知財実務研究

裁判所のある考え方 -特許クレームの作成、解釈のヒント-

 進歩性関連の裁判例を追っていたところ、平成22年(行ケ)第10064号審決取消請求事件(知的財産高等裁判所平成22年10月28日判決言渡)に再会した。「再会」とは、この事件については、すでに二度ほど出会い、違った視点から検討していたからです。最初の出会いは裁判所の判決、二度目の出会いは、特許庁審判部の審判実務者研究報告書2012の第1事例です。

 この事件における発明は、被覆ベルト用基材(特願2000-249815号、不服2007-1438号)です。対応の公開公報(特開2001-98485号)の図5を示しながら、発明内容、ここで考えようとするポイントをまずは順次述べましょう。

〔発明内容〕

 この発明の被覆ベルト用基材は、抄紙機などに用いるエンドレスなベルト用基材であり、図はその断面を示しています。ベルト用基材は、多層織りの布のベース50と、ベース50の中に一部含侵した第二高分子樹脂材料58の被膜と、ベース50に結合し、ベース50と第二高分子樹脂材料58との結合を強化するステープルファイバーバット56とを備えます。そして、この発明の最大の特徴は、ステープルファイバーバット56に対し、第一高分子樹脂材料を含ませることにより、ステープルファイバーバット56と第二高分子樹脂材料58との結合力を増す点にあるようです。結合力を増すことに関し、クレームには、「機械的に結合するだけでなく化学的に結合」という表現がなされています。

〔考えようとするポイント〕

 実際の取消事由としては、1.新規事項の追加と2.進歩性の有無とがあり、裁判では1に対する取消事由を認めましたが、2に対する取消事由を理由がないとして請求を却下しました。
 ここでは、2に対する判断に対し、最後に「なお書き」とした裁判所の考え方を取り上げます。該当する部分は、「なお書き」として、判決文の最後に付言された内容です。その内容は、比較的に短いため、下記します。

 「なお、本願補正発明の進歩性の有無を判断するにあたり、審決は、本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが、その認定の方法は、著しく適切を欠く。すなわち、審決は、発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく、相違点を、ことさらに細かく分けて(本件では6個)、認定した上で、それぞれの相違点が、他の先行技術を組み合わせることによって、容易であると判断した。このような判断手法を用いると、本来であれば、進歩性が肯定されるべき発明に対しても、正当に判断されることなく、進歩性が否定される結果を生じることがあり得る。相違点の認定は、発明の技術的課題の観点から、まとまりのある構成を単位として認定されるべきであり、この点を逸脱した審決における相違点の認定手法は、適切を欠く。」

 審決が指摘した6つの相違点は、(1)ステープルファイバーバット56の有無、(2)ステープルファイバーバット56繊維の少なくとも一部が第一高分子樹脂材料を含むこと、(3)第二高分子樹脂材料被膜がステープルファイバーバット56を被包している点、(4)第二高分子樹脂材料は、ステープルファイバーバット56が含む第一高分子樹脂材料に対し、親和性を有する構成であること、(5)第二高分子樹脂材料は、ベースに付着したステープルファイバーバット56と機械的に結合するだけでなく化学的に結合する構成であること、(6)第一高分子樹脂材料および第二高分子樹脂材料は、互いに異なるポリウレタン樹脂であること、である。

 特許クレームを作成する当初の頃、この裁判所の指摘と似たアドバイスを受けたことを思い出します。すなわち、クレームには、適切な構成要素を書くのだが、各構成要素の間には有機的なつながりを付けること、あるいは、各構成要素を発明の目的に関連付けて書くこと、という一般的なアドバイスについてです。

 審査、審判において、一致点や相違点の認定をすることは、クレーム作成において構成要素を探り出すことに似ていると思います。特許クレームの作成に際しては、それのみから発明を適正に把握することができることを求めるべきでしょう(この点、July 15, 2018の「特許クレームに思うこと」を参照)。同様に、審査、審判に対しては、判断対象が発明であることを考慮して、一致点、相違点を認定していただきたいところです。

特許クレームに思うこと-その2

 なお、この事件の検討結果として、審判実務者研究会報告書2012は、「相違点を細分化して認定してしまうと、進歩性判断において、構成相互の関連性や複数の構成の協働によって初めて奏される作用効果が見落とされてしまうおそれがある」との意見が出されたようです。まったく当然のことです。なぜなら、同じ構成でも、ネライによって、その技術的意義が異なるからです。もう一歩進んだ、意見や提言が欲しいところです。そしてまた、相違点を細分化するような審決が、何ゆえに生じたかについて検討し、特許制度の信頼性の向上に努めたいものです。その点、この事件は格好の題材だと思います。

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