知財実務研究

中小企業の知財を考える-その2

 下記の2つの図は、先の小論で紹介した、中小企業研究センターの年報2014年度版からの抜粋です。

 これらの図に関連する年報2014年版の中の説明は、「特許権保有の有無と企業業績の関係をみると、保有中小企業の売上高営業利益率は、非保有中小企業の約2倍もあり、大企業(特許権保有・未保有含む)よりも高い(図表2)。また、従業員一人当たり営業利益においても、保有中小企業の方が大幅に高く(図表3)、特許権保有企業の業績が優れている。」という内容です。そして、注として、「特許権の保有と企業業績との直接的な因果関係を定量的に示すことは難しいが、例えば、知財活動が積極的な中小企業は、一般的に研究開発活動や販売活動等にも熱心ということも相俟って、業績に結びついているものと推察される。」という記載があります。

 これらの年報上の記載は、「特許保有企業は業績好調」を語ることを意図しているようです。確かに、図表2の売上高営業利益率を見ると、3.5%という特許権保有の企業業績はすぐれています。しかし、これらの図表から、いくつかの疑問も出ます。そこで、中小企業白書の記載内容を参照しながら、図表を少し詳しく見てみたいと思います。

 まず、図表2における「売上高営業利益率」とは、営業利益を売上高で除して求めたものです。この利益率は、企業の収益性、経営能率の良否を示す大事なファクタの一つです。しかし、そのファクタは、業種によってかなり変動するようです。たとえば、製造にかかる中小企業において、その値は分野により2~5強まで変動し、また、製造に係る大企業では、分野により1~9まで変動するようです。また、分野によって、特許保有の程度(あるいは、特許に対する取組み姿勢)がかなり違う、という事実があります。その点、大企業における数値、2.6%(全産業)、3.2%(製造業)からも明らかです。そのようなことを考えると、第1に、「特許保有」と「特許非保有」とについて、同じ分野の企業同士の比較をしなければ意味をなさない、と思います。図表2の中で、大企業については、「全産業」、「製造業」の個々のデータを示しながら、中小企業において、業種あるいは分野が記されていない点が気になります。

 図表3の従業員一人当たり営業利益についても、同じ問題があります。データの取扱いに基本的な問題を感ぜざるを得ませんが、図表3からは、別のおもしろい疑問が生まれます。中小企業(全産業)の中における、特許非保有0.29、特許保有0.96の数値から、特許非保有よりも特許保有の方が、営業利益の点からは望ましい経営姿勢であることが一応理解されます。ところが、中小企業(製造業)における、特許非保有1.37、特許保有1.8の数値からは、特許非保有よりも特許保有の方が良いのかな、という推論はできますが、保有、非保有による違いをにわかには断定することはできません。営業利益向上のための他のファクタをも考慮しながら、さらなる分析が必要であると考えるからです。ただ、図表3は、中小企業(全産業)と中小企業(製造業)との営業利益の数値の比較から、何ゆえに、製造業においては、特許保有のメリットが効果的に生かされないのか? という考える課題を提供しています。この課題は、わたしたち特許実務家に大いに関係するのではないでしょうか。

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