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「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(5)

 「地下構造物用丸型蓋」の事件について、数回にわたって検討してきました。最後に、「本質的部分」に少しだけ触れたいと思います。

 「本質的部分」は均等論における第1要件に現れる用語ですが、その用語は、『発明の本質』と方向性を同じにしていると思います。均等論では、発明の構成要素が文言上、差異があるとき、特定の条件下でその差異を吸収する考え方をとります。均等第1要件(つまり、差異が発明の本質的部分でないこと)は、特定の条件の中の基本的な要件です。発明は技術的思想であり、その発明には、通例、複数の考え方が潜んでいます。「本質的部分」も考え方であり、そのような考え方の中で一番大事なものである、と考えます。均等論は、文言上の差異を吸収し、発明の保護範囲を拡げる考え方ですが、吸収を認める差異について、一番大事な考え方(本質的部分)は対象とせず、周辺の考え方についてのものに制限しています。それによって、権利者と第三者との間の保護のバランスを図っていると考えます。

 発明の「本質的部分」は、発明の捉え方によって変容します。捉えた発明は、特許実務家による明細書およびクレームに現れます。したがって、特許実務家は、発明の「本質的部分」を変化させることができます。

 今回の「地下構造物用丸型蓋」発明について、それを振り返って検討しましょう。

 実際の特許明細書では、発明の課題として「蓋本体を後方から受枠内に押し込むだけで蓋本体をスムーズに受枠内に収めることができる」ようにすると把握し、蓋本体および受枠の両方に、凸曲面部および凹曲面部を連続して設ける方法を採用しています。その方法について、原告や控訴審が述べる「本質的部分」は凸と凸とによるガイド作用であり、他方、被告や原審が述べる「本質的部分」は凸と凸との関係だけでなく、それに隣り合う凹の存在が加わります。差異であるイ号の段部は、凹ではありますが、原告や控訴審の考え方では「本質的部分」ではなく、被告や原審の考え方では「本質的部分」になります。

 明細書やクレームを作成する立場から振り返ると、凸と凸とによるガイド作用を発明の本質と捉え、凸に隣り合う凹を従属的な事項と捉える発明の把握の仕方も考えられます。その考え方では、凹の形態として、(1)段部とする場合(イ号)、(2)凹曲面にする場合(特許発明)、さらには(3)その他が考えられます。課題の「スムーズ」の上では、(2)が優れている、と発明を展開することができます。(1)の場合には、(2)に比べて、蓋側を上に動かすストロークを短くすることがベターです。なぜなら、蓋側が上に動くとき、凹である段部を飛び越えることが必要だからです。

 今回の実際の明細書には、そのような把握を見出すことができず、ただ漠然と凸+凹を必須として捉えていると解さざるを得ません。このように、「本質的部分」は明細書の内容によって変化すると思います。ですから、明細書やクレームを作成する特許実務家の責任は重く、また、特許実務家は、それだけにやりがいのある立場に立っているのではないでしょうか。

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