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「白砂青松事件」を考える

 平成30年(ネ)第10045号(平成30年11月28日判決言渡)の商標権侵害行為差止請求控訴事件は、結合商標の結合性あるいは不可分一体性を考えさせる事件の一つです。

 被控訴人は、「白砂青松」という標準文字からなる商標権をもちます。“白砂青松”とは、一般的には‘ハクシャセイショウ’と読みますが、場合によって、‘ハクサセイショウ’と読むこともあるようです。美しい海岸の景色を表す用語であり、白い砂と青い松とのある海岸をイメージさせます。そのような「白砂青松」の文字商標に対し、商標権侵害が問題となった標章の一つを、上の判決文の中から抜粋します。

 「大観」と「白砂青松」という筆文字(これらは、横山大観の自筆とのこと)の部分と、その下の黒枠内の図形部分との結合標章です。ちなみに指定商品は「日本酒」であり、その点について争いはないようです。

 この結合標章(結合商標)は、上部の6文字の文字部分と下部の図形部分との結合と、「大観」と「白砂青松」との文字同士の結合が関係します。これらの結合について、知財高裁は、“不可分的に結合しているとは認められない”と判断しました。

 判決文に現れる理由は、次のとおりです。まず、『「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は、図形部分と重なっていないこと、「大観」の文字部分は図形部分の長方形の黒色の枠線からやや離れた上方に配置されていることから、長方形の黒色の枠線で囲まれた図形部分と「大観」文字部分及び「白砂青松」の文字部分は、明瞭に区別して認識することができる。』とし、その上、『図形部分の左下部には毛筆体で縦書きした「大観」の署名及び落款印の印影が表記されており、図形部分は、横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画を図形化したものであることが認められるが、横山大観作の上記絵画が、原告商標の指定商品「日本酒」の需要者である一般消費者の間に広く認識されるに至っているものと認めるに足りる証拠はないことに照らすと、需要者の多くは、図形部分の風景画は、「白砂青松」の文字部分から連想、想起させる風景を描いたものと認識することはあっても、横山大観作の上記絵画であると認識するものと認めることはできないし、「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は、図形部分の絵画の作者が横山大観であり、その作品名が「白砂青松」であることを表示するものとして図形部分と一体的な関係にあると認識することもできない、そうすると、図形部分と「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は、分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。』次に、「大観」と「白砂青松」の文字部分について、『「白砂青松」の文字部分は、「大観」の文字部分よりも大きな文字で、標章の上部中央に表示され、「大観」の文字部分は「白砂青松」の文字部分よりもやや上方に位置していること、「大観」の文字部分を構成する文字と「白砂青松」の文字部分を構成する文字は、字体が異なり、文字の間隔は「白砂青松」の文字部分の方が広いことに照らすと、「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は、明瞭に区別して認識することができるから、分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。』、と言及しています。

 裁判所は、文字部分と図形部分との結合について、文字部分を分離し、さらに、文字部分の中から「白砂青松」の部分を分離することが妥当であるとしています。裁判所が示す理由について、いくつか思うことがあります。

 一つは、その理由の中に、複数の結合要素を不可分にするためのヒントが含まれていることです。たとえば、互いに離れた要素同士を互いに近づけたり、あるいは重ね合わせたりすること、また、文字同士については、字の大きさや間隔、配置などを揃えること、が不可分性を高めることになるようです。

 もう一つは、文字部分における「大観」と、図形部分の左下部における落款についての理解の仕方の点です。文字部分の「大観」は、読みにくい字体で書かれていますが、その読みにくい字体の「大観」は、落款における「大観」の署名と同一であると理解されます。「日本酒」の需要者である一般消費者であっても、書や絵画の署名には十分に留意するのが常です。文字部分における「大観」が落款の署名と同じであることによって、需要者は、文字部分における「大観」と「白砂青松」との不可分性を感じることでしょう。「大観」という署名のある図形部分が、「大観」による作であることを認識するからです。前記の知財高裁では、「分離抽出を認めること」をあくまで肯定的に解釈したうえで、判断をしていると理解されます。その点、結合商標の分離について、リラ寶塚事件やつつみのおひなっこや事件の最高裁判決が参考になります。小生は、これらの両最高裁判決が、「分離抽出を認めること」を表に出すものではなく、分離抽出に寛容な今までの実務に警鐘を鳴らすため、分離抽出する上での制限事項あるいは留意事項を挙げていると解する方が妥当だと考えます(たとえば、拙著「REEBOK ROYAL FLAG事件の波紋」、パテント Vol.73 No.7)。

皆さんは、いかがお考えでしょうか。

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