知財実務研究

数値限定発明に対する素朴な疑問

 数値限定発明とは、請求項の特定事項として、数値限定による表現を含む発明である、ということができます。とすれば、この数値限定発明は、技術分野にかかわらず問題になる発明であるはずです。しかし、数値限定発明は、一般的に、電気や機械関係よりも化学関係でよく議論されています。

 この数値限定発明について、特許庁の特許審査基準は、「請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、主引用発明との相違点がその数値限定のみにある時は、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。」との基本的な考え方を述べています。そして、特許審査基準は、副次的に、発明の効果の顕著性などがある場合について、数値限定の発明が進歩性を有している、との判断をするようになっています(以上、特許審査基準の第Ⅲ部第2章第4節の6.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合、の項から)。

 この特許審査基準の考え方は、特定事項、つまり、特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項、との関係で論理的に矛盾がある、と考えます。なぜなら、数値限定による特定事項は、他の表現による特定事項と同様、それ自体に技術的意義を伴うものであるからです。したがって、その技術的意義を伴う、数値限定の特定事項は、基本的に、技術的意味をもつ、と理解されるべきです。その理解に基づき、主引用発明との相違点である数値限定がある発明は、本来的に、進歩性をクリアすると判断されるべきである、と考えます。その点、特許審査基準は、数値限定の点で相違がある発明について、数値限定の技術的意義を認めないことを前提とした取扱いをしています。

 特許審査基準による、そのような取扱いは、数値限定による技術的意義を誤解しているからである、と考えます。なぜなら、数値限定の発明が進歩性を有する場合として、(i)その効果が限定された数値の範囲内において奏され、引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであること、(ii)その効果が引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであること(すなわち、有利な効果が顕著性を有していること。)、(iii)その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと、を限定的に挙げているのみだからです。すなわち、進歩性を有する場合は、「効果」に着目した場合に絞られています。数値限定が、効果に結びつかない限り、進歩性を認めない、という論理構造になっています。これは、明らかに誤りです。数値限定の技術的意義には、「効果」の違いという技術的意義だけでなく、「効果」以外、たとえば、「用途」「機能」「特性」などの他の技術的意義を生じる可能性もあるからです。

 以上を考慮するとき、数値限定の発明について、請求項の表現である「数値限定」を用いることなく、数値限定が生み出す「効果」を含め、数値限定に密接に関係する「用途」「機能」「特性」あるいは「構造」などの(数値限定ではない)他の技術的特徴として表現することにも挑戦することができるのではないでしょうか。

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