ブログ

「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(4)

 この侵害差止等請求事件における、いわゆるイ号を説明します。次のF1およびF2は公報における図3および図2に対応する形態でイ号を示し、また、F3は受枠の「段部」部分を詳細に示しています。

F3

 イ号にも、受枠側に受枠凸曲面部(21)、その上方に段部である受枠凹曲面部(22)、それに続く上方に受枠上傾斜面部(23)があり、また、蓋側に蓋凹曲面部(11)、その上方に蓋凸曲面部(12)、それに続く上方に蓋上傾斜面部(13)があり、閉蓋状態で蓋上傾斜面部(13)と受枠上傾斜面部(23)とがはまり合います。

 イ号および特許発明は丸型蓋であり、その差異は、受枠凸曲面部(21)の上方に隣り合う、受枠凹曲面部(22)が凹曲面ではなく、平面と平面とが交じり合う直線と直線とからなる段部である点です。

 この差異について、原告は、均等の論理によって侵害を訴えました。均等第1要件“差異が本質的部分でないこと”について、原告は、発明の作用効果①・②の面から主張をしています。まず、「蓋本体をスムーズに受枠内に収めることができる」という作用効果①に関し、「本件発明では、蓋本体と受枠の凸曲面部同士が接触し、ガイドされるのであって、凹曲面部は作用効果①とは関連性がない。」といい、また、「蓋本体のガタツキを防止し、土砂、雨水等の侵入を防止できる。」という作用効果②に関し、「蓋本体と受枠の凸曲面部と凹曲面部は接触せず、蓋上傾斜面部と受枠傾斜面部とのはまり合いにより、蓋本体のガタツキを防止するから、凹曲面部でなくとも、蓋凸曲面部と接触しない構成にすればよい。」といっています。その結果、凹曲面部は本件発明の本質的部分ではない、と主張しています。

 それに対し、被告は、「蓋本体や受枠の凸曲面と凹曲面が連続する構成は、作用効果①を発揮するために必須であり、発明の技術的思想の中核をなす特徴的部分、すなわち本質的部分である。」と反論しています。

 以上の原告、被告の各主張に基づき、原審は、次のような判断をしています。第1に、明細書には、「蓋凸曲面部がガイドされるにあたり、受枠曲面部が直接的に果たす役割については明示されていない。」と説明しています。それに引き続き、第2に、明細書に、「受枠に凸曲面部と凹曲面部を連続して形成し、蓋本体にはこれを倣う形で凹曲面部と凸曲面部を連続して形成することを、作用効果①発生の前提として記載されている。」と説明しています。そのような認識に基づき、原審は、「受枠凹曲面部の形状は、発明の主要な根拠となる部分であり、凹曲面部の形状が発明の技術的思想の中核をなす特徴的部分ではないということはできない。」と判断しています。

 いうなれば、原審は、発明の作用効果①の技術的意義あるいはメカニズムを具体的には認識することなく、明細書の文言上の記載に基づいて均等要件1を欠くとの判断をしています。その判断を生み出した主因は、明細書のあやふやな記載にあるということができます。

 他方、均等第1要件について、控訴審は、正反対の判断をしています。均等第1要件の判断に際し、控訴審は、「発明では、内鍔(棚部)を用いず、凸曲面部と凹部で構成することにより、『閉蓋の際、バールで蓋本体を引きずるようにしたり、蓋本体を後方から押し込むだけで蓋本体を受枠内にスムーズに収めることができる』ようにしたものと認められ、その全体的な構成をみれば、被告製品においても、凹曲面部はないものの、本件発明の構成と類似の構成を採用したことによって、蓋本体を受枠内にある程度スムーズに収めることができるものといえる。」との説明をしています。そしてまた、「発明が作用効果①を奏する上で、蓋本体及び受枠の各凸曲面部が最も重要な役割を果たすことは明らかであって、『受枠には凹部が存在すれば足り、凹曲面部は不要である』との控訴人の主張は正当であると認められ、発明において、受枠の『凹曲面部』は本質的部分に含まれないというべきである。」と結論付けています。このような控訴審の判断を生み出した主因も、明細書のあやふやな記載にあるということができるのではないでしょうか。

 控訴審において、先のコラム(3)で述べたような発明の理解をしていただくことができたとしたら、上の結論が逆転すると考えます。すなわち、作用効果①の本来の内容は、(p)蓋本体と受枠との二点の接触が閉じ操作の間ずっとスムーズである場合、を意味すると解釈し、(q)イ号のように、蓋本体の凸が受枠の凸によって仮に支えられた後、最後に蓋上傾斜面部(13)が段部(22)を飛び越えて受枠上傾斜面部(23)にはまり合う場合とは異なると理解するのであれば、結論は逆転します。勿論、pとqとのいずれかに軸足を置くかによって、発明の本質的部分が異なってきます。それに伴って、明細書の中味の説明も異なったものになるし、保護を求めるクレームの記載内容も変わってきます。特許実務家は、このような本質的部分の軸足をいかに設定するかを考えることに喜びを感じるものです。明細書の展開の仕方、あるいはまた、発明の技術内容の説明の仕方によって、裁判官の判断を動かすことができることは確かです。そしてまた、特許実務家のもう一つの喜びは、あやふやな記載を明確化することによって、真に技術的範囲を拡大すること、ではないでしょうか。

 この「地下構造物用丸型蓋」の事件を検討することにより、発明を把握する力の向上と、発明をより分かりやすく説明する力の向上とを考えさせられました。

関連記事

  1. 「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(2)…
  2. 「洗濯用ネット」を通して発明の把握を考える
  3. 発明とは何だろう-その2
  4. 「流し台のシンク」の侵害事件から学ぶ
  5. 「鉛筆クレーム」を今一度
  6. 「洗濯用ネット」を通して発明の把握を考えるー補足
  7. 発明の「効果」を考える
  8. 特許調査とクレーム作成とは似ている
PAGE TOP