知財実務研究

ふりがな付きの商標

 商標登録出願をする際、漢字を含む表記に対し、(称呼を明確にするため)ふりがなを付けるべきか、あるいはどのようなふりがな表記をすべきか、に悩むことがあります。称呼の認定について、第4条第1項第11号の商標審査基準の説明の中に、次のことを見出します。
 「称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音をいう。
 例えば、次のとおり称呼の認定を行う。
・商標「竜田川」からは、自然に称呼される「タツタガワ」のみが生じ、「リュウデンセン」のような不自然な証拠は、生じないものとする。
・「ベニウメ」の振り仮名を付した商標「紅梅」からは、自然に称呼される「コウバイ」の称呼も生じるものとする。
・商標「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然な称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の称呼も生じるものとする。」

 また一方、ふりがな(振り仮名)をいかに付けるか、あるいは付けないかを考える際の裁判例として、知財高裁の平成22(行ケ)第1010150号(平成22年8月19日判決言渡)を見出します。その判決の中に、次の3つの商標が出てきます。それぞれをA商標、B商標、C商標とします。なお、各商標は、第43類の「飲食物の提供方法」という役務で共通点があります。

 A商標:不服2009-19711で請求不成立の審決を受け、上の’150号で審決の取消を求めたものです。「京や」の大きな文字表記のほか、「きょうや」という小さい文字表記(いわば、ふりがな風の表記)があります。

 B商標:A商標の権利化の障害となった引用商標(4732349T)です。「饗家」という漢字表記のほか、「きょうや」というふりがな表記があります。

 C商標:B商標の先願登録商標(4452586T)であり、上記の審決取消事件の原告が挙げた証拠の一つです。「響屋」という漢字表記のほか、「ひびきや」というふりがな表記があります。

 上記の審決取消事件では、結果的に、「本願商標(A商標)と引用商標(B商標)は外観が大きく異なるが、両商標からは「きょうや」との称呼のみが生じることから類似する」という判断がなされました。
 なお、C商標に基づく原告の主張に対して、裁判所は明確には答えていませんが、審判では、『「ひびきや」の文字が、「饗屋」の読み方を特定したものと無理なく認識されるものであることから、「ヒビキヤ」の称呼のみを生ずるものであり、「キョウヤ」の称呼を生じる商標とは、非類似の商標と判断するのが相当』と判断されています。

 ここで、頭書に述べた審査基準の内容を考慮するとき、いくつかの疑問が生じます。より適切な商標登録を得るために、じっくりと考えたいところです。
 一つには、C商標には、「ひびきや」というふりがな表記がありますが、「ひびきや」ではなく、「きょうや」という別のふりがな表記をした場合、「きょうや」と「響屋」という表記を含む商標は、「きょうや」と「饗家」とを含むB商標の権利化の障害となるだろうか、という疑問です。そしてまた、「きょうや」と「響屋」という表記を含む商標は、「ひびきや」という称呼を生むことになるだろうか、も疑問です。
 また一つには、A商標における「きょうや」というふりがな風の表記を取り除いた表記をした商標について、権利化ができるだろうか、そしてまた、既登録のB商標の存在の下、A商標を登録するようにするクライアントに対するアドバイスはいかに、という疑問です。
 さらに一つは、B商標における「饗家」の「饗」には「もてなす」という意味があることから(特に、飲食物を提供する業界人にとって、「饗」は身近な漢字であると考えます)、また、役務との関係からも、「饗家」には特別な意味があることから、審決取消事件における原告の立場から別の主張はないだろうか、という疑問もあります。
 私たち実務家は、自ら抱く疑問にぶつかりつつ、自己の実務力を向上させ、クライアントの信頼を得るようにしたい、と考えます。

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