知財実務研究

「美肌ローラ」の発明から学ぶ-審査経過

 審査の対象のメインクレームは、先に述べたとおり、次の内容です。

 この「美肌ローラ」は、柄の一端の導体製ローラと、そのローラに電力を通電する太陽電池を備えているようです。「美肌ローラ」が、美肌を得るためのローラ装置であることは理解できますが、美肌を得るためにローラが肌にどのような作用をするのか、また、太陽電池からのローラへの通電が何を意味するかが定かではありません。発明は、ネライとそのための手段とを備えているはずですが、その点、今一歩不明です。正しい理解のために、発明の詳細な説明(いわゆる中味)を参照せざるを得ません。もし、検索者や審査官が、そのような参照を行わないとすれば、特許を受けようとする発明についてピント外れの理解をし、ピント外れの関連技術の検索が行われること必至です。極端なことを言えば、太陽電池はローラの駆動を助けるための電力を与えるもの、との誤解を抱くこともありえます。

 いわゆる中味には、「美肌ローラ」は肌に押し付けてころがすことにより毛穴の中の汚れを押し出すものである、と記載されています(段落番号0001)。また、ローラへの通電については、ローラに通電することにより、ローラが帯電し、毛穴の汚れを引き出し、さらに美肌効果をもたらす、と記載されています(段落番号0018)。

 したがって、「美肌ローラ」の発明は、肌をころがるローラを帯電させることにより、汚れ除去効果を向上させる技術であることが理解されます。クレームには、その発明内容が正しく理解できるような記述をすべきであると考えます。

 これに対する審査官の第1声(拒絶理由通知)は、いわゆる発明の進歩性にキズがあるとのことです。基本的な引用文献1は、特開2005-066304号公報であり(従たる引用文献として、5件あり)、「導体によって形成されたローラと、電池とを備える美肌ローラが記載されている」との指摘です。引用文献1には、通電に伴う帯電により、皮膚の汚れを浮き上がらせる技術が示されているようです。

 審査官の第1声に対し、出願人は、技術的事項を限定する補正をしています。補正後のメインクレームは、次のとおりです。

 すなわち、ローラを一対とし、それらのローラの配置を特定しています。柄との関係からすれば、ローラはY字形になります。そのようなローラの配置により、「肌が両側に引っ張られ、肌を押し広げることとなって毛穴が開きます。」と出願人は意見書で述べています。

 この補正の結果、担当審査官は、すぐに、「この出願については、拒絶の理由を発見しないから、特許査定をします」との判断をしています。そして、特許査定の中に参考特許文献として挙げられたものは、上の第1声における関連公報(6件)のみです。とすれば、あとから限定されたY字形のローラ配置についての関連技術については、追加的に検索されることなく審査官判断がなされたことになります。技術内容が明確に記載されていないクレーム、そしてまた、限定事項について、追加の検索が行われない状態での最終判断に疑問を感じるのは小生だけでしょうか。特許査定の中に、限定事項の『Y字形のローラ配置』が新しいのか、あるいはその配置と他の特定事項との組合せが進歩性をクリアするのか、の判断が求められます。ここに、審査の抜けあるいは死角を見出すことができます。

 さて次回は、特許後の争いを見てみたいと思います。

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