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「発明の把握」という用語

 「発明の把握」という用語は、特許の実務を語る際のキーワードです。小生は、この用語が示す内容こそ、実務の良否を決める一番の要素である、と確信しています。なぜなら、「発明の把握」は、特許実務の広範囲の場に姿を現し、その内容によって、特許の価値を定めるからです。「発明の把握」の中の「発明」は把握する対象を示し、「把握」はしっかりとつかむことを意味します。“しっかりとつかむ”とは、正確に理解することですが、「発明の把握」の場合には、その目的に沿った「把握」が求められます。たとえば、出願に際しては、発明者が納得する内容であり、保護の範囲が予想できる内容の把握、また、中間処理に際しては、無用な限定のない内容であり、特許化に向かう内容の把握、さらには、審判や裁判においては、判断主体が理解可能な内容であり、勝つことができる内容の把握、がそれぞれ求められます。

 「発明の把握」については、この知財実務研究の中でも、多くのコラムの中で触れています。発明者による発明が第1の創作であるのに対し、「発明の把握」は第2の創作である、と小生は考えます。第1および第2の創作は、ともに新しい価値を生み出します。そこで、特許実務の力の向上を図ろうとする者は、生み出すべき新しい価値が何かを考えることになります。その新しい価値は、複数の人に共通するものもあるだろうし、その人の個性に基づく特有の価値もあると思います。したがって、新しい価値は、人により変化します。この価値の変化は、特許実務の面白さの一つである、と考えます。

 価値を考える上で、把握の対象である「発明」を知ることが大事です。法学者の清瀬一郎博士著の特許法原理のなかに、『発明者ハ「自然力利用ノ思想」ヲ発明スルモノナリ、「物」ヲ発明スルニアラス』という一節があります。この言は、特許実務者の目からすれば誤りです。正しくは、“発明者は物や方法に化体した発明をするが、特許の保護対象の発明は技術的思想であるから、弁理士を代表にした特許実務者は、発明者の発明を技術的思想として把握することになる”、と翻訳します。このことは、発明者との長年のコミュニケーション経験に基づきます。

 しかし、清瀬先生の言は、特許実務者に対する金言です。発明者による発明は、通常、物に化体した技術として提案されます。その物に化体した発明に接する特許実務者は、その物の中に、少なくとも数個の考え方を見出します。そして、各考え方に対し先行技術という照明を当てることにより、特許としての輝きを生む考え方を知ることになります。輝きを生む考え方に基づく特許を強力にするためには、考え方をさらに具体化し、分析し深化することが必要です。具体化や深化は、特許実務者一人では困難であり、発明者に対し協力を求めるのが妥当です。その結果、物に化体した発明は、鎧を着た技術的思想となります。発明の把握とは、そのような数工程を経た思考作業です。真の特許実務を求める者には、「発明の把握」のトレーニングが有効であり必須です。

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