知財実務研究

「除雪具」の再考

 先に紹介した「除雪具」(特許第6282707号)について、発明を把握する立場から再考します。知財専門家の出発点が発明の把握にあり、その発明の把握力を伸ばすことが知財専門力の総合的な向上に有効であると確信するからです。

(「除雪具」特許第6282707号から)

 「除雪具」には、実用新案登録第3177264号公報が示す近い先行技術があったようです。確かに、この先行技術は、特許を得ようとする「除雪具」の関連技術のようです。なぜなら、先行技術と「除雪具」とには、今までにない次のような共通の考え方があるからです。
 第1の考え方は、積もった雪を、一方向を開いた形態で切ることです。
 第2の考え方は、切った雪を、滑りシート上を滑らして落とすことです。
 そこで、それら第1と第2の各考え方の観点から検討したいと思います。

【一方向を開いた形態で雪を切る】
 屋根の上の雪を下す技術として、実登2554866号の考え方が知られています。その考え方は、長い柄の先に閉じた切り落とし枠(昆虫採集網から網を破り取ったような枠)を取り付けた雪下ろし具を用いる手法です。その雪下ろし具で屋根上の雪を上方から切り取り、切り取った雪を、雪下ろし具の柄を引くことにより屋根から落とすものです。
 この雪下ろし具における切り落とし枠は雪を全周にわたって切る、つまり、切り取り面が閉じています。
 その切り取り面の面から見るとき、「除雪具」では、対向する両側部だけであり、前後方向の切り取り部は開放しています。「切った雪を滑らす」ことからすれば、前後方向のうち、少なくとも一方に滑らすためのゲート(開口した出口)を設けることが必要です。
 このような見方からすると、「一方向を開いた形態で雪を切る」という考え方は、それ自体が新しいとはいえ、「切った雪を滑らす」ことと密接な関係があると理解することができます。とすれば、「一方向を開いた形態で雪を切る」という技術的事項は、「切った雪を滑らす」ことを良好にする内容がベターであると考えることができます。
 そこで、「除雪具」の発明を把握するに際しては、そのようなベターな技術的事項についての検討に思い及ぶべきです。しかし、残念ながら、「除雪具」や先行技術には、そのような考察が十分にはなされていないようです。なぜなら、両者ともに、「一方向を開いた形態で雪を切る」ことに応じるための構成として、『水平プレートと、その水平プレートの両端からほぼ垂直に立った一対の垂直プレート』を挙げているだけであるからです。そこでは、切る雪は切り始めのはじめの端から終わりの端まで同じ切り幅であることを前提としているようです。「滑りやすくする」ことを考慮するなら、切り終わりよりも切りはじめの方の幅を大きくするとか、切る面を垂直方向に傾斜させるなどについても検討することになるのではないでしょうか。

【滑りシート上を滑らして雪を落とす】
 この観点からすれば、雪を滑り落とすうえで好ましいシートあるいは滑り部材を検討することになるでしょう。特には、使い勝手を考慮しなければなりません。
 そのほか、切った雪と、滑りシート上をすべる雪との関係が大事です。この点、「除雪具」では、先行技術にある「粉砕用カッター」を省略しています。それが無用な限定と考えたのでしょうか。また、滑りシートと柄の配置関係にも留意すべきです。
 “使い勝手”、“滑り”、“切った雪と滑らす雪”、“滑りシートと柄との関係”などという考える視点を前にすれば、発明者は、それに応じる新たな技術的事項や考え方に思い及んだり、次の研究課題として参考にすることになると思います。

 発明者とのインタビューは、考える視点と、それに応じる(提案書にはない)新たな技術的事項を顕現させることを経験が教えてくれます。

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