知財実務研究

「美肌ローラ」の発明から学ぶ-無効理由に対する裁判所の捉え方

 「美肌ローラ」に絡む裁判事件は、一つに、平成28年(ワ)第4167号損害賠償請求事件(平成29年8年31日判決言渡、大阪地方裁判所第26民事部)、もう一つは、平成29年(ネ)第10086号損害賠償控訴事件(平成30年12年18日判決言渡、知的財産高等裁判所第3部)である。これら二つの事件は、原審、控訴審であり、各事件について、無効理由についての判断を中心に検討します。

【原審】

 「美肌ローラ」の無効理由について、被告(無効審判における請求人)の主張は、特許庁の無効審判の際と同様です。すなわち、同一の証拠および同一の事実に基づくものです。分かりやすく言えば、ローラへの通電というAの考え方を示す主引例、一対のローラの配置によるBの考え方を示す副引例の結合により、「美肌ローラ」は容易想到である(進歩性なし)、との主張です。

 それに対する大阪地裁の判断は、被告の主張を認め、「進歩性なし」というものです。この裁判所の判断は、先に検討した特許庁の審判合議体と全く逆になります。特許庁における審理終結日が平成29年3月31日、審決日が平成29年4月18日であり、裁判所における口頭弁論終結日が平成29年6月20日です。これを考えると、裁判所は、特許庁の審判合議体の判断を考慮しつつ、それとは食い違った判断をしたことが予想されます。このような食い違いがなぜ生まれたか、そしてまた、そのような食い違いが生まれた際の当事者の留意事項について、興味を覚えます。

 特許庁において、特許権者(原審における原告)は、Aの考え方とBの考え方とによる相乗作用を主張し、審判合議体はそれを認めて「進歩性あり」の判断をしています。それに対し、裁判所は、AB二つの考え方には、課題の共通性があるという理由に基づき、結合が想到容易である、つまり「進歩性なし」との判断をしました。また、結合の阻害要因について、(特許庁が阻害要因あり、としているのに対し)、裁判所は、二つの考え方は独立の作用として併存しており、ローラが皮膚に接している限り、通電による毛穴の汚れを引き出すという作用は奏するから、結合に阻害事由があるとはいえない、との判断です。皮膚あるいは肌に対する、各ローラの動きあるいは作用のメカニズムを検討する限り、特許庁よりも裁判所の判断の方が妥当である、と思います。

【控訴審】

 知財高裁は、結果的に、原審とは異なり、「進歩性なし」の無効理由に基づく抗弁を主張することは許されない、との判断です。この判断は、特許法第167条を根拠にしています。すなわち、被控訴人(無効審判の請求人)が主張する無効理由は、無効審判請求と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものであり、そして、審決は確定したから、被控訴人は同じ無効理由に基づいて特許無効審判を請求することができない(特許法第167条)、とのことです。

 知財高裁は、特許法第167条の趣旨について、無効審判請求手続のおいてのみ適用されるものではないとし、特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁としての主張においても、特段の事情がない限り、訴訟上の信義則に反するものであり、民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないと解すべきである、と言及しています。どうやら、特許庁と原審の判断の食い違いは、特段の事情ではないと判断しているようです。

 控訴審は、「美肌ローラ」の進歩性の有無を実質的に判断せず、他方、進歩性の有無についての実質的な判断において、「同一の証拠及び事実」に基づくにもかかわらず、特許庁と原審との判断に食い違いが見られます。

 控訴審における、特許法第167条の捉え方が妥当であるか、疑問が生まれます。また、無効審判請求人(被控訴人)が、何ゆえに審決取消訴訟を提起しなかったのかが疑問です。審決日が平成29年4月18日であり、取消訴訟は、審決謄本の送達があった日から30日です。原審の口頭弁論終結日が平成29年6月20日であることを考えると、審決を受けた無効審判請求人(被控訴人)は、まずは審決取消訴訟を提起すべきではなかったのではないでしょうか。また、特許庁と原審との間の判断の食い違いは、「特段の事情」の一つであると考えることができないでしょうか。

 特許法第167条は、平成24年の改正前までは、「当事者及び参加人」だけでなく、第三者効として何人にも及ぶものでした。そこで、次回には、この条文について、少し検討したいところです。

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