知財実務研究

発明の進歩性の判断ー顕著な効果の位置づけ

 (弁理士会誌パテントの第24回知的財産権誌上研究発表会の関係で)「発明の効果」についてのやり取りの中で、“独立要件説”という表現に出会いました(パテント2019年10月号の70ページ)。恥ずかしながら、小生は、この“独立要件説”という言葉に初めて触れます。そこで、引用文献を頼りに芋づる式に調べてみました。結果的に、別冊ジュリストの特許判例百選(第3版)の40~41ページの「進歩性の認定(4)―顕著な作用効果」(長沢幸男著)の中に、参考となる記載を見出しました。そこで、その記載の中から、関連事項を抜粋しつつ、まずは、“独立要件説”を明らかにします。

 「進歩性の判断とは、発明の容易性、すなわち、発明の「構成」についての容易想到性の判断に帰着するというのが、特許法の文言及び講学上の進歩性の概念に照らし、素直な理解である」ことを、著者の長沢先生は前提にしています。そして、「第1の学説は、作用効果をもって、構成の容易想到性を推認させる間接事実と解する説である。」とし、その間接事実説の代表例として、吉藤先生の特許法概説の説明を引用しています。すなわち、「発明の進歩性は、発明を構成することの難易の問題である。発明の実体は、発明の「目的」でもなく、また発明の「効果」でもなく、発明の「構成」自体であるからである。したがって、進歩性を判断するにあたっては、理論的には、発明の構成を対象とし、その難易によって進歩性の有無を判断すべきであることはいうまでもない。しかし、実際問題として、発明構成上の難易を判断することは必ずしも容易ではないことが少なくなく、また往々にして判断を誤ることもある。・・・以上のことから、発明の目的や効果を参酌することによって、構成上の難易、すなわち、発明の進歩性の有無を判断することが、手法として一般的に行われている。」との特許法概説からの引用です。

 さらに、長沢先生は、「作用効果の顕著性をもって、構成の容易想到性とは独立した進歩性判断の要件と解するのが、第2説の学説である。」とし、その第2の学説を「独立要件説」と呼んでいます。そして、第2の学説の見解を明記した文献は少ないところ、例として、竹田稔先生の見解、「顕著な効果があれば進歩性があるものと判断するということは、発明の有する効果から進歩性を肯定的に評価することを意味し、当業者が発明の構成に容易に到達できたであろうことを・・・推論する証明の図式とは相容れないようにも思える。効果が顕著なときは、なぜ容易に発明をすることができたという推論を破るのか。・・・予測できない顕著な効果があるときは、特許法1条の趣旨から、産業の発展に貢献する発明として進歩性があるのだ、と考えてはどうか」を挙げています。

 独立要件説では、作用効果の顕著性があること、そのことを構成の容易性とは独立的に評価し、発明の進歩性を判断する、と理解されます。いわば、間接事実説よりも発明の効果をより重視して発明の進歩性を判断することになるでしょうか。

 以上の検討をしながら、小生は戸惑いを覚えました。なぜなら、間接事実説、独立要件説のいずれもが、「進歩性の判断とは、発明の容易性、すなわち、発明の「構成」についての容易想到性の判断に帰着する」という、誤った理解を前提にしているからです。発明の進歩性を規定する特許法29条2項は、「・・・各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたとき」と明記しています。発明の進歩性の判断は、発明の「構成」についての容易想到性の判断ではなく、「構成」や「効果」、「課題(目的)」を含む発明自体の容易想到性の判断であるはずだからです。

 発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であり、単なる「構成」だけによっては、その発明を特定することができないと思います。技術的思想である発明を特定するためには、「ネライ」と「手段(構成)」との両方が少なくとも必要である、と経験的に理解します。発明の「構成」のみからの判断によっては、発明の進歩性の判断を的確に行うことができません。たとえば、軸線をもつ直線状のボルトと、そのボルトにねじ結合するナットとからなる装置を想像します。その装置の「構成」は、ボルト+ナットです。その「構成」の装置は、固定のための装置である場合もあるだろうし、ねじ結合を利用した長さや位置を調節するための装置である場合もあります。同じ「構成」であるため、「構成」だけからは二つの装置を区別することができません。二つの装置は、ともに保護されるべき発明として理解されます。一方の装置は、ボルト+ナットという「手段(構成)」のほか、“固定するためのもの”という「ネライ」も備えます。そして、他方の装置は、ボルト+ナットという「手段(構成)」のほか、“ねじ結合を利用した長さや位置を調節するためのもの”という異なる「ネライ」を備えます(この事例については、「リパーゼ判決の再考-明細書を作成する立場から」、パテント2007、Vol.60、No.5の注7で紹介しています)。

 最後に、私たち実務家が考えなければならない点として、次のことをコメントさせていただきます。特許を受けようとする発明は、「構成」のほか、「ネライ」も含んでいるために、狭義の「構成」だけでは表現しきれません。したがって、発明を明確に表現するためには、特定の「ネライ」を付加的に含めて発明を表現するか、あるいは、その特定の「ネライ」に対応する別の「構成」を見出して加えるかが必要です。同様に、顕著な効果についても、その「効果」を付加的に含めた形で発明を表現するか、あるいは、顕著な効果に対応する「構成」を加えた表現を検討すべきです。そうすれば、ボルト+ナットという「手段(構成)」のほか、“ねじ結合を利用した長さや位置を調節するためのもの”という異なる「ネライ」を備えた発明について、ボルト+ナットという「手段(構成)」のほか、“固定するためのもの”という「ネライ」を含む公知発明に基づいて進歩性を否定するような誤った判断が生まれることがなくなることが期待されます。

関連記事

  1. 進歩性の難しさに打ち勝つ
  2. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-無効理由に対する裁判所の捉え方
  3. 出願の低迷を考える
  4. 明細書の長さなど
  5. 発明の把握を考える-その2
  6. 技術分野の関連性
  7. 外国出願に耐えうる明細書
  8. 「除雪具」の発明把握
PAGE TOP