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「白砂青松事件」を考える-付録

 先の8月16日付けのコラムでは、平成30年(ネ)第10045号(平成30年11月28日判決言渡)の商標権侵害行為差止請求控訴事件について、下記の標章を中心に考えました。

 しかし、この事件では、複数の標章の侵害が問題になっています。問題になった他の標章は、次のものです。これも、上の標章と同様、判決文から抜粋しました。

 この標章は、先のものと非常に似ています。違いといえば、図形部分の色合いと、文字部分の「大観」と「白砂青松」との配置の点に見出すだけです。この後の標章について、商標登録出願がなされています。その出願は、拒絶査定になり、拒絶査定不服審判(不服2017-12309)においても、‘本件審判の請求は、成り立たない’との結論です。審判体の判断中、商標法第4条第1項第11号の引用商標「白砂青松」に対し、本願商標の捉え方は、次のとおりです。

 『本願商標は、別掲のとおり、絵画と思しき絵柄(以下、「図形部分」という。)とその上に毛筆体の文字(以下、「文字部分」という。)を配してなるものである。
 そこでまず、本願商標全体についてみると、視覚上、その文字部分と図形部分とは、分離して看取されるものであり、文字部分と図形部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているというべき事情は認められない。
 次に、文字部分についてみると、中央の文字部分は、「白砂青松」の文字であると容易に判読できるものの、左端の文字部分は、読み仮名がなければ「大観」の文字であると判読できない程度の毛筆体で書されている。
 また、図形部分の左端には、きわめて小さく表示した落款と思しきものが表示されているが、これも読み仮名がなければ「大観」の文字であるとは判読できない。
 そうすると、本願商標の構成中、容易に判読できる「白砂青松」の文字部分が需要者に対して強く支配的な印象を与えるものといえるから、本願商標から「白砂青松」の文字を抽出し、この部分を他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。
 したがって、本願商標からは、その構成中、「白砂青松」の文字部分より、「ハクサセイショウ」の称呼及び「白い砂と青い松」の観念が生じるというのが相当である。』

 審判体は、図形部分と、「大観」「白砂青松」の文字部分とを含む本願商標について、視覚上、図形部分と文字部分とを分離し、しかも、文字部分は「白砂青松」は容易に判読できるのに対し、「大観」は判読できない形態であるから、文字部分から「白砂青松」を分離することができる、と判断しているようです。この審判体の判断は視覚上の観点からの認識に基づいていますが、商標は他との識別のためのマークである点からすると、疑問が残ります。

 「白砂青松」(一般的には、‘ハクシャセイショウ)とは、白い砂と青い松をイメージさせる美しい海岸の景色を表す用語です。とすると、見る人に対して、文字部分である「白砂青松」も、’はくしゃせいしょう‘を表す図形部分も、両方ともに“白砂青松”を想起させます。そして、絵画の中の“大観”という署名は、文字部分の「大観」と同じと理解されることから、全体として、「大観」の「白砂青松」という思いを抱かせる、という見方も出ます。要は、文字部分の「大観 白砂青松」も、「大観」の署名のある“白砂青松”の図形部分も、両方ともに’大観の白砂青松‘を表しているという見方です。この見方からすると、本願商標から「白砂青松」を分離することは妥当ではなく、本願商標は「白砂青松」とは非類似という判断が出てきます。

 結合商標についての分離の可否を語るとき、商標が何か、あるいは商標の機能は何かを今一度再考することが必要ではないか、と考えます。

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