知財実務研究

特許サポート要件に思う

 近年、記載要件不備の拒絶理由が増えているようです。記載要件には、明確性要件(特許法36条6項2号)、サポート要件(特許法36条6項1号)、および実施可能要件(特許法36条4項1号)の3つがあります。これらの3つの中で、最も拒絶理由の割合が高いものは、明確性要件ですが、サポート要件も目に留まる数値を示しています。たとえば、第二期IIP知財塾成果報告書(平成19~20年度)は、「特許請求の範囲と明細書における発明の開示との関係について」の中で、各技術分野における平均的な数値(拒絶理由の割合)として、明確性要件83.7%、サポート要件30.0%を示しています。勿論、各数値は、機械、化学、電気、その他の分野により異なります。その点、留意が必要です。

 ここで、拒絶理由の割合の比較的に低いサポート要件について、上の報告書は、「新規領域(パイオニア発明)について、審査段階でのサポート要件の判断を緩やかにし、権利行使段階で発明の技術的貢献度を考慮して技術的範囲を調整する方が、開示と保護のバランスを取ることができるであろう。」との言及あるいは提案をしています。日本弁理士会も、「知的財産推進計画2006」の見直しの意見募集において、次のように、同様の提案をしています。

3.特許サポート要件の見直し
 特許出願にあたり、開示範囲と将来的な独占範囲とは同じであることが特許制度の定めるところである。しかし、基本発明と応用発明とでは、特許出願時に開示できる範囲が異なることも経験上知りうるところである。基本発明については、サポート要件を緩和し、当業者が理解できる範囲であれば広く保護する制度を構築することによって、基本発明を促す制度を提案する。

 提案者自らが気づいているように、上のような運用を行うとすれば、審査段階において、その発明が新規領域の発明あるいは基本発明であるか否かの判断をしなければならず、その判断に難しさがあるという問題があります。しかし、上の提案には、それ以上の問題があると考えられます。サポート要件は、特許を受けるための基本的な要件の一つであり、判断の客観性を維持するためには、新規領域の発明あるいは基本発明とそれ以外の発明との間で判断を違えることは避けるべきであるからです。そしてまた、日本弁理士会をはじめとする提案する側は、特許を受けるべき発明の把握について誤解があると思います。特許を受けるべき発明は、それが新規領域の発明(基本発明)か、あるいはそれ以外の発明かにかかわらず、サポート要件を充足させる意味では同様の難しさをもちます。その点、提案する側は、「技術常識について、成熟領域(改良・応用発明)であればあるほど多く蓄積されており、新規領域(パイオニア発明)では少ない」と考え、技術常識を参酌して判断される「拡張ないしは一般化することができる範囲」は、成熟領域(改良・応用発明)では一般に広く、新規領域(パイオニア発明)では狭いことになる、と考えているようです。

 しかし、そのような考え方は、発明を把握する観点からすれば、誤りであることが分かります。発明を把握するとき、把握する発明は、基本的な特徴となる技術的事項と、それを補助する補助的な技術的事項とを備えることに気づきます。これは、把握する発明が基本発明であろうが、応用発明であろうが同様です。より広い保護を求めようとするとき、基本的な特徴を中心としてクレームを作成することになります。基本的な特徴は、基本発明でも応用発明でも、同様に、抽象的になりやすいと思います。そのような基本的な特徴をクレームでいかに表現するか、そしてまた、明細書でそれをいかに客観的かつ明確にサポートするか、いずれも出願書類を作成する者の力によります。また、審査する側においても、発明が技術的思想であることを考慮するならば、「この記載はあるが、あの記載がない」という記述の有無を見出すのではなく、クレーム記載事項が技術的思想として明細書でサポートされているか否かの観点から判断することができるのではないでしょうか。「基本発明については、サポート要件を緩和する」という議論は、小生にとっては、技術的思想の観点からサポート要件を判断することを言っていると思えるのですが。なお、基本発明について、特許を受けるべき発明として把握するとき、特許実務家には、基本的な特徴を複数探求することが求められます。

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