特許実務を中心に行う小生にとって、商標実務は、特許に比べて論理的に明確に理解することができないことが多いです。テーマ中の用語「死角」は、そのような論理的に理解しがたいことを意味します。商標法4条1項11号の類否判断には、多くの「死角」があります。それらの「死角」の中に、たとえば、先願登録商標「SNOW WHITE」(指定商品:菓子及びパンなど)と後願登録商標「スノーホワイトアップルパイ」(指定商品:アップルパイ)とが非類似であること(2018年9月23日のコラム“商標権の禁止権”で紹介)、そしてまた、先願登録商標「海賊」(指定役務:飲食物の提供)と後願登録商標「海賊スパゲッティー」(指定商品:飲食物の提供)とが非類似であること(2019年10月1日のコラム“商標「〇〇」と商標「〇〇+役務名」との併存に思う”で紹介)、があります。なぜ、明確には理解できないかといえば、商品‘アップルパイ’に対して、「スノーホワイトアップルパイ」の要部は「スノーホワイト」ではないのか、あるいは‘アップルパイ’に対して「SNOW WHITE」の使用は、「スノーホワイトアップルパイ」との区別化ができないのではないか、また、料理‘スパゲッティー’の提供に対して「海賊」の使用は、「海賊スパゲッティー」との区別化ができないのではないか、という疑問があるからです。
そのような疑問を解消するため、同様の類否判断事例について調べ、現状の実務的な取扱いを把握することにしました。その結果を次にメモ的に記します。
先願 | 後願 |
「SNOW WHITE」:5273780T |
「スノーホワイトアップルパイ」:6067397T |
「海賊」:5732557T 飲食物の提供 |
「海賊スパゲッティー」:5970535T 飲食物の提供 |
「げんこつハンバーグ」:3364234T ハンバーグの提供 |
「げんこつ」:4676648T |
「爆弾ハンバーグ」:3002310T ハンバーグ料理の提供 |
「爆弾うどん」:5202655T 「ばくだんちゃんぽん/バクダンチャンポン」:5294754T 「ばくだんらーめん/バクダンラーメン」:5347429T 「ばくだんやきそば/バクダンヤキソバ/爆弾焼きそば」:5766941T |
以上の検討結果から、現状のプラクティス上、商標「〇〇」と商標「〇〇+役務(商品)」との併存のために、次のような事項が求められるようです。
(1)後願については、先願指定の役務/商品とは異なる内容、たとえば、下位あるいは具体的に絞られた内容が求められるようです。たとえば、菓子及びパンに対して「アップルパイ」、ハンバーグの提供に対して「ラーメン」などの別の特定、が求められます。
(2)上の(1)に関して、「海賊」、「海賊スパゲッティー」の場合、先後願ともに『飲食物の提供』という同じ内容になっている点、合点がいきません。“提供される役務のメニューと理解されること”を考慮した配慮がなされていないからです。誤審であると考えたいところです。
(3)「爆弾」の関係の商標には、『爆弾+役務』のみが権利化されていますが、その中に「爆弾」の権利が入り込む余地があると思われます。また、「げんこつ」の関係の商標において、『げんこつ亭』や『げんこつ堂』などの商標について、権利化可能です。
これらの結果からも分かるように、商標については(特許でも同様ではありますが)、判断主体によって、あるいは世の中の変化に伴って、権利化するための条件はかなり流動的です。自ら考える専門家にとっては、100%登録(別にいうと、審査が不要)の時代の到来といっても過言ではありません。
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