商標実務の中で、商標法第3条第1項第3号、つまり、商品の産地、販売地、品質その他の特徴等の表示又は役務の提供の場所、質その他の特徴等の表示にかかわる商標が問題になることがあります。このような表示は、商品等に対しだれもが使用を欲するものであり、特定の人に独占させるに適しているものではないからと理解されます。
しかし、逆に、「だれもが使用を欲するもの」を独占することができれば、業務上有利な立場を得ることができるという考え方が生まれます。その点からでしょうか、この第3条第1項第3号に該当するような商標登録出願に出くわすことも少なくはありません。
この第3条第1項第3号に関係する商標関係の拒絶査定不服の審決をいくつか挙げてみましょう。〇は請求成立、×は請求不成立です。
(1)×商標「SORAIRO」、指定標品第11類「電球類及び照明用器具」(不服2017-9347)
(2)×商標「赤カビ退治」、指定商品第3類の「赤カビを退治するためのカビ取り洗浄剤」ほか(不服2018-1466)
(3)×商標「極上やわらか」、指定商品第5類「衛生マスク、ガーゼ」ほか(不服2017-15365)
(4)〇商標「ベジたこ」、指定商品第30類「たこ焼き」ほか(不服2018-1860)
(5)〇商標「和肉」、指定商品第29類「食肉、肉製品」(不服2018-8158)
翻って、この第3条第1項第3号の判断基準を見ると、特許庁の審査基準では、「現実に用いられていることを要するものではない」とし、その商標が現実に使用されていない場合でもこの号の商標に該当するとしています。また、最高裁の昭和53年(行ツ)第129号は、次のように述べています。
「商標法三条一項三号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であつて、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であつて、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。叙上のような商標を商品について使用すると、その商品の産地、販売地その他の特性について誤認を生じさせることが少なくないとしても、このことは、このような商標が商標法四条一項一六号に該当するかどうかの問題であつて、同法三条一項三号にかかわる問題ではないといわなければならない。」
最高裁の判決がいうように、第3条第1項第3号の商標に該当するか否かの判断に際しては、本来的に、事実としての現実の使用が問題になることはない、と理解されます。しかし、インターネットが一般的になった現時点において、ほとんどの審決(すべてといっても誤りはないかも知れません)が、ウエブサイト上の現実の使用事実を根拠にして判断をしているようです。逆に、現実の使用事実が見出されない場合、「一般に使用されていると認めるに足る事実を発見することができなかった」として、登録を認める判断をしています。
第3条第1項第3号の判断について、現実の使用の有無にあまりにもこだわりしすぎると、公益上問題が生じるおそれがあるし、それ以上に、商標の専門家の判断能力の低下をきたすことを心配します。法が規定する範囲には、規定しきれない内容が必然的に含まれるものであり、その部分こそ専門力をもつ人が判断すべきである、と考えるからです。その点、上に挙げた審決の中にも、出願すること自体、そしてまた、登録性の判断に疑問が生じるものがあると考えるのは小生だけでしょうか。
なお、第3条第1項第3号関連の審決を追うとき、商標登録第6116140号の登録商標「ちょうどいい」に出会いました。これは、不服2018-8903の拒絶査定不服の審決によって生まれた権利です。審判においては、引用商標「ちょう℃いい」との関係で、第4条第1項第11号が問題になったようであり、審査、審判において第3条第1項第3号は何も問題にならなかったようですが?
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