ブログ

発明把握の中の帰納法/演繹法

 特許実務家にとって最も身近な発明の把握は、発明者が生み出した発明を、特許を受けようとする発明に変換する思考作業です。この思考作業は、複数の思考プロセスを含みます。第1の思考プロセスは、発明者が生み出した発明を技術的に正しく理解し、その技術的特徴を見出すことです。発明者は、通例、自己の視点で自らの発明を把握しています。この第1の思考プロセスでは、その発明者が描く発明をまずは明らかにすることが大事であり、ついで、そこで描いた発明を技術的な考え方として把握しなおすことが求められます。

 第1の思考プロセスに続く、第2の思考プロセスは、第1の思考プロセスで明らかにした発明をより客観的にすることです。第1の思考プロセスで発明者が描く発明は、発明者中心の見方によるため、描いた発明の技術的特徴が保護に値するものであるかが定かではありません。特許として独占的な保護を得るためには、特許を受けようとする発明が、今までにない技術的な特徴あるいは技術的な意義をもつことを明らかにすることが求められます。今までにない技術的意義は、一般的に、既存の関連技術との比較の下で明らかにすることができます。第2の思考プロセスは、関連技術の比較に基づいて、保護を求める、つまり、特許を受けようとする発明の真の特徴を見出すプロセスということができます。

 第2の思考プロセスで得た発明の真の特徴は、さらに分析し検討されるべきです。なぜなら、特許の保護範囲を拡張すること、その境界を明確にすることが求められるからです。これは、特許が独占的な効力をもつことに関係します。発明の真の特徴を拡張、明確化するプロセスが、最後の第3の思考プロセスです。この第3の思考プロセスによって、発明者が生み出した当初の発明は、特許を受けようとする最終的な発明に変換します。

 以上のような、発明把握の第1~第3の各思考プロセスの中に、帰納法/演繹法による論理的な考え方を見出すことができます。両方法は、結論を導き出す方法として共通しますが、考え方の方向性が異なります。一方の帰納法は、複数の具体的な事実あるいは事例から共通の法則を導き出す方法です。それに対し、他方の演繹法は、共通あるいは一つの法則を前提にして、そこから新しい具体的な結論を得る方法です。換言すると、一方は複数から一つの結論を導き出す方法であり、他方は一つから複数の結論を導き出す方法である、ということができます。

 たとえば、第1の思考プロセスにおいて、発明者が提案する複数の具体例から共通の特徴を見出すことは、帰納的な思考です。また、第2の思考プロセスにおいて、関連技術との比較に基づいて、発明の真の特徴を見出すことも帰納的な思考ということができます。なぜなら、発明と関連技術とを比較し対比する際に、両者の共通の事項とそうでない事項とを区別することになるからです。さらにまた、第3の思考プロセスにおいて、発明の保護範囲の境界を明確にするため、発明の真の特徴の下位概念を探ることは、演繹的な思考になります。

 特許実務の長い経験の中で、このような思考を充実させるための手法に気づきます。その手法とは、思考あるいは考える際の方向性を双方向にすることです。帰納的な思考であれば、出発点の複数のものから共通の一つを見出す思索をします。その際、同時に、共通の一つを見出したときに、その一つの側から出発点の複数のものの個々に向かって同時に考えることが大事です。演繹的な思考でも、同様です。双方向の見方をすることにより、一方向のみでは気づかなかった新しい気付きを得る場合があります。その新しい気付きは、発明の保護範囲にあるあやふやな技術的事項を強化し、あるいは境界を拡げるための有力な武器になりえるのです。

 帰納法/演繹法は、保護を求める範囲を定めるクレームの作成にも関係します。よく言われることですが、多くの特許実務家は、クレームを作成してから、そのクレームの各特定事項を裏付けるための明細書を作成します。このクレーム後に明細書という作成順序は、いわば演繹法による考え方に基づいている、と考えることができます。一方、明細書を作成した後でクレームを作成する、明細書後にクレームという、少数派の作成順序は、いわば帰納法による考え方に基づいている、と考えることができます。経験は、それらいずれの作成順序をとったとしても、完璧なクレームや明細書は生まれないことを教えます。今、小生が帰納法/演繹法を考慮しながら、発明の把握を再考しているように、わたしたち、特許実務家は、完璧なものが生まれない理由を考えながら、各自の特許実務力を向上させようとしていることでしょう。

関連記事

  1. 「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(5)…
  2. 「鉛筆クレーム」のいろいろ
  3. 「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(4)…
  4. 「流し台のシンク」の侵害事件から学ぶ
  5. 「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(1)…
  6. 特許サポート要件に思う
  7. 「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(2)…
  8. 発明の「効果」を考える
PAGE TOP