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「美肌ローラ」の発明から学ぶ-特許を受けようとする発明の把握

 まず、特許を受けようとする「美肌ローラ」の発明について、検討したいと思います。

 「美肌ローラ」の出願時点のメインクレームおよび関連する図を、J-PlatPatの公開情報から抽出します。

 特許を受けようとする発明は「美肌ローラ」です。「美肌ローラ」に関連する用語として、「美顔ローラ」や「美容ローラ」があります。それらの間に違いはあるのでしょうか。概念からすると、「美容ローラ」が広く、「美肌ローラ」、「美顔ローラ」の順に内容が明確に、かつ絞られて行くように思われます。「美容」には、肌からの老廃物の排出、リストアップおよび小顔効果、マッサージによる効果などがあります。とすれば、概念的に広い「美容ローラ」を用いる実務者が多いと予想されます。J-PlatPatによるキーワード検索によると、案の定、「美容ローラ」は他の「美肌ローラ」、「美顔ローラ」よりも約2倍の使用頻度です。「美容」は人間の美容に制限されるわけではないでしょうが、ここでは、ヒトの美容として捉えることから始まりましょう。しかし、「美容」、「美肌」、「美顔」のいずれかを用いるかは、その発明の内容にもよると思います。

 また、留意すべきは、それらの「美容」、「美肌」、「美顔」のいずれかに関するローラあるいは用具であっても、その用具を転がして使用するのか、叩くようにして(パッティングするように)使用するのか、磁力や電力のエネルギーを併用するかの問題など、付随した検討事項もあります。「美肌ローラ」は「ローラ」ですから、回したり転がしたりしながら使う円筒形のもの、と理解されます。その点、転がす以外の使用方法があるかについて確認が必要と思われます。そしてまた、「ローラ」がもつ円筒形という意味から外れるような形態があるかについても、検討が必要と思われます。なぜなら、「ローラ」には、円筒形以外に、太鼓型、卵型、球形なども考えられるからです。

 「美肌ローラ」の明細書を読む限り、「美肌ローラ」は肌に押し付けて転がすことにより毛穴の中の汚れを押し出す用具であり、上の図の中の角度θ0、θ1、θ2について、特定の関係、つまり、θ0が鈍角であり、θ1、θ2が鋭角である、と規定しています。この点、明細書の中に、そのような特定をする理由を明確には見出すことができません。クレームに記載した事項についての理由付けがない発明は、経験的に理解しにくいです。たとえば、「美肌ローラを肌に押し付けたまま矢印Bの方向に引く。その時、肌は一対のローラの間に挟み込まれ、毛穴は収縮する。これにより、毛穴の中の汚れが押し出される。」(段落番号0016)という関連した内容の記載を見出すことができます。

 しかし、そのような記載を含む明細書を参照したとしても、メインクレームにおける、柄の中心軸と一対のローラの回転軸とが鋭角であることについて、技術的な意義を見出すことは困難です。なぜなら、メインクレームには、この「美肌ローラ」がどのようにして使われるものか、が特定されていないし、もともと、上の図のA方向あるいは反対のB方向にローラを動かす場合、ローラの角度は、一方では鋭角、他方では鈍角になるからです。

 その後、出願審査請求に際し、「美肌ローラ」のメインクレームは、次のように補正されました。

 「美肌ローラ」は変わりませんが、当初の「一対のローラ」が『導体によって形成されたローラ』となり、新たな特定事項として『太陽電池』が加わりました。当初のメインクレームとは、全く別の発明になりました。出願審査請求に際して、クレームの補正をすることはありますが、このような特許を受けようとする発明の、全くの変化は通常ではありません。代理人の変更があったようですが、それによって、この変化が生じたのかも定かではありません。

 さて次回は、この変化に伴う補正後の「美肌ローラ」についての審査状況を見てみたいと思います。

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