知財実務研究

「鉛筆クレーム」のいろいろ

 特許実務者にとって、一番の難しさは、クレーム(特許請求の範囲あるいは請求の範囲)の記載にある、ということができます。このクレームは、保護を求める事項を明示する文書であり、そこに記載した内容によって、独占することができる範囲が定まります。そのため、より良い特許実務を求める人は、このクレームを記載する力を向上させようとするのが常です。

 クレームは特許実務者による創作物であり、それを創作する力は、特許実務者の実力に密に関係します。「鉛筆クレーム」は、鉛筆の発明に関するクレームであり、クレームの創作あるいは作成を訓練する題材として知られています。最も身近な「鉛筆クレーム」は、転がりにくくした鉛筆の発明を記載したクレームです。すなわち、断面が丸形状の今までの鉛筆が、机の上で転がりやすいという問題に気づき、その断面を正六角形にすることにより、転がりにくくした技術について、クレームを作成することに関係します。


 この「鉛筆クレーム」の出発となるクレームは、
“断面が六角形の鉛筆”であり、一歩進展したクレームは、“断面が多角形の鉛筆”あるいは“断面が多角形の筆記具”です。

 そして、これらの原始的なクレーム(誰もが考えるであろうクレーム)をさらにブラッシュアップしたクレームとして、次のようなものを見出します。

【第1例】
“長手方向に対する垂直断面で見た重心から、その外周までの距離を不均一にした鉛筆形状”
 この表現によって、「六角形や多角形」を転がり時に重心の高さが上下にぶれるアイデアと考えることにより、断面が楕円形状等の多角形以外の鉛筆のアイデアを含ませるようにしたようです。(この第1例は、日本弁理士会東海会のHP上の澤田昌久弁理士著の記事からの引用です。)

【第2例】
“平面上で鉛筆本体の転がりを防止する転動防止手段を前記本体に設けたえんぴつ”
 この表現によって、下記の種々の例を含ませるようにしているようです。

 (この第2例は、パテント2019年5月号の「権利書たる明細書に「発明の効果」は記載すべきではない」(吉田昌司著)からの引用です。)

【第3例】
“軸心に筆記部材が設けられた軸の一部に、軸心を中心とした転がりに抵抗する部材が設けられている筆記具”
 この表現により、・鉛筆に限らず、筆記具が対象になる、・形状は楕円でもよい、・軸の一部に凸部を設けてもよい、・角部のあるキャップをかぶせてもよい、四角い消しゴムを付けてもよい、・筆記具の軸を曲げてもよい、などを含ませるようにしたようです。(この第3例は、小川勝男、金子紀夫、斎藤幸一の共著、「技術者のための特許実践講座」、森北出版株式会社発行、からの引用です。)

 以上の3例は、知的財産権の専門家である弁理士の方の(あるいは、弁理士を含む人たちの)考え方の例です。第1例、第2例および第3例には、共通した想到実施例も含まれますが、互いに相違する例も含まれます。“鉛筆あるいは筆記具”という物の本質や機能を考えるとき、あるいは、発明の本質が何かを考えるとき、さらには、鉛筆製品としての魅力を考えるとき、皆さんは、どのような「鉛筆クレーム」を目指しますか? また、何か疑問を感じることはありませんか?

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