ブログ

知財専門家の実務力を考える

 知財専門家は、知的財産の適正な保護を図るため、日々自己研鑽に励み、実務力の向上を図っていると思います。しかし、「実務力」とは何でしょう、そして、その「実務力」の向上を図るには何が必要なのでしょう。そんなことを考えたことがありますか?

 実務とは、実際の業務であり、実務力は、その業務を適正に行う力ということができます。知的財産の業務は、狭いようで広いです。その中で、最も一般的な業務は、提供される知的財産の情報に基づいて、その有効かつ適切な権利化のための仕事です。小生が理解する限り、そのような知的財産の業務は、一般的に、次のような段階を経て展開します。

第1段階:提供される知的財産の理解
第2段階:関連する知的財産の調査および抽出
第3段階:密接に関連するものとの比較検討
第4段階:権利化すべき内容の特定

 これらの複数の段階の作業を経て、知的財産の業務は一段落します。そういえば、特許出願などの審査を行う作業手順も同様の段階を踏んでいる、と理解されます。審査を含め、複数の段階を含む作業のすべてを一人の人が行うことは少ないかもしれません。各段階の作業を分業化するとき、分業した作業を依頼する相手に適切な指示をするなどの付加的な注意が求められます。「実務力」には、そのような指示のための力も含まれます。

 分業までのことを考えると、「実務力」の内容に混乱を生じます。そこで、以下においては、考える対象を少し絞り、一人の特許実務家が、提供された発明を権利化する業務内容から、経験を踏まえて「実務力」を考えます。

 第1段階は、提供される発明の理解です。発明を技術内容的に正確に理解することが前提になります。正確に理解するためには、ある程度の技術的な基礎知識のほか、相手の話を理解する力、あるいはコミュニケーション力が求められます。そして、提供する側は、すべての情報を明らかにすることがないことに留意することが必要です。隠された情報の中から、権利化する上で有効な情報を引き出す力が大事になります。とすれば、この第1段階の力を発揮するためには、相手の情報を引き出すコミュニケーション力、そしてまた、相手の信頼を得る、情報の多角的な見方が求められます。

 第2段階は、関連する発明の抽出です。自らが調査をする場合でも、調査専門家に作業を委ねる場合でも、調査対象を的確に特定することが求められます。発明が技術的思想であることから、同じ構成要素が発明ごとに異なる技術的意義を生じます。したがって、構成要素を理解するとは、その構成要素の構造や形態のほか、その発明の中で生じる技術的意義をも知ることです。前者の構造や形態は、技術的事項の表面的な理解で済みますが、後者の技術的意義については、発明の目的あるいは課題を考慮して考えることになります。ですから、キーワードを中心に検索する場合、構造や形態に係るワードのほか、技術的意義に係るワードの選択をすることが求められます。とすれば、この第2段階の力には、特定の構成要素について、発明との関係から技術的意義を見出すことが特に大事になります。

 第3段階は、関連する先行技術と比較検討し、違いを見出す思考作業です。この思考作業では、前の第2段階と同様、構成要素を理解するとき、その構成要素の構造や形態のほか、その発明の中で生じる技術的意義からの検討が大事になります。経験的に、審査で引用される引用文献は、構成要素の構造や形態の観点からのものが多いため、技術的意義の観点からの違いが大いに有効です。ただ、審査関係者を含む多くの特許専門家は、技術的意義の観点からの違いを“違い”と認めない傾向があります。そのため、技術的意義の違いを構成要素の構造や形態の違いに変換する思考作業も求められます。総じて、この第3段階では、技術的意義の違いを見出す力、および技術的意義の違いを構成要素の構造や形態の違いに変換する力が大事になります。

 最後の第4段階は、権利化すべき内容の特定です。この特定は、第1段階~第3段階の技術的あるいは特許的な観点からの検討結果だけでなく、提供する側が保護を求めるべき内容をも考慮した結果です。提供する側の要望については、コミュニケーションによって得ることができるのではないでしょうか。したがって、第4段階では、そのようなコミュニケーションの力と、検討結果を適切に表現する力とが大事になると思います。

 以上は、発明の権利化を中心に展開しましたが、他の知的財産においても、提示された情報を適切に理解すること、違いを見出すということ、などの基本は同じではないだろうか、と考えます。小生の経験では、何度も思考を繰り返すことによって、ある気付きを見出し、その気付きから違いを見出すことが多いです。

関連記事

  1. 「知的財産に関する専門家」の喜びを再び考える
  2. クレームの中の句点
  3. 「ニューマター」に思う
  4. 出願公開の請求に思う
  5. 特許出願の分割を考える
  6. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-無効審判
  7. 特許における記載要件を考える
  8. 進歩性の難しさに打ち勝つ
PAGE TOP