知財実務研究

結合商標の類否判断

 商標の構成要素は、文字、図形、記号、立体的形状、色彩などであり、結合商標は、それらの構成要素の組合せからなる商標です。ここでは、結合商標に対する分離観察、すなわち、商標構成部分の一部を抽出あるいは分離し、その部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することについて考えます。

 この結合商標の類否判断に言及した、比較的に近年の最高裁判決として、「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日(行ヒ)第223号)があります。判決文の大事な部分を抜粋すると、「商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである。」という、「リラ宝塚事件」(最判昭和38年12月5日(昭和37年(オ)第953号))の引用を見出します。また、実際の判断事項として、本件商標の構成中には、称呼については引用各商標と同じである「つつみ」という文字部分が含まれているが、本件商標は、「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない、との言及があります。

 この「つつみのおひなっこや」の事件の判決言渡しは平成20年(つまり、2008年)であり、その後の審決例の多くが、次に示すように、この最判の表現を用いることにより、商標の構成部分に同じあるいは同様の表現を含む引用商標とは非類似 × である、との判断をしています。

(1)鯛車焼 × 鯛車
 (T2009-72266、不服2010-22781)
  第30類 鯛焼き
  「その構成文字は、同書、同大、等間隔に外観上まとまりよく一体に表されていて、しかも構成文字全体から生ずる「タイグルマヤキ」の称呼も、よどみなく一連に称呼できる」
  「「焼」の文字が、本願の指定商品との関係において、「焼菓子」を理解させるものであるとしても、・・・構成全体をもって一体不可分のものと認識し、把握されるものとみるのが相当」

(2)うなぎの雅 ×  
 (T2010-38193、不服2011-7215)
  第29類 うなぎの蒲焼、うなぎの佃煮ほか
  「その構成中の各文字は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔に外観上一体的に表されており、また、その構成全体から生じる「ウナギノミヤビ」の称呼は、よどみなく一連に称呼し得る
  「「うなぎの」の文字と「雅」の文字とに分離し、該「雅」の文字部分のみに着目するとみるべき特段の事情は見いだし出し難く、むしろ、その構成全体を以って、特定の観念を生じることのない一連一体の造語からなるものと認識して商取引に資するとみるのが相当」

3)梅酒日和 × 日和
         ひより
         ヒヨリ
 (T2010-75223、不服2011-15468)
  第33類 梅酒,梅酒をベースにしたカクテル
  「同じ書体、同じ大きさ、等間隔で表されており、全体として、外観上まとまりよく一体に構成されているものであり、その構成文字全体から生じる「ウメシュビヨリ」の称呼も、よどみなく一気一連に称呼できる
  「その構成中の「梅酒」の文字部分が、果実酒の一種を示す普通名称であるとしても、…本願商標の構成文字全体をもって、一体不可分のものとして認識し把握されるとみるのが相当」

(4)みやま本舗 × 
 (T2010-80411、不服2011-17166)
  第29類 第43類
  「構成中後段の「本舗」の文字部分が「本店。特定商品を製造販売する大元の店」の意味を有する語であるとしても、その構成文字全体は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔で外観上まとまりよく一体的に表されており、これより生ずる「ミヤマホンポ」の称呼もよどみなく一連に称呼し得る
  「「みやま」の文字部分のみに着目するというよりは、まとまりよく一体的に表された本願商標の構成文字全体をもって一体不可分のものと認識し把握するものとみるのが自然」

(5)酒乃花本舗 × 酒の花
 (T2015-54910、不服2016-6328)
  第3類 第29類 第30類 第32類
  「その構成文字は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔で外観上まとまりよく表されており、これから生じる「サケノハナホンポ」の称呼もよどみなく一連に称呼し得る
  「構成中「本舗」の文字部分が「ある商品を作って売り出しているおおもとの店」ほどの意味を有する語であるとしても、該文字部分が本願の指定商品との関係において、出所識別標識としての称呼、観念が生じないものと認めるに足る事情を見い出すことができない」

 以上の審判決例をみて、知財の専門家は、何を考えることでしょう。
 ある人は、XXXという既存の登録商標があったとしても、XXXOOOという結合商標を取得しようとする場合、XXXOOOの各文字の大きさ、書体を同一とし、その全体を等間隔に1行とし、しかも、一連に称呼し得るような長さにすることを考えるでしょう。また、別の人は、主要な商標XXXの保護を厚くするため、XXX以外に、XXX△△や△△XXXなどの結合商標の権利取得を考えるかも知れません。そしてまた、他のだれかは、そのような事態は、商標法が目的とする商標の保護形態に合致しているのかという疑問を感じることではないでしょうか。さらには、結合商標の類否判断について、特許における進歩性(容易想到性)のような難しさを感じる人もいることでしょう。

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