ブログ

「リラ宝塚事件」を再考する

 「リラ宝塚事件」は、商標中に“寶塚”という文字を含む結合商標(本願商標)と、“寶塚”という文字だけの引用商標との類否判断が問題となった、最高裁事件(最判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁:昭和37年(オ)第953号)です。結合商標の類否判断が問題となった同種の最高裁事件としては、一つの商標から’亀甲型三枡‘と’三枡‘との二つの称呼が生じると認めることもできる、とした「三枡事件」(最判昭和36年6月23日民集15巻6号1689頁:昭和34年(オ)第856号)や、’つつみのおひなっこや‘の商標が’つゝみ‘または’堤‘の文字商標と類似しないとした、「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日民集228号561頁:平成19年(行ヒ)第223号)が有名です。

 そのような最高裁事件の中で、「リラ宝塚事件」は、問題の商標中の中央の構成部分、つまり、古代ギリシャの抱琴のリラの図形と、‘寶塚’という文字との構成部分から、‘寶塚’を抽出することが争点となりました。

 判決では、まず、三枡事件を参照しつつ、「簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、・・・しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである」とし、「一つの証拠、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である」、とします。

 その上で、上下の「リラタカラヅカ」、「LYRATAKARAZUKA」の文字から、「この商標よりリラ宝塚印なる称呼、観念が生ずることは明らか」である、と、まずは判断します。続いて、問題の中央の構成部分に注目します。第1に、「右図形が古代ギリシャの抱琴でリラという名称を有するものであることは、本願商標の指定商品たる石鹸の取引に関係する一般人の間に広く知れわたっているわけではないこと」、第2に、「これに対し、宝塚はそれ自体明確な意味をもち、一般人に親しみ深いものであり、しかも、右「宝塚」なる文字は本願商標のほぼ中央部に普通の活字で極めて読みとり易く表示され、独立して看る者の注意をひくように構成されていること」を指摘します。そして、「されば、かかる事実関係の下において、原判決が右リラの図形と「宝塚」なる文字とはそれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない」とし、「本願商標よりはリラ宝塚印の称呼、観念のほかに、単に宝塚印なる称呼、観念も生ずることが少なくないと認め」ることが妥当である、とし、本願商標が引用商標たる「宝塚」と称呼、観念において類似するとの判断は正当であり、違法ではない、と結論付けています。

 このような「リラ宝塚事件」の判決の後、要部抽出の自由度が増し、要部抽出に基づく分離観察から、商標法第4条第1項第11号の規定違反とされた、複数の下級審判決、たとえば、「セイコーアイ事件」や「小僧寿し事件」などが生まれました。しかし、それらの下級審判決が最高裁で否定されていることに留意すべきです。一連の最高裁判決を振り返ることにより、「不可分的に結合」の意義を検討し、結合商標における分離観察のあり方について自己の考え方を確立したいところです。

関連記事

  1. 「ネオ」と一般的な商品名を含む商標
  2. 商標「ゲンコツ」と商標「ゲンコツ〇〇」との類否
  3. 結合商標の要部抽出を考える
  4. 第3条第1項第6号の商標
  5. 「白砂青松事件」を考える
  6. 「音楽マンション」関連の商標から学ぶ
  7. 第3条第1項第3号の商標
  8. 文字と図形との結合商標
PAGE TOP