知財実務研究

著作物の保護期間に思う

 下記の画像は、文化庁のHPから抜粋した「著作物等の保護期間」を示します。

 TPP11協定の発効日が平成30(2018)年12月30日となり、著作物等の保護期間の延長を含む著作権法が施行されました。映画を除く著作物の保護期間は、改正前の現行法において、起算時点から原則50年でした。起算時点は、著作物により異なり、著作者の死亡時を起算時とする考え方と、著作物の公表時を起算時とする考え方とがあります。ベルグ条約は、死亡時起算を原則とし(ベルグ条約7条(1))、無名や変名、団体名義の著作物については、公表時起算を適用することを認めています(ベルグ条約7条(3))。著作者の死亡時を客観的に把握することが困難な場合に、公表時起算適用のようです。

 ここで、ネット情報の中には、「著作権の保護期間」という表現を用いている例を少なからず見かけます。たとえば、2019年6月5日(水)の日本経済新聞の「小説や音楽の著作権、作者の死後70年に 20年延長方針」の記事、あるいは、公益社団法人著作権情報センターのHPの中に、「著作権の保護期間」という表現を見出すことができます。

 この点、小生は、「権利の保護」という表現に少し違和感を覚えます。なぜなら、保護する対象は、創作的な表現である著作物であるからです。すなわち、「著作物の保護」という表現に違和感を覚えないのに対し、「権利の保護」という表現に違和感を覚えるのです。著作権法を見ると、第4節の保護期間の中において、保護期間の原則を定める第51第1項は、「著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。」、第52条、第53条、第54条の各タイトルは「無名又は変名の著作物の保護期間」、「団体名義の著作物の保護期間」、「映画の著作物の保護期間」となっています。保護期間は、存続期間と明確に使い分けされています。創作にかかわる著作物は、別の創作にかかわる発明と同様に、保護されてしかるべきであります。他方、著作物にかかわる著作権や発明にかかわる特許権は、もともと保護されることを前提としたもの、すなわち、著作物や発明の保護の実効を得るための力をもつものです。そこで、保護が当然な著作権や特許権を「保護」するという表現が妥当かという疑問が生じるのです。

 今回、改正の経過を調べて気づいたことですが、著作権法もしばしば改正が行われています。知財の専門家として、コア業務である特許、実用新案、意匠、商標や国際出願だけでなく、著作物に関する権利についても、さらに研鑽していきたいところです。

 なお、著作権法には、存続期間の起算に関して、留意すべき事項があります。前記の画像の中の「70年」の起算について、著作権法第57条は、「著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する。」と規定しています。これは、計算が煩雑になることを避けるためのようです。特許権などの存続期間の計算と異なる点、注意が必要です。

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