知財実務研究

外国出願に耐えうる明細書

 このテーマは、より良い明細書を追求するものであれば、だれもが考えるテーマの一つです。小生は、外国がらみの明細書の記載に悩むとき、PCTの関連規定に戻り、その規定の本来的な意味を考えることにしています。たとえば、次の二つの規定です。

 PCT第5条 明細書には、当該技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に、発明を開示する。

 PCT第6条 請求の範囲には、保護が求められている事項を明示する。請求の範囲は、明確かつ簡潔に記載されていなければならない。請求の範囲は、明細書により十分に裏付けがされていなければならない。

 これらの規定の字面を追うだけであるなら、知財専門家にとってお茶の子さいさいです。しかし、外国出願に耐えうるだけの記載を考える者にとっては、「実施ができる程度」、「明細書により十分に裏付け」などの意味を熟考することになります。その熟考が、JPとUSやEPとの違いを埋めるに違いないからです。

 JPの特許法施行規則第24条の2は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載しなければならない、と規定しています。この規則の基になる特許法第36条4項の「実施ができる程度に」の記載を併せ考慮すると、JPでは、実施形態あるいはそれらしき事項の記載が求められているのに対し、より具体的な実施例の記載までは求められていない、と理解されます。

 EPCの83条や27f規則を見る限り、EPについても一般的には、JPと同様であり、実施例は任意であるが、実施の形態は少なくとも一つが必要である、と理解されます。

 ここで、35 USC 112における“the best mode”が気になります。ベストモードは発明を実施するための最良の形態です。実は、PCTの規則5.1の明細書の記述方法の中に、(v)として、請求の範囲に記載されている発明の実施をするための形態のうち少なくとも出願人が最良であると考えられるものを記載する。その記載は、適当なときは実施例を用いて、図面があるときはその図面を引用して行う、という規定があります。この規定から、USが求めるベストモードの外郭を把握することができます。勿論、ベストモードの記載には、より具体的で、しかも、図面を用いることが良い、と思います。

 以上のような検討から、JP、US、EPの間において、明細書の記載が意外と共通していると思いませんか。外国出願に耐えうる明細書については、解釈の「しきい値」を少しだけ上げた形態で、自らが考えることができます。別の検討に際しても、国際的な了解を得た、PCTおよびその関連規定が、私たち実務家の有効な参考資料の一つになることを心に留めてください。

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