知財実務研究

特許出願の分割を再び考える

 2018年9月に特許出願の分割について考えました。その際、実際の分割例として、第1世代から第10世代と20年近くにわたって、10件の分割出願を行った例と、第1世代のみであるが、6件の分割出願を同日に行った例を紹介しました。そして、発明の把握を中心に考えると、分割に伴う発明は、一般的に十分な内容把握がなされていないという傾向があることを紹介しました。なぜなら、原出願においては、ある特定の発明を中心に特許を受けるべき発明が把握されているために、その発明とは別の発明(分割の対象となる発明)については、それほど深い検討がなされていない傾向があるからです。

特許出願の分割を考える

 最近、先に紹介した例とは異なる、さらに異質な分割例に出くわしました。第1世代から第4世代にわたる分割であり、次の画像に示すように、原出願あるいは親出願を含めて、5件の一連の出願があります。なお、画像は、J-PlatPatから得た分割情報に対し、メインクレームの要点、出願の最終結果などを小生が付け加えた内容を含んでいます。

 第0世代のもともとの原出願は、女性用のマスクの発明に関係し、化粧などがマスクに付着することを防止するために、マスクの内側面にはっ水はつ油処理をする技術です。また、第1世代から第4世代の各分割出願は、ほぼ同様の女性用マスクに関係する技術です。言い換えると、もともとの出願の発明、および分割出願の4つの発明のすべてが女性用のマスクであり、一般的には、一つの出願の中に含まれるべき発明の内容と理解されます。そして、各分割出願が、その時点で原出願となる出願の処理を終えた段階(つまり、拒絶あるいは特許の査定が出された段階)で生まれているという特徴があります。

 全5つの出願の中で、特許となったものは第3世代のみであり、ほかの4つの出願は、すべて拒絶査定を受けています。発明の把握をするとき、キーワードあるいは技術的特徴として、「はっ水はつ油」、「女性用」、「(プリーツを伴う)立体型」、「化粧付着防止」があります。それぞれのキーワードが相互に密に関連します。たとえば、(なぜ「女性用」に限定したか、小生には分かりませんが、)「女性用」には「化粧付着防止」が関連し、「化粧付着防止」のために「はっ水はつ油」「立体型」が関係します。ただ、「はっ水はつ油」は顔の肌面とマスク内面とが接触することを前提としているのに対し、「立体型」は接触を避けようとする点で技術的な性向が異なるようにも思えます。また、「はっ水はつ油」は、マスクの最も内側の面に対する課題であり、いわゆる多層マスクの内層のものだけをいかに「はっ水はつ油」するかが問題となります。「立体型」との関係でも「(内層のみの)はっ水はつ油」は問題です。

 ここで、特許となった発明は、上に述べたすべての技術的特徴を含み、さらには、内層のみの「はっ水はつ油」の工程の後で、「立体型」にするプリーツ加工工程を行うという特徴を含めた製造方法の技術です。工程の特定については、女性用のマスクという物の発明の中では詳しく言及されていないようです。これは、すでに述べたように、分割の対象となる発明の弱い点の一つです。

 このような女性用のマスクに関する事例については、(いくつかの限定が付されているとはいえ)同様な発明を複数人の審査関係者に、複数にわたって審査を求めた事件ともいうことができます。特許制度および分割の本来的な趣旨から見て、それが妥当であるか、小生には疑問が残ります。この事件は、分割を再考する上だけでなく、発明の把握、特許戦略、・・・など考えさせられることが多いと思います。なお、機械系の者の発明の把握の仕方と、非機械系の者の発明の把握の仕方の違いも垣間見ることができます。

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