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卓球ボールの発明に思う-その2

 先の一件目の卓球ボールの発明は、最終的に、特許に至ることができませんでした。それに対し、ここで検討する二件目の卓球ボールの発明「セルロイドを含まない卓球ボール及びその製造工程」については、特許が成立しています。その特許は、第5078894号であり、その公報の中のメインクレームを次に示します。

 このセルロイドを含まない卓球ボールの発明には、直径、重さ、厚みについて数値限定があり、セルロイドを含まないプラスチック素材として特定のモノを用いることに特徴があります。しかし、前者の数値限定は、今までのボールの値を含む意味をもつだけのようです。なぜなら、明細書中に、それらの数値限定に対する、格別な意義の言及がないからです。

 後者の特定のモノとして、第1に、「主鎖中に炭素原子のみならず、ヘテロ原子も有する有機無架橋ポリマーを主成分」、第2に、密度、吸水性、ボール圧入硬度についての数値限定、そして、第3に、「ナノ材料以外の充填剤及びナノ材料以外の補強材の少なくとも一方を含まない」の特定があります。これらの特定事項の中で、何が最も大切なのか、あるいは特許になる上でどれが有効であったのか、考えてみましよう。

 参考のため、特許に至る経過を見ます。審査段階で、大別して二つの拒絶理由の指摘がありました。一つは、クレーム等の記載不備、もう一つは、進歩性違反です。その対応として、出願人は、上のアンダーラインの部分の事項を限定しました。その結果、審査官は、すぐに特許査定の処分をしたようです。

 しかし、発明が技術的思想であるという観点から見て、この経過について、小生は、にわかには納得することができません。まず、この発明は、セルロイド製の従前からの卓球ボールの良さ、あるいはそれに近い特性を発揮し得る、新しいプラスチック素材の卓球ボールの技術である、と理解することができます。その点、卓球ボールの良さについての判断基準があやふやだと思います。卓球ボールの良さは、密度、硬度、重さなどといった物理的な要素だけからは判断しかねると考えるからです。たとえば、セルロイド製のボールと、それらの物理的な特性が同様の新しい材料製のボール技術を見出したとしても、新しいボール技術によって、セルロイド製のボールによる卓球のスポーツ性を得ることができないと思います。卓球のスポーツ性を判断するには、たとえば、ボールのスピン性、ボールの飛行軌跡、さらには、打球音などについての情報が必要である、と確信します。残念ながら、ここで問題とする特許は、それらの情報を明らかにしていません。

 スポーツ性という、いわば卓球の感性の面は一歩譲るとしても、特許明細書の実施例の記載が大変淡白であり、プラスチック素材として、PEI(ポリエーテルイミド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、POM(ポリオキシメチレン)といった周知の成形樹脂素材が記載されているだけです。卓球ボールを樹脂成形により製造する技術は、古くから知られた技術(たとえば、特開昭56‐34438号)ですので、進歩性違反の疑念を払うことができないと思います。前記したクレームにおける第1、第2、第3の各特定条件の技術的意義について、どのように理解すべきでしょう。

 このような疑問を抱きながら、対応するUSP(EPも同様)を検索したところ、特許になったメインクレームは、次のとおりです(US8,105,183B2からの抜粋)。

 この対応USクレームは、先に述べた日本のメインクレームにおけるd)およびe)の条件を欠いた内容です。これには、驚きが増すばかりです。新たな材料を選定した卓球ボールのような発明に対する、審査、特許の保護内容がこれで良いのでしょうか。健全な特許制度の発展を願う者として、『公開した新しい発明についての保護』という基本に基づく見直しが必要であることを訴えたいところです。小生は、クレーム記載のa)~e)の各特定事項について、特許的な技術的意義を見出すことに疑問をもつのみです。皆さんは、いかがお考えでしょうか。

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