知財実務研究

クレームには、保護されるべき発明を記載するのではないのですか?

 このコラムでも、「ステーキの提供システム」の発明、つまり、その発明についての発明の該当性をめぐる事件を何回か話題にしています。

「ステーキの提供システム」の発明から学ぶ-その1

 その「ステーキの提供システム」の発明に絡む事件について、特許管理の2019年9月号の中に、上羽秀敏弁理士による一つの論説、「ステーキの提供システム」の発明該当性について取消決定を取り消した知財高裁判決―技術的意義の三要素アプローチの有用性―、を見出しました。

 この論説の中に、次のような気になる記述があります。

 『「発明」が記載されているのは「明細書」であって、「特許請求の範囲」ではない。特許請求の範囲に記載されているのは、特許法36条5項に規定されている通り「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(発明特定事項)」であって、「発明」ではない。
 したがって、特許請求の範囲の記載のみから「発明」を認定することはできない。特許請求の範囲の記載から認定できるのは「発明」を構成する「技術的手段」のみである。「発明」を認定するためには、発明の技術的意義を理解する必要があり、特許請求の範囲に記載された「技術的手段」に加え、明細書に記載された「課題」又は「効果」も一緒に認定しなければならない。』

 この記述には驚かされます。一番の驚きは、特許法36条5項、および特許法70条の各規定の理解の仕方が異質である点です。平成6年の改正以前における特許法36条5項は、特許請求の範囲には、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載」と規定していました。そして、平成6年改正以後の特許法36条5項は、特許請求の範囲には、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載」と規定の内容が変化しました。これら特許請求の範囲に関する規定ぶりが変化したとしても、特許請求の範囲(以下、クレームともいいます。)に記載する事項は、保護を求める発明に変わりはありません。その点、平成6年改正以後の特許法36条5項の仲間である、特許法36条6項、すなわち、クレームの記載に求める条項、たとえば2号の特許を受けようとする発明が明確であること、の記載からも明らかです。改正前後において、クレームは、保護を求める発明を記載することをずっと求め続けています。改正後の現行の規定からすれば、クレームには、発明特定事項を通して、保護を求める発明を記載することが求められているのです。クレームに、発明特定事項が記載されることが求められているのではありません。

 前記論説の中の特許法36条5項の解釈の異質さは、特許法70条1項、2項の解釈にも異質さを作り出しています。その異質さは、特許請求の範囲は発明の単なるインデックスにすぎず、明細書の記載の中から付加的に発明特定事項を拾い上げても良い、ともいえるような解釈となっています。特許法70条1項は、特許発明の技術的範囲はクレームの記載に基づいて定めなければならないとし、また、2項は、(すでにクレームに記載された用語を解釈するとき)明細書等を考慮することができる、と言っているだけです。言い換えると、クレームに記載されない用語を加えるような解釈は許されないのです。

 クレーム記載の理想は、そのクレームの記載だけによって、保護を求める発明を明確にすることです。経験が、その難しさを教えます。それであるからこそ、クレーム作成者である弁理士は、特許を含む知財の専門家になるのです。特許法の各規定について、いくつか異なる考え方があることは事実です。しかし、以上に述べたクレームに関する規定については、小生が述べたことが正論である、と確信します。逆に、上の論説の著者のような解釈が、なにゆえに生じるのかが小生には大きな疑問です。

関連記事

  1. 「ニューマター」に思う
  2. 出願の低迷を考える
  3. 発明の把握を考える-その2
  4. 発明の把握を考える-その1
  5. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-はじめに
  6. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-特許を受けようとする発明の把握
  7. 特許クレームに思うこと-その2
  8. 意見書に思う
PAGE TOP