知財実務研究

特許調査とクレーム作成とは似ている

 先に、「特許調査の大切さ」(August 6, 2019)について述べました。

特許調査の大切さ-発明の把握を適切に行うために

 関連の事例は、特許第6278249号の特許発明でした。そのメインのクレームを、特許公報から抜粋します。

 このクレーム記載の発明は、油揚げという特殊な食品の表面に印刷あるいはマークを印す技術であり、特には、油で揚げる前の(豆腐)生地に印刷あるいはマークを記し、その後に油で揚げるという考え方です。

 特許庁の審査段階において、特許異議申立て時の資料(特開昭55-23955号の刊行物)を見出すことができず、特許査定がなされました。ここで、審査において密に関連する、その刊行物を検索できなかった理由として、先のコラムでは、特許発明におけるInt.Cl.がA23L 11/00であるのに対し、引用された刊行物の方のそれはA23L 1/27という相違があることを想像しました。しかし、その想像は、誤りだったようです。なぜなら、クレーム記載の「油揚げ」と「印刷」というキーワードによってJ-PlatPat上全文検索をすると、130件ばかりが検索され、その中の一つに、問題の特開昭55-23955号の刊行物を明らかに見出すからです。その刊行物における発明の名称は、「食用着色プリント食品の製造法」であり、クレームの中には、特許発明のような考え方は記載されていません。しかし、実施例である油揚げを通して、特許発明の考え方がずばり記載されていました。まさに、この事例の審査には、明らかなヒューマンエラーがあったようです。

 さて、この事例を考えるとき、あるいは特許調査の考え方を再考するとき、特許調査はクレームの作成によく似ている、と感じます。ここでは、その感想を少し述べたいと思います。

 特許調査をするとき、あるいは、クレーム作成をするとき、その調査対象である発明内容、あるいは、作成すべきクレーム発明を把握します。この発明の把握を誤っては、的確な調査ができないし、効果的なクレームを作成することができません。この点、特許調査の場合には、完成されたクレームや明細書がすでに存在することもあります。それに対し、クレーム作成に際しては、通常、文章的あるいは内容的に完成されたものは存在しません。しかし、両場面における資料は、的確な調査あるいは効果的なクレーム作成を行う前では、ともに完全なものではありません。個性をもつ専門家の力により、いつでも対象が把握しなおされることになります。

 前記した油揚げの印刷技術を考えるとき、調査の専門家は、印刷後に油で揚げるという技術の真意を知るための思考をすると思います。たとえば、マーク付けあるいは印付けは印刷に限定されるのか、また、マーク付け後に油で揚げることの技術的意義は何だろうということ、などを考えるのではないでしょうか。それにより、印刷がもつキーワードを、マーク、(熱による)印、さらにはプリントなどにも拡げて理解することができるからです。また、油揚げは、食べ物ですので、「食用」、「食品」などの見方をすることにもなるでしょう。そして、印刷後に揚げるというプロセスが何を意味するか、の点から、揚げに伴う「熱」の問題についても考えることでしょう。

 そのような見方あるいは考え方は、クレーム作成に際しての見方と似ていると思いませんか。特許の真の専門家になろうと考えるとき、実践をすることはなくとも、思考的には他の業務の考え方を知ることは大事であることを小生は心に留めています。

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