知財実務研究

明細書の長さなど

 特許実務家にとって、明細書の作成は最も大事な業務です。作成した明細書は、特許のあらゆる場で顔を出し、特許の良否を大きく左右します。そのため、特許実務家は誰もが自己の明細書作成力の向上を目指しています。

 特定の出願人の明細書の傾向を探る機会を得ました。その出願人は、年間10件ほどの特許出願をしています。出願数は多いとはいえませんが、関与する出願代理人は、A1,A2,A3,A4,A5と5人ほどいます。明細書を作成する上で、発明内容が同等程度と思われる出願を選択し、出願公開公報から7件の特許出願Pa,Pb,Pc,Pd,Pe,Pf,Pgをピックアップしました。ピックアップした各出願に対し、担当の代理人、公報上の明細書のページ数、クレーム数を示します。7件のうち、一人の代理人A1は3件あり、ほかの代理人は各1件です。

出願   代理人   明細書のページ数   クレーム数
Pa    A1      3.5          2
Pb    A2     18          10
Pc    A3      9.5           5
Pd    A1      9           5
Pe    A4      4                         2
Pf        A5             22                          7
Pg    A1             5                         4

 

 第1に驚きを覚えることは、明細書を作成する上で同様のロードがかかると思われる発明であるにもかかわらず、公報上の明細書のページ数が3.5~22と代理人によりかなりの幅があることです。同じ代理人A1においても、3.5~9の幅があります。そして、明細書のページ数が少ない出願において、クレーム数が少ない傾向があります。これらの出願におけるクレーム数は2~10であり、一般的な平均クレーム数10に比べると、数的に少ないと思います。参考のために、特許庁発行の特許行政年次報告書2017年版から「平均請求項数の推移」の抜粋を示します。多項制の導入の1988年以降、徐々に平均クレーム数が増加し、ここ10年の間には「10」近くに達しています。

 明細書は、クレーム記載の発明をサポートあるいはバックアップすることからすれば、クレーム数が増えるにつれて明細書のページ数は大きくなるはずです。そして、長年にわたる実務経験からすると、それなりの発明把握を行うと、少なくとも5~6のクレームすべき発明が見出されます。そうすると、先に述べた7つの出願のうち、クレーム数がそれ以下の出願には発明の把握の点で今一つの頑張りが必要ではないかという感想を抱かざるを得ません。また、他と比べて明細書のページ数が極端に多いもの(18ページや22ページのもの)については、表現方法に問題があるのではないかという感想を抱きます。実際に明細書の記載内容を検討したところ、それらの感想を生む原因を見出します。

 以上のように、クレームの数や明細書のページ数などの観点から、自己の明細書を再考し、明細書力の向上を図ることもできます。明細書には、充実した技術内容を盛り込むことが肝要ですが、長すぎる明細書は、長すぎるゆえの問題を生じることがあります。わたしたち、特許実務家は、短すぎることなく、長すぎることのない、適正な長さの明細書を求める心も必要ではないでしょうか。

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