知財実務研究

「美肌ローラ」の発明から学ぶ-無効審判

 メインの特許発明は、先に述べたとおり、次の内容です。

 この「美肌ローラ」の特許発明は、
A ローラへの通電によって、毛穴の中の汚れを引き出す、という考え方
B 一対のローラを所定の角度をもった配置とし、毛穴の中の汚れを押し出す、という考え方
を基本的な特徴としています。そして、通電のための手段として、太陽電池を用いるという補足的な考え方を備えています。

 無効2016-800085号の特許無効審判において、請求人は、Aの考え方に対する証拠として特開2005-66304号公報(主引例)、Bの考え方に対する証拠として特開平4-231957号公報や特開2004-321814号公報(副引例)をそれぞれ挙げています。理解しやすくするため、「美肌ローラ」、ならびに主副引例の各公報の典型的な図を示します。

【美肌ローラ】

【主引例】


この主引例は、直流電源の乾電池400からの微弱な電流を利用して、皮膚に接する二つのローラ100,100(正に帯電)によって、皮膚に含まれる油分(負に帯電)を浮き上がらせることを示しています(段落番号0033)。

【副引例】

 この副引例は、一対のローラ41,42を備える、マッサージ兼用のアプリケータです。一対のローラ41,42は互いに角度をもつ配置であり、皮膚に接触させつつ一方向に摩擦しながら摺動させるとき、皮膚を押し広げ、また、反対の方向に動かすときには、わずかな伸縮、弛緩を受けるだけです。それにより、皮膚に漸進的な排出効果を付与します(段落番号0020,0028)。

 請求人の概略的な主張は、「美肌ローラ」の発明がもつABの考え方は、考え方Aが主引例に記載され、考え方Bが副引例に記載されており、考え方Aに対し考え方Bを適用することは容易である、とのことです。

 これに対し、審判合議体の判断は、副引用例のローラが導電性を有さないのに対し、「美肌ローラ」におけるローラ100,100が導電性を有することは欠くことができない構成であるという理由により、主引例のローラに対し副引例のローラの構成に置き換えるという動機付けがあるとは認められない、とのことです。審判合議体は、また、仮に置き換えたとしても、その場合には、ローラが帯電することによる作用効果が失われることから、置き換えには阻害要因がある、との判断をしています。結果的に、審判合議体は、「美肌ローラ」は、進歩性をクリアする、との判断をしています。

 このような審判合議体における動機付けなし、の判断については、大いなる疑問があります。なぜなら、美肌や美顔をねらう技術において、物理的な美肌手法、化学的な美肌手法、あるいは電気的な美肌手法がある場合、それらの異なる手法を組み合わせて複合的に用いることが一般的であると考えられるからです。その点からすると、同じ美肌効果を狙う手法として、当業者は、Aの考え方とBの考え方とを組み合わせることを当然と考えるからです。

 また、一対のローラに対し角度をもたせた場合、(副引例の図にSとTで示すように)、肌に押し付けたローラを、進行方向Sにころがすとき、自己の軸心回りに回転可能なローラはTの方向に進もうとすることから、ローラは、一様な回転をすることなく、肌を滑るように進むことになります。そのため、Bの考え方を実行するためには、たとえば、副引例のように、所定硬度の材料でローラを構成すること、あるいは、ローラ自体の形状を工夫することなどの工夫が必須と考えられます。その点、「美肌ローラ」のクレームには勿論のこと、明細書の中にも合点の行くような説明を見出すことができないことが気になります。

 総じて、出願当初のクレームでは、Aの考え方が主要な特定事項であったのに対し、Bの考え方はその後に加わった特定事項であり、それらAとBの考え方を組み合わせるという「相乗効果」はごく一般的ではないか、との疑問をぬぐうことができません。「美肌ローラのクレームや明細書にも「相乗効果」の記載はわずかに記載されているだけであるため、その「相乗効果」は、上に述べた異なる手法を組み合わせて複合的に用いるという一般的なものを越えない、と小生は考えざるをえません。なお、後から追加されたBの考え方に対応する副引例を主引例とし、当初クレームにおけるAの考え方に対する主引例を副引例とした進歩性なしの論理もあり得るのではないでしょうか。

 無効審判の資料を追う限り、特許を受けようとする発明の把握の揺るぎが、大分影響していることを感じます。揺るぎのない発明の把握を目指したい、と自分に言い聞かせつつ、と同時に、判断する側にも、揺るぎの有無を感じつつ、より明確な判断を期待したいところです。次回は、無効理由に対する裁判所の捉え方を検討したいと思います。

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