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ある判定事件から学ぶ-その2

 「ある判定事件から学ぶ」という先のコラム(July 25, 2020)において、判定2019-600036号事件を紹介しました。その判定請求の対象の登録実用新案は、登録第3208933号の「ツインボトル」です。このボトル技術は、上段のボトルと下段のボトルとを、肩部分でネジ結合することにより、上段、下段のボトルを結合、分離できるようにしたものです。

 この登録実用新案の肝になる点は、二段重ねのボトル間をネジ結合により結合、分離することのようです。しかし、この判定事件において、請求人(イ号ボトルに関与する者)のみならず、被請求人(権利者)、そして、審判体のいずれもが、一番大事な特徴である“結合、分離をネジ結合で行うこと”の技術的意義について実質的な判断がなされていません。その点、イ号ボトルに関与する請求人が、それに言及しないことが一番の問題です。また、判定制度は職権主義をとりながら、そのような肝の部分に触れないことも問題ではないでしょうか。

 問題の根源は、無審査主義をとる実用新案制度自体にあると思いますが、イ号ボトルが登録実用新案の技術的範囲に属するか否かを判断するに際し、登録実用新案の一番大事な構成部分の技術的意義を明らかにしないこと自体、専門的な視点からは理解しがたいことです。いわば、土俵の上でとるべき相撲を土俵下でとっているように見受けられます。

 二段ボトルのボトル間をネジ結合で行うこと自体については、特許情報プラットフォームJ-PlatPatを活用することにより、即座に知ることができます。ボトルを二段重ねにすることが、たとえば、登録実用新案第3192506号などにより知られているように、多段のボトルをネジ結合で結合、分離することも、たとえば、登録実用新案第3011203号により知られています。後者の‘203号公報の中の主要な図を次に記します。

 この図は、携帯用粉ミルク容器の技術であり、取出し部14をもつ各容器1を多段に配列し、上下に隣り合う容器1同志をネジにより結合、分離するようにした技術を示します。黄色で染めた部分が、ネジ結合の個所を示します。

 上下の容器をネジ結合により結合、分離する考え方に新しさがないことを知れば、前記した「ツインボトル」の登録実用新案:つまり、「円柱状の2つのボトルから成り、上下に配置・構成される容器であり、二つのボトルを上段になるボトルの内ネジと、下段になるボトルの外ネジにより結合、及び分離することのできる特徴をもつ飲食物収容用途の容器」の実質的な技術的範囲は限りなく狭まるかも知れません。

 狭まった登録実用新案の技術的範囲の中に、イ号ボトルが属するか否かが判定の本来の判断内容です。そのような視点で判定内容を吟味し検討しなければ、本来実施できる技術事項を制限することになり、特許法の目的を損ねることになってしまいます。

 この「ツインボトル」の判定において、対比すべき発明あるいは技術を肝の面において対比判断することが必要であることが分かります。その‘肝の面での対比’は、判定のみならず、特許性、特許価値、など特許のあらゆる場面での判断に通じます。肝の面で勝負、あるいは土俵上で勝負の心構えの下で、業務に励みたいところです。これに先行するコラムの〆の文言は、『真に価値がある内容について権利を取得することがなければ、また、真に問題である内容について判断されなければ、その制度の意義が薄れることを肝に銘じたいところです。』でした。“肝”でつながっています。

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