知財実務研究

特許調査の大切さ-発明の把握を適切に行うために

 特許実務の中には、二種類の発明の把握があります。第1は、すでに存在するクレームの記載に基づく発明の把握であり、審査や審判、さらには裁判の各段階で問題となります。第2は、新たなクレームを完成させるための発明の把握であり、特許出願に際して問題となります。
 このような発明の把握において、事前の特許調査により関連技術を見出すことが大切であることは言うまでもありません。最近の特許異議速報の中に、発明の把握を適切に行うために、特許調査の大切さについて考えさせられる事例に出会いました。

 その事例は、特許第6278249号の特許発明に関します。特許掲載公報の中から、メインの特許発明を次に示します。

 この特許発明は、油揚げの表面に印刷を施す技術です。油揚げの表面には凹凸があり、油もあることから、印刷は容易ではありません。公報における背景技術によると、静電印刷のような特殊な印刷を適用せざるを得なかったようです。

 さて、上の特許発明には、いくつかの考え方が含まれます。
 一つは、油揚げという特殊な食品の表面に印刷あるいはマークを印すという考え方です。
 また一つは、油で揚げる前の生地に印刷あるいはマークを記し、その後に油で揚げるという考え方です。

 前者の考え方は、静電印刷による従来例によりすでに知られている、と理解されます。かといって、特許を受けることができる考え方は、発明者の頭の中に隠されているかもしれません。表面の凹凸や油という障害があっても印刷あるいはマークを記す技術があるかも知れないからです。

 この事例では、前者の考え方での特許化をするという道を選択せず、後者の考え方での権利化を選びました。後者の考え方について、特許庁審査官は関連技術を見出すことができず、特許査定という処分がなされました。

 しかし、その後者の考え方は、特許異議申立ての特開昭55-23955号の刊行物により、すでに知られていたようです。その刊行物の記載(実施例3)を抜粋し示します。

 上に述べた特許発明の特許は、結果的に取消しになってしまったようです。関連技術としての上の刊行物を、特許出願時点において出願人が見出していたのなら、あるいは、審査官がその刊行物を見出していたのなら、手続きの流れは変わり、状況も変わります。関連技術を事前に検索あるいは抽出することの大切さを思い知らされます。

 この事例に関する限り、特許発明におけるInt.Cl.はA23L 11/00であるのに対し、引用された刊行物の方のそれはA23L 1/27という相違があります。その相違に起因して、引用すべきであった刊行物を審査段階で見出すことができなかったのかも知れません。この点、分類わけの柔軟性が考慮されるべきだ、という意見も出ることでしょう。

 しかし、検索のプロから見れば、合点が行かないのではないでしょうか。なぜなら、「油揚げ」は表面に凹凸、油のある特別な食品であり、そのような特別な食品に対する印刷インキの面からの検索を試みたり、検索ワードを今一度考慮する(たとえば、「印刷」に代替する表現として、「プリント」などを併用する)ことにより、検索ミスを防止することができると考えるからです。

 いずれにしろ、発明の把握をする者にとって、関連技術を見出す特許調査は必須です。特許調査を伴わない発明の把握は、無駄な出願あるいは不適格な出願を生み出すことは必至です。発明の把握を的確に行うために、特許調査が必須の武器であることを、小生は再認識しました。

関連記事

  1. 特許クレームに思うこと-その2
  2. 進歩性の難しさに打ち勝つ
  3. 特許出願の分割を考える
  4. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-特許を受けようとする発明の把握
  5. 「ニューマター」に思う
  6. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-はじめに
  7. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-審査経過
  8. 「美肌ローラ」の発明から学ぶ-特許法第167条の捉え方
PAGE TOP