても取り上げたことです。

 さて、A2を経て、発明情報を考え方として整理しました。基本的な第1の考え方は、飲料コーヒーを入れる「コップ1」に対し、「コップ1」とは役割あるいは機能が異なる「取っ手2」を加えることです。この第1の考え方を明確にするためには、「取っ手2」の役割/機能を特定することが必要かと思います。発明者が言う「取っ手2」の役割/機能は、「コップ1」内の飲料の熱さを避けることです。しかし、「取っ手2」の役割/機能は、そのほかにも考えられます(たとえば、持ちやすくする、デザイン的な飾り、その他)。「取っ手2」の役割/機能の捉え方により、「取っ手2」自体の構成も変わることでしょう。

 特許を受けようとする発明を明確にするためには、一般的に、「取っ手2」の構成を特定することが必要です。そこで、「取っ手2」の構成を特定するために、「取っ手2」の役割/機能をより具体的に検討し分析することになります。

 ある人は、熱さの元になる飲料からより遠い位置、つまり、「コップ1」の壁面から離れたところに位置した部材が「取っ手2」であると規定することでしょう。それを言い換えて、「コップ1」の外側壁面から突き出た部材が「取っ手2」である、という人もいるでしょう。突き出た「取っ手2」は、「コップ1」に対して目立ち、「コップ1」の飾りとしての機能をも生み出すことでしょう。同じ構造/構成について、人により捉え方が異なります。それが、クレーム作成のおもしろさの一つです。

 また、クローズドタイプおよびオープンタイプは、両方とも指が入るスペース(空間)を持っているようです。持ち手としての「取っ手2」に、この指が入るスペースが必須か否かをも検討することになります。そのスペースがあれば、「コップ1」を持ちやすくすることができます。しかし、「コップ1」を持つための部材として、そのスペースは必須とはいえません。逆に、「スペース」を発明の必須要件とすれば、「スペース」のない「取っ手」を抑えることができません。

 クレーム作成に際しては、そのほか、「取っ手2」の数、取付け位置や形態、などについても検討します。そのような検討の視点、検討の内容は、経験的に、クレーム作成者ごとに異なります。それがクレーム作成者の力、個性に通じることは言うまでもありません。ここでは、クレーム作成者の心の一隅を示しました。

 これに続く、「A3 その2」では、クレームすべき発明についてさらに言及する予定です。

クレーム作成のA3 その2

 特許を受けるべき発明、あるいはクレーム化すべき発明が次第に収束してきました。発明のポイントである「取っ手2」について、発明者が言う「飲料の熱さを避ける」役割/機能を、飲料を入れる「コップ1」の外側壁面から突き出た部材と捉えることになりました。端的には、熱さを避けるために、熱さの元から離れるという考え方です。しかし、コップの装飾のため、コップの壁面に多少なりとも凹凸をもつ形態は知られていることでしょう。

 そこで、『突き出た部材』をチャレンジングな技術的特徴として位置づける手もありますが、『突き出た部材』をさらに特徴付けることが妥当です。『突き出た』という特徴に加える付加的な特徴として、第1には、その部材が『持つため、あるいは指で支えるため』の部材とすることがスムーズな捉え方です。なぜなら、発明者自身の「熱さを避ける」は、手指を通して感知する熱さを前提としているからです。

 そして、『持つため、あるいは指で支えるため』の部材について、「コップ1」との関係から、「取っ手2」のあり方を特定することが妥当です。たとえば、「コップ1」と「取っ手2」との材料の同一性、「コップ1」に対する「取っ手2」の配置、指に対して適正な形態、さらには、飲料容器の面からの要望など、多くのことを思考することになるでしょう。そのような思考の結果、メインクレームに記載すべき発明に対し、それをバックアップあるいは取り囲む実施態様的な発明が自ずと明らかになってきます。

 このような把握あるいは思考の過程において、留意すべきは、発明が技術的思想であることから、個々の検討についても、コップや取っ手というモノとして捉えるのではなく、「考え方」として捉えることです。その捉え方は、権利化する段階における新規性や進歩性の判断や、万が一の技術的範囲の属否判断を客観化する上で大変有益です。
 以上の結果、特許を受けるべき発明を捉えることができました。

的確な発明表現のQ4

 そこで、次には、
Q4 把握した発明をいかに的確に表現するか? すなわち、クレームや明細書において、発明をいかに表現すべきか?
 を検討しましょう。

クレームや明細書の的確な表現のA4

 特許分野だからと言って、特殊な文章表現があるわけでない、と信じます。文章には読み手がいます。クレームや明細書の読み手は、世の一般の方、発明者、特許担当者、審査官、審判官、裁判官など広汎です。技術的にも法律的にも素人から玄人にまで及びます。そのような広汎な読み手を考えるならば、できるだけ分かりやすい表現をすべきではないでしょうか。この点、日本国のほか、各国の特許関連法規を繙いて、あるべき表現について、自らの考え方を模索することも大事です。

 例えば、特許協力条約(PCT)関係の規定を参考にすることが考えられます。なぜなら、その条約には、加盟各国の合意事項が盛られているからです。PCT上の明細書とクレームに関する規定を記します。

Article 5
The Description
The description shall disclose the invention in a manner sufficiently clear and complete for the invention to be carried out by a person skilled in the art.
Article 6
The Claims
The claim or claims shall define the matter for which protection is sought. Claims shall be clear and concise. They shall be supported by the description.

 これらの規定を何度か繰り返して読むと、次の数点が心にしみませんか?
① 3C、つまり、”Clear”, “Concise”, “Complete”の3つのキーワード。
② 表現の対象は、”Invention”
③ クレーム(Claims)と明細書(Description)との関係

 これらのうち、①については、テクニカルライティングに関する多くの書籍が語っています。そこで、それらに自ら当たり、自分に合ったものを選択し参考にすることができます。問題は、②と③です。これら②と③については、法的な面からの記述は特許法の書籍に見られますが、実務的には、非常に淡白な内容です。実務の専門家に有益な内容を見出すことが困難です。そのため、実務家は、②と③については、自らの考える課題にし、自ら検討すべきである、と経験的に考えます。したがって、このA4は、自ら考えることをアドバイスすることによって、まずは終わります。各自が考えた結果に基づいて、皆で意見交換し、お互いがさらに向上する機会を持ちたいものです。かもめ塾は、適宜そのような機会を提供したい、と考えています。

以上で、「取っ手付きのコーヒーカップ」についてのHP上での説明が一段落します。
次には、この事例についての自らのクレーム案を片手に、議論する場を持つ予定です。
HP上で案内しますので、ご期待ください。
また、かもめ塾は、別のテーマの下で展開予定です。

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