知財実務研究

「流し台のシンク」の発明の把握

 前回(6月18日付の小論)、「流し台のシンク」の特許権侵害差止等請求事件を検討しました。この事件の発明は、技術的に理解し易いのですが、逆に、発明の把握については難しさがあると思います。私たち、知財専門家にとって、提案された発明をいかに把握するかが、勝負の一番のカギになります。そこで、今一度、この「流し台のシンク」の発明を把握したい、と思います。

 「流し台のシンク」の基本図を次に示します。特許第3169870号公報の図4に小生が色付けした図です。

 発明者の言は定かではありませんが、その公報には、先行する公知例として、次の発明が記されています。

 すなわち、シンクの深さ方向の互いに異なる高さ位置に、それぞれ調理プレート(黄銅色、黄色で色付けしています)を配置する、という考え方はすでに知られていたようです。ところが、その技術には、異なる高さ位置に配置するプレートの大きさが異なり、プレートの共用、あるいは互換的な使用の仕方ができないという欠点があったようです(特許掲載公報の背景技術)。そこで、特許を受けようとする発明の一番のポイントとして、「プレートの共用を可能にすること、つまり、奥行方向の大きさが同じプレートを用いること」を設定したようです。

 しかし、その一番のポイントの特徴的事項は、次のように、すでに知られていたようです。

 先の図は、審査段階における引用例である特開平7-204113号公報の図7、後の図は、同じ引用例の図3です。そのため、先の小論で示したように、区別化のため、壁面8pについて、「上段段部8bと中側段部8nとの間が、下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる傾斜面となっている」という限定を加えました。さらに言及すると、裁判では、「傾斜面」の解釈について、壁面の一部が垂直の場合も含まれるか否か?が問題になりました。

 「特定の傾斜面」という限定をする把握も一つの考え方として妥当です。発明者は、図面を示しつつ「特定の傾斜面」を提案していますが、知財専門家に対しては、さらなる追求が求められます。まずは、「下方に向かうにつれて、奥方に向かって延びる傾斜面」の技術的意味を探ることになるでしょう。シンクの異なる高さ位置において、同じ奥行をもつプレートを使用するという考え方はすでに知られていますが、同じ奥行のプレートを共用しつつ、異なる高さ位置において、プレートの配置を変えるという考え方には新しさを見出すことができます。とすれば、「プレートの配置」という視点で考えることが有効です。新しさのある「プレートの配置」の違いの内容、およびその技術的意義を明らかにすることになります。

 ある人は、シンクを使用する人の立場から、「プレートの配置」を考え、発明者に問を発することでしょう。たとえば、Q1:シンクに向かう人にとって、上段の方のプレートを手前に位置した方が良いのでしょうか?あるいは、下段のプレートを手前に位置した方が良いのでしょうか? Q2:上段、下段の各プレートを互いに傾斜させるようにした配置は可能ですか? Q3:プレートを載せる段として、シンクの手前の上下の段の配置をどのようにするのが好ましいのでしょうか?

 このようなQ、およびそれに応じる発明者からのコメントにより、特許を受けるべき発明は、徐々に明らかになると思います。すなわち、発明者と知財専門家との対話が、適正な特許を受けるべき発明を作り出していく、と小生は信じています。なお、この発明の把握をする際、次に示すイ号製品をも抑えることができるような発明把握は可能だと思いますか?

 私たち、知財専門家が発明を把握する際、考える視点はさまざまです。発明の把握は難しく、人による腕の差が出る思考の場であり、それゆえに、その発明の把握には面白さがあります。

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