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特許における三審制

 三審制とは、訴訟制度を語る用語であり、第1審の判決に対して第2審(控訴)、第3審(上告)の2度の不服申立て、つまり、第1審を含めて3度の判断を受けることをいいます。特許庁は行政機関であり、憲法76条2項は、「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」と規定しています。

 複数回にわたって判断を行う三審制は、正しい裁判、あるいは正義に則った判断を行うための制度です。しかし、第1審および第2審が事実審であるのに対し、第3審は法律審といわれるように、各審における判断対象は互いに異なります。特許における不服申立てを通して、三審制の意義を探り、その意義から特許実務の向上を考えたいと思います。

 不服申立ての発端となる行政処分は、特許庁審査官による拒絶査定です(特許法49条)。かつての拒絶査定率は50%近くもありましたが、2017年度のそれは25%程度と減っています。拒絶査定の理由の代表は、特許を受けようとする発明が新規性、進歩性をクリアしないことです。クリアしないということは、特許を受けようとする発明が既存の技術との関係で、新しい技術的特徴を備えていないとの認定があったことです。認定は、審査官による判断です。ですから、拒絶査定とは、出願人が審査官に対し、出願に係る発明が新しい技術的特徴をもつことを理解させることができなかった結果物ということができます。結果物の原因として、いくつかが考えられます。一つは、審査官の理解不足あるいは誤解、もう一つは、出願人の説明不足、さらに一つは、発明自体の力不足あるいは発明抽出の失敗。最後の力不足あるいは失敗は、あくまで出願人の責任ですが、前二者は、専門家としての力量に関係します。正しい判断は、審査官、出願人(出願人代理人を意識しています)の両方の力量およびコミュニケーションのあり方が関係します。

 拒絶査定の原因を考えれば、多くの拒絶査定は覆すことができる可能性があります。行政処分である拒絶査定に対して、出願人は、不服申立てをすることができます。特許法は、不服申立てとして審判、つまり拒絶査定の審判の途を設けています(特許法121条)。三審制は訴訟制度上の用語ですので、行政機関が行う審判は第1審には当たりません。しかし、この審判は、裁判に似た準司法的な手続によって厳正に行われます。そのため、審判には、後で述べるように、審判の判断(審決)に対する不服申立ての出訴先が高裁となり、行政事件訴訟上、“1審”相当の位置づけを与えられています。

 審判では、拒絶査定に対する不服を申し立て、特許をすべき旨の判断を求めます。この審判に対する一番の武器として補正があります。補正により、審査官の誤解を解き、あるいは、発明がもつ新しい技術的特徴を明記することができます。不服申立てをする出願人には、この補正の要否の適切な判断や、適正な補正内容を見出すことが求められます。ここで留意すべきは、「新しい技術的特徴」は、新しい技術的事項だけでなく、新しい技術的意義の観点からも判断されることです。たとえば、拒絶査定を受けた発明が、すでに“新しい技術的事項”を備えているのであれば、それに関係する‘新しい技術的意義’だけを加えればよいのです。補正により、すでにある新しい技術的特徴とは異なる表現による‘技術的特徴’を限定的に加えれば、本来受けることができる保護の範囲を狭めることにもなりかねません。

 10年前の拒絶査定不服審判の成立率は43%ほどでしたが、2017年度のそれは69%とかなり高くなっています。成立率が高くなっているとはいえ、請求不成立の事件は存在します。請求不成立の審決を受けた出願人は、東京高等裁判所へ出訴することになります(特許法178条)。行政事件訴訟の原則からすれば、処分行政庁である特許庁の所在地の東京地方裁判所が管轄になりますが、前記した特殊の理由から、一審級を省略して東京高等裁判所への出訴です。出訴の目的は、請求不成立の審決の取消しです。そのため、審決のキズに基づく主張が求められます。審決の論理を追い、そこに見出すキズに基づいて審決の取消しを論理展開すべきです。ちなみに、手元の特許庁年報によると、特許の拒絶査定不服審判を主体とした査定系審判について、2017年判決件数は、審決取消しの判決が8件であるのに対し、請求棄却の判決は42件でした。少ない母数ですが、審決取消しの勝訴率は16%です。

 東京高等裁判所、実際には、その特別部である知財高等裁判所で勝利をつかみ取ることは困難です。その困難さは、事実審であるとはいえ、高裁の判断主体が法律系の裁判官であることにも関係するようです。出願人の代理人である弁理士の多くは、技術系の考え方に慣れているが、法律的な考え方には必ずしも慣れていないともいわれます。ここで勝訴するには、発明を分かりやすく論理的に説明すること、スムーズな論理展開により審決のキズを明らかにすることが求められます。そして何よりも、特許を受けようとする発明の真髄をついた技術的見方が大事だと思います。

 高裁で請求棄却の判決を受けた出願人(一方の当事者の原告)は、さらに不服申立てをすることができます(民訴311条)。民訴311条は、上告は、高等裁判所が第二審又は第一審としてした終局判決に対しては最高裁判所に、地方裁判所が第二審とした終局判決に対しては高等裁判所にすることができる、と規定しています。ですから、上告する先は最高裁判所です。

 ここで、最高裁判所に上告する場合の理由に留意すべきです。上告理由に関する二つの規定を次に記します。
 民訴312条:上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
 民訴318条:上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。

 高裁における判断で憲法違反に関係することは珍しく、請求棄却を受けた出願人は、ほとんどの場合、上告受理の申立てをすることになると考えられます。上告受理の申立てにおいては、原判決に最高裁判所の判例違反があることを根拠にしなければなりません。平成20年代の統計データの一つですが、上告受理事件の総数2247件の中で、不受理決定が2166件であり、残りの81件が上告事件として受理されています。受理される門は大変狭いです。しかし、81件の中で、約半数の43件が原判決の破棄という逆転判決を得ています。

 以上のように、複数の判断を得る機会があるといっても、上告の門は狭く、その意味から裁判所では高裁での1回の判断が得られるだけだ、と考えることができます。したがって、特許庁の審査、審判の各段階をより大事に対応すること、そして、高裁は最後の機会という意気込みで対応すること、というような心構えが大事である、と小生は考えます。

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