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ある判定事件から学ぶ

 ここ10年(2010年から2019年)間の特許判定事件は、数的には21から97の範囲です。2016年が97ですが、そのほかは40を越えることがありません。判定制度は、ADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決手続き)のような紛争解決機能はもちません。この判定制度は、技術的範囲についての見解を出すことにより、ADRを補完することが期待されます。その点からすると、今の判定制度は、特許の有効性について判断が及ばないなど、紛争解決機能の点からすれば、中途半端な位置づけにあります。

 ごく最近の判定事件として、判定2019-600036号事件に出会いました。この事件は、飲料などを入れるボトル技術であり、技術的に理解し易く、読み人に特許実務を見直す場を提供します。そこで、この判定事件を検討することにより、特許実務について少し考えたいと思います。

 判定請求の対象の登録実用新案は、登録第3208933号の「ツインボトル」です。判定公報から、代表図と請求項1を抜粋します。

 このボトル技術は、青に染めた上段のボトルと、紫に染めた下段のボトルとを、赤で示す肩部分でネジ結合し、上段、下段のボトルを結合、分離できるようにしたものです。

 このような登録新案のボトル技術について、まずは、明細書を通して客観的な理解を試みます。残念ながら、明細書には先行技術が何も記載されていません。明細書中に関連の先行技術あるいは考え方が記載されていないとき、一般的に、クレームされた内容は漠然としています。漠然とは、権利に値する特徴があやふやであることを意味します。このボトル技術では、“上段ボトルの内ネジと下段ボトルの外ネジで結合、分離することができること”が特徴のようです。‘内ネジ’と‘外ネジ’とは相対的なものですので、“上段に内ネジ”と限定する意味が分かりません。容器本体に蓋をネジ止めするとき、蓋側のネジが外ネジよりも内ネジの方がネジ止めしやすいことは分かります。しかし、上下段は相対的です。上下を逆立ちにした状態でネジ止めすれば、ネジ止め操作は同様になります。また、‘内ネジ’と‘外ネジ’とは、ボトル容器の外側に位置しますので、その位置が結合、分離の上で利点を生んでいるとも考えられます。

 正直なところ、ボトルなどの容器を二段にあるいは二段重ねにすることは周知です。周知の構造において、重なりを支持する部分は一般的に外側のはめ合いです。とすれば、このボトル技術の特徴は、結合、分離をネジ結合で行う点にあるようです。したがって、この“結合、分離をネジ結合で行う”ことに技術的意義を見出すことができるかが大事です。それについては、特許情報プラットフォームJ-PlatPatを活用することにより、即座に知ることができます。

 今回の事件の場合、請求人(イ号ボトルに関与する者)のみならず、被請求人(権利者)、そして、審判体のいずれも、一番大事な特徴である“結合、分離をネジ結合で行うこと”に言及していません。とすれば、この判定においては、実質的な判断が何もなされていないことになってしまいます。このような事態を生む、今の判定制度には明らかに改善すべき余地がある、といわざるをえません。

 一方、イ号製品は、次のとおりです。青に染めた上段のボトルと、紫に染めた下段のボトルとを、赤で示す肩部分でネジ結合し、上段、下段のボトルを結合、分離できるようにした構成です。この構成は、登録実用新案のボトル技術と同様であり、違いといえば、下段のボトルにおける外ネジがボトルの蓋に設けられている点です。この点、審判体は、クレームに“外ネジ”の設定個所について限定がないことから、蓋に設けた外ネジは、“外ネジ”に含まれるとし、イ号製品は、登録実用新案の技術的範囲に属する、との結論を出しています。

 この件、紛争解決の視点からすれば、一番大事な特徴である“結合、分離をネジ結合で行うこと”に新しさがあるか、権利に与えるにふさわしい技術的意義があるか、を明らかにしなければならない、と思います。それができないことは、今の判定制度の改善すべき点の一つと考えます。なお、上の新しさや技術的意義については、明細書の工夫、判定の請求の仕方の工夫などによって、充分に明らかにすることができることはいうまでもありません。

 真に価値がある内容について権利を取得することがなければ、また、真に問題である内容について判断されなければ、その制度の意義が薄れることを肝に銘じたいところです。

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