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スキンケア技術のある発明

 「スキンケア方法」という、拒絶査定不服審判事件の審決の結論は、「原査定を取り消す。本願の発明は、特許すべきものとする。」です(不服2018-7269)。そして、その発明のメインの請求項1と、それに続く請求項2の内容は、次のとおりです(特許第6754546号公報から、一部色を染めています)。

 身近な者が、いわゆるエステに関係していることから、小生は、スキンケア技術に興味を覚えます。その点から、この「スキンケア方法」の事件の経過を追った結果、発明の把握や審査の難しさを感じています。そのような感じを抱いている中で、上の請求項1および2について検討したいと思います。

 まず、請求項1および2の記載を通して、このスキンケア技術がもつ技術的特徴をピックアップし、順次検討していきましょう。なぜなら、各発明は、一般的に、技術的意義を生じる、技術的特徴を備えているのが常であり、その技術的意義あるいは技術的特徴に新しさがあることにより、特許が許されるからです。

 第1は、“海藻抽出物を含む、頭皮用化粧料”です。

 ‘海藻’ということから、今TVコマーシャルで見る‘柑橘類’とは異なります。このスキンケア技術では、海藻や柑橘類その他の材料の中から、特に‘海藻’を選択しています。その選択に技術的意義があるのでしょうか。特に、‘スキンケア効果’を知る上で、‘海藻’が有意義なのかも知れない、と思います。

 しかし、“海藻抽出物を含む、頭皮用化粧料”は、この特許の出願前からよく知られています。たとえば、特開2003-81861号公報は、海藻抽出物を含む、頭皮マッサージ剤を示しています。したがって、中心となるスキンケア効果との関係で、特別な‘海藻抽出物’が何らかの技術的意義を生じることがない限り、‘海藻抽出物’の限定は、この特許に力を与えることはない、と思います。

 第2は、“塗布された被施術者の頭皮へのマッサージ”です。

 この頭皮マッサージについても、一般的には、技術的意義を見出すことができません。なぜなら、塗布しないドライマッサージや、塗布するウェットマッサージも周知の技術と理解されるからです。ここでも、上の特定の頭皮マッサージが、‘スキンケア効果’との関係で、新しい技術的意義を生じない限り、この特許の力にはならないと思います。

 第3は、“施術前後の手の温度の差異によって、スキンケア効果を表示すること”です。

 この点、小生が一番気になることは、なぜ“手”(あるいは“顔”)なのか、です。今問題のコロナ禍を回避するための検温対応について、顔の額や首筋、さらには手などを検温個所にしているように、その内容は余りにも一般的に思われます。

 また、この第3の技術内容については、それ以上に、気にかかることがあります。一つに、“スキンケア効果”の意味が理解しにくいことです。通常、スキンケアとは、肌の状態を良好にするためのケアを意味すると思います。そのため、スキンケア効果が何を意味しているかが疑問であるし、温度の差異とスキンケア効果とがいかなる関係があるかも疑問です。

 さらに疑問は尽きません。この特許の出願人が、特許文献4として、国際公開WO2012/096081を提示し、しかも、その先行文献が‘頭皮マッサージの施術の前後の顔の物理的性質の変化に基づき前記マッサージの効果を評価’について示していることを紹介しています。この先行文献を見ると、物理的変化の一つとして、顔の温度を示しています。このような点からすると、先行文献の‘顔’と請求項1の“手”との違いにこそ、審判官は、新しい技術的意義を認めたのでしょうか。頭皮を含むマッサージにより、全身の血行が良くなることは周知であること、検温個所として、顔や手が一般的であることを考えると、上の審判官の判断に疑問を感ぜざるを得ません。

 以上、スキンケア技術の一つの発明から、発明の捉え方について参考になるであろうことを紹介しました。発明は新しい技術的意義を生じるものであることを今一度思い出し、あるいは考え直し、特許を受けるべき発明を把握することを願うばかりです。そしてまた、審査する側にも、その観点からの見方を大事にして欲しいと願います。

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