知財実務研究

「太陽光発電装置の施工方法等」発明のクレーム解釈

 平成28年(ワ)第38103号の損害賠償請求事件(平成30年10月17日判決言渡、東京地方裁判所)における特許は、発明の名称を「太陽光発電装置の施工方法等」という特許第5279937号です。この特許発明のクレーム解釈について、裁判所特有の論理を見出します。そこで、その論理を通して、特許実務家として留意すべき事項を考えてみたいと思います。

 判決文の中から、その特許のメインクレーム(請求項1)の構成要件の分説を引用します。赤のアンダーラインを付けた部分が、ここで検討する内容です。

 まず、発明を理解しやすくするため、特許第5279937号公報の図1に主要な構成部材の名称を加えた図を下に記します。この発明は、太陽光発電パネル101を支持するためのパネル載置架台103を施工する技術に関します。一つの特徴は、パネル載置架台103の基礎部材103aの内部に、隣接する柱部材103bを接続する接続部材103cを含みます。基礎部材103aは、基礎形成用溝にコンクリートを流し込んで形成します。

 さて、分説した構成要件Bの中に、『基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝』という特定事項があります。争点の一つが、この特定事項の解釈に関係します。

 被告は、この『基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝』は、地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝であると解すべきである、と主張しました。それに対し、原告は、「地面に形成された基礎形成用溝」は、その文言からして、地面に接していれば足り、形成される場所が地中に限定されないことは明らかであり、本件明細書にも、形成される場所が地中に限定する旨の記載はないから、地面に接して形成された溝を含むものである、との主張をしました。

 これらの原告、被告の主張を考慮しつつ、裁判所の言及は、次のとおりです。一般に、「地面」には「地の表面」という字義があり、「溝」には「細長いくぼみ」という字義があることからすると、文言上、底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても、「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得る、との出だしです。そして、続く言及は、「基礎形成用溝」は、基礎部材を形成するためのものであるから、コンクリートを流し込み基礎部材を形成することができる形状のものであることが必要であるものの、本件明細書に、それが地面を掘って地中に形成されたものでなければならないとする説明は見当たらない、とのことです。また、別の言及として、被告が指摘する本件明細書の説明及び図面は、いずれも実施例を示すものにすぎず、仮に、地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝を開示するものであったとしても、この説明によって、基礎形成用溝を地中に形成されるものに限定されるということもできない、という言及があります。裁判所の判断は、底面が地面に接するように地上に形成された型枠で、そこにコンクリートを流し込み基礎部材を形成することができるものであれば、構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」に含まれると解するのが相当、とのことです。

 この裁判所の判断には、前記した本件明細書、図面の記載からみて、大いなる疑問があります。第1に、実施例には、「基礎部材103aは、地中に位置する」と明記されているし(段落番号0028)、発明を語る文言として、「足場パイプで組み上げられた構造物は一時的な構造物として施工される一方、基礎部材103aは恒久的に構造物として施工される。このため、足場パイプで組み上げられた一時的な構造物と、恒久的な構造物である基礎部材103aとを一体とするとの発想は生まれてこなかった。太陽光発電装置100では、一時的な構造物と恒久的な構造物とを一体とすることによって、施工コストの低減を実現するとともに、施工の簡略化を実現している」との記載があります(段落番号0034)。このような記載の意味を理解し、しかもまた、発明の解決課題「太陽電池パネルが受ける風荷重に耐える」を考慮するならば、『基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝』の意味は自ずと明らかではないだろうか、と考えるからです。なお、「地面」の本来的な字義は“土地”にあるのではないかと考え、「地面」を「地の表面」と解釈することにも納得することができません。

 やはり、特許実務家は、技術思想である発明について、できるだけわかりやすく、しかも、論理的な説明をするように心がけるべきであること、関連分野の技術者は勿論のこと、審査官や裁判官、さらには技術に対する理解力に自信のない一般の方々も、誤りなく理解することができるような努力をすべきであること、を肝に銘じたいところです。

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