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「ファイル」の発明の捉え方

 身近な文房具として、書類を入れるためのポケットを複数含むファイルがあります。このファイルに関係する特許文献に出会いました。中心となる文献は、特願2010-107221号(特開2011-104984号、特許第5633053号)です。この出願には、第1世代から第4世代にわたる4つの分割出願があります。原出願および4つの分割出願は、特許を受けるべき発明の捉え方を学ぶ良い教材になります。

 原出願には、先行技術文献として、実開昭55-99880号公報が唯一挙がっています。次の図は、その先行技術の中の一つの図(第1図)です。

 この先行技術は、結果的に拒絶査定になっていますが、まずは、その技術内容を簡単に説明します。このファイルは、表紙(表版5)の内側に、複数枚を積層した合成樹脂製ポケット6を含みます。積層したポケット6は、中央の溶着部の部分で表紙5に溶着されています。上下の電極間に電気あるいは超音波のエネルギーを加えることにより、溶着を行いますが、ここでは、積層したポケットを表紙側にめり込むように、押圧下、管柱状に行います。それにより、今までのナイフ状のものに比べて溶着強度を増すという技術です。

 それに対し、原出願では、この先行技術の問題点として、溶着部が背表紙にあることから、背表紙の幅を狭くすることができないという問題、および、書類を入れたときに、溶着部の方に近い側が自由端の方に比べて膨らんで厚くなってしまうという問題などを挙げています。次の二つの図は、原出願の中の図であり、一方が原出願における基本的な実施例を示し、他方が、上の先行技術を背景にして、原出願の発明が解決しようとする問題を示しています。

 原出願における最終的なメインクレームは、次のとおりです。

 このメインクレームでは、「ポケットの複数枚を一単位」として、「幅方向に位置をずらして溶着」という記載があります。「位置をずらす」ということから、溶着部が複数あることが理解されます。そして、溶着部が複数あるとすれば、「一単位」のポケットも複数群あると一般には理解されます。とすれば、先の先行技術のように、大きなポケットの中央付近の互いに隔てた部分に、並ぶように平行な溶着部を配置したものは、上のメインクレームの技術的範囲に入らないのではないか、という疑問が出ます。また、先行技術の場合のように、積層した複数枚のポケットを、溶着部において表紙側にめり込ませるように溶着する場合、つまり、溶着部の厚さが小の場合と、溶着部の厚さが大の場合とでは、膨らみ方の様相も変わるのではないでしょうか。

 製本するとき、背表紙の部分の断面形状を円弧形状にすることにより、本を開きやすくしています。それと同様に、ファイルにおける膨らみは、積層するポケットの溶着の位置あるいは高さを制御することにより緩和することができるのではないでしょうか。そのようなポケットの溶着の位置あるいは高さは、溶着すべき相手方の形で決まります。とすれば、ポケットを溶着すべき相手方である表紙体の内面形状によって大きな影響を受けるはずです。

 そのような見方からすると、上のメインクレームは、ポケットを溶着すべき相手方の形などを何ら特定していません。メインクレームの技術内容あるいは技術的範囲をより明確にするためには、特許を受けるべき発明の把握を今一歩深めることが求められるのではないでしょうか。ここでも、発明の把握の大切さを思い知らされます。

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