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数値限定を含む発明の把握

 特許を受けようとする発明について、数値限定を一つの特定事項として把握する場合があります。特許第3909365号の掲載技術は、その一例です。この特許3909365号の審査経過、およびその後の経過を見ると、特許実務家にとって考えさせられることがあります。そこで、数値限定を含む、この特許の発明を題材にして、考える材料を提供したいと思います。

この特許の発端は、特願2002-351706号であり、その出願公開公報は特開2003-23105号です。この特許は、複数のクレームを含みますが、ここでは、メインのクレームを中心に話を進めます。そのメインのクレームは、公報から抜粋する次の請求項1です。

 青色のアンダーラインを付けた部分が、数値限定の内容です。「であって」までの前提となる梁補強金具は、すでに知られているようであり、数値限定による特定事項を最大の特徴として、特許を受けるべき発明を把握し特定しています。このクレームの記載だけでは、“0.5倍~10.0倍”という数値限定の技術的意義を理解することができません。そこで、明細書の中味を見てみます。段落番号0011~0013に関連事項の記載を見出すことができます。「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍(より好ましくは0.5倍~5.0倍)に規制することによって、大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ、~」という記載、また、「この場合、軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍に設定したのは、0.5倍より小さくすると強度が不十分になり、また、10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず、材料の無駄が大きくなるからである。」という記載があります。

 明細書の関連事項の記載を考慮する限り、“0.5倍~10.0倍”という数値限定には、技術的思想である発明としての技術的意義を見出すことができません。その点、先のコラム「数値限定発明に対する素朴な疑問」(2019年12月1日記)で述べたとおり、現時点の審査基準によれば、引用発明との相違点が数値限定のみにある時は、通常、その発明に進歩性がない、と判断されてしまいます。特許を受ける発明を把握するならば、今までの技術との関係から、技術的思想としての技術的意義のある特定事項を挙げることが必要ではないか、と思います。

 しかし、(出願人によるクレームおよび)現実の審査は、そのような思いとはかけ離れた動きでした。担当審査官は、“0.5倍~10.0倍”という数値限定を示す引用文献を挙げ、進歩性にキズありとの拒絶理由を通知したのです。その拒絶理由通知に応じて、出願人は、別の技術的事項を限定するようにしました。それを次に示します。

 アンダーラインの部分が、限定事項です。この付加的な補正事項は、サブクレームの一つの内容であり、そのサブクレームについて、担当審査官は、特許性ありと考えていた内容です。そのため、この補正により、そのクレームを含む特許出願は、特許査定になりました。

 特許査定の結果である特許第3909365号については、その後、無効2017‐800139号の無効審判、そしてまた、平成30年(行ケ)第10163号の審決取消請求事件、令和元年(ネ)第10036号の特許権侵害差止等請求控訴事件などの複数の事件が関与します。

 小生は、そのような複数の事件の全くの発端が、上に述べた出願人代理人および担当審査官の発明の理解の仕方にあると考えます。発明の理解あるいは把握の仕方によって、その後の発明の位置づけが大きく変化したと考えるのです。そのことに驚き、出願人代理人、および審査官を含む知財専門家の業務の重さを改めて感じています。

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