知財実務研究

発明の「効果」を考える

 「明細書に効果は記載すべきではない」という論考に出会いました(パテント2019年5月号)。これを契機に、発明の「効果」を再考することになりました。

 明細書およびクレームの記載について、平成6年を境に大きく変化しました。その点、明細書の記載に焦点を当てると、いわゆる青本は、次のように説明しています。

 「平成6年の一部改正前は、発明の詳細な説明においては、①発明の目的、構成及び効果の記載を通じて発明の技術上の意義が理解され、②当業者が容易にその実施をすることができるような記載を求めていた。同改正後は、前者については、経済産業省令で定めることとし、施規24条の2において「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載する」旨規定するとともに、後者については本項において、当業者がその実施をすることができるような記載とすべきことを規定し、従来と同様に発明の詳細な説明が有する機能を担保した。」

 このような説明(および基となる法規定)が明らかにするように、平成6年以前においては、明細書に発明の「効果」を記載することが必要不可欠でありましたが、平成6年以後においては、形式的には、明細書に発明の「効果」を記載することは不要と理解されます。

 この「効果」の記載を不要とすることについて、工業所有権審議会の答申は、技術の多様性への対応の必要性の視点、および国際的ハーモナイゼーションの必要性の視点からなされました。前者の視点では、従来技術と全く異なる新規な発想から開発された基本発明の場合には、そもそも従来技術の問題点の解消のために開発したわけでもなく、発明の目的や効果という観点の記載はなじまない、また、発見に基づくような発明については、その構造、用途、製法や有用性といった観点から発明を記載する方が発明を理解し易いケースも少なくない、さらに、効果について目的(課題)や発明の作用等の記載から理解できる場合が多い、との意見が出ています。また、後者の視点では、TRIPS協定やWIPOハーモナイゼーション条約案、さらには欧州特許条約の関連規定の内容が考慮されています。すなわち、それらの関連規定は、明細書の記載として、「当業者が実施できる程度に発明を明確かつ十分に開示しなければならない」とし、また、WIPO特許ハーモナイゼーション条約案の規則においては、イ)有利な効果がある場合には記載できる(効果の記載は任意)、ロ)課題及び課題解決手段を理解できるように記載すれば、課題についての明示的な記載がなくても足りるとされているとともに、ハ)他の表現方法が、よりよく発明を理解する上で適切な場合には他の記載方法も許容されるとされ、その他の要件を課することは禁止されている、それら事情が考慮されたようです。

 結果的に、平成6年改正以前の、発明を語る3要素、目的、構成、効果の中で、「効果」はいわば継子扱いされることになり、その「効果」が必須という記載は、特許法関連の法規定の中から消え去ることになりました。

 しかし、小生は、消え去った「効果」は、発明を把握する者にとって、構成や課題よりも一番重要な要素あるいは視点であり、「効果」はその言葉自体が明細書の中に用いられなくとも、目的(課題)や作用という他の要素あるいは視点の中に必然的に潜んでいると考え、発明を語る明細書には、「効果」は必要不可欠のものであると、確信しています。これを読む皆さんは、発明の「効果」をどのように理解されているでしょうか。そしてまた、この小論の頭書に述べた「明細書に効果は記載すべきではない」という考えについて、皆さんはどのような意見をお持ちでしょうか。

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