ブログ

卓球ボールの発明に思う

 卓球ボールは、大きさからすればゴルフボールに似ています。規格を調べたところ、ゴルフボールの大きさは、直径1.68インチ(42.67mm)以上とのことです(R&A、USGA)。ボールは小さいほど飛ぶので、飛びすぎを考慮した規定であると理解されます。なお、ゴルフボールの重さについては、1.62オンス(45.93g)以下とのことです。重くすればするほど飛びが大きくなるようであり、重さの制限も飛びすぎの防止のためでしょうか。

 一方、卓球ボールについて、ITTF(国際卓球連盟)は、大きさ(直径)が40.0~40.6mm、重さが2.67~2.77g、そして、素材はプラスチックと、規定しています。素材について、従前はセルロイド(つまり、歴史上最初の人工的合成による、熱可塑性のプラスチック素材)でしたが、可燃性などの欠点を考慮して、2014年から“プラスチック”になりました。

 以上のように、ゴルフボールの大きさは、下限の42.67mm近くが多く、卓球ボールのそれはほぼ40mmです。ですから、両者の大きさはそれほど違いませんが、現時点では、卓球ボールの方がゴルフボールよりも小さくなっています。今の直径40mmの前には、卓球ボールは38mmでした。38mmから40mmへの変更がなぜなされたか。その主な理由は、ラリーがより多く(たとえば、3~4回から7~8回)なることへの期待です。多くのラリーは、卓球を観戦する人をより大きく魅了するからです。なお、卓球に詳しい人は、直径44mmというラージボールがあることをご存知のことでしょう。ラージボールは、大きさがより大きいことに加え、重さがより軽くなっており、それらにより、40mmの卓球ボールよりもより多くのラリー持続がなされることを期待されたボールです。

 小生も卓球愛好者であり、ボールの大きさの変化に応じて、何か新しい戦術がないか、を考えていました。その一環として、「卓球ボール」の発明を概観しました。J-PlatPatによるキーワード検索によると、名称中に「卓球ボール」を含む出願を、二十数件見出すことができます。それらの中から、ボールの大きさ、素材の変化に関係し、しかも、特許実務的に参考になると思える二件を取り上げます。

 一件目は、「全体に継ぎ目がない構造の卓球ボール」(特表2012-517248号)です。出願時点におけるメインクレームは、
“一次成形の中空密封球殻であって、且つ連続的な内表面を有していることを特徴とする卓球ボール。”です。

 このメインクレームは、補正により、次のようになっています。

 この一件目の発明は、従前、二つの半球体同志を接合による方法とは異なり、全体を回転成形により製造する技術です。その結果、“継ぎ目がない”、“統一的な肉厚”という特性をもつ卓球ボールを得ています。特徴的には、回転速度を通常よりも高めの20rpm~3000rpmに制御することにより、肉厚の誤差を0.04mm以下にするようにしています。

 この発明の進歩性について、そのような技術的事項に特許的あるいは技術的意義があるか否かが問題になりました。その点、不服審判(不服2014-14780号)およびその審決取消請求事件(平成27年(行ケ)第10263号)において、明細書中に、‘格別な臨界的な意義や技術的意義を認めることができない’ことから、進歩性をクリアするという判断を得ることができませんでした。クレーム中の数値限定は、明細書中の対応する格別な技術的意義の説明があってこそ、特許性の意義を主張することができることを忘れてはいけないようです。

 実は、この一件目の発明には、“離型後の球殻に表面処理を行う”というサブクレームがあります。しかし、そのサブクレームの技術的意義について、明細書は、‘外表面が規格を満足する卓球ボール製品’とあるのみです。“表面処理”はボールの表面状態を制御する上で大切です。卓球では、ボールに回転(バックスピンやトップスピン)をかけるという戦術があります。規格上許される表面粗さの範囲において、ボールの表面粗さが大きいほど、回転がかかります。従前のセルロイド製のボールの表面には微小な凹凸があり、その凹凸により回転がかかりやすいのに対し、プラスチック製のボールの表面はなめらかで回転が比較的にかかりにくいと思います。そこで、“表面処理”であっても、セルロイド製のボールと同等、あるいはそれ以上の特定の表面粗さにする表面処理、というような限定をすることにより、技術的意義を確立することができます。同様に、卓球を良く知る人であれば、セルロイド製のボールとプラスチック製のボールとの飛行軌跡の違いに着目し、新たな技術的意義を生み出す特定事項を見出すこともできます。発明を見出すために課題を考えると同様に、特許を得るための特定事項を見出すために身近な課題を考えることも必要です。そのような思考に、特許実務家の喜びの一つがあることを忘れてはいけません。この喜びは、発明者や関係者との密なコミュニケーションがあってこそ得られるものです。

 少し長くなりましたので、二件目の発明は、次回に検討したいと思います。

関連記事

  1. 特許調査とクレーム作成とは似ている
  2. 「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(5)…
  3. 「鉛筆クレーム」を今一度
  4. クレーム作成に思う
  5. 「流し台のシンク」の侵害事件から学ぶ
  6. 発明とは何だろう-その1
  7. 特許サポート要件に思う
  8. 「洗濯用ネット」を通して発明の把握を考えるー補足
PAGE TOP