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物のクレーム中の方法表現

 特許庁の特許審査基準が、物のクレーム中の方法表現(いわゆるププロダクトバイプロセスの関係ではなく、一般的な表現)を認めていることをご存知ですか。第Ⅱ部第2章第3節の明確性要件の中の2.3留意事項の中に、次の記載があります。
『~出願人が請求項において特許を受けようとする発明について記載するに当たっては、種々の表現形式を用いることができる。
例えば、「物の発明」の場合に、発明特定事項として物の結合や物の構造の表現形式を用いることができるほか、作用、機能、性質、特性、方法、用途その他の様々な表現形式を用いることができる。同様に、「方法(経時的要素を含む一定の行為又は動作)の発明」の場合も、発明特定事項として、方法(行為又は動作)の結合、その行為又は動作に使用する物その他の表現形式を用いることができる。
他方、~~、上記の種々の表現形式を用いた発明の特定は、発明が明確である限りにおいて許容されるにとどまる。』

 ここで、このコラムのテーマである“物のクレーム中の方法表現”は、基本的に認められますが、その表現が認められる条件として、「発明が明確であること」があります。クレーム作成者にとって、表現の自由度が増すことは大歓迎です。しかし、「発明が明確であるか否か」の判断は、クレーム作成者だけでなく、審査官その他の特許関係者のだれにとっても難しい事項です。発明の明確性をクリアすることができるようなクレーム作成や、発明の明確性を的確に判断することは、経験豊かな特許関係者にとっても難しいことだと思います。なぜなら、発明が何であるかを知ること自体が難しいからです。

 身近な特許を例にして考えてみましょう。特許第6696090号は、コーヒーメーカーの発明、つまり、物の発明ですが、そのクレームの中に、方法表現が見られます。特許公報から、ただ一つの請求項1を次に抜き出します。


 このクレームを一読する限り、タンクや制御手段を含むコーヒーメーカーを前提とした発明であり、その特徴は、特定の蒸らし工程および抽出工程にあるようです。小生も、コーヒーを愛する人間であり、蒸らしてから抽出、徐々に抽出量を増やすという、コーヒー抽出の古典的な一般知識はもっています。このクレームの記載からすると、この発明は、コーヒーメーカー付属の制御手段の制御の仕方に技術的な特徴があるように見受けられます。

 さらに見ると、発明の詳細な説明の中に、密接な先行技術が記されています。その先行技術は、今や特許第6060798号になっています。その特許公報から、請求項1のみを抜き出します。なお、この’798号特許には、コーヒーの抽出量に応じて、蒸らしや抽出の制御を適正化する内容のサブクレームがあります。

 この先行技術においても、制御手段により蒸らし工程および吐出工程とを行います。蒸らし工程の後における湯の滴下が抽出工程になるようです。

 この先行技術との比較によると、前記’090号特許の発明は、制御手段の制御方法に特徴があることが理解されます。その特徴は、ポンプの断続的な作動、蒸気又は湯の段階的な増加にある、と理解されます。ということは、発明自体の特徴がコーヒーメーカーという物にあるわけではなく、物が備える制御手段の制御方法にあると考えることができます。とすると、よく言われる発明の属するカテゴリーが不明確ではないか、という疑問が生じます。前記’090号特許は、審査段階で審査官、審判段階で3人の審判官の目に触れました。しかし、発明が不明確ということは、それらのどの段階でも問題にされませんでした。そこに、今の特許制度の問題点が潜まれているのではないでしょうか。

 発明の明確性の有無を判断するとき、クレームの記載内容の中に、その発明の技術的特徴が明確に記載されていない限り、発明明確性の判断は、あやふやになりがちだと思います。明細書の記載の中から、その発明の特徴は自然とあぶり出されます。そのあぶり出しの結果がクレームに現れます。特徴が明確なクレームを作成するように努めることと、明確な特徴を理解したうえで特許性の判断を行うこととの両方が相俟ってこそ、特許制度を適正に機能させることができると信じます。

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