知財実務研究

結合商標の類否判断に関する二つの最判の関係

 ここでは、先のコラム(「リラ宝塚事件」を再考する)で話題にした、「リラ宝塚事件」と「つつみのおひなっこや事件」との二つの最判の関係について問題にします。

 この問題について、第22回商標審査基準WGの資料1-1:結合商標における類否判断(4条1項11号)の商標審査基準について(案)、が次のような言及をしています。小生の誤解を避けるため、少し広めに拾い上げます。

 『近時の裁判例において、つつみのおひなっこや事件は、結合商標の中でも各構成要素が不可分的に結合しているときであっても、例外的に要部抽出できる場合を示したものだと解釈しているものがあり、今後の特許庁における運用においても、基本的にこれと同様の考え方により審査を行うことがよいものと考える。

 すなわち、結合商標を、①不可分的に結合していない商標と②不可分的に結合されている商標の2つに分けたうえで、①の場合がリラ宝塚事件の規範を適用する場面で、②の場合がリラ宝塚事件を反対解釈して、「商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは、原則として許さない」とした上で、このような場合であっても要部抽出ができる例外を認めたものがつつみのおひなっこや事件で示されたと解するものである。このような解釈をすることにより、①の場合は、従来の審査の運用と同様に比較的容易に要部抽出することができ、②の場合は、本来要部抽出ができない場合であっても例外的な場合に要部抽出することができることとなり、つつみのおひなっこや事件を、リラ宝塚事件からさらに要部抽出できる可能性を拡げたものと解釈することとなり、両判決を矛盾なく、かつ、従来の審査運用と乖離することなく解釈することができる。

 もっとも、商標の結合の程度を判断する場合には、商標の構成態様(外観)及び観念を特に重視し、そこに称呼の要素も紙して総合的に考慮していることから、つつみのおひなっこや事件で示されているような場合は、そもそも商標が不可分的に結合していないと判断される可能性も高く、①により要部抽出できると判断することも十分に可能であることから、審査基準において①、②の場合分けをして記載した場合と大きな差はないものと考えられる。

 以上より、審査基準においては、リラ宝塚事件において示された要部抽出し得るという規範を基準として記載すればよく、つつみのおひなっこや事件において示された規範をあえて基準として記載する必要はないのではないか。』

 以上の説明には、驚きを覚えます。なぜなら、「リラ宝塚事件」と「つつみのおひなっこや事件」との二つの最判の解釈に違和感を生じるからです。これら二つの最判は、結合商標の類否に関する判断で共通していますが、それぞれの最判の意義は互いに異なるからです。

 「リラ宝塚事件」は、結合商標といっても、複数の構成部分が外観的に見た目からは明確に分離された商標を問題にしています。それに属する商標としては、一つの構成部分が‘図形’であり、他の構成部分が‘文字’、あるいは、一つの構成部分が‘図形’であり、他の構成部分が‘図形’、または一つの構成部分が‘文字’であり、他の構成部分が‘文字’であることもありますが、それらの各構成部分が明らかに分離した態様であることが必須である、と思います。それであるからこそ、「リラ宝塚事件」では、リラ抱琴の図形と宝塚の文字とについての「不可分的な結合」について、最判自体が厳密に検討しています。

 一方、「つつみのおひなっこや事件」は、それぞれに意味ある複数の文字の構成部分が、外観的に一体となった結合商標であり、文字群の中から一部の文字を分離することが妥当であるか否かが問題となっています。この「つつみのおひなっこや事件」においては、「セイコーアイ事件」を参照しつつ、‘SEIKO EYE’から著名な‘SEIKO’を分離抽出するような事情は認められないということから、’つつみ‘を分離抽出することを認めませんでした。「つつみのおひなっこや事件」について、文字の複数の構成部分の結合だけでなく、文字の構成部分と図形の構成部分との結合を含めて解することも形式的には認められないことはありません。しかし、文字と図形とは基本的に外観的に分離可能であるため、「つつみのおひなっこや事件」は、そのような場合を想定していると考えるには無理があると思います。

 前に紹介した商標審査基準WGの資料は、前提の異なる二つの最判の事件について、従来からの審査との矛盾がないようにした解釈をとっていますが、二つの最判の意義を曲げて解釈していると考えます。「リラ宝塚事件」は、複数の構成部分が外観的に分離した結合商標についての分離抽出について、「不可分的な結合」について十分に吟味したうえで分離抽出の可否を判断すべきであること、一方、「つつみのおひなっこや事件」は、その中の構成部分が著名であるなどの特別な場合のみ分離抽出が可能であるということ、を示していると考えます。要は、二つの最判は、前提を別にした結合商標について、異なる観点から、分離抽出を制限する判断を明らかにしている、と解すべきです。なお、関連する高裁判決として、著名な‘REEBOK’を含む「REEBOK ROYAL FLAG事件」(知財高判平成28年1月20日、平成27年(行ケ)第10158号)があります。

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