知財実務研究

発明とは何だろう-その1

 特許法の保護対象は発明です。この発明について、現行の特許法は、定義規定を設けています。すなわち、「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と規定する、第2条第1項です。また、第2条第3項は「実施」について定義しており、その定義規定から、発明には、物の発明と方法の発明とがある、といわれます。

 また、特許審査基準中、第36条第6項第2号の明確性要件の違反例として、「請求項に係る発明の属するカテゴリーが不明確であるため、又はいずれかのカテゴリーともいえないため、発明が不明確となる場合」が挙げられています。ちなみに、基準は、第68条で「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」とし、第2条第3項では「実施」を物の発明、方法の発明及び物を生産する方法に区分して定義している、これらを考慮すれば、請求項に係る発明の属するカテゴリーが不明確である場合又は請求項に係る発明の属するカテゴリーがいずれかのカテゴリーともいえない場合に、そのような発明に特許を付与することは権利の及ぶ範囲が不明確になり適切ではない、との補足説明をしています。

 これらのことから、特許業界では、発明には、物の発明と方法の発明(方法には、単純方法と、生産方法とがある)との二種類があることが当然視されています。そのような特許業界の考え方に対し、小生は、古くから疑問を抱き続けています。同様な疑問を抱く人は何人かいるようです。その一人は、弁理士の藤村元彦先生であり、藤村先生は、「発明トハ何ソヤ」というパテント2017、Vo.70 No.1の論考の中で、「我が国においては、クレームには、「発明」ではなく、「発明の形体」を記載するという「実務」になっていると言え、それ故、特許法36条の規定とクレーム作成実務との間に乖離があると考える」と述べています。別の一人は、法学者の清瀬一郎博士です。清瀬博士は、特許法原理の著書において、「発明トハ何ソヤ」という節の「物ノ発明、方法ノ発明」の項の中で、「発明者ハ「自然力利用ノ思想」ヲ発明スルモノナリ、「物」ヲ発明スルニアラス」と述べています。

 疑問を抱く人は、「物」や「方法」は、思想である発明の形体、あるいは適用の仕方の一つにすぎない、と考えていると思います。「発明」の形体が「物」と「方法」とに完全に区分されるなら、それらの「物」と「方法」がすべての「発明」を保護することになりえます。しかし、すべての「発明」が「物」と「方法」とに区別できるかは経験的に疑問です。なぜなら、思想である「発明」は、本来的に『技術的な考え方』であるからです。『技術的な考え方』は、「物」に適用されることもあり、「方法」に適用されることもありますが、さらには、「考え方」への適用もあるはずです。現行法は、「物」と「方法」の発明をのみ保護しているきらいがあり、「考え方」の発明の保護を忘れている、と理解することができます。なお、第2条第3項の「実施」という見方からすれば、「考え方の発明」の実施は、その考え方を活用あるいは使用することです。

 以上のように、現行法の第2条第3項の実施を定義する規定について、思想である発明の保護の観点から見直しが必要である、という主張もあるのです。「発明」は特許の基本中の基本になりますので、これに続く何篇かにおいても、「発明」を考えたいと思います。

関連記事

  1. クレーム作成に思う
  2. 「除雪具」の再考
  3. 「洗濯用ネット」を通して発明の把握を考えるー補足
  4. 発明とは何だろう-その2
  5. 「流し台のシンク」の発明の把握
  6. 「流し台のシンク」の侵害事件から学ぶ
  7. 「洗濯用ネット」を通して発明の把握を考える
  8. 特許サポート要件に思う
PAGE TOP