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商標「ゲンコツ」と商標「ゲンコツ〇〇」との類否

 皆さん、「ゲンコツ」に係る事件をご存知のことと思います。標準文字による引用商標「ゲンコツ」との関係で、標準文字による結合商標「ゲンコツメンチ」は非類似と判断されたのに対し(平成29年1月24日判決言渡し、平成28年(行ケ)第10164号)、筆字の結合商標「」は類似と判断されています(平成30年3月7日判決言渡し、平成29年(行ケ)第10169号)。コロッケ好きの小生にとって、メンチもコロッケも身近な同類の食品です。それにもかかわらず、メンチが結合した場合と、コロッケが結合した場合とにおいて、なぜ異なる判断がなされたのか、に興味を覚えました。そこで、裁判官の論理を追いながら、検討をすることにしました。なお、商標については、標章(マーク)と識別対象(商品)との関係が大事ですが、両事件ともに、識別対象(商品)についての争いはないようです。

 前者の「ゲンコツメンチ」と「ゲンコツ」との類似性の判断に際して、裁判所は、“リラ宝塚”、“SEIKO EYE”、”つつみのおひなっこや“の3つの最判を類似性の判断基準として挙げています。判決文中、小生が気になる記載を挙げましょう。第1に、『本件商標は、「ゲンコツ」の文字部分と「メンチ」の文字部分がいずれも辞書に掲載されている語であることから、その組合せであると解されるものではあるが、文字のみの商標であって、図形などとの組合せではなく、しかも、全ての文字が、標準文字で、一連に横書きされており、各文字は、同じ字体、大きさ及び間隔で、一体的に表記されている。』という点です。この部分の記載から見ると、裁判所は、”リラ寶塚“よりも”つつみのおひなっこや“の方を念頭にしているようです。そして、第2の点は、「メンチ」に関する記載であり、『「メンチカツ」を「メンチ」と略する旨の記載もある(甲7)が、その他に「メンチカツ」を「メンチ」と略することを裏付ける証拠はなく』というところです。それが、『「メンチ」の文字部分からは、出所識別標識としての称呼、観念が生じないとはいえない。』と結び付けているようです。その結果、それ自体が強く支配的な印象を与えるものとはいえない「ゲンコツ」の文字部分と、「メンチ」の文字部分とを分離することは妥当ではないとし、非類似の判断に至っています。

 一方、後者の「」と「ゲンコツ」との類否の判断について、裁判所は、『本件商標は、「ゲンコツ」と「コロッケ」の結合商標と認められるところ、その全体は8字8音とやや冗長であること、上記のとおり「コ」の字がやや大きいこと、「ゲンコツ」も「コロッケ」も上記の意味において一般に広く知られていることからすると、本件商標は、「ゲンコツ」と「コロッケ」を分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているとはいえないものである。』とし、分離観察により、類似との判断をしています。“不可分一体”という表現は、“リラ宝塚”の最判にあるものであり、この後者の事件の裁判主体は、判決文中には何ら明記はありませんが、(前者とは異なり)“リラ宝塚”の最判を念頭にしているようです。また、“つつみのおひなっこや”という10字の標章を考えると、「その全体は8字8音とやや冗長である」という言及に違和感があります。

 結合商標の分離観察については、前記した“リラ宝塚”、“SEIKO EYE”、”つつみのおひなっこや“の3つの最判の相互関係をいかに理解するかによって、分離観察の要否の判断が分かれると思います。その点、上に述べた裁判主体が、どのような理解をしているかについて明確には述べていないこと、その理解が判決文中に読み取れない点が気になります。皆さんは、両事件についての判断論理が妥当か否か、そしてまた、二つの判決が結合商標の分離観察について互いに異なる考え方をとっている否か、についていかがお考えでしょうか?

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