知財実務研究

「地下構造物用丸型蓋」発明の把握、特には、本質的部分の把握(1)

 平成22年(ネ)第10014号は、意匠権と特許権との侵害差止等請求控訴事件です。その中で、特許権に関する事件の発明把握に興味を持ちました。この特許権の特許発明は「地下構造物用丸型蓋」という名称であり、特許第5886037号です。この特許発明は、原審で均等侵害が認められなかったのですが、控訴審で均等侵害が認められました。

 まずは、「地下構造物用丸型蓋」発明を検討する意義について、このコラム(1)で触れたいと思います。

 均等侵害については、明細書やクレームの記載にキズがあるところ、すなわち、クレームの一つの特定事項にイ号との間に文言解釈上の差異があり、そのために侵害が認められない場合に、一定の条件の下で特許発明のクレーム解釈を拡大することにより、差異をクレームの技術的範囲の中に含ませるという考え方です。均等を認めるか否かについて、いわゆる均等5要件があり、この事件では、均等第1要件(つまり、差異が特許発明の本質的部分でないこと)に対する判断が、原審と控訴審とで異なる結果になっています。

 発明の本質的部分について、二つの考え方があるようです。第1は、「クレームに記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、その異なる部分が特許発明の本質的部分ではなく」とする内容を文字どおり捉える考え方です。そして、第2は、異なる部分を含めた対象製品等が全体として特許発明の技術的思想の範囲内にあることを意味するという考え方です。第1の考え方は、クレームの記載の中で本質的部分を認識する考え方ですが、「本質的部分」を何も説明していないようです。一方、第2の考え方は、本質的部分を技術的思想の中に見出す考え方のようです。しかし、これらのいずれの考え方も、「本質的部分」が何かを明らかにすることはないようです。

 「本質的部分」は技術的思想の中核をなす部分である、という表現も見られますが、その表現によっても、本質的部分を具体的に知ることができません。クレームを作成するとき、発明を分析および検討します。特定のネライをもつ発明は、通例、ネライを達成する上で複数の考え方(これら複数の考え方は、発明を捉える人により異なることもあります。)を潜在的に含みます。クレームの作成にかかわる特許実務家として、「本質的部分」とは、それら複数の考え方の中で、最も大事なものをいうと考えます。たとえば、粘土による像は、像を形作る粘土と、粘土の内部に位置し、粘土の形を支える芯材とを含みます。像にとって、粘土も芯材もいずれも大切な構成要素ですが、芯材は像の全体の形態に大きく影響するという点から、より大事な構成要素であると考えます。粘土による像の本質的部分は、芯材である、と小生は考えます。

 新たに創作するクレームの場合、クレームに記載すべき発明の「本質的部分」は人により大きく異なります。その点、その異なりが特許実務家の「ウデ」に関係します。その点、すでに存在するクレームの記載による発明において、その「本質的部分」の解釈はそれほど大きくは変わらないと考えられます。なぜなら、解釈の対象のクレームの記載がすでに存在するからです。しかし、この「地下構造物用丸型蓋」発明について、原審と控訴審とにおいて、「本質的部分」の解釈が異なりました。「地下構造物用丸型蓋」における、解釈の相違は、「地下構造物用丸型蓋」発明のクレームおよび明細書の記載が主に起因していると考えます。そこで、「地下構造物用丸型蓋」発明を検討する価値があると思います。そのような検討により、発明の捉え方および記載の仕方を再考することができるし、第三者である裁判官などの適切な理解を生み出すヒントをつかむことが期待できるからです。

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