知財実務研究

「鉛筆クレーム」を今一度

 先の“「鉛筆クレーム」のいろいろ”(11月3日付)のコラムにおいて、数例の鉛筆クレームを紹介しました。その紹介には、二つの意図があります。第1は、特許実務家にもいろいろな人がいることを知らせることであり、第2は、良いクレームは何かを考えるトリガーにすることです。

 先のコラムを参照しながら、私たち特許実務家が、どのような考えに基づいてクレームを作成するかを考えます。クレームには、保護を求めるべき発明を記載します(たとえば、PCT第6条)。発明に関する用語として、自然法則、技術的思想があります。それらの用語は、保護を求める発明を把握する際のヒントになります。

 先のコラムにおける第1例、第2例、第3例は、発明者が提示した「断面六角形」の技術的な意味を追求することにより、保護を求めるべき発明を把握していると思います。特許実務家は、物としての「断面六角形」の鉛筆が、いくつかの発明を利用した具体的な形態の一つであることを経験的に理解しています。発明の把握は、(発明者の情報では必ずしも明らかでない)「断面六角形」の鉛筆に潜まれる技術的思想、そこに潜む活用すべき自然法則をあぶり出す作業ということができます。

 この作業でまず大事なことは、「断面六角形」が何をねらっているか(ネライが何か)ということです。「鉛筆クレーム」の場合には、そのネライは明らかなようです。鉛筆を転がりにくくすること、すなわち、今までの鉛筆が、断面が丸形状であるため転がりやすいという問題があることに気づき、その転がりやすいという問題を解決することがネライです。

 発明者は、そのネライを鉛筆の形状を変化させることにより解決しようとしています。発明者の基本的な考え方は、鉛筆あるいは鉛筆本体の形状について、断面が丸よりも転がりにくい形状にすることにあったようです(小生は、第1~第3例が転がりにくくするために利用した考え方(自然法則の利用)を必ずしも明確にしていないのではないか、という疑問を抱いています。しかし、ここでは、言及しません)。この基本的な考え方を、第1例では、「重心からの距離を不均一」、第2例では、「転がりを防止する転動防止手段」、第3例では、「転がりを防止する部材」として把握しています。第1例は、鉛筆自体の形状だけに着目しているのに対し、第2例、第3例は、鉛筆自体の自らの形状だけでなく、付加的なものなどを活用する考え方をも含めているようです。

 保護を求める範囲を広くするという面からすれば、第1例よりも第2例、第3例の方が優れているとも考えられます。しかし、特許実務家の中には、転がりにくくする工夫を鉛筆自体に設ける考え方と、転がりにくくする工夫を鉛筆以外の関連したものに設けるという考え方とを別にする方が良い、と主張する人もいることでしょう。関連するものには、鉛筆のキャップ、鉛筆にはめる転がり防止リング、鉛筆が載るテーブルやマットなどがあります。このような思想の分割については、保護を求める発明を考える際にしばしば問題になります。

 保護の範囲がより広い第2例、第3例には、いくつかの難点が見出されます。その中の大事な一つだけを紹介しましょう。それらの例が、鉛筆の本質の面から考えられているか、という疑問があることです。鉛筆は、手に持って筆記に用いる筆記具です。その鉛筆は、親指、人差し指、中指の3本の指によって支えられます。そのため、鉛筆には、3本の指で支えやすいことが求められます。3本の指で支えるということから、鉛筆業界では、鉛筆の外形は3の倍数をもつ角軸(3角軸や6角軸)が好ましい、といわれているようです。とすれば、発明者の心の中には、3本の指の先を支えつつ、転がりにくい技術も潜まれているような気がします。

 明細書に終わりがない、とはよく言われることですが、クレームに対する考え方はさらに広くかつ深いため、特許実務家は、自己のクレームに対する考え方をいつまでも求め続けています。

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