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「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(3)

 前回のコラム(2)により、明細書等の検討から、「地下構造物用丸型蓋」発明の課題が明らかになりました。すなわち、この発明の課題の「蓋本体を後方から受枠内に押し込むだけで蓋本体をスムーズに受枠内に収めることができる」ようにするとは、次に示す第1段階から第2段階、そして、第2段階から第3段階へと至るすべての動きをスムーズにすることにある、と理解されます。

第1段階(受枠の一部に重なるように蓋本体を配置する)

第2段階(蓋本体の後部を押し、受枠と蓋本体との重なりを大きくする)

第3段階(蓋本体を受枠の内部に完全にはまり込ませる)

 ここで、丸蓋が受枠内の孔の中に落ち込まない理由と同じ理由から、丸蓋(蓋本体)が受枠の上を図の左側から右側へと順次移動し、最終的に受枠内にはまり合う第3段階に至る間、蓋本体は、二点C1およびC2で支えられます。そこで、課題がいう『受枠内に押し込むだけで蓋本体をスムーズに受枠内に収める』、つまりは、『第1段階から第3段階に至る間の動きをスムーズにする』ためには、二点C1およびC2の接触関係をスムーズにすることが必要であります。

 この点に関係する記載を請求の範囲から見つけましょう。

 この請求項1の記載中、二点C1およびC2の接触関係に影響する要素は、受枠の凸曲面部(21)、凹曲面部(22)と、蓋本体の凹曲面部(11)、凸曲面部(12)です。そして、『スムーズ』にするには、各要素の表現の中の“曲面”および凸凹の“連続”にある、と理解されます。さらに留意すべきことは、蓋本体が受枠の内部にはまり込む間に、蓋本体の凸曲面部(12)は、受枠の凸曲面部(21)の上部分から受枠の凹曲面部(22)の上まで移動することです。課題の『スムーズ』を達成するためには、蓋本体の凸曲面部(12)が受枠の凸曲面部(21)の上部分から受枠の凹曲面部(22)の上までスムーズに動けるようにすることが大事です。“曲面”および“連続”がそれを語っている、と理解することができます。

 残念ながら、請求項には勿論、明細書の中の関連記載にも、そのような直接的な記載を見出すことができません。請求項に“曲面”、“連続”という表現は見られますが、課題との関係でそれらが何を意味するかは定かではありません。また、明細書には、「このような構成にすることで、閉蓋時に蓋本体の後方から蓋本体を押し込んで受枠内に収める際、蓋本体の蓋凸曲面部の下側が受枠の受枠凸曲面部の上側に接触し、さらに蓋本体を後方から押すと蓋本体の蓋凸曲面部と受枠の受枠凸曲面部との接触部が徐々に蓋本体の前部に移動しながら蓋凸曲面部が受枠凸曲面部によってガイドされる。そのため、蓋本体を後方から押し込むだけで、蓋本体を受枠にスムーズに収めることができる。」(段落番号0009)と記載されているだけです。肝心なメカニズムの説明、すなわち、“蓋本体を後方から押すだけで、蓋本体を受枠にスムーズに収めることができる”という根拠あるいは理由の説明がなされていません。技術的思想を語るには、根拠や理由が大事であることを忘れているようです。経験的に、そのような根拠や理由付けが、発明の本質的部分に直結していることを知ります。

 『スムーズに収める』ためには、二点C1およびC2の接触が動きの間ずっとスムーズであることが必要であり、しかもまた、動きが進むにつれて、二点C1およびC2の接触部が徐々に上方に変位することが必要です。そのような上方への変位のために、受枠には凸曲面部(21)に凹曲面部(22)が隣り合い、その上に上傾斜面部(23)が位置しています。補足すると、凸曲面部(21)の凹曲面部(22)が隣り合うこと、つまり、凸―凹の順序によって、(水が高所から低所に流れるように)、蓋本体は上方に変位することになります。また、『スムーズ』な動きのために、“曲面”、“連続”によって、一連の滑らかなガイド面を構成することも必要であることが分かります。なお、凸―凸によるガイドは可能ですが、蓋部材の上方への変位のためには、凹が必要です。公報の記載には、凸―凸によるガイドと、上方への変位との関係が記載されていないことから、発明を正確に理解する上での障害になっています。

 以上、特許第3886037号公報の記載を根拠にするとき、この発明は、受枠および蓋本体の各側に、最後にはまり合う傾斜部分の下方に、凹、凸の各部分を所定の順序で、かつ連続的に配置することにより、閉蓋の操作の際、蓋部材と受枠との接触部が常に滑らかな接触をし、しかも、動きに伴なってふた部材が上方に変位するようにした技術である、と理解されます。

 次回は、訴訟の場で当事者がどのような主張をしたかについて検討したいと思います。

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